沢村忠 真空飛び膝蹴り、キックの鬼、不滅のスーパースター、不屈のサムライスピリット、そして失踪、その伝説に迫る

沢村忠 真空飛び膝蹴り、キックの鬼、不滅のスーパースター、不屈のサムライスピリット、そして失踪、その伝説に迫る

幼い頃からノンコンタクト空手を学び大学で日本チャンピオンになる。「タイ式ボクシング(ムエタイ)こそ地上最強の格闘技だ。」 そう挑発されてムエタイに挑戦。初戦をKO勝ちして自らの「地上最強の格闘技は空手」説を証明。しかし2戦目に16度もダウンさせられ病院送りに。伝説はここからはじまった。


真空飛び膝蹴り

沢村は自分の必殺技は何であるか考えて、足技であると思った
「タイ式ボクシングは400年の歴史がある
マットの上だけの技ではとてもタイ式においつけぬ
だが僕独自の足のバネによる空中からの攻撃
これこそ歴史にみがかれたタイ式を破る強烈な武器になる」
沢村は飛び蹴りを意識して出すのではなく無意識に出せるように徹底して反復練習した
ある日、野口は気合をこめてキックの練習を繰り返す沢村をみていた
そして沢村の体が引力の法則に逆らって一瞬ピタリと空中に停止するのがみえた
「沢村よ
俺は見たぞ
蹴る寸前、確かにお前の体が一瞬、空中で静止した
あたかもそこが真空地帯になったように
ひょっとするとこれが必殺技の手がかりかもしれん
ただの飛び蹴りでは必殺技にならん
なぜなら敵も蹴られそうな急所を予測して防いでしまうからだ
しかし一呼吸おいて、空中からの蹴りを敵に見舞うことが可能だとしたらどうなる?」

沢村は真空飛び蹴りの開発についてこう語っている
「引力の法則に逆らって人間の力で空中に真空を作る
この途方もない夢の実現のために
僕がまずヒントにしたのは、走り幅跳びの選手だった
走り幅跳びの選手はそのジャンプが頂点に達したせつな、
そのまま落ちてしまうところをもう一息、空中で両足をバタバタやることにより、
滞空時間とジャンプ距離を伸ばす
このせつな、彼らも引力の法則に逆らい真空地帯を作り出している
それを僕もやってみようと思ったんです」
足のかわりに両手をバタバタさせて真空状態を作ろうと特訓を繰り返す沢村
それを見て周りの人間は沢村を狂人扱いした
特訓を繰り返す間にも試合は行われるが客の入りはまばらだった
沢村はKO記録を重ねていくが、本場タイでは沢村の存在を本気に取り扱っていなかった
金のなかった沢村は
犬のえさを食べ
23円の銭湯代がなくて猛練習のあと頭から水道の水をかぶった
そして沢村は特訓の結果、膝蹴りが有効であることに気づいた
「幻の必殺技は真空飛び蹴りではなくて真空飛び膝蹴りだったのだ
確かに足の振り幅の大きいつま先蹴りはかわせても、振り幅の少ない膝蹴りはかわせん」
まず敵の頭上より高く飛び上がっておく
このとき最初から膝を曲げていては膝蹴りがくると敵に防御されてしまう
まっすぐ飛び上がり敵の頭上で右膝でいくか左膝でいくか決めるのだから防御のしようがない
助走なしてこの高さまでジャンプすることは沢村以外の選手は真似ができない
膝が敵の顔面の位置になるまで下降し、右でいくか左でいくか決めながら、完全に相手の隙を見極めることができる
まさしく真空だった

「歴史的にみて1年対500年なのです
日本の武道では手や足を使っても最強のヒザは活用したことが無いのです
手、足で対抗できてもこれでは勝てません
しかし空間を蹴り、重力とひねりで相手にヒザをぶつける
これはタイにはありませんでした
蹴るときには常に軸足が地に着いている
これが常識です
でも常識を守っていれば勝機はないのです
私は空を飛びました
”真空”がついたのは当時のアナウンサーの石川顕さんか解説の寺内大吉さんが命名したのでしょう
いずれにしてもこれが私の勝利の方程式になったのです
偶然ではなく
勝つための必然だったのです」
(沢村忠)

バイヨク・ボーコーソー

沢村が血みどろで真空飛び膝蹴りに取り組んでいるころ
野口も新生キックボクシングの発展のため血を流していた
テレビ局に毎日のように姿を現した
「粘りますよ
いくらでも
わがキックボクシングを毎週テレビで定期放送していただくまでは」
そして野口は沢村に言った
「お前の真空飛び膝蹴りでテレビ局と勝負してくれ
今度テレビでキックの試合が放送される
その試合でお前はジャイアント馬場にもファイティング原田にも負けないキックの威力を真空飛び膝蹴りでテレビ局に示すのだ」
「そして一気にキックを定期放送に持っていくわけですね」
「む、久しぶりにすごい大物を本場のタイから呼ぶぞ」

そして沢村と野口は対戦相手のバイヨク・ボーコーソーを出迎えに羽田空港に行った
バイヨク・ボーコーソーは、以前沢村を16回もダウンさせたサマン・ソー・アジソンをやぶっていた
「ボーコーソーはどんなタイプの選手なのですか?」
「不死身の鉄人
その一言に尽きる
本場タイでも不死身ぶりにかけては、ボーコーソーの右に出る選手はおらん」
「つまり、俺の真空飛び膝蹴りが一番通じにくい男」
「そういうこと
敵が不死身であればあるほど、これを倒したとき、真空飛び膝蹴りの威力は光り輝く」
記者会見でボーコーソーは報道陣に愛嬌をふりまいた
そしてコーラ瓶を腕にはさんでへし折るパフォーマンスを見せた
試合当日、浅草公会堂は超満員だった
王者:沢村vs挑戦者:バイヨク・ボーコーソー
1R
沢村の先制攻撃がことごとく命中するが、ボーコーソーの顔から笑顔が消えない
2R
沢村は投げ技をボーコーソーに仕掛けるが、まったくきかない
次第に沢村は窮地に追い込まれていく
(のるかそるか、失敗を恐れている男に勝利はない)
そして気合とともに空中に飛び上がる沢村
ボーコーソーの顔からスマイルが消えた
(左に隙あり)
沢村は右膝をボーコーソーの顔面にヒットさせた
ボーコーソーはたまらずダウンしてテンカウントを聞いた
沢村は劇的な飛びヒザ蹴りで見事タイトルを守った
「よくやった、沢村
だが俺は喜びの今よりも厳しい明日を見る主義だ
男はそうありたいと思う
ボーコーソーを倒したこの瞬間から、本場タイ式ボクシング界はお前を大敵として認めた
打倒沢村に総力をあげてぶつかってくるぞ」
「望むところです」
この試合はTBSのサンデースポーツで放送され
テレビ中継の視聴率22%だった
真空飛び膝蹴りと共にキック人気は急上昇していった

「八百長じゃねえか」

名前が売れるとジムに道場破りが現れるようになった
ボクサー、合気道、空手、喧嘩屋、柔道・・・
20人以上の道場破りが来たが
沢村相手に1分もった男はいなかった
沢村は21連勝し11度目の東洋タイトルの防衛に成功した
しかし野口の顔は渋かった
「キックの人気が盛り上がっているのに
まだいっこうにテレビ局は毎週放映するとはいってこない
なぜなのか私には理由がわからん
沢村の真空飛び膝蹴りの一撃必殺のスリルは
ジャイアント馬場の32文ミサイルキックにもおとらんと思うが」
親しい記者がいった
「ジャイアント馬場が倒す外人プロレスラーは1流ぞろいだ
ちゃんと本場アメリカから情報がはいるからねえ」
「それでは沢村が倒すキックボクサーは一流でないと君はいうのか? 」
「そうはいいません
ただね、2流3流をつれてきて1流だ、殺し屋だと凄みをつけることもできるという話しでさ」
その後も悪評は野口の耳にちらほら入ってきた
「タイの選手があんなに簡単に負けるわけがないじゃないか
相手が手を抜いているのかも知れない
タイでやったらああはいかないさ」
「八百長じゃねえか」

野口は頭に来た
しかし同時に記者の言うことも確かに一理あると思った
結局、実力を証明するためにこちらからタイへ乗りこみ敵地でチャンピオンと戦うしかないと結論した
「タイ式ボクシングはタイ国だけのもの
情報もはいらん
沢村が勝ちすぎると変にかんぐる島国根性の人間もおる
そこでだ
誰にも文句を言わさぬ日本キックボクシング界の運命をかけた大勝負をたったいま私は決意した
こちらからタイ国に殴りこみをかけるのだ」
「僕は東洋チャンピオンになっても、
真空飛び膝蹴りを編み出しても
決してスター気取りで浮かれていない
いや、浮かれるほど甘くないんだ
キックの人気は相変わらずパッとしないのだから
テレビ放送は月1回だけ
チャンピオンになっても僕の試合場は1000人しかはいらない浅草公会堂だ
試合のリングは僕や遠藤マネージャーが自ら素人大工で組み立てる
切符は友人や知人を頼って売り歩くんです
キックを知らない相手に身振り手振りで説明しているうちに惨めで悲しくなる
苦労のあげく血で血を洗う命がけの試合をやって僕が手にするファイトマネーは最高で3万円
それも一ヶ月に一度試合があればましなのだから東洋チャンピオンの収入は工員さんや店員さん以下だ
僕は愚痴をこぼしているんじゃない
決して派手なスター気取りでキックをやっているんじゃない
こうなったら絶対に負けんぞ」

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