第2次UWF崩壊 弾け散ったパワー・オブ・ドリーム

第2次UWF崩壊 弾け散ったパワー・オブ・ドリーム

1984年4月11日に旗揚げした第1次UWFは、様々な事件と前田日明と佐山聡のケンカマッチを経て1年半で崩壊。屈辱の新日本プロレス出戻り生活も前田日明が暴れまくったため2年半で終了。再旗揚げした第2次UWFは、社会現象といわれるほど若者を熱狂させながら、2年7ヵ月の活動にピリオドを打った。


6日後の12月7日、神新二社長は、

・UWFの全選手の解雇
・自らの業界からの撤退

を発表。
解雇された選手たちは前田日明の家に集合。
前田は
「WOWWOWがついてるし、横浜に新しい道場も用意した。
とりあえず俺が代表じゃないけど決めていくからな」
といい、全選手の1ヵ月分の給料を自腹で払った。
12月10日、UWF選手会は記者会見を開き、

・新会社の設立
・翌年3月の旗揚げ戦を目指す
・WOWOWと年間5億円で契約する

と発表。

約1ヵ月の1991年1月4日、前田日明は渋谷道玄坂の雀荘に全選手を集めた。
しかし藤原喜明と中野龍雄は来なかった。
藤原は、すでにSWSを立ち上げていたメガネスーパーから誘いを受け、返事保留中。
中野は、神社長に悪い印象を持っておらず、また人間関係や背景から第3次UWFは決裂すると見越して出席しなかった。
神社長は、中野や安生洋二をはじめとした若手から慕われていて、田村潔司も
「人格者」
と思っていた。
前田日明は、集まったメンバーに美空ひばり事務所の経理主任をしていた相羽芳樹、そして米谷明をスタッフとして雇ったことを伝えた。
選手会副会長の船木誠勝は
(この人たちで大丈夫なのかな)
と思いながらが黙っていたが、同じ副会長の宮戸優光は、結束を呼びかける前田に対し人事を独断で決めたことに異を唱えた。
「一致団結していない」
と思った前田日明は、3日後に自分のマンションに再招集をかけ
「前回、俺の決めたことに不服そうなヤツガいた。
これからやっていくにあたって俺を信じてくれなきゃ困る。
全部俺が連れてきた人だし、俺のことを信じてやってくれないとすごくやりづらい。
1人でも信じないなら、俺はやらない」
といった。
鈴木みのるはすぐに
「自分は信じます」
といったが、宮戸優光は
「無理やり上からいわれて、はい、やりますとはいえません」
安生洋二も
「自分も同じ意見です」
と続いた。
「俺のことが信用できないのか?
さっきいったけど1人でも信じてくれないならやっていけないんだよ」
前田はいったが
「信用するか、信用しないかっていっても、そんなのわかりませんよ」
「前田さんのいうことだけを一方的に信用するのは不可能です」
「今日はいわせてもらいますけど、前田さんは僕らを単なる下っぱだと思ってるでしょ」
「なんか強制されてるみたいで嫌だなぁ」
と宮戸優光や安生洋二は態度を変えない。

前田は
「わかった。
じゃあ解散だ」
といった。
「そんな、ないっスよ」
鈴木みのるは食い下がったが、前田に
「いや、できない」
といわれると泣き始めた。
宮戸優光と安生洋二は、すぐに帰り、その後、一緒にロイヤルホストで食事をした。
高田延彦、山崎一夫、船木誠勝、田村潔司らは残り、
「前田さん、これだけでやりませんか」
と訴えたが前田の返事は同じだった。
帰りのエレベーターで船木は
「俺たちだけでやりませんか。
1回やったら、たぶん前田さん、来てくれますよ」
といったが、高田は
「前田さんがやらないっていうんだから無理だよ」
といった。
実はこのとき前田は本当に解散する気ではなかった。
「こういえば反省して向こうから頭を下げにくるだろう」
「1週間ぐらい頭冷やしたらみんな来るだろう」
と思っていた。
しかしその後、1週間、知らないうちに想定外のことが起こった。

宮戸と安生は、船木をエースにして若手だけで団体をつくろうと、前田、高田、山崎、藤原喜明以外の全員で安生の家に集まり
「前田さんは話にならない。
このメンバーでやりましょう」
といった。
船木は
「前田さんも高田さんもやらないっていうし、これしかないのかな」
と思っていたが、
「藤原(喜明)さんが呼んでるから明日来い」
とUWFのレフリーをしていたミスター空中に電話でいわれた。
藤原に呼ばれたのは、船木と鈴木。
2人が経緯を説明すると、藤原は
「わかった。
集まってる若手、全員連れてこい。
メガネスーパーの社長が資金を出す」
といった。
船木に誘われた宮戸は
「藤原さんがいると絶対好きなことできない。
こっちでみんなでやれば新しいことができる」
と拒否。
船木と鈴木は藤原と一緒にやることを決めた。
その後、安生と宮戸は高田延彦にコンタクト。
高田はそれを受け入れ、山崎一夫と中野龍雄、そしてUWFで自分のファンクラブの会長をしていた鈴木健をスタッフとして誘った。
彼らは「UWFインターナショナル」、通称「Uインター」を興した。
それは「プロレス+異種格闘技戦」というスタイルで「最強」を追求するプロレス団体。
藤原喜明、船木誠勝、鈴木みのるは、メガネスーパーをスポンサーに「プロフェッショナルレスリング藤原組」を設立。
カール・ゴッチのリアルワンスタイルで強くて怖いプロレス団体を目指した。
こうして第2次UWFは、1991年1月に完全に解散。
2年7ヵ月の活動にピリオドを打った。

1人ぼっちになった前田日明は、 本当に部屋に引きこもってしまった。
「何でこうなったんかな?」
そんなことを考えているうちに朝になって昼になって夜になって、それを繰り返しているうちに
「考えてもしゃーない。
とりあえず体を動かそう」
とトレーニングを開始。
当時、開局間近だったWOWOWは、UWFの解散を受け、改めてネームバリューのある前田をバックアップすることを決定。
1991年5月、前田は、格闘技団体「ファイティング・ネットワーク・リングス」を所属選手、自分1人という異常事態のまま設立。
「いろいろな競技場から選手がやってくる。
競技場はリングだろうと。
それが集まってきて、複数形でリングスです。
リングは「輪」にもつながる。
日本的でもあるし、いいんじゃないかということで決めました。
リングスのマークは「人種」を表しています。
白人、黒人、黄色人種。
いろいろな人種が世界中から集まってきて戦う。
当時、コンピューターの専門誌を見ていると、「ネットワーク」って言葉が出てきました。
そこから単純に「ファイティングネットワーク」でどうかと。
どっちみち所属する日本人は俺1人。
外から選手を引っ張るしかなかった。
だから「ネットワーク」っていう理念を前面に打ち出した。
どんな奴が来るのかわからないってコンセプトでやることにしたんです」
すでにUWFへの協力の約束を交わし、お金も送っていたクリス・ドールマンに連絡。
用心棒を派遣する仕事をしていたドールマンの道場には、ディック・フライ、ヘルマン・レンティング、ハンス・ナイマン、ウィリー・ピータースなど強くてヤンチャな選手が揃っていた。
彼らは放っておくと犯罪に走ったり、事件に巻き込まれたりするが、実は真面目で純粋。
格闘技を一生懸命することで人生を素晴らしいものに変えた男たちだった。
彼ら、リングス・オランダの面々の参戦を得て「リングス」は始動。
キャッチコピーは
「世界最強の男はリングスが決める」
前田はUWFの道場にあったリングを持ってこようと思ったが、すでにUインターに取られていた。

一方、神新二社長、鈴木浩充専務は、
「プロレスとは違うイベントを主催しよう」
と「株式会社スペースプレゼンツ」という会社を設立。
当初、セミナーや勉強会を行い、その本の出版、販売を行っていたが、UWFで「密航ツアー」を担当していた人が旅行代理店から独立したのを知ると
「一緒にやろう」
と誘い、旅行関係の仕事もすることになり、ツアーコンダクターとして国内外に飛ぶこともあった。
ある日、会社の顧問の知り合いから、
「福島に神のお告げで水を掘り当てた、こけし工芸屋さんがいる」
という情報を得ると現地にいってみた。
こけし工芸店の奥さんが
「夢でみた」
という場所を掘ったが水は出ない。
地元の水道局に聞くと
「水源があるわけがない」
といわれた。
しかしこけし工芸店の奥さんが
「絶対水は出る」
というので別の場所を掘ると、本当に水が噴き出してきた。
水を近隣の住民の人に無料で配ったところ
「病気が治った」
「健康にいい」
などと評判になり、地元のTV局が取材に来て、さらに評判を聞きつけた人々が水を求めて集まってきた。
それをみて神新二社長は、この水を
「御神水」
と名づけて販売しようとした。
湧き水を製品化するために機械を購入し、ペットボトルを大量発注し、倉庫を借りた。
莫大な経費をかけた結果、できた製品はペットボトル1本、1500円。
高すぎてまったく売れないまま、水は出続け、商品を作り続け、新しい倉庫を借りた。
神社長は
「とにかく水を売れ」
と厳命し、社員総出で宣伝したが、まったく売れず、1991年冬、すべて手放した。
この後、神新二、鈴木浩充は別々の道を歩み始めた。

1999年2月21日、前田日明が引退時試合を行ったが、鈴木浩充 は会場にいって神新二に託された詫び状を渡した。
前田は過去のことして水に流した。

Amazon.co.jp: ありがとうU.W.F. 母さちに贈る : 鈴木 浩充: Japanese Books

さらに19年後の2018年7月10日、鈴木浩充は、「ありがとうU.W.F. 母さちに贈る」を自費出版、Amazon限定で販売。
鈴木浩充は、営業や経理を担当しマッチメイクにはタッチしておらず、営業の過酷さ、団体を支える裏方の苦労、団体崩壊寸前のきな臭い雰囲気などを克明に記した。

同時期(2018年7月)、神新二は、奈良県桜井市に「NEW VISION アカデミー」を開校。
これは2016年11月に大阪につくった一般社団法人「NEW VISION」 が移転したもの。
神はUWF関連の取材のオファーが多く受けたが、全て断り、公には何も語っていないが、会社のHPには、UWFへの想いを語ることもあった。
それを読むと、恐らく前田日明への恨み言と思われる部分もあるが、UWFがいかに純粋な男たちの純粋な夢の結晶だったことがわかる。
まさに前田日明の著書名「パワー・オブ・ドリーム」 だった。

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