VTJ95(バーリ・トゥード・ジャパン・オープン95)
「VTJ95(バーリ・トゥード・ジャパン・オープン95)」において、中井祐樹はシューティングの切り札だった。
しかしトーナメント組み合わせが発表されるとその危険性が騒ぎとなった。
1回戦の相手が第1回UFC準優勝のジェラルド・ゴルドーだったからである。
ジェラルド・ゴルドー(Gerard Gordeau)
ジェラルド・ゴルドーは198cm、100kg。
中井祐樹は170cm、71kg。
28cm、29kgの差がある。
しかもゴルドーは、UFCでハワイの相撲レスラー、テイラ・トゥリと戦ったとき、試合開始20秒、ガードが甘いトゥリの顔面を蹴り、歯が紙ふぶきのように飛び散り、いくつかの歯はゴルドーの足に刺さった。
そしてすぐに拳を顔面の同じ個所に叩き付けた。
この攻撃はまったく感情がない仏頂面のまま行われた。
体格差だけではなくキャラクター的にも非常に危険な相手だった。
死闘
試合当日、中井vsゴルドーは第2試合だった。
両者がリングに上がった。
「青コーナー、プロフェッショナルシューティングウェルター級王者、中井祐樹!」
中井はマウスピースを何度か噛み直しながら右手を挙げて応えた。
ゴルドーが紹介されると会場は一斉に沸いた。
明らかにゴルドーがUFCで見せた残虐性を期待していた。
ゴングが鳴った。
中井が上半身を振りながらタックルにいきゴルドーをつかまえた。
ゴルドーはそのまま後退しトップロープを左腕で抱えて倒されないようにしてから右腕で中井の頭を抱えた。
中井は左足をゴルドーの右膝裏にかけて倒そうとするがゴルドーがロープを抱えているので倒せない。
すぐにレフリーとリング下の係員が何か話しだした。
そしてレフリーの注意。
「ストップ! サミング」
レフリーは親指を立て
「コーション」
といった。
「ジェラルド・ゴルドー選手に注意1です」
場内アナウンスが入ると場内が沸いた。
このときすでに中井の右目はゴルドーの親指によって眼球の裏までえぐられていた。
しかし中井は黙ってゴルドーに抱きついたままだった。
その精神力は人間離れしていた。
第1Rはそのままの姿勢で終わった
セコンドはラウンド間のインターバルに中井の右目を氷で冷やした。
第2R、コーナーから飛び出す中井の右目から血が流れていた。
中井が軽く前蹴りにいったところにゴルドーが右ロー。
それに合わせて中井が滑り込むように、そのゴルドーの右脚を捕まえ下から両脚をからませる。
ヒールホールド(脚関節技)狙いだ。
しかしゴルドーは片手でロープをつかみ上から激しいパウンドを浴びせた。
ゴルドーの拳が打ち下ろされるたび、中井の後頭部がマットにぶつかる大きな音が響き、右目から鮮血が飛び散った。
試合は凄絶なものになっていた。
またゴルドーの激しいパウンドが始まる。
ロープ際からエプロンサイドに中井は逃げる。
それでもゴルドーは叩き続ける。
「ドント・ムーブ」
レフリーが両者の動きを止めリング中央に2人を移動させた。
だがそこからゴルドーは立ったまま腰に両手を当てて攻めない。
中井は仰向けに寝たまま両手で
「カモン!」
猪木vsアリ状態だ。
「カモン!」
と中井はゴルドーを誘い続ける
中井の心は折れていない。
2Rが終わった。
コーナーに戻った中井の顔の右半分は大きく腫れ上がり右目の出血もかなりひどくなっていた。
それを氷嚢で冷やされながら、しかし左目はずっと赤コーナーのゴルドーを見据えていた。
その後、試合は猪木vsアリを繰り返した。
タックルでつかまえる中井、ゴルドーはロープを抱える。
観客は飽き始めていた。
しかしリングでは8分無制限ラウンドが延々と続く。
4R、中井がタックルからゴルドーをコーナーに押し込んだ。
ゴルドーがフロントチョークを狙う。
中井がゆっくりと体を下げながらそれを外し、ゴルドーの左脚に自らの両脚をからみつけた。
観客がゴルドーの残酷なパウンドを期待して騒いだ。
しかしゴルドーがパウンドを打とうとしたその瞬間、中井が渾身のヒールホールドを仕掛けた。
ゴルドーの上半身がぐらりと揺れ、ゆっくりと倒れていった。
そしてゴルドーがマットを叩いた。
大歓声が起こった。
まさに中井は自らの力ですべてを引っくり返したのである。
クレイグ・ピットマン(Craig Pittman)
準決勝の相手、クレイグ・ピットマンは、アマレスの下地がある選手だったが、中井祐樹は下から腕十字をきっちり極めた。
ヒクソン・グレイシー(Rickson Gracie)
決勝の相手はヒクソン・グレイシーだった。
ヒクソンは顔を大きく腫らしリングに上がってきた中井祐樹に敬意を表したような戦い方をした。
2人の流れるような寝技戦で観る者を魅了した。
そして中井祐樹は敗れた。