We Are The World 世界を変えたレコーディング

We Are The World 世界を変えたレコーディング

ときは来た!今こそ世界が1つになるとき!!1枚のレコードが世界中の人々の心をつなぎ、食糧、薬品、物資となって飢えた子供たちに届けられ、1枚のレコードが人々の魂を揺り動かし、多くの命を救った。


1985年1月28日22時30分、クインシー・ジョーンズはいった。
「じゃあ始めるけど・・・・
覚えておいて欲しいのは、床の名前はソロのポジションだ」
みるとスタジオの床やひな壇に、アーティストの名前が書いたテープが張られてある。
「We Are The World」は大きく分けて、以下の2つの部分で構成されていた。

・全員が歌う「コーラス」部分
・アーティストが1フレーズずつ、それぞれのスタイルで歌う「リードボーカル」部分

マイケル・ジャクソンやライオネル・リッチーなど一部を除いて、アーティストたちは、今夜ここに来るまで誰が参加するのか知らなかった。
もちろん自分のパートや、誰が「リードボーカル」部分を歌うのかなどわからない。
これについてクインシージョーンズは、
「セッションの間、彼らに何かを決めさせるということをしたくはなかった。
彼らの立ち位置、歌うパート、いつ歌うか・・・それをよくよく考え、そして説明する必要がありました。
これほどの人数、レベルのグループが意思決定に参加すると必ずトラブルが起こるということを長年苦労から学んでいた」
「ソロ担当になるか、アンサンブル担当になるか、それはすべてこのレコードがどうすれば最大限まで広くアピールできるかという目的のみに基づいて決定された」
といっているが、ほとんどの参加アーティストは、床に貼られたテープをみて初めて自分が「コーラス」部分のみの参加なのか、「リードボーカル」部分を歌うことができるのか把握した。
(床に自分の名前が貼られていれば、「リードボーカル」部分を歌うことができる)

クインシージョーンズのセレクトで、「リードボーカル」部分を歌うのは、

ライオネル・リッチー 
スティービー・ワンダー 
ポール・サイモン
ケニー・ロジャース
ジェイムズ・イングラム 
ティナ・ターナー
ビリー・ジョエル
マイケル・ジャクソン
ダイアナ・ロス
ディオンヌ・ワーウィック 
ウィリー・ネルソン 
アル・ジャロウ
ブルース・スプリングスティーン
ケニー・ロギンス 
スティーヴ・ペリー 
ダリル・ホール(「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」)
プリンス
シンディ・ローパー 
キム・カーンズ 
ボブ・ディラン 
レイ・チャールズ 


一方、「コーラス」部分のみの参加となったのは、

ハリー・ベラフォンテ
スモーキー・ロビンソン
ボブ・ゲルドフ
ウェイロン・ジェニングス
ジェフリー・オズボーン
シーラ・E
ダン・エイクロイド
ベット・ミドラー
ジャッキー・ジャクソン
マーロン・ジャクソン
ラトーヤ・ジャクソン
ランディ・ジャクソン
ティト・ジャクソン
リンジー・バッキンガム(「フリートウッド・マック」)
ジョン・オーツ(「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」)
「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース」(ヒューイ・ルイス、ジョニー・コーラ、クリス・ヘイズ、マリオ・シポリナ、ビル・ギブソン、ショーン・ホッパー)
「ポインター・シスターズ」(ポインター・アニタ、ポインター・ジューン、ポインター・ルース)

だった。
しかし結果的にプリンスはドタキャン。
ヒューイ・ルイスが代わりにリードボーカル」部分を歌うことになった。


「コーラス」部分のみの参加となったメンバーの中で、ハリー・べラフォンテやスモーキー・ロビンソンは大御所。
ベッド・ミドラーとダン・エクロイドは俳優。
マイケル・ジャクソンの兄弟たち、「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース」のバックメンバー、姉妹コーラスグループ「ザ・ポインター・シスターズ」のルースとアニタは、普段、メインボーカルではない。
彼らは「リードボーカル」部分を歌えなくても、あまり気にならなかったかもしれない。
しかし大御所でも俳優でもバックメンバーでもなく、ソロシンガー、あるいはバンドのメインボーカルなのに「リードボーカル」部分を歌えなかったのは、

ジェフリー・オズボーン
リンジー・バッキンガム(フリートウッド・マック)
ウェイロン・ジェニングス
ジェーン・ポインター(ザ・ポインター・シスターズ)
シーラ・E

「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」のダリル・ホールは「リードボーカル」部分も歌うが、ジョン・オーツは「コーラス」部分のみ参加となった。
そして翌年、ダリル・ホールはソロ・アルバム「Three Hearts in the Happy Ending Machine」を作成し、ジョン・オーツとのデュオ活動を休止。
ウェイロン・ジェニングスとジェーン・ポインターは、この夜、ある行動をとった。
プリンスの恋人であるシーラ・Eは、悲しい目に遭った。

クインシー・ジョーンズは、
「コーラスを先に録る。
ややこしいものから先に片づけていくよ」
といった。
これは全員で行う部分を最初に録って、帰ることができる人にはできるだけ早く帰宅してもらおうという配慮でもあった。
メンバーは、ひな壇の各持ち場にいき、ヘッドホンを装着。
「プレイバックが始まったらお仕事開始だよ。
OK?」
クインシー・ジョーンズの指示の後、曲の一部分の音楽が流れ、ひな壇のアーティストたちは歌い出した。
音楽が止まるとクインシー・ジョーンズは、
「いいぞ!
それじゃ本番だ」
こうしてまず参加者全員で大合唱。
指揮台に立ったクインシー・ジョーンズは、あまりに豪華な合唱にゾクゾクと背中に寒いものが走り、歌い終わると思わず拍手。
「とにかくあのコーラスのエネルギーはすごかった。
指揮をしてて鳥肌が立ってくるのを感じたよ
個人的損得を忘れたところから、あんなパワーが生まれるものなんだ・・・・」
(クインシー・ジョーンズ)
「みんな声もいいし、耳もいい。
センスが抜群なのね。
でもクインシーが最高。
初めて一緒に仕事したけど、さすがね。
楽しかったわ」」
(ベッド・ミドラー)
「1人1人がプロ中のプロさ。
みんなに会えてうれしいね」
(レイ・チャールズ)
完成した曲は、1本のよどみのない流れにように聞こえるが、レコーディングはジグソーパズルのようにパートごとに1つ1つ録られた。
必ずリハーサルを行ってから本番となり、もちろんやり直しになることもあった。

また録音の途中に意見が出て、歌詞の変更が行われることもあった。
その1つが
「 make a better day」
という歌詞の「better」が「brighter」の方がいいのではないかと議論が起こり、最終的に「brighter」に。
クインシー・ジョーンズは
「it`s true we make a brighter dayにしよう。
betterはやめてbrighterだ。
いいね、みんな」
と確認してから、
「カラオケなしで4回いくよ。
ワン、ツー、スリー、フォー」
とリズムを取り、アーティストたちはアカペラで、そのパートのレッスン。
こうしてリハーサルと本番、そして変更をはさみながら断続的に録音は進んでいった。

23時20分、予定されていなかった大御所、レイ・チャールズがコーラスに飛び入り参加。
すると合唱は一層盛り上がった。
「自分の前、自分の後ろ、そして隣、そのまた隣から聞こえてくる声に感激したわ。
目を閉じて声の主を確かめるの。
何度も振り返って声の主を確かめたいという衝動にかられたわ。
そして振り返ると、本当に本人がそこにいるの。
最高」
そういうダイアナ・ロスは、マイケル・ジャクソンとスティビー・ワンダーの手を取りながら歌った。
「力が集結したんだ。
夢のようさ。
ずっと前からやりたくて・・・
集まれば世界を変えられる奇跡の力が生まれるんだ」
(スティービー・ワンダー)

23時30分、コーラスのパート1の録音が終了。
アレンジャーのトム・ベイラーが
「まず高いキーでWe Are The World、We Are The Children・・・
それからAhが始まります。
Ah~~~Ah~~~~
OK?」
と説明。
すると各自、練習で歌い出し、シンディ・ローパーは集中するために後ろを向いて小さく口ずさみ、ケニー・ロギンスはジェフリー・オズボーンとディカッション。
クインシー・ジョーンズが
「低い声の人はちょっと休んでいてくれていいから」
というとヒューイ・ルイスやブルース・スプリングスティーンらは高いキーに恐れをなしてひな壇を離れ、アル・ジャロウに
「歌わなくてもいいから、こっちに一緒にいた方がいいよ」
といわれたが
「No、No、こっちで見学するよ」
その後、ひな壇は個人練習から合同練習に移行。
23時42分、
「よし、録っていこうか」
クインシー・ジョーンズにいい、本番スタート。
23時46分、コーラス、パート2の部分の録音が終わった。
拍手が起こり、小休止に入るとアーティストたちの抱き合い、時を惜しむように歓談を始めた。
ハリー・べラフォンテとクインシー・ジョーンズは笑顔で握手。
スティービー・ワンダーは、レイ・チャールズの指を電動点字タイプライターの使い方を教え、キム・カーンズ、ダイアナ・ロス、ポール・サイモンは、バンドエイドのレコード「Do They Know It's Christmas?(ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」を手に取って話し合った。

日付は変わり、1985年1月29日午前1時、
「さあ行こう」
クインシー・ジョーンズの声で再開。
スタジオに、これまで録ったプレイバックが流れるとレイ・チャールズは思わず顔をほころばせ、メンバーの多くも音楽に合わせて体を動かせた。
午前1時20分、スティービー・ワンダーが歌詞の変更を提案。
「アフリカに届けるんだから」
とコーラスの最後にスワヒリ語を入れたいっていい出した。
するとアーティストたちは、
「どんな言葉?」
「発音は?」
「ドイツ人に英語で歌うようなものよ」
などと意見をぶつけ合い始め、 マイケル・ジャクソンは、
「sha-lum(シャーラ) 」
「sha-lingayシャーリンゲイ)」
というアフリカの言葉っぽい歌詞を提案。
実際に歌うと
「We Are The World♪ 、 sha-lum(シャーラ) 、We Are The Children♪、sha-lingay(シャーリンゲイ)」
となるのだが、ボブ・ゲドルフは
「発音はなんとなくアフリカの言葉っぽいが本当のアフリカの言葉ではないから、アフリカの人たちにバカにしているととられる可能性がある」
と反対。
「エチオピア人はスワヒリ語をしゃべらないのでは?」
「間違ったら大恥だ!」
といわれ、スティービー・ワンダーはスタジオを出て、戻ってくると
「スワヒリ語を教えてもらった」
といって、
「willi( ウィリィ)」
「moing-gu(マンゴウ)」
という歌詞を提案。
(「We Are The World」をスワヒリ語にすると「sisi ni ulimwengu」となり、「ulimwengu」が「「willi moing-gu」」になったといわれている)
歌ってみると
「We Are The World♪ 、 willi( ウィリィ) 、We Are The Children♪、moing-gu(マンゴウ)」
となる。

これに対し、レイ・チャールズが
「何?
Will何だって?
Willi moing-guか。
クソッ、朝の1時だぜ。
スワヒリ語?
これ以上は英語でも歌えないよ」
ウェイロン・ジェニングスも、
「俺はカントリーの男だ。
そんな言葉で歌えるか」
と怒鳴った。
「部屋の空気は、もう最悪さ。
そもそもモメたのも緊張のせいだ。
スターが多すぎて,ピリピリしてた。
ギスギスした感じに耐えられなくなったんだろう、急にマイケル・ジャクソンがいなくなってね。
探したらトイレの個室で丸くなってたよ。
この先レコーディングを続けられるかな、ヤバイいなと思った
(ケン・クレイガン)
シンディー・ローパー、ポール・サイモン、アル・ジャロウは、周囲を説いて回り、ティナ・ターナーはウンザリした様子で目を閉じ、
「sha-lumの方がいいわ。
誰が意味なんか気にするの?」
30分間の話し合いの末、
「one world(ワン、ワールド)」
「our children(アワ、チルドレン)」
が採用され、
「We Are The World♪ 、 one world(ワン、ワールド)、We Are The Children♪、our children(アワ、チルドレン)」
となり終了。
レイ・チャールズは
「決めてくれて、ありがとよ。
これ以上歌詞が変わったら、もうわかんなくなる。
トシだからね」
といって笑った。
ウェイロン・ジェニングスは、すでにスタジオにいなかった。

午前1時50分、力強い声でコーラスが再開。
午前2時、作業が始まって4時間後、「コーラス」部分のレコーディングが終了。
そのとき突然、最前列で歌っていた2人の大御所、スモーキー・ロビンソンとレイ・チャールズががアカペラで歌い出した。
「♪Day, me say day, me say day, me say day, me say day-ay-ay-o♪」
それはひな壇の最上段で歌っていたハリー・ベラフォンテのヒット曲「バナナ・ボート(Banana Boat Day-O )」
「We Are The World」の発起人であるハリー・ベラフォンテへのプレゼントソングだった。
笑い声と拍手が起こり、さらに1人の大御所、ボブ・ディランも歌い出す。
すると次々と歌い出し、やがて全員歌い出し、
「Day-o(デイ・オー)」
というかけ声やアル・ジャロウやスティービー・ワンダーのソロもバッチリ決まり、全員がノリノリで歌い、ハリー・ベラフォンテも驚くほどの完成度で「バナナ・ボート」が終了すると歓声と拍手が起こった。
「ボブ・ディランもマイケル・ジャクソンもブルース・スプリングスティーンも私からみればかわいい坊主たちさ。
みんなのリスペクトを感じて本当にうれしかった。
言葉よりも歌を聴く方がよくわかる。
アーティストっていうのは、正直モメることが多い。
でもそれは表現のために必死だからだ。
そして多少モメても,すぐにまとまることができる。
それが一流のアーティストってやつだ。
いいものだろ?」
(ハリー・ベラフォンテ)
「ベラフォンテへの尊敬の思いが、みんなを本当に1つにした。
ホッとしたよ
これでイケるって」
(ケン・クレイガン)

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