黒澤浩樹  圧倒的な空手家  驚異の下段回し蹴り 格闘マシン  ニホンオオカミ 反骨の戦士

黒澤浩樹 圧倒的な空手家 驚異の下段回し蹴り 格闘マシン ニホンオオカミ 反骨の戦士

他の一切を拒否し「最強」を目指すことのみに生きた男。 敵の脚と心をへし折る下段回し蹴り(ローキック)。 ルール化された極真空手の試合においても、ポイント稼ぎや体重判定、試割判定で無視し、倒すこと、大きなダメージを与えることを目指す姿は、まさに孤高のニホンオオカミ。 また指が脱臼し,皮だけでぶら下がっている状態になったり、膝の靱帯が断裂しグラグラになっても、絶対に自ら戦いをやめない格闘マシン。 総合格闘技やキックボクシング(K-1)への挑戦し戦い続けた反骨の戦士。 黒澤浩紀は、最期まで退くことを知らず死んでいった。


黒澤浩樹は準決勝で緑健児と対戦した。
準々決勝で当たった八巻建志は187㎝だったが、緑健児は165㎝。
体重無差別の、しかも大型の外国人選手が多数出場するトーナメントを、165cm、70kgの緑健児は、多彩な技とヒットアンドアウェイ戦法で戦った。
緑健児は肉体も技もタフである。
一撃必殺の空手であり、ケンカも強い選手である。
しかしこのトーナメントで緑健児はケンカはせずに試合で勝つ組手をした。
2度の延長戦を巧く戦い抜いて体重判定で勝った試合もあった。
黒澤浩樹に対しても、上段回し蹴りでその前進を止め、突いて回り、蹴っては離れ、あるいはくっついた。
見栄えのいい大技を繰り出すシーンは、かけ逃げにもみえた。
手数は互角でも与えるダメージは黒澤浩樹の方が大きい。
しかし再延長戦に入ると、体重判定では負ける黒澤浩樹の空手は強引になり、緑健児童はますますフットワークが冴えた。
そして黒澤浩樹は体重判定で敗れた。
「追いきれなかった自分が情けなくて仕方なかった。
まるで空気と戦っているようで、体重判定っていわれて、こんな負け方をするなんてというか、とにかく白黒ハッキリつけたいという意識だけが空回りしたようです」
この後、緑健児は決勝戦も勝って優勝。
「小さな巨人」と賞賛された。
たしかに敗れた黒澤浩樹だったが、その強さを疑うものはいなかった。
試合に負けても、強さを証明する男。
真の最強とはそういうものかもしれない。
黒澤浩樹はたとえ負けてもヒーローだった。

ユンケル代 月16万円

世界大会を納得できない終わり方をしたことが黒い原動力となり、黒澤浩樹はガムシャラで無謀な稽古を開始した。
朝起きて走り、ダッシュを繰り返し、その後、小屋で練習。
ジムへ行き歯が欠けるほどウエイトトレーニング。
強い疲れを感じ、1本2000円のユンケル皇帝液を4本、コップに空けて一気に飲み、道場へ。
そしてすべての稽古を道場生の2倍3倍をこなした。
そしてスパーリングを終えるのは24時前。
家に帰っても疲れで飯が食えずプロテインを飲んだ。
朝起きると疲れが抜けておらず、ユンケル皇帝液を飲んだ。
鉄板のように硬くなった腰にマッサージや治療を施しながら稽古とトレーニングを続け、第24回全日本大会の直前には、1ヵ月のユンケル皇帝液の消費量は80本を超えた。
そして1992年11月1日、 第24回全日本大会では2回戦で杉村多一郎に判定負けした。
完全なオーバートレーニングだった。

君ねえ、そういうときはみた瞬間に叩け!

この後、黒澤浩樹は大山倍達に呼び出せれた。
(何も悪いことしてないよなあ)
記憶をたどりながら本部道場に行くと緑健児と増田章も来ていた。
「君たち、遅くなってスマン」
大山倍達は、第5回世界大会の武道奨励金(1位:300万円、2位:200万円、3位:100万円)を渡した。
そして大山倍達は池袋西口にある東明大飯店に弟子たちを連れて行った。
食事の最中、黒澤浩樹は何か話をしなければならないと思い身近な話をした。
「総裁、正道会館が自分の道場の近くにできました」
「ああ、そうかね」
「自分、何回か佐竹(昭昭)さんとスレ違ったことがあるんですけど、多分、向こうは気づかなかっただけかもしれませんけど、自分は頭を下げたのに知らんぷりされました」
「君、なぜ挨拶するんだ」
「いや一応、お互い空手家ですから挨拶は・・・」
大山倍達は黒澤浩樹の話を遮った。
「君ねえ、そういうときはみた瞬間に叩け!
伸ばしなさい」
「・・・・・」
「君がその場で、路上で佐竹を伸ばしたら、とりあえず私は君を破門するよ。
その代わり1年後には必ず5段にする。
間違いなく。
だから君ぃがんばりたまえ」
黒澤浩樹は改めて大山倍達に憧憬の念を深めた。
1993年6月20日、第10回ウエイト制大会、重量級の準決勝で、黒澤浩樹は、鈴木国博と対戦し敗れた。
優勝は八巻建志、準優勝、鈴木国博、黒澤浩樹は3位だった。

1994年1月、本部道場の鏡開きで黒澤浩樹は大山倍達に声をかけられた。
「おう、黒澤」
「押忍!」
「君ぃ、やれるかい?」
「押忍!」
「そうか、今年いつやれるかね、100人組手」
「!!!!」
これが黒澤浩樹にとって最後の思い出となった。
1994年4月26日午前8時、肺癌による呼吸不全のため東京都中央区の聖路加国際病院で大山倍達は死去した。
70歳だった。

分裂

大山倍達は遺言書で松井章圭を後継者に指名。
松井章圭は極真会館の館長となった。
大山倍達はあまりに偉大な存在だった。
極真のほとんどの支部長は大山倍達に憧れ、この道に身を投じた者ばかりだった。
その絶対的存在、精神的支柱を失った極真は、この後、分裂を繰り返していく。
1994年6月、大山倍達の遺族が記者会見を行い
「遺言に疑問があるので法的手段にでる」
と発表。
大山倍達の本葬時にも抗議活動を行った。
そして5名の支部長がこれを支持し、松井章圭の下を離れ、大山智弥子未亡人を館長とする新組織を結成した。
これが「遺族派」、松井章圭を長とする組織は「松井派」と呼ばれた。
1995年4月、35人の支部長が「支部長協議会派」を結成。
世界各地でも支部の取り合い選手の引き抜きも行われ分裂が生じた。
松井派は12名に減った。
8月、支部長協議会派と遺族派が合流。
「大山派(現:新極真会)」と呼ばれた。
極真空手の各種大会が、松井派と大山派(現:新極真会)によって開催されるようになる。
松井館派と大山派は、互いに正当性を主張し合った。

第6回世界大会

分裂騒動も、第6回世界大会を目指し汗をかき続ける黒澤浩樹にとって問題ではなかった。
(勝ちたい!)
(燃え尽きたい!)
それがすべてだった。
そして黒澤浩樹は第6回世界大会を勝ち進んだ。
準々決勝までの4試合を延長戦は1つもなく本戦で決め、その中には技ありを2つとっての1本勝ちが2つあった。

準々決勝の相手は八巻建志だった。
前回、4年前の世界大会では体重判定で勝った相手だが、その後、八巻建志は2度目の全日本大会優勝を果たし、100人組手も達成するなど進化していた。
自分からドンドン前に出る174㎝の黒澤浩樹の顔面を187㎝の八巻建志の前蹴りが襲う。
黒澤浩樹は構わず前に出て下段回し蹴り。
八巻建志はバックステップでかわし、上段への警戒を強めて両腕を高く構える黒澤浩樹のボディに前蹴り。
黒澤浩樹はバランスを崩しスリップダウン。
顔を強張らせた黒澤浩樹が渾身の力を込めた右下段回し蹴り。
八巻建志は打ち合わずスッと引いてかわす。
黒澤浩樹は構わず左下段回し蹴りを狙って踏みこむと、八巻建志は上段前蹴りをカウンターで入れる。
黒澤は吹っ飛ばされた。
八巻建志は猪のように突進してくる黒澤浩樹のボディに右膝蹴りを突き上げてから右後ろ回し蹴り。
右の踵がボディにめり込んだが、黒澤浩樹は何事もなかったように左下段回し蹴りを蹴った。
両者距離が潰れてもみ合いになり、一瞬、黒澤浩樹のガードが下がった。
「ガシッ」
八巻建志は右膝を捻りこむように突き上げた。
黒澤浩樹は顎を直撃されたが微動だにしない。
黒澤浩樹は決してあきらめずに前進し続け、下段蹴りと正拳で攻め続けた。
その下段は異常に強く、1発で相手を体ごと持っていき、下手すれば戦闘不能にしてしまう。
「バシッ」
あまりに強い黒澤浩樹の圧しと下段回し蹴りに八巻建志はバランスを崩し、たたらを踏んでバランスを後方に崩した。
一気に間合いを詰めようとする黒澤浩樹の顔面を八巻建志の左上段回し蹴りが襲った。
そして蹴った左足をマットへ接地すると同時に踏み込んで、右前蹴りをのけぞった黒澤のボディへ。
一瞬下がった黒澤浩樹は、すぐに距離を潰して下段回し蹴り。
八巻建志はそれを前蹴りでストップさせ逆に下段回し蹴りを返した。
「ドンッ」
そこで太鼓が鳴り、本戦が終了した。
両者共に決定打はなく、おそらく延長戦だろうと思われた。
しかし旗が3本上がり、八巻建志の勝ちとなった。

黒澤浩樹が最後の戦いと決意し挑んだ世界大会。
しかしその結果は中途半端で不完全燃焼なものだった。
本来は延長戦だった。
黒澤浩樹より若くて、より優勝が期待できる八巻建志をできるだけ少ないダメージで勝たせたいという意向があったのかもしれない。
空手母国である日本にとって、日本人同士のつぶし合いはマイナスだったのかもしれない。
しかし他の国からみれば、それはアンフェアな、ダーティーな行為であり、なによりも黒澤浩樹にとっては人生を破壊されるような行為だった。
黒澤浩樹は深く傷ついた。
日本、海外を問わず極真空手全体のためにも、その試合のためだけに1年間、必死に稽古とトレーニングを積む選手のためにも、あの試合は決着がつくまでやるべきだった。
極真空手の歴史をみるとそういった黒い試合が何試合もあることはほんとうに残念なことである。

極真という組織

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