尾道
広島県尾道市。岡山市と広島市のほぼ中間にあり、瀬戸内海に面した人口13万人ほどの街です。平地が少なく山肌に住宅や寺が密集していることから「坂の街」、林芙美子や志賀直哉などが居を構えたことから「文学の街」と呼ばれています。

尾道市
そしてもうひとつ、小津安二郎監督の名作「東京物語」が尾道で撮影されたことなどなから「映画の街」としても有名です。
「映画の街」尾道。その名前を全国に知らしめたのは、小津安二郎よりも大林宣彦監督かもしれません。大林監督の生まれ故郷である尾道市を舞台にして制作された3本の映画、いわゆる「尾道三部作」は大ヒットし、尾道は一気に全国区となりました。
尾道を舞台としたいずれも名作の「尾道三部作」をご紹介します!
転校生
シリーズ1作目は、1982年に公開された「転校生」です。大林監督にとって6本目となるこの作品で一気に尾道の認知度が高まりました。
主演は小林聡美と尾美としのり。ともに新人でした。

転校生
男女の心が突然入れ替わるという設定は今では珍しくなくなりましたが、当時はとても新鮮で新人の2人が実に上手く演じています。演技は難しかったろうと思いますねぇ。
思春期の男女が入れ替わったことで、性的なことも含め相手を理解し成長していくという姿が描かれています。当然すったもんだがあるわけですが、ラストシーンでの最後には相手のことが好きになり感傷的になる男の子に対して、今までの事はケロリと忘れてしまったかのようにスキップをしながら去っていく女の子の対比がなんともシビアなんですよねぇ。
転校生ーロケ地
故郷の尾道を多くの人に知ってもらおうとして尾道ロケを敢行したのですが、映画には一般的な観光名所や近代的な町並みではなく、古くからある民家、ひび割れた瓦屋根や崩れ落ちそうな土壁、そしてさびしげな路地裏などで占められています。
このため、当初地元からは観光客が来なくなると非難の声が出たのだとか。でも、そうした昔ながらの飾らない街並みが人の心を捉えたんです。
階段を転がり落ちたことで2人が入れ替わるのですが、その有名な階段があるのは御袖天満宮です。今ではりっぱな観光名所となっています。
時をかける少女
尾道三部作の二作目となるのが1983年7月16日に公開された原田知世主演の「時をかける少女」です。主役の原田知世は当時まだ駆け出しで、本作が初主演作品となります。「転校生」同様に大林監督は新人を使うのが上手ですね。

時をかける少女
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CMディレクターとしての経験が活きているということなのか、トリッキーといいますか、華麗なといいますか、大林監督の特徴ある映像美を本作でも楽しむことが出来ます。特に冒頭のモノクロからカラーに変わっていくところは素晴らしいです!
この映画は何と言っても筒井康隆の原作が素晴らしいんですね。何度もドラマ化されているのも納得です。そして大林版「時をかける少女」の魅力と言えば何と言っても原田知世。そして、尾道です。舞台を尾道にしたところが素晴らしく、豊かな作品となった秘密のように思います。
時をかける少女ーロケ地
ロケは尾道以外にも同じく広島県の竹原市でも行われています。幻想的ともいえる古い町並みが映画の特徴となっており、また原田知世をより引き立たせています。
大林監督は尾道で映画を撮るつもりはなかったのだそうです。しかし、プロデューサーの角川春樹からの強い要請があったため、「転校生」では尾道の海と明るさを撮ったので、山と暗さだけを撮ろうと決めたのだとか。結果、大正ロマンとも言えそうな素晴らしい映像となったのです。
さびしんぼう
全編にショパンの「別れの曲」が流れる尾道三部作のラスト、「さびしんぼう」。1985年4月に公開されました。主演は富田靖子です。富田靖子は三本目の映画主演作となりますが、最初の「アイコ十六歳」をプロデュースしていたのが大林監督なんですね。デビュー当時から目を付けていたとは流石です!

さびしんぼう
尾美としのり演じる高校生のヒロキと、富田靖子演じる“さびしんぼう”と名乗る少女との淡く切ない恋物語で、尾道三部作の中でロマンチシズムが一番強い作品となっています。
切ない。いや、切なすぎる。公開時に黒澤明監督が絶賛し、自らのスタッフに「さびしんぼう」を観るよう薦めたという逸話が残っています。
さびしんぼうーロケ地
主人公が通う学校(尾道北高等学校、日比崎中学校)や主人公の家(西願寺)をはじめ尾道の風景はやはり今作でも魅力的です。中でも印象深いのは、尾美としのりと富田靖子が自転車を押して歩いた坂道かもしれませんね。場所は尾道市向島町津部田だそうですよ。あ、坂道と言えばもうひとつ。みかん畑の中の坂道も良い感じでした。
尾道は本当に魅力的な街ですね。大林監督が撮ったからこそ魅力的に捉えられていると思いますが、同時に尾道の街が大林監督の作品を魅力的なものにしてもいます。
幸せな関係ですよねぇ。