最高のアルバムジャケット
レコード、CDから主流が音楽配信サービスになったことで、ロックの魅力のひとつが残念ながら失われてしまいました。そう、アルバムジャケットです。ジャケ買いという言葉があるほどに、アルバムジャケットの魅力は大きなものでした。
しかし、近年になってレコードが人気となっていて理由のひとつにレコードジャケットの魅力が挙げられていといいます。レコードは聴かずにジャケットを飾りたいがために購入するという若者も増えているとも聞きます。素晴らし!いいことです。レコードジャケットは美しいですからねぇ。
では、最も素晴らしいアルバムジャケットは何なのか?これは難しい。個人差がおおきいですからね。が、最高のアルバムジャケットを手に入れたいと思っている方のために、米ローリング・ストーン誌が発表した「史上最高のアルバムジャケット100」から上位10枚をご紹介します。
10位 Nirvana, ‘Nevermind’ 1991
10位から順に発表していきます。第10位はニルヴァーナのセカンドアルバム「ネヴァーマインド」です!
いきなりですが、「ちょっと待て」と思った方が多いのではないでしょうか?!ニルヴァーナは最高だ。「ネヴァーマインド」は名盤中の名盤であることに異存はない。でもなぁ、このジャケットはなぁと思われる方の気持ちは分からないでもない。
が、印象的なアルバムジャケットであることに間違いはありませんし、好きな方が多いのも事実!ということで堂々の第10位です。
カート・コバーン(Vo、G)が当初考えていたアルバムジャケットのイメージは水中出産だったそうです。が、生々しすぎると判断されたため、急遽その場しのぎのフォトセッションが行われた結果このようなジャケットに落ち着いたのだとか。
モデルは生後4ヶ月だったスペンサー・エルデン君。カメラマンはカーク・ウェドルです。

Nirvana, ‘Nevermind’
このジャケット写真が問題になるかもしれないと思ったカート・コバーンは、アルバムジャケットに 「これで気分を害するなら、あなたは小児性愛者に違いない 」と書かれたステッカーを貼ることを提案していたのだとか。
結果、ステッカーを張らなかったからなのか何なのか、カート・コバーンの心配は的中し、多くのリスナーからは容認されたものの、後年モデルを務めたスペンサー・エルデン君から訴えられてしまいました。
この件に関して多くのニルヴァーナ・ファンがそうであるように、デイヴ・グロール(Ds)も馬鹿げていると感じているようで、「彼はネヴァーマインドのタトゥーを入れている。俺にはない」という名言を残しています。
9位 Cyndi Lauper, ‘She’s So Unusual’ 1983
シンディ・ローパーのファースト・アルバムが9位です。シングル「ハイ・スクールはダンステリア」に名曲「タイム・アフター・タイム」を収録したこのアルバムは、内容、ジャケット共に素晴らしい出来栄えです。
ジャケットはデザインというよりも、写真がいいですね!
カメラマンはローリング・ストーン誌のアニー・リーブヴォイツが担当しています。

Cyndi Lauper, ‘She’s So Unusual’
シンディ・ローパーが着ている印象的な原色の衣装は自身のアイデアだそうです。
なんと言ってもシンディ・ローパーは古着屋で働いていたので、そこで見つけた服やアクセサリーを丹念にコーディネートし、この独創的なファッションを作り上げたのです。
このジャケットは、エネルギッシュでありながら美しく構成され、シンガーの折衷的で自由な精神を完璧に抽出していると評され、グラミー賞では、最優秀アルバム・パッケージ賞を受賞しています。
因みに、カメラマンからスカートを上げてスリップを見せるようにと提案したとき、シンディ・ローパーは当初「私は強いダンス・アートがしたい」といって反対したそうです。
8位 The Clash, ‘London Calling’ 1979
セックス・ピストルズ、ダムドと並ぶ著名なイギリスのパンク・バンド、ザ・クラッシュ。彼らの代表作にして名盤の誉れ高いサード・アルバム「ロンドン・コーリング」が第8位です。
ザ・クラッシュといえば、ジョー・ストラマー(Vo/G)とミック・ジョーンズ(G)のソングライティングコンビの印象が強いわけですが、ジャケットに写っているのはベーシストのポール・シムノンです。
撮影されたのは、1979年9月21日にニューヨークのパラディウムで行なわれたライヴで、カメラマンはペニー・スミスです。
が、この写真はピンボケぎみということでペニー・スミスは失敗作と考えていたそうです。ピンボケ、それゆえに臨場感があって素晴らしいジャケットとなっています。
因みに、この写真は2002年にQによって「古今東西で最高のパンク・ロック写真」に選出されています。まぁ納得ですよね。

The Clash, ‘London Calling’
印象的でいいジャケットですが、デザイン自体はエルヴィス・プレスリーの1956年のデビュー・アルバムのオマージュというか、まるパクリです。
だからといって、このアルバムの価値が落ちることはありません。ここは、エルビスとザ・クラッシュのアルバムを並べて部屋に飾るのが正しい愛で方だと思います!
因みにポール・シムノンは後年インタビューで「このアルバムがこんなに有名になるんだったら、もう少し顔が見えるようにしとけばよかった」と語っていました(笑)。
7位 Funkadelic, ‘Maggot Brain’ 1971
このランキングの中で日本人が最も理解しにくいのが、このアルバムではないでしょうか?!ファンカデリックのサード・アルバム「マゴット・ブレイン」。
彼らの最高傑作とも名盤とも言われている非常に評価の高いアルバムです。が、サウンドともどもこのアルバムジャケットは多くの日本人には受け入れられにくいのではないかと思われます。理解できないといってもいいかもしれません。
私が最初にこのジャケットを見たのは中学生の時でした。その時、不覚にも写真の男は笑っていると思ったものです。が、アルバムタイトルが「うじ虫の脳」であり俗語では「軽蔑すべき野郎」ということを知るに及んで、これはただ事ではないと感じました。
考えてみれば埋められて笑うはずもないですし、写真のモデルは男ではなく女だと知った時には狼狽したものです。

Funkadelic, ‘Maggot Brain’
写真は「エッセンス」創刊号の表紙を飾り、歴史に名を刻んだモデルのバーバラ・チーズボローです。
カメラマンはヴァン・モリソンの「Astral Weeks」、ドアーズの「The Soft Parade」、アレサ・フランクリンの「Let Me in Your Life」やオハイオ・プレイヤーズの一連のセクシーなジャケット写真などで60年代に大活躍したジョエル・ブロツキー。
今回改めてこのアルバムを聴き返してみると、これがまぁカッコイイ!日本では知る人ぞ知る存在といったファンカデリックであり「マゴット・ブレイン」であると思いますが、これはファンだけに独占させておくにはもったいない。まさしく名盤です。そして、その名盤に相応しいアルバムジャケット…かどうかはいまだに良く分からない。
只、アルバムの内容をよく表しており、インパクトという意味では、これ以上ないほどの迫力があるジャケットです。
6位 Patti Smith, ‘Horses’ 1975
天才の名をほしいままに若くしてこの世を去った写真家のロバート・メイプルソープ。カメラマンというよりも写真家と言った方がしっくりくる。彼は商業カメラマンではなく、芸術家だったからですね。
パティ・スミスとは共に売れない時代に同棲していたという間柄。
2人の出会いから約10年後の1975年にリリースされた記念すべきパティ・スミスのデビューアルバム「ホーセス」のジャケットはロバート・メイプルソープが撮っており、愛ある1枚、愛あるアルバムジャケットとなっています。

Patti Smith, ‘Horses’
ロバート・メイプルソープらしい色調のポートレート、最高のアルバムジャケットで、第6位の名に恥じない出来栄えです。
パティ・スミスによるとロバート・メイプルソープは12回ほどシャッターをきって8回目くらいに「これだ」と言ったのだとか。
パティ・スミスが「どうしてわかるの?」と問うと、ロバート・メイプルソープは「ただわかるんだ」と答えたという。
今と違ってフィルムカメラの時代ですからねぇ。天才というものには分かるんでしょうけど、凡人としては神がかっていると思うだけです。
レコードの重役たちは、モノクロ写真のジャケットが当時の女性シンガーたちとは違いすぎるということで、アートワークを変えようとしたのだそうです。しかし、パティ・スミスが押し切ったことでロバート・メイプルソープが世に出るきっかけを作り、結果としてこの名盤に花を添えることになったというわけです。
5位 The Notorious B.I.G., ‘Ready to Die’ 1994
アメリカのヒップホップ・ミュージシャン、ノトーリアス・B.I.G.のファースト・アルバム「レディ・トゥ・ダイ」が第5位です。
ヒップホップが好きな方であれば言わずもがなの大名盤。2020年版の「ローリング・ストーン誌が選んだオールタイム・ベスト・アルバム500」では堂々の22位となっています。まさしく歴史的名盤といって良いでしょう。

The Notorious B.I.G., ‘Ready to Die’
で、アルバムジャケットですが、シンプルなデザインが実に印象的。デザインを担当したのは伝説的なヒップホップ・グラフィックデザイナー、セイ・アダムスです。
セイ・アダムス曰く「このタイトルはとても不条理なものだったので、こんな巨大なブロック文字を使う必要はなかった」。
更には「とても繊細なものにしようと思った」とも語っています。
これらの発言の真意は分かりませんが、実際のデザインとは逆の考えを持っていたことが興味深いですね。
因みにモデルはブロンクスの子供で、モデル・エージェンシーから選ばれたのだそうですよ。
4位 Pink Floyd, ‘The Dark Side of the Moon’ 1973
イギリスにヒプノシスという1968年から1983年まで活動したデザイン・アートグループがありました。
70年代にはレッド・ツェッペリン、T・レックス、ウイングス、AC/DC、ウィッシュボーン・アッシュ、エマーソン・レイク・アンド・パーマー、ジェネシスなどなど本当に多くのミュージシャンたちのアルバムジャケットをデザインして世界中から称賛されました。
中でもピンクフロイドのほとんどのアルバムジャケットをデザインした事は有名で、どれも素晴らしい出来栄えです。
今回のランキングでは彼らの9枚目のアルバム「狂気」が第4位に選ばれています。

Pink Floyd, ‘The Dark Side of the Moon’
リチャード・ライト(Vo/Key)は、ヒプノシスに「本当にスタイリッシュで、特異なイメージ、チョコレートの箱のようなもの」を望んでいたと語っています。
で、ヒプノシスからの最初の提案はマーベルのシルバー・サーファーだったそうです。
ピンク・フロイドはその案を直ちに却下。これはもうナイス判断だったといえますが、シルバー・サーファーのジャケットも見てみたいなと思いますね。
その後、ヒプノシスのオーブリー・パウエルが、ガラスのペーパーウェイトが部屋中に虹を広げている画像を見つけ、このイメージを発展させて70年代を代表する魅力的なイメージを作り上げたというわけです。
3位 Sly and the Family Stone, ‘There’s a Riot Goin’ On’ 1971
もしかするとスライ&ザ・ファミリー・ストーンも日本人には馴染みが薄いバンドかもしれませんね。60年代の後半から70年代前半にかけてヒット曲を連発したグループです。当時は日本でも人気があったんですけどね。
ヒット曲を連発しただけではなく、音楽界に革命を起こしたバンドです。まぁ、とにかく偉大です。
そんな彼らが1971年にリリースした6枚目のアルバム「暴動」が第3位です。

Sly and the Family Stone, ‘There’s a Riot Goin’ On’
星のかわりに太陽を配した赤・白・黒からなる星条旗にアーティスト名もアルバムタイトルも記載されていないという印象的なアルバムジャケット。
バンドの中心人物であるスライ・ストーン(Vo/G/Key)は、あらゆる人々を象徴するものであってほしいとの思いからジャケットにアメリカ国旗を用いたそうです。
「黒は色のない色だから。白はすべての色の組み合わせだから。そして赤は、すべての人に共通する血というものを表している」ということで様々な人種を象徴しているというわけなんですね。
写真を撮ったのはファミリー・ストーンのA&Rディレクターのスティーヴ・ペリーです。本作「暴動」は、今日ではロック史において最も優れ、最も誠実な作品の一つとして認められています。
2位 The Beatles, ‘Abbey Road’ 1969
世界でもっとも有名なバンド、ザ・ビートルズ。彼らのアルバムはどれも名盤で、どのアルバムジャケットもよく知られていると思いますが、そんな中「アビー・ロード」が第2位です。
よく知られたジャケットですが、撮影したのはイアン・マクミランで、1969年8月8日午前11時35分頃に10分間で6枚(3往復分)撮影されたそうです。僅か6枚。採用された写真は5枚目ということですが、僅か6枚でよくぞこれほど完璧な写真が撮れたものですよねぇ。
そして、さすがビートルズだなぁと思うのは、こんな細かい記録が残ってるということに驚かされます。

The Beatles, ‘Abbey Road’
レコーディング・スタジオの目の前の通りをただ歩いているだけという、何ともシンプルなジャケットですが、実は楽しい仕掛けが施されているんです。
このアルバムがリリースされた際にポール・マッカートニー(Vo/B)の死亡説が出たんです。
ジャケット写真において、右から順に白いスーツのジョンは「牧師」、黒いスーツのリンゴは「葬儀屋」、裸足のポールは「死人」で、デニム姿のジョージが「墓堀人」というわけです。偶然かもしれませんが、ポールは1人だけ目をつぶるという細かい演技もしています。
更には左側に停まっている白いフォルクスワーゲンのナンバープレートが「28IF」となっており、それは「もし(IF)ポールが生きていれば28歳だった」ということを表しているというわけです。
写真のフォルクスワーゲン・タイプ1の愛称はビートルですしね。よく出来てますよねぇ。
今やというか、今でもアビイ・ロードは多くのファンが訪れイギリスで最も有名な通りとして、観光地になっています。
1位 Joy Division, ‘Unknown Pleasures’ 1979
さぁ、いよいよ第1位です。
ジョイ・ディヴィジョンのデビュー・アルバム「アンノウン・プレジャーズ」が栄えあるローリング・ストーン誌が発表した「史上最高のアルバムジャケット100」の第1位に選ばれました!
ジョイ・ディヴィジョンもまた日本では知る人ぞ知る存在だと思いますが、ところがどっこい、このデビュー・アルバムに限っては、聴いた事はなくともアルバムジャケットは知っているという方は少なくないのではないでしょうか?
ユニクロのTシャツになっていたりもして、結構いろんなところで見かけます。まぁ、それほど素晴らしいデザインという事ですね。

Joy Division, ‘Unknown Pleasures’
バンドのバーナード・サムナー(G)が「ケンブリッジ天文学百科事典」の中から、この山と谷のアートワークを見つけてきたのだそうです。
この画像は正式名称をCP1919といってパルサーを図式化したものです。それをデザイナーのピーター・サヴィルが黒地に白の配色を反転させ出来上がったということです。う~ん、ピーター・サヴィル流石ですね!
如何でしたか?
どのアルバムジャケットが最高か?この答えはどこまでいっても出ませんよね。どうしたって好みは千差万別ですから。
只、アルバムジャケットが素晴らしいものは、内容も素晴らしいと言えそうです。