We Are The World 世界を変えたレコーディング

We Are The World 世界を変えたレコーディング

ときは来た!今こそ世界が1つになるとき!!1枚のレコードが世界中の人々の心をつなぎ、食糧、薬品、物資となって飢えた子供たちに届けられ、1枚のレコードが人々の魂を揺り動かし、多くの命を救った。


1985年1月28日22時30分、クインシー・ジョーンズはいった。
「じゃあ始めるけど・・・・
覚えておいて欲しいのは、床の名前はソロのポジションだ」
みるとスタジオの床やひな壇に、アーティストの名前が書いたテープが張られてある。
「We Are The World」は大きく分けて、以下の2つの部分で構成されていた。

・全員が歌う「コーラス」部分
・アーティストが1フレーズずつ、それぞれのスタイルで歌う「リードボーカル」部分

マイケル・ジャクソンやライオネル・リッチーなど一部を除いて、アーティストたちは、今夜ここに来るまで誰が参加するのか知らなかった。
もちろん自分のパートや、誰が「リードボーカル」部分を歌うのかなどわからない。
これについてクインシージョーンズは、
「セッションの間、彼らに何かを決めさせるということをしたくはなかった。
彼らの立ち位置、歌うパート、いつ歌うか・・・それをよくよく考え、そして説明する必要がありました。
これほどの人数、レベルのグループが意思決定に参加すると必ずトラブルが起こるということを長年苦労から学んでいた」
「ソロ担当になるか、アンサンブル担当になるか、それはすべてこのレコードがどうすれば最大限まで広くアピールできるかという目的のみに基づいて決定された」
といっているが、ほとんどの参加アーティストは、床に貼られたテープをみて初めて自分が「コーラス」部分のみの参加なのか、「リードボーカル」部分を歌うことができるのか把握した。
(床に自分の名前が貼られていれば、「リードボーカル」部分を歌うことができる)

クインシージョーンズのセレクトで、「リードボーカル」部分を歌うのは、

ライオネル・リッチー 
スティービー・ワンダー 
ポール・サイモン
ケニー・ロジャース
ジェイムズ・イングラム 
ティナ・ターナー
ビリー・ジョエル
マイケル・ジャクソン
ダイアナ・ロス
ディオンヌ・ワーウィック 
ウィリー・ネルソン 
アル・ジャロウ
ブルース・スプリングスティーン
ケニー・ロギンス 
スティーヴ・ペリー 
ダリル・ホール(「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」)
プリンス
シンディ・ローパー 
キム・カーンズ 
ボブ・ディラン 
レイ・チャールズ 


一方、「コーラス」部分のみの参加となったのは、

ハリー・ベラフォンテ
スモーキー・ロビンソン
ボブ・ゲルドフ
ウェイロン・ジェニングス
ジェフリー・オズボーン
シーラ・E
ダン・エイクロイド
ベット・ミドラー
ジャッキー・ジャクソン
マーロン・ジャクソン
ラトーヤ・ジャクソン
ランディ・ジャクソン
ティト・ジャクソン
リンジー・バッキンガム(「フリートウッド・マック」)
ジョン・オーツ(「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」)
「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース」(ヒューイ・ルイス、ジョニー・コーラ、クリス・ヘイズ、マリオ・シポリナ、ビル・ギブソン、ショーン・ホッパー)
「ポインター・シスターズ」(ポインター・アニタ、ポインター・ジューン、ポインター・ルース)

だった。
しかし結果的にプリンスはドタキャン。
ヒューイ・ルイスが代わりにリードボーカル」部分を歌うことになった。


「コーラス」部分のみの参加となったメンバーの中で、ハリー・べラフォンテやスモーキー・ロビンソンは大御所。
ベッド・ミドラーとダン・エクロイドは俳優。
マイケル・ジャクソンの兄弟たち、「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース」のバックメンバー、姉妹コーラスグループ「ザ・ポインター・シスターズ」のルースとアニタは、普段、メインボーカルではない。
彼らは「リードボーカル」部分を歌えなくても、あまり気にならなかったかもしれない。
しかし大御所でも俳優でもバックメンバーでもなく、ソロシンガー、あるいはバンドのメインボーカルなのに「リードボーカル」部分を歌えなかったのは、

ジェフリー・オズボーン
リンジー・バッキンガム(フリートウッド・マック)
ウェイロン・ジェニングス
ジェーン・ポインター(ザ・ポインター・シスターズ)
シーラ・E

「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」のダリル・ホールは「リードボーカル」部分も歌うが、ジョン・オーツは「コーラス」部分のみ参加となった。
そして翌年、ダリル・ホールはソロ・アルバム「Three Hearts in the Happy Ending Machine」を作成し、ジョン・オーツとのデュオ活動を休止。
ウェイロン・ジェニングスとジェーン・ポインターは、この夜、ある行動をとった。
プリンスの恋人であるシーラ・Eは、悲しい目に遭った。

クインシー・ジョーンズは、
「コーラスを先に録る。
ややこしいものから先に片づけていくよ」
といった。
これは全員で行う部分を最初に録って、帰ることができる人にはできるだけ早く帰宅してもらおうという配慮でもあった。
メンバーは、ひな壇の各持ち場にいき、ヘッドホンを装着。
「プレイバックが始まったらお仕事開始だよ。
OK?」
クインシー・ジョーンズの指示の後、曲の一部分の音楽が流れ、ひな壇のアーティストたちは歌い出した。
音楽が止まるとクインシー・ジョーンズは、
「いいぞ!
それじゃ本番だ」
こうしてまず参加者全員で大合唱。
指揮台に立ったクインシー・ジョーンズは、あまりに豪華な合唱にゾクゾクと背中に寒いものが走り、歌い終わると思わず拍手。
「とにかくあのコーラスのエネルギーはすごかった。
指揮をしてて鳥肌が立ってくるのを感じたよ
個人的損得を忘れたところから、あんなパワーが生まれるものなんだ・・・・」
(クインシー・ジョーンズ)
「みんな声もいいし、耳もいい。
センスが抜群なのね。
でもクインシーが最高。
初めて一緒に仕事したけど、さすがね。
楽しかったわ」」
(ベッド・ミドラー)
「1人1人がプロ中のプロさ。
みんなに会えてうれしいね」
(レイ・チャールズ)
完成した曲は、1本のよどみのない流れにように聞こえるが、レコーディングはジグソーパズルのようにパートごとに1つ1つ録られた。
必ずリハーサルを行ってから本番となり、もちろんやり直しになることもあった。

また録音の途中に意見が出て、歌詞の変更が行われることもあった。
その1つが
「 make a better day」
という歌詞の「better」が「brighter」の方がいいのではないかと議論が起こり、最終的に「brighter」に。
クインシー・ジョーンズは
「it`s true we make a brighter dayにしよう。
betterはやめてbrighterだ。
いいね、みんな」
と確認してから、
「カラオケなしで4回いくよ。
ワン、ツー、スリー、フォー」
とリズムを取り、アーティストたちはアカペラで、そのパートのレッスン。
こうしてリハーサルと本番、そして変更をはさみながら断続的に録音は進んでいった。

23時20分、予定されていなかった大御所、レイ・チャールズがコーラスに飛び入り参加。
すると合唱は一層盛り上がった。
「自分の前、自分の後ろ、そして隣、そのまた隣から聞こえてくる声に感激したわ。
目を閉じて声の主を確かめるの。
何度も振り返って声の主を確かめたいという衝動にかられたわ。
そして振り返ると、本当に本人がそこにいるの。
最高」
そういうダイアナ・ロスは、マイケル・ジャクソンとスティビー・ワンダーの手を取りながら歌った。
「力が集結したんだ。
夢のようさ。
ずっと前からやりたくて・・・
集まれば世界を変えられる奇跡の力が生まれるんだ」
(スティービー・ワンダー)

23時30分、コーラスのパート1の録音が終了。
アレンジャーのトム・ベイラーが
「まず高いキーでWe Are The World、We Are The Children・・・
それからAhが始まります。
Ah~~~Ah~~~~
OK?」
と説明。
すると各自、練習で歌い出し、シンディ・ローパーは集中するために後ろを向いて小さく口ずさみ、ケニー・ロギンスはジェフリー・オズボーンとディカッション。
クインシー・ジョーンズが
「低い声の人はちょっと休んでいてくれていいから」
というとヒューイ・ルイスやブルース・スプリングスティーンらは高いキーに恐れをなしてひな壇を離れ、アル・ジャロウに
「歌わなくてもいいから、こっちに一緒にいた方がいいよ」
といわれたが
「No、No、こっちで見学するよ」
その後、ひな壇は個人練習から合同練習に移行。
23時42分、
「よし、録っていこうか」
クインシー・ジョーンズにいい、本番スタート。
23時46分、コーラス、パート2の部分の録音が終わった。
拍手が起こり、小休止に入るとアーティストたちの抱き合い、時を惜しむように歓談を始めた。
ハリー・べラフォンテとクインシー・ジョーンズは笑顔で握手。
スティービー・ワンダーは、レイ・チャールズの指を電動点字タイプライターの使い方を教え、キム・カーンズ、ダイアナ・ロス、ポール・サイモンは、バンドエイドのレコード「Do They Know It's Christmas?(ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」を手に取って話し合った。

日付は変わり、1985年1月29日午前1時、
「さあ行こう」
クインシー・ジョーンズの声で再開。
スタジオに、これまで録ったプレイバックが流れるとレイ・チャールズは思わず顔をほころばせ、メンバーの多くも音楽に合わせて体を動かせた。
午前1時20分、スティービー・ワンダーが歌詞の変更を提案。
「アフリカに届けるんだから」
とコーラスの最後にスワヒリ語を入れたいっていい出した。
するとアーティストたちは、
「どんな言葉?」
「発音は?」
「ドイツ人に英語で歌うようなものよ」
などと意見をぶつけ合い始め、 マイケル・ジャクソンは、
「sha-lum(シャーラ) 」
「sha-lingayシャーリンゲイ)」
というアフリカの言葉っぽい歌詞を提案。
実際に歌うと
「We Are The World♪ 、 sha-lum(シャーラ) 、We Are The Children♪、sha-lingay(シャーリンゲイ)」
となるのだが、ボブ・ゲドルフは
「発音はなんとなくアフリカの言葉っぽいが本当のアフリカの言葉ではないから、アフリカの人たちにバカにしているととられる可能性がある」
と反対。
「エチオピア人はスワヒリ語をしゃべらないのでは?」
「間違ったら大恥だ!」
といわれ、スティービー・ワンダーはスタジオを出て、戻ってくると
「スワヒリ語を教えてもらった」
といって、
「willi( ウィリィ)」
「moing-gu(マンゴウ)」
という歌詞を提案。
(「We Are The World」をスワヒリ語にすると「sisi ni ulimwengu」となり、「ulimwengu」が「「willi moing-gu」」になったといわれている)
歌ってみると
「We Are The World♪ 、 willi( ウィリィ) 、We Are The Children♪、moing-gu(マンゴウ)」
となる。

これに対し、レイ・チャールズが
「何?
Will何だって?
Willi moing-guか。
クソッ、朝の1時だぜ。
スワヒリ語?
これ以上は英語でも歌えないよ」
ウェイロン・ジェニングスも、
「俺はカントリーの男だ。
そんな言葉で歌えるか」
と怒鳴った。
「部屋の空気は、もう最悪さ。
そもそもモメたのも緊張のせいだ。
スターが多すぎて,ピリピリしてた。
ギスギスした感じに耐えられなくなったんだろう、急にマイケル・ジャクソンがいなくなってね。
探したらトイレの個室で丸くなってたよ。
この先レコーディングを続けられるかな、ヤバイいなと思った
(ケン・クレイガン)
シンディー・ローパー、ポール・サイモン、アル・ジャロウは、周囲を説いて回り、ティナ・ターナーはウンザリした様子で目を閉じ、
「sha-lumの方がいいわ。
誰が意味なんか気にするの?」
30分間の話し合いの末、
「one world(ワン、ワールド)」
「our children(アワ、チルドレン)」
が採用され、
「We Are The World♪ 、 one world(ワン、ワールド)、We Are The Children♪、our children(アワ、チルドレン)」
となり終了。
レイ・チャールズは
「決めてくれて、ありがとよ。
これ以上歌詞が変わったら、もうわかんなくなる。
トシだからね」
といって笑った。
ウェイロン・ジェニングスは、すでにスタジオにいなかった。

午前1時50分、力強い声でコーラスが再開。
午前2時、作業が始まって4時間後、「コーラス」部分のレコーディングが終了。
そのとき突然、最前列で歌っていた2人の大御所、スモーキー・ロビンソンとレイ・チャールズががアカペラで歌い出した。
「♪Day, me say day, me say day, me say day, me say day-ay-ay-o♪」
それはひな壇の最上段で歌っていたハリー・ベラフォンテのヒット曲「バナナ・ボート(Banana Boat Day-O )」
「We Are The World」の発起人であるハリー・ベラフォンテへのプレゼントソングだった。
笑い声と拍手が起こり、さらに1人の大御所、ボブ・ディランも歌い出す。
すると次々と歌い出し、やがて全員歌い出し、
「Day-o(デイ・オー)」
というかけ声やアル・ジャロウやスティービー・ワンダーのソロもバッチリ決まり、全員がノリノリで歌い、ハリー・ベラフォンテも驚くほどの完成度で「バナナ・ボート」が終了すると歓声と拍手が起こった。
「ボブ・ディランもマイケル・ジャクソンもブルース・スプリングスティーンも私からみればかわいい坊主たちさ。
みんなのリスペクトを感じて本当にうれしかった。
言葉よりも歌を聴く方がよくわかる。
アーティストっていうのは、正直モメることが多い。
でもそれは表現のために必死だからだ。
そして多少モメても,すぐにまとまることができる。
それが一流のアーティストってやつだ。
いいものだろ?」
(ハリー・ベラフォンテ)
「ベラフォンテへの尊敬の思いが、みんなを本当に1つにした。
ホッとしたよ
これでイケるって」
(ケン・クレイガン)

午前2時半、
「みんな、5分間、休憩」
ケン・クレイガンの声で、アーティストたちはオフモード。
多くのカメラマンがスタジオに入り、フォトセッションが始まり、メイク直しを行うアーティストもいた。
写真撮影中、アーティストたちは自由に談笑し、カメラを向かられると肩を組んでポーズ。
マイケル・ジャクソンはウィリー・ネルソンに、
「あなたがかわいい小鹿と一緒にいる写真を雑誌でみたんです。
僕の母があなたの音楽をいつも聴いてるんです。
そして僕も」
と話しかけ、ウィリー・ネルソンは、
「僕には2人の10代の娘がいるんだけど、もしここにいたら死んじゃってたね。
なんたって君の大ファンなんだから」
レイ・チャールズがピアノを弾き始めると人、ベッド・ミドラーは感激し、その音に聞き惚れた。
そしてレイ・チャールズがトイレの場所を聞くとスティービー・ワンダーが進み出て、
「僕が連れていくよ。
ついてきて、レイ!」
目がみえない人が目がみえない人を連れていくので全員が驚いたが、スティービー・ワンダーはレイ・チャールズの手を引いて廊下を歩き、トイレのドアの前まで案内した。


アーティストたちは自分の楽譜を出し合って、サインを交換。
「セッションのスコアを持って、みんなにサインをお願いして回ったんだ。
ダイアナ・ロスも同じことを始め、みんながサインをもらおうと動き始めたんだ。
それはアトランタの僕に家の壁に飾ってあるよ」
(ケニー・ロジャース)
「とうとう全員が全員のファンになってしまった。
お互いにサインをねだって大変な騒ぎだったよ。
この瞬間を何かに残したくて、手元の楽譜にサインしてもらった。
1人残らずサインを交換したはずだよ」
(ライオネル・リッチー)
「コロラドのスタジオに飾ってあるよ。
人が来てそれをみると、みんな大興奮さ。
全員のサインをもらったよ。
レイ・チャールズやスティービー・ワンダーのところへも行ったんだ。
このときばかりは僕は冷静だったね。
僕の最高の宝物さ」。
(ジョン・オーツ)
「それをみると知らないうちに笑ってるんだ。
そしてそれぞれの名前を読み始めるんだよ」
(サイン入りの楽譜を書斎にかけてあるというクインシー・ジョーンズ)

後に雑誌「LIFE」は、このとき撮った写真を使って12ページの特集記事を組んだ。
そしてレコードのジャケットとなる集合写真も、このときに撮影されたもの。
しかし「USA for Africa」に参加したアーティストは45人のはずなのに43人しか写っていない。
集合写真にいなかった2人は、

・アウトローカントリーシンガー、ウェイロン・ジャニングス
・姉妹コーラスグループ「ザ・ポインター・シスターズ」の末妹でリードシンガーのジェーン・ポインター

いずれも普段、ソロ、あるいはバンドでメインボーカルとして歌っているのに「リードボーカル」部分を歌うことができないアーティスト。
スティービー・ワンダーの提案した歌詞に反対したウェイロン・ジャニングスは、クインシージョーンズいわく
「コーラス録り終了後、歌詞に納得できないと立ち去った」
姉妹コーラスグループ「ザ・ポインター・シスターズ」は、数時間前に「アメリカン・ミュージック・アワード」で「ビデオソウル/R&Bグループ部門」を受賞し、1ヵ月後のグラミー賞でも2部門を獲得。
メインボーカリスト、ジェーン・ポインターにとって「リードボーカル」部分を歌うことができないのは耐えられない屈辱だったのかもしれない。
一方、「ザ・ポインター・シスターズ」の長女で、39歳にして1歳の孫がいるポインター・ルースは、
「撮って帰らないと殺されちゃうわ」
といって自前のカメラでマイケル・ジャクソンを撮りまくっていた。

バックコーラスのみ参加のアーティストは、100枚のポスターにサインした後、帰宅。
(数人は残ってレコーディングを見学)
この限定100枚のオリジナルサイン入りポスターはオークションにかけられた。
レイ・チャールズも、後日、改めてソロを録ることになり、
「1月からずっといい恋愛をしていない」
といいながらスタジオを出ていき、誰もが
「まだ1月じゃないか」
と思った。
(収録は1985年1月28~29日に行われた)

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28歳のドラムボーカリスト、シーラ・Eは、全員が歌う「コーラス」部分の録音を緊張しきりのまま終えた。
27歳のときにプリンスのバンドに加入し、レコーディングやライブツアーに参加し、強力なドラムで圧倒。
その間にプリンスと恋人関係となり、プリンスとデュエット曲を出し、プリンスの全面バックアップでデビューアルバム「The Glamorous Life(ザ・グラマラス・ライフ)」をリリースすると、ワイルドなドラムとセクシーな歌声で全米チャートで7位を獲得し、グラミー賞にノミネート。
そのままプリンスの全米ツアーに帯同していたとき、「We Are The World」から参加のお声がかかった。
「We Are The Worldの収録日はプリンスのツアーの真っ最中で、もし参加すると3日間寝られないことになる。
身体的にはキツいけど歌手としてソロデビューしたばかりだったから、いい機会だと思ってOKしたの。
先輩の歌手の皆さんにちゃんと挨拶したかったから」
とシーラ・Eは快諾。
プリンスも同じく参加を求められていたが、
「ボクはいけないかもって伝えてある」
といわれ、歌手としてデビュー2年目のシーラ・Eは、1人でスタジオに行き、度肝を抜かれた。
「マイケル・ジャクソンは、実は大丈夫。
前に会ったことあったし.スティービーも会ったことある。
でもね、レイ・チャールズは初めてで『うわっ,本物だ!』って。
洗面所で隣がダイアナ・ロスだったりするし,それになんといったってブルース・スプリングスティーンよ。
思わずハグしちゃった。
『ボス大ファンです』っていったら『君の曲,大好きだ。マジでいい』っていってくれて。
『え~っ!ボスが私のこと知ってるなんて』ってなって、もう大興奮よ」

コーラスの録音について
「もう、周りは大物だらけでしょ?
サングラスを下げて必死に、(小声で) We are the world, We are the children♪
プリンスとツアーのときは「シーラ・E!」ってド派手に出ていくけど、あのときはもう、(小声で) We are the world,♪
だってハリー・ベラフォンテにクインシー・ジョーンズにレイ・チャールズよ」
と大先輩たちに囲まれながら夢のような時間を過ごしたシーラ・Eに、さらに意外な展開が待っていた。
「ソロの準備ができたとき、私もそこにいて欲しいっていわれたのよ。
ソロを歌ってもらうからって。
本当よ。
ケン・クレイゲンから,あのとき、そういう話があったの。
私にソロのパートを歌わせるって」
「リードボーカル」部分への参加を求められたシーラ・Eは歓喜。
しかしこの後、ツラい思いをしてしまう。

「リードボーカル」部分の録音の準備が進む中、スタジオで待つシーラ・Eは、ケン・クレイガンにプリンスに電話をかけて参加を促すように頼まれ、いわれるがままプリンスに電話。
「行った方が良い感じかな?」
というプリンスに
「来た方が良いわよ」
「連中は,君に何をして欲しいっていっている?」
「ソロを歌わせてくれるらしいんだけど,出番を待っているの」.
「君がソロを歌ったら呼んでくれ。
君が歌ってからだ」
そうこうしている間に「リードボーカル」部分のリハーサルが始まったが、シーラ・Eにはお呼びがかからない。
その代わりにケン・クレイガンやクインシー・ジョーンズに頼まれ、何度もプリンスに電話をかけた。
「ずっと電話ばっかりしていたのよ」
そして何度かけてもプリンスの答えは、
「君がソロを歌ったら呼んでくれ」
だった。


3時、クインシー・ジョーンズとケン・クレイガンに
「最後にもう1度だけかけてくれ」.
といわれ、シーラ・Eはプリンスに電話。
「最後のお願いだって」
と伝えると、プリンスは、
「ボクは君がソロを歌わない限り、そこに行くことはない。
だが君が歌わせてもらうことはないだろう。
君は利用されているだけだ。
もういい。
君はホテルに戻って寝てろ」
この後、シーラ・Eはスタジオを去り、ホテルでプリンスと会い、
「歌えたのか?」
と聞かれ、
「NO、あなたと電話した後、私の出番は本当にあるの?って聞いたら、ゴメン、なくなるかもしれないって。
あなたのいう通り、私は利用されたのね」
しかしシーラ・Eは、気持ちを切り替え、彼氏に、
「あそこで今まで会ったこともないようなすごい人たちに会えたのよ。
きっと,あなたも会いたかった人ばかりよ」
と自慢した。

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「マイケルとプリンス、犬猿の仲と噂されている2人が共演し、しかも並んで歌うことができれば・・・」
ケン・クレイガンは、プリンスの参加を強く期待していたが、結局、スタジオに来ることはなかった。
「正直にいうと彼女は、まだソロを歌う器ではなかった。
でもプリンスを呼ぶために残ってもらったんだ。
我々はどうしてもプリンスとマイケル・ジャクソンの共演を実現させたかった。
だって同じマイクで2人が歌えば、それは1つの奇跡になる。
プリンスを呼ぶ最後の手段として,彼女を利用したことは認める。
だって彼からはっきりNOといわれたわけではなかった。
絶対にダメじゃなければ,どんな手でも使う。
それが,私の仕事だ」
(ケン・クレイガン)
実際、プリンスが「We Are The World」に参加しなかった理由は、ボディーガードが暴行問題を起こし、自らも警察の取り調べを受けたためとされたが、10年後、「アメリカン・ミュージック・アワード」でWe Are The World 10周年を祝し、当時のメンバーが集まってステージ上で合唱する企画が行われたとき、ステージ真ん中、1番前にいたプリンスは、手をポケットに突っこんで棒つきキャンディをくわえたまま、歌おうとせず、クインシー・ジョーンズにマイクを向けられると逆にキャンディを差し出して対応。
それでもファンは、
「ステージに立っただけ大人になった」
「以前だったら退席していた」
と思ったという。

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午前3時7分、「リードボーカル」部分のリハーサルが始まった。
「リードボーカル」部分は、1人のアーティストが1フレーズ歌った後、次の人とデュエットし、そして次の人が1フレーズ歌った後、さらに次の人とデュエットというマイクリレー。
まず個人リハーサルから始まり、クインシー・ジョーンズと次にアレンジャーのトム・ベイラーは歌う順番に1人1人声をかけて、ハーモニーをチェック
プリンスの代わりに歌うことになったヒューイ・ルイスは、マイケル・ジャクソンが
「When you're down and out, there seems no hope at all
(君が打ちひしがれた時、希望など全くないように思えるだろう)」
と歌った後、
「But if you just believe, there's no way we can fall
(でも君がひたすらに強い気持ちを持てば、私たちが負けることはあり得ない)
トム・ベイラーに、
「そうそういいよ!」
といわれ
「本番いってもいいかい?」
とおどけた。
次にピアノの周りに全員集合。
スティービー・ワンダーがピアノを弾き、クインシー・ジョーンズとライオネルリッチーが音頭をとって全員でリハーサル。
その間にスタッフは、ひな壇の前に床に4本のスタンドマイクを設置。
円形に設置されたマイクの少し離れたところにはクインシー・ジョーンズが立つ指揮台があった。

4時、スティービー・ワンダーが2人のアフリカの女性をスタジオに連れてきて
「エチオピアからの言葉です」
と紹介。
すると1人の女性、クリッシー・キニャンジュイが、アフリカの言葉で
「故郷の人々に代わりまして、あなた方の親切に感謝します。
素晴らしい一夜でありますよう・・・」
とあいさつ。
3年前から1年の半分をでアメリカでベビーシッターとして働き、残りの半分を母国ケニアで暮らしていること。
ケニアはエチオピアの南にあって国境が接しているため、たくさん情報が入ってくること。
エチオピアは長く独裁政権で国に都合の悪いことは報じられないことなどを伝え、
「国境1つ隔てて救われる人とそうでない人がいるなんておかしいと思いました」
といった後、
「それでは英語で・・」
といって英語で同じことを話した。
もう1人の女性、エチオピア人のゼムタ・アレマヨは、英語で
「あなた方の善意あふれる行為に深く感謝します。
サンキュー・ベリー・マッチ」
といった後、涙ぐんだ。
アーティストたちは拍手。
多くのアーティストが涙を流していたが、特にアル・ジャロウは号泣。
そして全員がここにいる理由を再認識した。
「彼女たちのスピーチが歌をすばらしいものにした決定的な原因だと思うよ。
誰のために歌うかハッキリしたときのアーティストほど強いものはない」
(ケン・クレイガン)
女性たちは、スティービー・ワンダーがエチオピア人を探しているという情報を知って面接を受け、
「現場で話をしてほしい」
と頼まれ、この夜、迎えに来たリムジンに乗り、2人は、そこで初めて出会った。
「どうせスターの気まぐれでしょ」
と思っていたが、スタジオでアーティストたちが必死に仕事をする姿を目撃して驚いた。
「彼らなら、あの飢饉の悲惨さをちゃんと伝えてくれると思いました」

「準備OK!
ハッピー・ニュー・イヤー」
の声で「リードボーカル」部分の録音が開始。
前半グループ、後半グループに分かれて行われ、まず前半グループの

ライオネル・リッチー 
スティービー・ワンダー 
ポール・サイモン
ケニー・ロジャース
ジェイムズ・イングラム 
ティナ・ターナー
ビリー・ジョエル
ダイアナ・ロス
ディオンヌ・ワーウィック 
ウィリー・ネルソン 
アル・ジャロウ
ブルース・スプリングスティーン
ケニー・ロギンス 
スティーヴ・ペリー 
ダリル・ホール(「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」)

がスタンバイ。

マイケル・ジャクソン
ヒューイ・ルイス 
シンディ・ローパー 
キム・カーンズ 
ボブ・ディラン 

はスタジオ隅の床に座って見学。 


コーラス部分の録音同様、レコーディングパートごとに録られ、何度もやり直しが行われた。
クインシー・ジョーンズは、自分が立つ指揮台を中心にU字型に配列されたマイクをみて
「こんなやり方は、ガソリンをまきながら地獄を走り抜けるみたいなもんだったよ。
誰かのおしゃべりとか外の雑音とか、笑い声だったり床がきしむ音ですら、すべてを台無しにしかねないんだからね」
と思っていた。
ライオネル・リッチーが
「自分の番が来たら前に出てくてください。
ここで(マイクの前で)ソロを歌う。
すると次の人が割り込んでくる。
デュエットのときは、この位置で(マイクから少し離れた位置で)
後ろに下がって歌ったら誰が歌っているのかわからないから、とにかく自分の番が来たら思い切り前に出るんだ。
目印よりもずっと前に出て、マイクに寄るんだ」
と説明。

Amazon.co.jp: ライオネル・リッチー: ミュージック

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音楽が流れ、1人目のライオネル・リッチーが、
「There comes a time(時が来た)・・・」
と歌ったとき、クインシー・ジョーンズは大きく手を叩いてストップ。
「ちょっと待て!
雑音を入れるな!
録音中だぞ!!」
とスタッフに激怒。
一気に緊迫した空気にスティービー・ワンダーは笑顔で
「クインシー、怒るなって」
ライオネル・リッチーも表情を崩して、その肩に寄りかかった。
そうしている間にTAKE2が始まり、スティービー・ワンダーはマイクに笑い声入らないように口を押えた。
0:00、
シンセサイザーによるイントロの音楽が流れる。
0:26 
ライオネル・リッチーが先陣を切る。
「There comes a time when we heed a certain call
(時が来た、私たちがその声に耳を傾ける時が)」
0:31 
スティービー・ワンダーがマイクに近づき、ライオネル・リッチーと2人で
「When the world must come together as one
(世界がひとつにならなければいけない時が)」
とコーラス。
そしてソロで
「There are people dying
(命を落としている人たちがいる」

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0:41
160㎝のポール・サイモンが引継ぎ、
「Oh and it's time to lend a hand to life
(そして今こそ命に手を貸す時だ)」
183㎝、白地に青の「USA for Africa」のトレーナーを着たケニー・ロジャースが現れ、2人で
「The greatest gift of all
(何よりも偉大な授かりものに)」
ライオネル・リッチーが手を伸ばしてキューを出すとケニー・ロジャースのソロが開始、
「We can't go on pretending day by day
(誤魔化しながら日々を過ごすことはできない)」
0:59、
ジェームス・イングラムが
「That someone, somewhere will soon make a change
(誰かがどこかでもうすぐ変化を起こしてくれるのだと)」
最初、ジェームス・イングラムは緊張で声が出ず、音も外し、歌い終わると笑い声を殺してケニー・ロジャースに抱きついた。

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1:06、
オスライオンのような髪形をしたティナ・ターナーが迫力のある声で、
「We are all a part of God's great big family
(私たちはみな神の素晴らしい大きな家族の一員)」
1:13、
ヒゲ面のビリー・ジョエルが、
「And the truth, you know
(そして真実はわかってるだろう)」
ティナ・ターナー&ビリー・ジョエルで
「Love is all we need
(私たちに必要なのは愛だけ)」
1:19、
すでにレコーディングされたマイケル・ジャクソンの声が流れ、
「We are the world, we are the children
(私たちは世界、私たちは(神の)子供)
We are the ones who make a brighter day
(私たちこそがより明るい日をつくる者たち)
So let's start giving
(だから与えることを始めよう)」
1:32、
マイケル・ジャクソンとのつき合いは16年以上というダイアナ・ロスが、
「There's a choice we're making
(私たちがこれからする選択がある)
We're saving our own lives
(私たちは自分たち自身の命を救おうとしている)」
1:37、
再びすでにレコーディングされたマイケル・ジャクソンの声で
「It's true we'll make a better day
(その通り、私たちがより良い日をつくる
Just you and me
(君と私こそが)」

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1:48、
ディオンヌ・ワーウィックが
「Send them your heart
(彼らに気持ちを送ろう)
so they'll know that someone cares
(そうすれば誰かが気にかけていることを彼らも知ることができる)」
1:55、
ディオンヌ・ワーウィック&ダン・エクロイドで
「And their lives will be stronger and free
(そうすれば彼らの命はより強く自由になる)」
2:00、
ダン・エクロイドがソロで
「As God has shown us by turning stone to bread」
(神が石をパンに変えて私たちに示してくれたように)
2:07、
USA for Africaのスウェットと黒い革ジャンを着たアル・ジャロウが
「So we all must lend a helping hand
(だから私たちは支援の手を貸さなければならない)」

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2:12、
ブルース・スプリングスティーンが目をつむりながら
「We are the world, we are the children
(私たちは世界、私たちは(神の)子供)」
2:19、
ケニー・ロギンスが
「We are the ones who make a brighter day
(私たちこそが、より明るい日をつくる者たち)
So let's start giving
(だから与えることを始めよう)」
2:26、
スティーブ・ペリーが
「There's a choice we're making
(私たちがこれからする選択がある)
We're saving our own lives
(私たちは自分たち自身の命を救おうとしている)」
2:33、
ダリル・ホールが
「It's true we'll make a better day
(その通り、私たちがより良い日をつくる)
Just you and me
(君と私こそが)」

前半グループの録音は数TAKEで終了。
コントロールルームからOKが出ると、歓声と拍手が起こり、ティナ・ターナーは
「フィッシュバーガー!フィッシュバーガーが食べたい」
とおどけた。
スタジオの床に座って待機していた後半グループ、

マイケル・ジャクソン
ヒューイ・ルイス 
シンディ・ローパー 
キム・カーンズ 

が立ち上がり、キム・カーンズは、感心した様子で
「すごいリレーコーラスね!」
といいながら位置についた。

2:40、
まずマイケル・ジャクソンが、
「When you're down and out, there seems no hope at all
(君が打ちひしがれた時、希望など全くないように思えるだろう)」
と歌った後、ヒューイルイスが気合を入れて口を開けた瞬間、音楽がストップ。
気合を入れてスタンバイしていたヒューイ・ルイスは、持っていた楽譜を落としてよろけ、シンディ・ローパーは
「真打登場だからもったいぶってるのよ」
といってなぐさめた。
2:46、
ヒューイ・ルイスが拳を握りながら、
「But if you just believe, there's no way we can fall
(でも君がひたすらに強い気持ちを持てば、私たちが負けることはあり得ない)」
2:51、
「WaWaWa」
シンディ・ローパーが体でリズムをとりながらマイクの前に躍り出て
「Let us realize, oh, that a change can only come
(みんな理解しよう、変化が訪れるのは)」
2:59、
キム・カーンズがハスキーボイスで
「When we ・・・・」
とワンフレーズを絞り出し、
3:02、
ヒューイ・ルイス&キム・カーンズで
「Stand together as one
(私たちがひとつに団結した時だけなのだと)」
シンディ・ローパーは、
「アイヤイヤヤイヤ}
と魂の叫び。

1回目のTAKEの後、コントロールルームが
「ノイズが入る」
と指摘し、
「どうも犯人はブレスレットのようだけど・・・・」
するとシンディ・ローパーが
「OH!
私?
ごめんなさい」
スタジオ大爆笑の中、シンディ・ローパーはジャラジャラとイヤリングやネックレスを外した。
5回目のテイクの後、シンディー・ローパーが
「私、まだ音してる?」
すると後ろからみていたスティーヴ・ペリーが社会科見学している小学生のように挙手し、
「Q(クインシー・ジョーンズ)、聞いてよ。
彼女の歌にちょうど合っているよ。
まるで会話しているようだ。
素晴らしい」
7度目のテイクは良い出来で、部屋には自然と拍手が起こった。

この後、ヒューイ・ルイス、シンディ・ローパー キム・カーンズは、さらにハーモニーの練習を行い、ライオネル・リッチーも熱心にアドバイス。
そして録音直前、コントロールルームからヒューイ・ルイスにマイクから少し離れて歌うように指示が出た。
「エッ、もっと離れるの?
みんなもっと近いんじゃない?」
ヒューイ・ルイスは少し不満そうだったが声にパワーがありすぎた。
そのとき横ではシンディ・ローパーがキム・カーンズの肩を揉んであげた。
こうしてスタンバイOK!
まず音楽と撮り終えたマイケル・ジャクソンの声が流れ、ヒューイ・ルイスはマイクとの距離を確認しながらも、想いを込めた歌声をぶつけ、
シンディ・ローパーは、
「Whoa-whoa-waah」
と叫びながらマイクに近づき、まるでブチまけるようなパワフルなボーカル。
キム・カーンズは、その声量に一瞬、首を振り、その後、見事なハスキーボイスで
「When we・・・」
その後、ヒューイ・ルイス&キム・カーンズのコーラス、シンディ・ローパーの叫びもバッチリ決まった。
音楽が止まり、シンディ・ローパーは不安そうに
「ちょっと張り切りすぎた?」
するとクインシー・ジョーンズは
「いや、とっても良かったよ。
今のでOKにさせて」
スタジオに拍手が起こり、シンディ・ローパーは
「やった~!」
といいながらヒューイ・ルイスの肩を叩き
「世紀の大リレーボーカル大成功!!」
クインシー・ジョーンズが
「さあ、休憩だ!
みなさん、よいお年を」
といったとき、時間は朝の4時50分だった。

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午前5時半、ボブ・ディランの録音が開始.。
最初、
「独りでやるの?」
と不安がるボブ・ディランにクインシー・ジョーンズは、
「好きなようにやってくれればいいのさ」
「キーが合うかな?
変えちゃいけなんだろ?」
「気にしなくていいよ。
ボブ・ディランが欲しいんだから」
コーラス部分のレコーディング中、後で歌っていたジョン・オーツは、ボブ・ディランが
「緊張している」
と感じた。
「彼はメロディーの人じゃない。
でも彼のソロは特にメロディーが特徴的だった。
あのようなメロディーを歌うことは彼にとっては居心地が悪かったんだと思う。
彼なりのやり方で頑張っていたんだよ」

まずスティービー・ワンダーのピアノでリハーサル。
しかしためらいがあるのか、ボブ・ディランは音程が定まらず、口ごもるように歌い、歌詞が聞き取りにくかった。
スティービー・ワンダーは硬くなっているボブ・ディランにボブ・ディランのモノマネをして歌ってみせた。
「スティービー、1度演奏してくれないか?」
やがてボブ・ディランは、半分歌い、半分しゃべるような独特な歌い方を取り戻した。
次にマイクの前に立って、音楽に合わせて歌詞を口ずさむが、周囲の目が気になって歌えない。
4台のカメラ、35人の視線にさらされながらの録音することに慣れておらず、神経質になっているボブ・ディランをみて、ライオネル・リッチーは、すべての人間がスタジオの外に出ることを提案。
クインシー・ジョーンズも指揮台にしゃがみこんで姿がみえないようにした。
数テイクの後、力強い歌声が出てきて、
「OK、1度通してみたいな」
というボブ・ディラン。
ボブ・ディランの強烈なボーカルの録音が終わると、ライオネル・リッチーはその背中に抱きつき、
「サンキュー」
クインシー・ジョーンズは
「ファンスタティック!
これだよ!
まさにこれこそがStatement(声明文)なんだ!」
と叫んだ。
ボブ・ディランは、
「そうだった?
OK?・・かな?」
アル・ジャロウは目に涙をためながらボブ・ディランに近づき
「僕はバカだからこんなことを伝えるしかできないんだけど・・・
本当に君を愛してる」
といい、戸惑うボブ・ディランを後にスタジオのドアに向かうと
「あなたは僕のアイドルなんだ」
といって去っていった。

3:07、
全員のコーラスで、
「We are the world, we are the children
(私たちは世界、私たちは(神の)子供
We are the ones who make a brighter day
(私たちこそがより明るい日をつくる者たち)
So let's start giving
(だから与えることを始めよう)
There's a choice we're making
(私たちがこれからする選択がある)
We're saving our own lives
(私たちは自分たち自身の命を救おうとしている)
It's true we'll make a better day
(その通り、私たちがより良い日をつくる)
Just you and me
(君と私こそが)
We are the world, we are the children
(私たちは世界、私たちは(神の)子供
We are the ones who make a brighter day
(私たちこそがより明るい日をつくる者たち)
So let's start giving
(だから与えることを始めよう)」
3:45、
ボブ・ディランがソロで、
「There's a choice we're making
(私たちがこれからする選択がある)
We're saving our own lives
(私たちは自分たち自身の命を救おうとしている)
It's true we'll make a better day
(その通り、私たちがより良い日をつくる)
Just you and me
(君と私こそが)」
3:58、
再び全員のコーラスで、
「We are the world, we are the children
(私たちは世界、私たちは(神の)子供
We are the ones who make a brighter day
(私たちこそがより明るい日をつくる者たち)
So let's start giving
(だから与えることを始めよう)
There's a choice we're making
(私たちがこれからする選択がある)
We're saving our own lives
(私たちは自分たち自身の命を救おうとしている)
4:19、
全員のコーラスの上にボブ・ディランとソロが乗り、
「It's true we'll make a better day
(その通り、私たちがより良い日をつくる)
Just you and me
(君と私こそが)」

最後にブルース・スプリングスティーンのソロが録られた。
完成された音源では、スティービー・ワンダーとブルース・スプリングスティーンのもスリリングなデュエットとなる部分である。
「君の歌はファンタスティックだよ、ディラン」
ブルース・スプリングスティーンは歌う準備をしながらいい、ボブ・ディランはブルース・スプリングスティーンの歌を聞こうとその場にとどまった。
「コーラスに対する応援のつもりで」
クインシー・ジョーンズは指示を出し、ブルース・スプリングスティーンは
「やってみるよ」
と答え、後ろのポケットに楽譜を突っ込んだ。
「マイクテスト、1,2」
前々日20時にコンサートを終え、一昼夜かけてロスにかけつけ、空港からスタジオまで自分で車を運転してやってきたブルース・スプリングスティーンは丸2日ベッドに入っていない状態だったが、力強い歌声で1発でビシッと決めた。
スタジオ内は思わず拍手と歓声。
ブルース・スプリングスティーンは、それを受けながら笑顔で
「声援アンガト!」
そして、
「大汗かいたぜ」
といって、すぐにスタジオを出て数台のリムジンの脇を通り過ぎ、自分で運転してきたピックアップ・トラックに乗った。



「リードボーカル」部分を歌ったアーティストも100枚のポスターにサインをし、最後にマイケル・ジャクソンがサインをして全作業が終了。
ポール・サイモンは時計をみて
「8時20分だよ」
といった。
出来上がったミュージックビデオでは、曲のイントロと共に自転する地球の映像が流れる。
そして18秒後、アーティストたちの色とりどりサインが登場。
スティービー・ワンダーは指紋で署名し、同じ盲目のレイ・チャールズは手書きだった。
最後の最後までスタジオに残っていたのはクインシー・ジョーンズとライオネル・リッチー。
プリンスのマネージャーのボブ・カヴァロは、朝方、クインシー・ジョーンズに電話をかけ、突然のキャンセルを謝罪した後、
「もし必要なら・・・ギターソロだけでも弾かせてもらえませんか?」
と申し出たが、断られた。
「全世界の最大のスターたち46人が一つの部屋に集まっていたんだ。
はるか遠くで手助けを必要としている人々を助けるためにね。
あの夜のあの経験は2度と起こらないと思うよ。
人類の進歩のために人々を結集させるという音楽の力を僕は信じている。
このことについては、『We Are the World』という集まりは最高の実例かもしれないね」
(クインシー・ジョーンズ)

レコーディングから6日後、2月6日、
「曲の最後にサビにさらに盛り上がりと感動を与えたい」
というクインシー・ジョーンズと3人のアーティストがスタジオに集合。
まず大御所、レイ・チャールズがマイクの前に立ち、スタッフに。
「マイクの位置はここです。
いいですか?」
といわれ、
「Yes、OK」
といいながらマイクの位置を手で確かめた後、ヘッドホンをつけ
「OK!
さあ、1発いくぞ!」
音楽が流れると、譜面台に両手を置いたレイ・チャールズは、ピアノを弾くように体を左右に揺らしながら歌い、ときにタップダンスのように床を蹴った。
続いてジェームズ・イングラムの録音が行われ、、両拳を握って熱唱。
最後は、スティービー・ワンダー。
出来上がった音楽を聴いて、
「締めくくるために必要だと思っていたエネルギーが、思ったより早く消えてしまっていたんだ。
グループのパワーのピークは2回のコーラスとキー・チェンジの後に来ていた」
と思ったクインシー・ジョーンズは、
「スプリングスティーンのボーカルが使える。
コーラスをスティービー・ワンダーと取り換えることでアクセントがつけられる」
と気づいた。
1月28日の夜、青と黒のセーターを着ていたスティービー・ワンダーは、カラフルなパッチワークのシャツでこの日のレコーディングに参加し、顔を左右に振りながら熱唱。
クインシー・ジョーンズは、スティービー・ワンダーとブルース・スプリングスティーンの強烈なボーカルを輪唱するように組み合わせた、
これで「We Are The World」に必要な音はすべてそろった。

4:24、
全員のコーラスの上にレイ・チャールズのソロが乗って、
「We are the world, we are the children
(私たちは世界、私たちは(神の)子供
We are the ones who make a brighter day
(私たちこそがより明るい日をつくる者たち)
So let's start giving
(だから与えることを始めよう)
There's a choice we're making
(私たちがこれからする選択がある)
We're saving our own lives
(私たちは自分たち自身の命を救おうとしている)
最後にアドリブで
「Come on now, let me hear you
(さあ、キミたちの声を聞かせてくれ!)」
その後、スティービー・ワンダーとブルース・スプリングスティーンの輪唱が開始。
4:52、
スティービー・ワンダーが
「We are the world」
4:54、
ブルース・スプリングスティーンが
「We are the world」
4:55、、
スティービー・ワンダー
「We are the children」
4:56、
ブルース・スプリングスティーン
「We are the children」
4:58、
スティービー・ワンダー
「We are the ones who make a brighter day
So let's start giving」
5:03、
ブルース・スプリングスティーン
「So let's start giving」
5:06、
スティービー・ワンダー
「There's a choice we're making
We're saving our own lives
It's true we'll make a better day
Just you and me、ME Yay Me Yay!
We are the world」
5:19、
ブルース・スプリングスティーン
「We are the world」
5:21、
スティービー・ワンダー
「We are the children」
5:23、
ブルース・スプリングスティーン
「We are the children」
5:25、
「We are the ones who make a brighter day
So let's start giving」
5:30、
ブルース・スプリングスティーン
「So let's start giving
There's a choice we're making
We're saving our own lives
It's true we'll make a better day
Just you and me」
最後、ブルース・スプリングスティーンのバックでスティービー・ワンダーは
「WooWo0Wowー」
と叫んだ。
5:44、
再び全員のコーラスで、
「We are the world, we are the children
(私たちは世界、私たちは(神の)子供
We are the ones who make a brighter day
(私たちこそがより明るい日をつくる者たち)
So let's start giving
(だから与えることを始めよう)
There's a choice we're making
(私たちがこれからする選択がある)
We're saving our own lives
(私たちは自分たち自身の命を救おうとしている)


ジェームス・イングラムとレイ・チャールズのかけ合いが開始。
6:11、
ジェームス・イングラムが
「We are the world」
6:12、
レイ・チャールズが
「We are the world」
6:14、
ジェームス・イングラム
「we are the children」
6:15、
レイ・チャールズ
「it's son」
6:17、
ジェームス・イングラム
「We are the ones who make a brighter day
So let's start giving
6:24、
レイ・チャールズ
「There's a choice we're making
We're saving our own lives
It's true we'll make a better day
Just you and me、Hoo--!
All right I'm singing!」
6:29、
全員のコーラスにレイ・チャールズの叫びが加わり、
7:10、
フェードアウトしていって曲は終了。


「We Are The World]は、1985年3月7日に全米で、そして4月までに世界中で発売された。
アメリカでは3月7日にリリースされるや3日間で80万枚という前代未聞のスピードセールス。
4月13日から4週間連続、全米No.1を獲得。
(この曲に取って代わって首位に立ったのはマドンナの「Crazy for You」)
5月16日、「ケン・クレイガンは発売元のコロンビアから印税を受け取り、Tシャツやグッズ、ポスターなどの売り上げを含め、700万ドル(117億5000万円)以上をアフリカの飢餓解消のために寄付。
ハリー・べラフォンテを中心とする支援チームは、
「飢餓に苦しむ人たちに今すぐ食料や衣料品を届けたい」
とアフリカへ支援物資を届けに出かけたが、水も冷蔵庫も舗装道路もない状況に支援の難しさを痛感した。

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