松井章圭  華麗な技と不屈と精神を併せ持った天才空手家

松井章圭 華麗な技と不屈と精神を併せ持った天才空手家

「一撃必殺」 数ある格闘技・武道団体の中でも超硬派に最強を追求し続ける極真空手。 独特の厳しい稽古により数々の猛者が排出されたが、中でも松井章圭は異色の存在。 突き(パンチ)と下段回し蹴り(ローキック)だけでなく、上段回し蹴り、中段回し蹴り、後ろ回し蹴りを多用する華麗な組手。 無表情な中にも、内に秘めた激情。 黒澤浩樹など科学的なトレーニングによるアスリート型の空手家が台頭していく中で、武道的、武術的な空手の強さを追求し体現した。 最年少黒帯。 最年少全日本大会出場。 全日本大会連覇。 100人組手完遂。 世界大会優勝。


松井章圭は、渡邊茂とのスパーリング以来、自分の「突き」、つまりパンチの技術と力の無さを悩んでいた。
また自分が2年連続で負けた三瓶啓二を、同い年の増田章が、パンチの連打で圧しているのをみたことも劣等感の原因となっていた。
増田章は三瓶啓二の巧さに判定で敗れたものの、与えたダメージは圧倒的に勝っていた。
松井章圭は、突きだけの組手や、1、2時間ブッ通しでサンドバッグ打ちを行ったりしたが、成果は上がらなかった。
あるとき永田一彦が吉留一夫という元プロボクサーを紹介した。
練習初日、吉留一夫は自分の持つミットに思い切りパンチを打ち込ませてみた。
松井章圭は渾身の力で打ち込んだ。
「続けて!」
という声に何度も打ち込んだ。
ミットを下げた吉留一夫は
「フライ級(-50.8㎏)のパンチより軽いね」
と85㎏の松井章圭にいった。
次に吉留一夫は、松井章圭にミットを持たせて自分がパンチを打ち込んだ。
「バチーン」
乾いた音が響いてミットに重い衝撃が走った。
「なんでパンチが弱いかっていうとね、足腰が決まっていないから、蹴り足のパワーがスムーズに拳に伝わらないんだよね。
つまり力で打ってんだよなあ」
こうして松井章圭のパンチ修業が始まった。
まず利き足を下げた状態で自然態で立つ。
次に胸に大きな卵を抱える感じで両肘を締めて腕の位置を決める。
拳は顔面をガードするように両頬のやや前に置く。
ファイティングポーズが決まるとフットワークである。
後ろ足でマットを蹴って、1歩前進。
さらに2歩、3歩、4歩、5歩と前進。
このとき歩幅とファイティングポーズが乱れてはいけない。
前進ができるようになったら同じ要領で後退。
さらに同じ要領で前後左右斜めに自由自在に動けるようになるまで反復。
これができたらワンステップごとにジャブを打つ。
ステップして止まって腰を決めてジャブ。
これを繰り返す。
ここまで蹴りだけで勝ってきた松井章圭は、腰がふらつき、足元がブレ、パンチは的が定まらなかった。
丸一日フットワークの練習に没頭すると、1週間後にはステップしてワン・ツーが打てるようになった。
さらに1週間後、ステップと同時にワン・ツーを出しても、腰も足もパンチもブレなかった。
爪先で地面を蹴ったパワーが腰に伝わる
そのとき腰を切って(回転させて)、同時に肩を内側に入れて、脚が生んだパワーがスムーズに腰、背骨、肩、腕、拳と伝達する。
3週間後、吉留一夫はいった。
「パンチが切れてるよ!」
松井章圭は、さらに防御、フック、アッパー、ボディブローの基本、そしてコンビネーションを習っていった。

ファーストキス

永田一彦は、プロボクサーをやめたあとニューヨークへ行き、帰国後、今度はインドを放浪した。
そこでグルに出会い、瞑想生活を入り、悟りの境地を目指した。
帰国後も瞑想の道場に通い、さらにヨガも始めた。
松井章圭に比べ、厳しさや切迫感もなかったが、2人は共に「超人」というテーマに魅せられていた。
インドのヨガ行者が悟りを得んと、精神と肉体を酷使する破天荒な修行法の話を松井章圭は目を輝かせて聞いた。
そして吉留一夫がマネージャーを務める風俗店のサクラ兼用心棒のアルバイトもした。
ある日の閉店後、女性従業員の部屋で飲み会が行われたとき、
「松井が日本一になれないのは女を知らないせいだ!
誰か筆下ろしの相手をしてやんなよ」
「キスだけならいいよ」
という話になった。
松井章圭は首と手を振って遠慮したが
「全日本大会で勝ちたければキスさせてもらえ」
といわれ
「みんなに見られるのは恥ずかしい」
とハンカチで隠して唇を合わせた。

減量

「裸の大将」
永田一彦のジムで、松井章圭はそう呼ばれていた。
強い筋肉の上に適度に脂肪を蓄えたからだ。
しかし
「ボクサーは普段から厳しい節制と練習で無駄のない肉体と集中力を養っている。
それでも試合前にさらに4、5㎏落とすのは絶対必要なんだよね
スピードや反射神経は格段に上がるし、殺戮本能や闘争本能を掻き立てるんだ」
と吉留一夫がボクサーの減量について話すのを聞いて
(減量にチャレンジすれば新しい世界が拓けるかも・・)

「1週間で10㎏減量します」
と宣言した。
期間は8/15~21。
減量開始時の体重は80㎏。
1日の食事は、ドレッシングなしのサラダと紅茶。
必要最低限のミネラルとビタミンをサラダから、水分補給も利尿作用のある紅茶から-という計画だった。
朝、5㎞のランニング。
朝稽古。
午後、一般稽古。
ジムでウエイトトレーニング。
行人坂(目黒区下目黒と品川区上大崎にまたがる坂)まで5㎞のランニング。
100mの坂を20本ダッシュ。
ジムまで戻って縄跳び
そして吉留一夫とボクシングの練習。
苦しくも心地よい飢えの感覚と共に3日で6㎏落ちた。
しかしやがて急激に体力が低下。
ウエイトトレーニングは、まったくウエイトが挙がらなくなった。
そして渇きの苦しみが襲ってきた。
5日目になると、酷暑の中でナイロンのウェアを着て行人坂まで走っても汗が出なくなった。
そのとき体重は71㎏だった。
残り1㎏。
7日目の最終日、午前と午後のトレーニングの後、体重計に乗ると70.5㎏だった。
残り500g。
再びナイロンウェアを着て走りに出た。
戻って裸になって体重計に乗ると70㎏だった。
すぐに自販機でジュース6本をがぶ飲み。
そして食事をした。
体重を測ると73㎏だった。
しかしその後の試合では自分のベスト体重で挑めるようになった。

大切なのは肉体的な強弱だけではない

1982年11月13~14日、第14回全日本大会が行われた。
松井章圭は2回戦で、初めて「突き」で技ありをとって判定勝ちした。
準々決勝で増田章と対戦。
そのパワフルな突きと下段回し蹴りに体ごと持っていかれそうになりながらも、増田章が蹴りを出すとその軸足を、突きを出すときに重心がかかる前足を蹴り、技を合わせていった。
そして
「やめ」
と主審に開始線に戻され
「はじめ」
といわれた直後、飛び出してきた増田章の右の顔面を松井章圭の右足の踵が蹴った。
後ろ回し蹴りだった。
しかし増田章は倒れず、その後も猛攻を続けた。
結局、3度の延長戦の後、試し割り判定で松井章圭が勝った。
3年連続で進出した準決勝の相手は、水口敏夫。
増田章で燃え尽きてしまった松井章圭は、本戦と2度の延長戦を引き分け、試割り判定で敗れた。
控室へ戻る途中で加藤重夫に怒鳴られた。
「自分から攻撃しなければ体重判定で負けることくらいわかっていながら前に出なかっただろう」
(大切なのは肉体的な強弱だけではない。
追いつめられて弱気になったり、萎えてしまったときに、もう一息、頑張れるかどうかだ)
気持ちを切り替えた松井章圭は、3位決定戦を判定勝ちした。

総本部指導員となる

第14回全日本大会の後、総本部に君臨していた2大王者、中村誠と三瓶啓二は、それぞれ兵庫県と福島県の支部長となり去った。
そして松井章圭が総本部の指導員に昇格した。
「押忍」
下の者にも挨拶されれば必ず
「押忍」
と返し、
「見て、殴られ、蹴られて覚えろ」
方式だった指導も
「では正拳の握り方を解説します。
拳をつくって人差し指と中指のつけ根から第一関節にわたる部分が正拳です。
正しい握り方は、手を大きく開いた状態から小指から人差し指まで4本のそれぞれの指先が、それぞれの指のつけ根にピッタリつくように巻き込みます」
などと解説し指導した。

また選手としてトレーニングと稽古も怠らなかった。
現役時代の松井章圭は、1年間を春夏秋冬の4期に分け、それぞれ目的を明確にしてトレーニングと稽古を行った。



ウエイトトレーニングで基礎体力づくり。
決して体が大きくない松井章圭が試合で勝つためにはパワーアップがカギだった。



暑さや、暑さによるオーバーワークを避けるやり方もあるが、松井章圭は夏にトレーニングの量を増やした。
ランニングもカッパを着て、減量が狙いではなく失った水分はどんどん補給しながらガンガン走った。
夏にどれだけ練習量を増やすことができるかもテーマだった。
暑い時期にたくさんトレーニングを行うと疲労で動きは悪くなるが、秋の試合には体に充実感がみなぎった。



体ができてスタミナもついたところで大会に向けて調整に入る。
(極真空手では、毎年の全日本大会、4年に1度の世界大会は、秋に行われる)

第3回世界大会 3位

1983年11月12~13日に行われた第15回全日本は、翌年1月の第3回世界大会の日本代表選考会も兼ねていた。
日本代表は、全日本大会8位以上+大山倍達が推薦する3名。
松井章圭は構えを変えた。
これまでの「前羽の構え」から、左拳を軽く握ってやや上段に、右はしっかり締めた肘の上に拳が置かれた状態。
下半身は、やや後ろにあった重心がやや前方になっていた。
前回の敗戦で
(蹴り技が得意で突きが苦手な奴は優勝できない)
と悟った松井章圭は、大きな足技を連発する組手から、突き、蹴りを連続的に出すスタイルに進化していた。
大山倍達に直訴し、トーナメント3回戦から出場するシード権を放棄し、1回戦から出場した。
そして1回戦、2回戦を圧勝した。

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