沢村忠 真空飛び膝蹴り、キックの鬼、不滅のスーパースター、不屈のサムライスピリット、そして失踪、その伝説に迫る

沢村忠 真空飛び膝蹴り、キックの鬼、不滅のスーパースター、不屈のサムライスピリット、そして失踪、その伝説に迫る

幼い頃からノンコンタクト空手を学び大学で日本チャンピオンになる。「タイ式ボクシング(ムエタイ)こそ地上最強の格闘技だ。」 そう挑発されてムエタイに挑戦。初戦をKO勝ちして自らの「地上最強の格闘技は空手」説を証明。しかし2戦目に16度もダウンさせられ病院送りに。伝説はここからはじまった。


チューチャイ・ルークパンチャマ

沢村は選手生活最後の敗戦を喫した
前回負けてから、ここまで引き分けをはさみ54連勝が続いていた
相手は1階級上のウエルター級チャンピオン:チューチャイ・ルークパンチャマ
チューチャイは若干20歳であったが来日以来快進撃を続け、
日本ウエルター級の上位陣に加えヘビー級の斉藤天心をも下していた
4R
チューチャイの右ストレートにより沢村はKO負けを喫した
倒れた際に頭を打った沢村は全身を痙攣させた
リングには物が投げ込まれ大騒ぎとなった
2年3ヶ月ぶりの敗戦
そしてこれが選手生活で最後の敗戦となる
「1戦1戦
もうこれが最後だと思ってリングに上がります」

蒸発

沢村は1階級上のウエルター級のチュンポン・ムアンスリンを1R35秒KO
沢村は野口社長と2人で話した時、とうとう引退の意思のあることを伝えた
これまでスケジュールに関してもファイトマネーに関してもほぼ全ての面で黙って受け入れてきたが
引退に関しては自分の意見を強行に主張した
TBSが放送を開始して9年
放送回数はちょうど400回目となっていた
沢村はシンハオ・ソールークピタクを3RKO
東洋タイトルを防衛した
ファンにとってはいつもの光景でだった
しかし沢村はいつもとちょっと違った
試合の終わった後、4つのコーナーを順々にまわっては深々と頭を下げてまわったのである
その後の沢村のスケジュールは
後楽園ホールで数試合行って、その後は地方興行に出ることになっていた
最後は鹿児島で試合を行い
大阪へ帰って大阪府立体育館で試合をし
これで今回は一区切りというスケジュールとなっていた
沢村は大阪府立体育館に出発する前に鶴巻サブマネージャーを呼び止めた
「ねえ、鶴さん
俺さすがにもう疲れた
今日で辞めるよ」
鶴巻はびっくりして言葉もなかったがしばらくして
「ジョーさんが辞めるなら俺も」
と答えた
沢村はこの日、ダビチャイ・ルットチョンをKOで下した
そしてこの日を境に完全に消息不明になった
この後は全くの行方知れずで誰も連絡を取ることが出来なくなった
野口プロモーションは「怪我を治すための休養期間」と発表した

世間ではいろいろな噂が出始めた
「野口社長に頭にきたので逃げた」
「頭がおかしくなって富士山麓の精神病院で両手両足を鎖でつながれ犬の格好をしてご飯を食べている」
「刑務所に入っている」
「死んだ」
「廃人になった」
「裏社会で用心棒になっている」
など様々な憶測が飛んだ
沢村が蒸発して1年3ヶ月の月日が流れた時、
突然、野口をある男が訪ねて来た
「社長、お久しぶりです」
そう挨拶をしたその男は、髪型や雰囲気はすっかり変わっていたが、まぎれもなく沢村だった
野口は再び現れた沢村に対しスーパースターの引き際としてファンの前で正式に引退式を行うことを決定した

引退式

後楽園ホール
再び沢村が現れたこと、引退式を行うことになったことなど、多くのスタッフは半信半疑だった
当日の会場も「本当に来るんだろうか」という雰囲気だった
しかしその日後楽園ホールに現れたのは間違いなくかつてのキックの帝王、沢村忠だった
リングに上がり、観客に向かって深々と頭を下げ、マイクを取って別れのメッセージを綴った
「キックボクシングファンの皆さん、長い間本当にありがとうございました」
わずか2分弱のメッセージであった
その後テンカウントゴングが打ち鳴らされ静寂な雰囲気の中、沢村の引退式は終了した
関係者からは、
「あれだけの名声を捨てるのはもったいない」
「引退後もキックの世界にとどまり、後進の育成に当たってくれ」
と説得された
それらの誘いを丁重に断り、キックの世界から完全に決別し
また新たな人生を一からスタートさせた
沢村引退後のキックボクシングは富山勝治をエースに起用したが
スーパースターの抜けた穴を埋めることができず
キックボクシング中継は数年後に打ち切られた
キックボクシングブームは沢村と共に始まり沢村の引退と共に幕を閉じたのである
沢村の公式戦の通算成績は241戦232勝(228KO)5敗4分け
非公式戦を含めると500戦以上ともいわれる
現役10年で約7日に1回戦って500戦
5R とはいえ生身で殴り合って蹴り合う試合に短期間で体をつくり直すわけである
驚異的な数字である
まさに沢村は昭和40年代の日本の高度経済成長とともに現れたスーパーヒーローだった

「キックボクサー、沢村忠と呼ばれるより人間、沢村忠と紹介されたい」

沢村は引退してから自動車修理工場を経営している知人に頭を下げ就職させてもらった
そこで数年間経験を積んでから独立した
現在は、自動車の修理販売業を営む傍ら、子供達に空手を教えている
パチンコ台販売会社・セイブシステムリンクの取締役でもある
沢村は引退してから1、2度マスコミの取材も受けており、
引退から20年以上経って、1度だけテレビに出演したこともある
取材に対してこう語った
「引退後、「酒で身を持ち崩した」「死亡した」という説が出回った
こっちが子供みたいに怒っていちいち(雑誌の出版社に)電話して『無礼者』とか言ったってしょうがないですからね
そういえば蕎麦屋で飯食ってたんだけどキックの話がでるじゃない
そこのおばあちゃんが『キックと言えば、あの沢村って死んだんだってね』と言われて『そうですね』と答えたんだけど、
店を出てから、ふたりで笑い転げましたね
キックの世界にいる時は人一倍練習も積み
最初は27歳くらいが限界と思っていた選手生活も結局34歳まで続けました
僕がいなくなれば日本キックボクシング協会に登録している2000人の選手が試合出来なくなってしまいますからね
その結果、完全燃焼でした
現役時代は過密日程で満身創痍で、常に眠りも浅かった
それが限界まで戦い抜いてようやくそこから開放されたのです
僕は昔から武士道的な生き方にあこがれていて、『立つ鳥、後を濁さず』ということは常に考えていました
キックボクシングで自分なりに全てをやり尽くしたことは自分にとって最高の勲章なんですよ
だからこそ、そっとしまっておきたかったし、とても改めて引っ張り出す気にはなれなかったんです
思い残すことのないキックの世界からスッパリ身を引き、新しい人生を一からスタートさせようと思ったんです」
沢村忠はキックの鬼として、そして伝説の男として生きることを望んではいない
しかしいつも武道家として侍として生きつづけることを願っている
まさに本物の男なのである
沢村忠の本質がここにある
「キックボクサー、沢村忠と呼ばれるより人間、沢村忠と紹介されたい」

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