ジミー大西  お笑いモンスターの覚醒  明石家さんまと岡本太郎に見出された天才芸人&画伯

ジミー大西  お笑いモンスターの覚醒  明石家さんまと岡本太郎に見出された天才芸人&画伯

絶対に期待を裏切らないお笑い芸人。明石家さんまに見出され「ジミー大西」となり、岡本太郎に「はみ出せ」といわれ、爆発的な笑いと癒しを与えてくれる唯一無二の存在になった。


大西秀明は、なんば花月の裏方の仕事から、新喜劇、ザ・ぼんちのおさむの弟子を経て、21歳にして明石家さんまの専属運転手として大阪から東京に移った。
東京ではちょうどアメリカから
「人間に1番近い」
という猿がきていて、その名前が「ジミー」
それを知った明石家さんまは
「お前、今日からジミーな」
と命名。
いわく
「人間や思たら腹立つけど、かしこいゴリラや思たら腹立たへん」
という。

まだ運転免許を持っていなかったジミー大西は、明石家さんまに
「2週間で免許が取れる合宿制の自動車教習所があるから行ってこい」
といわれ、合宿制の自動車教習所に通った。
実技は問題なかったが、筆記試験が通らず、落ちる度に明石家さんまにお金を送ってもらった。
結局、半年がかりで免許を取得し
「車がもう1台買えたわ」
といわれた。
運転手としての給料は月30万円。
ご飯もほとんどさんまにおごってもらいながら、さんまさんの事務所で寝泊り。
さんまに
「7時に起こしてくれよ」
と目覚まし係を仰せつかったジミー大西だったが、一緒に寝てしまい、起きると時刻はすでに8時。
あわてて部屋の時計を5時にした。
その後、大阪駅に移動したとき、気づかれて怒られた。

運転手としても、道を間違えたり車をぶつけたり失敗を連続させた。
料金所で窓を開けるのを忘れ、手を思いきりぶつけ骨折。
左右に揺れるワイパーをみて催眠術にかかってウトウトしてしまい、ブレーキをふんだまま寝ているところを、さんまにピコピコハンマーで叩かれたこともあった。
ワイパーに関しては、強い雨で激しく動いているときは問題ないが、普通の雨のときのワイパーの動きが危ないという。
「まだ着かへんのか?」
さんまに聞かれ、ジミー大西は
「渋滞なんです」
と答えたが、車は運転席に誰も乗っていない駐車中の車の後ろで停まっていた。
明石家さんまが運転してバック駐車していたとき、ジミー大西が
「オーライオーライ」
といい続けたため、バックし続けると車は衝突。
それでもなぜかジミー大西は
「オーライオーライ」
といい続けていた。

ドラマ「男女7人夏物語」に主演することが決定したさんまは、初顔合わせの日、ジミー大西の運転で遅刻。
そして
「今井良介役の明石家さんまさんです」
と紹介された後、隣に座っていた神埼桃子役の大竹しのぶに話しかけられた。
「ねえ、サンマって芸名、気に入ってるの?」
「気に入るも何も・・」
「イワシじゃイヤだったの?」
「・・・・師匠がつけてくれたんで」
「あ、そうなんだ。
師匠、魚が好きなんだ」
「・・いや」
「明石家サバでもよかったかも」

同時期、ジミー大西は、憧れの早見優に会うことができたが、緊張で
「ウウゥ」
と唸ってしまい
「こわーい」
といって逃げられてしまった。  
それでも
「俺、この人のお尻の穴なめれるわ」
と思ったという。

吉本はジミー大西を東京のTV局に売り込んだ。
「さんまの番組にこのジミー大西をつかってくれまへんか?」
「何です、コレ」
「さんまの運転手です」
「ウチはさんまさんだけで結構です」
「いや吉本ではニコイチいいまして、2人で1人、パッケージになってますねん」
「使い物になるんですか?」
「なるかならんかはフジテレビさんの裁量ですがな」
プロデューサはしぶしぶ承知。
多くの人が
(売れるわけがない)
と思ったが、

「ジミー頑張れよ」
(さんま)
「お前も頑張れよ」
(ジミー大西)
「ハイ!」
(さんま)

「ジミーちゃんやってる?」
(さんま)
「やってる、やってるぅ」
(ジミー大西)

さんまに股間を触られ
「ふるさとー」
「エクスタシー」

などというギャグ。
そして予測不能のボケっぷりでジミー大西は大ブレイク。

ビートたけしはさんまのフリに確実にギャグで返すジミーを
「パブロフの犬の様な条件反射はすごい!」
と評価。
萩本欽一も
「このボケが意図的であればチャップリン以来の天才喜劇役者だ」
といい、自分の番組に出演させた上で1対1で面談。
面談後、
「天然だったね」
と残念そうにいった。
(これが「天然ボケ」という言葉の由来になったといわれている)

こうして瞬く間に 超売れっ子になったジミー大西は、豪遊し始めた。
月~金曜日は競艇。
土日は競馬。
そして風俗店に通った。
結果、月に数百万、年間で数千万円の収入がありながら、1千万円以上の借金をつくり
「すいません。
借金があるんです」
と会社に泣きついた。
吉本は
「わかった。
さんまさんに聞いてみてOKやったら貸したるわ」
といい、ジミー大西はさんまを保証人にして吉本から金を貸り、ギャンブルは卒業した。

さんまは自分のラジオに貧乏自慢をするコーナーを新設。
村上ショージ、Mr.オクレ、ジミー大西に、
「お前らがどんだけ貧乏かリスナーにアピールするねん」
といった。
「ビンボーやったら負けへん」
ショージは意気込み、その後、台本を練って打ち合わせを重ねた。
そして収録の日、
「日本は豊かな国になりました。
せやけどここにはこんなビンボーな男たちもいるんです。
聞いてやってください。
彼らの魂の叫びを」
さんまがしみじみ語り、悲しい音楽が流れた。
最初のショージが口を開けようとした瞬間、ジミー大西は間違えて
「こんばんは」
といってしまい、みんなに頭を叩かれた。
そして仕切り直し。
「村上ショージです。
みなさん、金がなくて神戸から難波まで歩いたことありますか?
僕は3回あります」
続いてオクレ。
「Mr.オクレです。
最近、『給料3ヵ月分でダイヤモンドの婚約指輪が買える』ってCMやってますよね?
本当に1万2千円で買えますの?」
「こ、こんばんは、ジミー大西です。
あの、あの、あの・・・」
ジミー大西は頭の中にあったセリフがトバしてしまった。
「ネタ!ネタ!」
ショージが小声でいうと
「あっ、ネタのない寿司、食べたことありますか?
・・・・・」
思い出せたのはそこまでで、オチがわからずに
「す、酸っぱいだけで味気ないですよ」
「感想いうてどうすんねん!」
「どないもこないもありません」
ジミー大西はニカニカと笑ったが、さんまを含め誰も笑っていなかった。
この貧乏自慢は「オレたちひょうきん族」でも採用された。
「ラブ・ユー・貧乏」と名づけられたコーナーでは、ジミー大西はメンバーを外され、1番、前田政二、2番、Mr.オクレ、3番、村上ショージ、タキシードを着た3人が貧乏自慢をしていき
「♪貧乏、貧乏、涙ーの貧乏♪」
とムード歌謡の大御所、ロス・プリモスが生歌コーラスが入れるという無駄に豪華な演出が施された。

あるときジミー大西は、「ラブ・ユー・貧乏」の収録が終わるのを待っていた。
そして出てきたさんまに
「楽屋の荷物、車に積んどいて!」
といわれ、村上ショージたちと一緒に大きな黒いバッグを車まで運んだ。
さんまのマンションに着くと、再びそれを部屋まで運び入れた。
そして村上ショージがチャックを開けると
「もうフラフラ」
といって女性が出てきた。
驚くジミー大西にショージが小指を出した。
「若のコレや」
仕事で遅れたさんまが帰ってくると全員で食事。
再び女性は大きなカバンに身を隠して帰った。
その後、男だけでマージャンが始まった。
ここでもメンバーに入れず、みているジミー大西にクイズが出題された。
「ことわざで、人のフリみて?」
「どないする」
「我がフリ直せや。
馬の耳に?」
「イヤリング!」
「お洒落やなあ
猫に?」
「ワン!」
「ケンカしとるで。
2階から?」
「目ヤニ」
「すっごい量やね。
ベトベトやん。
石の上にも何年?」
「石の上にもぉ~~~ちんねん」
「そんなお坊さんおったかもね。
穴があったら?」
「入ろかな」
「はい、入りましょって誰にいうてんねん。
お前、ほんまに恐ろしいなあ」

さんまたちはそのまま夜通し、マージャン。
朝、ジミー大西が目覚めると誰もおらず、散らかった部屋の掃除を始めた。
ゴミ捨て、掃除機、雑巾ぶき、トイレの便器も磨いて、紙は三角折。
そして食料の買出しに出た。
帰ってくると昨夜の女性とさんまが口論をしていた。
「なんでそんなウソつくの。
わざとらしい」
「アホ、なんでウソつかなあかんねん」
女性は真っ赤になって怒っていた。
「なにかあったんですか?」
「おう!
コイツが勘違いしてなあ」
「この人、私以外に女がいるのよ。
みて部屋の中、ピカピカで、絶対掃除した女がいる」
「だからちゃうんやて。
お前がやったんやろ?」
さんまにいわれジミー大西はうなずいたが女性は信用しない。
「ウソッ。
こんなゴリラみたいな男がトイレットペーパー、三角に折るわけない」

あるときジミー大西は、盲腸になって、病院に緊急入院させられた。
ポタポタ落ちる点滴をみて
「飲んだほうが早い」
と点滴を直接、チュウチュウとウイダー・イン・ゼリーのように飲もうとした。
それをみた医者に
「やめろ」
と取り上げられた。
「体の中に入るんやから一緒やないですか?」
と質問し
「逆に考えてみましょう。
あなた、お酒を血管から入れますか?
同じ体に入るものでしょ。
お酒を点滴しますか?」
と諭された納得。
ちなみに点滴はポカリスエットの味がしたという。

その後、見舞いにやってきたさんまには、
「点滴やけど、アレはアカン」
と注意された。
「すいません」
「あの場合、一気の飲まな」
「一気ですか?」
「一気に飲んで、みんながあっけにとられるところで『おかわわり』
これでドカーン、大爆笑や」
「おかわりですか?」
「ほんまもったいないで。
病院とか葬式とは笑いには最高の状況や。
絶好のチャンスやったのに笑い1つ損したな」
「悔しいです。
もっと若のそばで勉強させてください」
その後、さんまはジミー大西にお笑いをレクチャー。
「がんばれよ」
『お前もがんばれよ』
の練習をした。
さまざまなシュチュエーションに反射的に返せるようになったジミー大西をさんまが
「エエ感じやないか」
とホメてハイタッチを交わしたとき、病室のドアが開き、看護師が
「静かにしてください」
といったため、ジミー大西は
「お前に静かにせえよ」
と返した。
「はい」
といって看護師がドアを閉めると2人は口を押さえ声を殺して笑い合った。

ある日、東京のマンションでさんまに
「まだ誰にもいうたらアカンで。
結婚する」
と明かされ、村上ショージ、Mr.オクレ、ジミー大西は驚いた。
「け、け、結婚」
「あの女(マンションの掃除の件でモメた女性)ちゃうで。
もう別れた」
「ほな誰と」
「大竹しのぶや」
「若っ、おめでとうございます」
「おう、ありがとな」
「結婚なんて滅茶苦茶うらやましいです」
「そうか。
ジミーも結婚願望あるんか?」
「滅茶苦茶あります」
「結婚のどこがエエねん」
「結婚したらソープ行かんでええやないですか」
「それ?
いやもしかしたら金とられるかもわかれへんで。
女は怖いからのお。
ええか、くれぐれも内密にな。
頼むで」

当初、必ずさんまの番組に2人セットで出演していたジミー大西だったが、1人での仕事も増えたため、マネージャーがつくことになった。
椎本真由美は、普通に学校を出て、普通に事務員として働き、普通に安定感じのある暮らしを送っていたが、
「死ぬまでこのままか」
と悩み始め、最終的に全部ひっくり返したくなって退職。
まったく畑違いの芸人の会社、吉本興業に飛び込んだ。
最初、事務員として採用されたが、すぐにマネージャーになるよう命じられた。
新人マネージャーとしての初日、スーツ姿で担当する芸人がいるという楽屋を訪れた。
ドアをノックし
「失礼します」
といって入った後、すぐに
「本日よりジミー大西さんのマネージャーとしてお世話になります。
椎本真由美と申します」
と挨拶。
そして頭を上げると目の前に1人の男が寝ていた。
上はTシュツ、下は真っ裸。
お尻丸出しでエロ本をみながら手をモゾモゾと動かしていた。
真由美に気づくと男はパッと起き上がり股間をエロ本を隠して正座した。
「何をやって・・・」
「やってるやってるぅ~」
手を振る男に真由美は
「変態!」
と叫び、飛び出した。

そのまま会社に向かい、一部始終を報告した。
「なんであんなんの面倒みなあかんのですか。
あれじゃ芸人とマネージャーやなくて、盛りのついたサルと飼育員です。
担当を替えてください」
嫌悪感で顔を歪めながら訴える真由美に上司は笑いながらいった。
「君、うまいこというな。
ウチにはいろんなタレントさんがぎょうさんおんねん。
そのうちの1人やんか。
それに君、まだ新人のくせに、ようそんな贅沢なこといえるな。
イヤなら会社辞めてもろてもええんやで」
「私、お笑いのことはわかりませんが、いきなりあんないやらしい・・・」
「勃起しとった?
アイツは動物やからな。
君がいうように盛りがついた猿やと思うたらエエねん。
でもアイツはいまぎょうさん稼いでくれてるから・・・
そやな、君が猿に今の2倍稼がすようになったら担当替えも考えたるわ。
ええ猛獣使いになってみ」
上司はデスクに合った企画書を真由美に渡した。
それはジミー大西と警察犬が嗅覚で競い合うというものだった。

劇場に戻った真由美は、ズボンを履いていることを願いながらドアを開けた。
そして改めて挨拶をした後、手帳を取り出し、打合せを開始。
「明日は番組の収録が終わったら、営業の仕事が2本入っています。
その後、東京で新番組の打合があるので、ワンステージ15分で切り上げてください。
わかりました?」
ジミー大西はクリームソーダのストローに息を吹き込み、ブクブクさせて遊んでいた。
「まあとにかくそのときどきで指示しますので、それに従ってください」
「はあ」
「あの1つ聞きたいんですけど、あなたのあのギャグってどういう意味ですか?
あのやってる、やってるっていう」
「ああ、あれは本当は股間の近くで・・」
ジミー大西は、本来はマスターベーションの動きだが、股間でやるとテレビではダメになるため他の場所でやっているとニコニコ顔で説明。
真由美は
「最低」
といって紙を取り出した。
「これ、まだ暫定ですが、明日からのスケジュールです」
「ビッシリやなあ。
こんなに働くの?」
顔をしかめるジミー大西。
「来月はこの倍、働いてもらいます」
真由美はツンッといった。

スケジュールがキツキツになったジミー大西だったが、暇ができればさんまのマンションにいった。
ある日の夕方、マンションに着くとスティングのメンバーがユニフォーム姿のまま行き倒れのように転がっていた。
「お疲れさんです」
声をかけると村上ショージが目を開け
「今朝4時まで収録やって、そのままマージャンして野球して・・・もう死ぬ」
さんまは野球の後、眠ることなく収録へ出たという。
「あれは人間ちゃう、怪獣や」
Mr.オクレがつぶやいた。
「勝ったんですか、野球?」
「お前は来んからボロ負けじゃ」
「すんません。
仕事で」
数日後、さんまと大竹しのぶの結婚が公表された。
島田紳助はさんまを呼び出し、祝儀袋を投げて渡した。
「それ、お前にやないで。
大竹さんに渡してや」
「何で嫁やねん」
「お前に渡しても感謝せえへん」
「人聞き悪いこというな。
最近、お礼いえるようになったんや。
ありがとう」
「礼はできても、自分、心がないやんか」
「あるわ」
一方、大阪にいたジミー大西は、なんば花月のお茶子のオバちゃんに
「アンタ、いくらさんまちゃんいうても新婚さんやねんから、邪魔せんようにしいや」
といわれ、
(自分は邪魔だったのか?)
と青ざめた。
それをみたオバちゃんはあわてて
「邪魔やない、邪魔にならんようにや」
とつけ加えた。
その後、ジミー大西はどこまで許され、どこから邪魔になるのかしつこく聞き、最終的に
「自分で考えろ」
と突き放された。

島田紳助は、自分の番組の中で芸能人が描いた絵をオークションで売り、収益を寄付するという企画を立てた。
そしてさんまに
「誰か、絵描く人、知らん?
マジな絵ばっかりやとおもろないからオチになる絵が欲しいねん。
1円も値がつかんようなド下手クソな絵がええんやけどな」
と相談した。
「お前、感動モン好っきゃなあ。
選挙でも出るんか?」
さんまはそういいながらジミー大西を推薦。
ジミー大西はすぐに吉本に呼ばれた。
説明を受けたが自信がない。
その様子を横からみていた真由美は
「やめときます?
お断りしましょうか?」
と聞くと、ジミー大西はうなずいた。
「そうですね。
紳助さんにご迷惑をかけてもアレやし・・・」
真由美が内心ホッとした。

しかし上司に
「さんまさんが君を推薦したんやで」
といわれるとジミー大西は
「やります」
と即答。
「ほな頼むわ」
上司が去った後、
「絵って小学生以来描いたことない」
と不安がった。
「それならなんで引き受けたんですか?
断ろうかって聞きましたよね?」
と真由美はキツめにいったが、頭をゴリゴリかきむしるばかりなので
「この後、時間空いてるから今描いてしまったら?」
とすぐに必要なものを買いにいった。
油絵のセット一式が揃い、絵の具のフタを開けた途端、ジミー大西は
「ウエッ、クサッ、アカン」
と顔をそむけた。
真由美は再び買出しへ。
水性の絵の具を買ってきて
「とにかくチャッチャと描いてください」
といったが、キャンパスは真っ白のまま1週間が過ぎた。

ジミー大西は、常に絵のセットを持ち歩き、何を描いたらいいのか悩み続けた。
喫茶店でイーゼグとキャンパスを立てているところに、村上ショージたちが入ってきた。
「どしたん?
真っ白のままやんか」
「僕は一体何をしたいんですか?」
「知らんがな」
その後、仕事の迎えにきた真由美にも
「なに描こう?」
と相談。
「なんでもええんとちがいますか」
「なんでもええちゅうのが困るねん」
「オレの似顔絵なんてどう?」
Mr.オクレがいうと
「葬式の写真みたいになる」
とショージがツッコんだ。
「紳助兄さんの番組のヤツやろ。
そもそもお前、絵得意やったか?」
「全然」
「得意やないのになんでまた頼まれてん?」
「オチやからです。
何人か絵がうまい人の後に僕のヘタな絵をみせてウケたいんですって」
「ほな悩むことないやん。
ショージの顔でも描いたらええねん」
オクレはいったが、結局、その日もキャンパスは真っ白のまま。
ジミー大西はいった。
「落ち着いて描ける場所あったらなあ・・・」

そして警察犬との対決の日が訪れた。
対決といっても嗅覚で人間が犬に勝てるわけがない。
まして相手はどんな匂いでも嗅ぎ分けるように訓練された警察犬。
視聴者の笑いをとりつつ、警察犬の優秀さをアピールするという企画で、撮影には警察署長来ていて吉本の上司と話していた。
しかし目隠しをされたジミー大西は、嗅がされた匂いのするほうに真っ直ぐ這い進み、ウロウロしている警察犬より先に正解を探し当てた。
真由美は大笑いしたが、署長が激怒し、映像はお蔵入り。
上司もカンカンで真由美にいった。
「お前の責任じゃ」


真由美は毎日、1日の仕事が終わると、スケジュールを覚えないジミー大西のために明日の予定を書いた紙を渡していた。
そしてこの日、いつものように予定表を不満そうにみるジミー大西についにキレた。
「明日のことは新しいマネージャーにでも聞いてください。
今日でクビやいわれているのにやる気のない人の明日の心配するのバカバカしくなってきたわ」
「なんで真由美さんがクビなん?」
「タレントの失敗はマネージャーの責任らしいです」
「僕のせい?」
「当たり前でしょ。
でもあなたは今稼いでるからクビにすることはできない。
私が諸々をちゃんとチェックしていなかったのも悪いんです。
ミスしたらクビともいわれていましたし、ホンマ約束通りの立派な会社やわ。
よかったやん。
私のこと嫌いやったでしょ?」
「あ、あの・・・」
「ええ勉強になったわ。
今度はほんまに動物園の飼育員でもなったろうかしら。
檻の中に入ってくれてるだけアンタよりマシやわ」
「はあ?なんやそれ」
「前の倍、仕事とってきたのに文句ばっかりいって」
「そっちが勝手に入れたんやろが」
「ハッ?勝手に?
イヤなら断ってよ。
紳助さんの絵だって断ろうてお聞きしましたよね。
なんで引き受けたの?
アンタは何を考えて仕事してるの?
これからの方向性は?
目標は?
なんで下手な絵1枚描くのに何日かかってんの。
あなたは一体なにがしたいの?」
「ぼ、僕・・」
「もうええわ。
もう関わることもない。
じゃあ、さようなら」
真由美は立ち上がった。

話を聞いた明石家さんまは、ジミー大西を連れて仲裁に入った。
しかし真由美はさんまにも怒りをブツけた。
「ジミー大西ってのを芸人にしたのはさんまさんらしいですね。
やってる、やってるっていうギャグまでつくって・・・・」
「やってるやってるぅ」
真由美は、手を動かすジミー大西を睨んで黙らせた。
「さんまさんのいうことならなんでも従うようですから、もっと教育してあげてください」
「あの椎本さん・・・」
「とにかくこれ以上面倒見切れません。
お笑いなんて大嫌いです。
ジミー大西なんて大嫌いです。
それを見つけてここまで育てたさんまさんはもっと嫌いです」
真由美は最後に
「大嫌いや。
あんたはさんまが死ねいうたら死ぬ人間や」
といってジミー大西を睨みつけ、去った。
ジミー大西は、その背中をみながら
「キツッ」
とつぶやき、さんまはそれを横目でみながら
「死ね」
といった。
「よーし、わかった。
死んだらええねんな」
そして2人は笑った。
結局、さんまがクビを撤回するよう会社にかけ合い、真由美は吉本に残った。

ある日、さんまと大竹しのぶは、絵本を読んで娘のイマルと寝かせようとした。
大竹しのぶはステージで歌うように読み聞かせたが
「うるさーい」
と娘にいわれ、さんまにも
「感情込め過ぎ」
とダメ出しされた。
続いてさんまが気合を入れて面白おかしく話すと、イマルが興奮し始め、
「ダァーっ」
と叫んだ。
「オーバ過ぎ、寝ないでしょ」
と大竹しのぶにダメ出しされたさんまは、家に遊びに来ていたジミー大西を呼んだ。
ジミー大西の顔をみた途端、ベッドの中のイマルはケタケタと笑った。
「いくで」
といってジミー大西は絵本を読み始めた。
大竹しのぶやさんまに比べ、たどたどしい読み方だったが、どこかユラユラと揺れるゴンドラのような優しいリズムがあり、みるみるイマルの目はトロトロになり、気づけば寝息を立てていた。
「イマルちゃん、寝てもうた」
ジミー大西がベッドの向かい側をみると、さんまと大竹しのぶも伏せるように眠っていた。

1991年4月、吉本の会長、林正之助の葬式で
「なにかを真剣にしている人を笑ってしまう」
というジミー大西は、真剣な顔をした明石家さんまや、、真剣な顔で焼香する芸人たちをみて笑ってしまい、大ひんしゅくを買った。
また別の葬式では、焼香しようとしたが正座で脚がシビれてしまい四つんばいで移動。
徐々にズボンがズレていき、肛門丸出しでご焼香をした。


ある日の収録終わり、高速道路でジミー大西が
「お腹が痛い」
といい出した。
すぐに下道に降りたがトイレがみつからない。
顔に脂汗をうかべながら
「空き地でする」
というジミー大西を、真由美は仕方なく近くにあった自分の家に連れて行った。
「助かったわ。
ありがとう」
スッキリしたジミー大西はお礼をいった。
そして2部屋しかない真由美のアパートを見回し、奥の部屋にズカズカ入っていった。
真由美はあわててベッドルームに干してあった下着を回収し、かけ布団の下にしまった。
「なにしてるの!」
「女の人の部屋に入ったの初めてですわ」
「私も男の人入れたことない!」

「そうだ、ついでにこれ確認してください」
真由美は、以前から気になっていたお金のことをハッキリさせようと、さんまからのいいつけで預かっていた通帳を取り出した。
ベッドに座って
「今の残高はこれです」
と通帳を開いてみせようとするがジミー大西は見向きもしない。
「任せますわ」
「自分のお金ですよ。
確認していかないと」
「真由美さんが確認してくれたらええやん」
「私が使い込みでもしたらどうするの」
「それはしゃあない」
ジミー大西は、お金に無頓着だった。
通帳やキャッシュカードを持ち歩かないどころか、財布さえ持っていない。
ポケットに入れたお金が無くなれば、近くにいる誰かに借りた。
吉本の芸人は会社からもらう仕事と、会社を通さない直の仕事があり、給料明細に出ない収入もあるのだが、そういうのも確認もしない。
「ホント、無頓着ですね。
今まで人を疑ったことはないの?」
「どやろ。
真由美さん、僕のこと疑ってます?」
「なんで私が疑うの?」
「2人きりやり、僕が襲うかもしれませんよ」
ニカニカ笑うジミー大西をみて、真由美は笑った。
「はいはい、襲うならサッサッと襲ってください」
いった瞬間、ハアハアと獣のような息と重たいものがのしかかってきた。
悲鳴を上げながらはねのけるとベッドの下でズボンを下ろしたジミー大西が床に転がっていた。
「なにすんの!」
「襲っていいっていいましたやん」
「冗談に決まってるやろ!
とっとと帰れ!」
真由美にズボンを投げつけられて、ジミー大西は、半裸のまま部屋を飛び出した。

1994年、ジミー大西は、TBS「オールスター感謝祭」の「赤坂五丁目ミニマラソン」に出場。
海パン1丁で頭にバナナをつけて「馬にニンジン」ならぬ「ゴリラにバナナ」という姿で走った。
レース途中、快調に走るジミー大西を、沿道の客がエアーガンで撃った。
ジミー大西は頭にBB弾を受け横倒しになった。
すぐに病院に運ばれ、一晩入院することになった。
「ひどい」
男が笑いながら撃っていたと聞いた真由美はベッドの横で涙を流した。
検査の結果、脳に異常はなく、ジミー大西はすぐに仕事に復帰したが、数日、働いた後、真由美に1日休みをプレゼントされた。

ジミー大西はその日、早朝からさんまの家に遊びに行った。
着くと大竹しのぶが朝食を作っている最中。
ジミー大西は
「コレ、つまらないものだんですけど」
といって紙袋に入れた大量のジャガイモを渡した。
「なになに、どうしたの?
今までこんなことしたことないじゃん。
何か企んでる?
何かボスに頼み事?」
「ちゃいます」
「ホントかなあ」
基本的に大竹しのぶはジミー大西を人として好きだった。
以前、ジミー大西が、突然、引退を打ち明けにきたことがあり、そのときさんまは
(1週間もすれば気が変わるだろう)
と思って
「1週間しっかり考えろ」
といった。
そして1週間後、確認すると、ジミー大西は
「ストリッパーのヒモになります」
と答え、それを横からみていた大竹しのぶは
「あなた本当にバカね」
といった。

やがて2階から起きたばかりのさんまが下りてきた。
大竹しのぶに紙袋をみせられ
「久しぶりに来たと思ったら、何企んどんねん」
といった。
ジミー大西は頭をかいてずっと悩んでいたことを打ち明けた。
「ようわからんのです。
なにをしたらええか」
「アホか。
そんなん、お前、好きなんやったらええがな」
「ほな好きなことしていいんですか?」
「人間はな、好きなことせな、進歩せえへんの」
ここで大竹しのぶが質問。
「でもさ、嫌いなことでも、好きになる努力すれば進歩じゃない?」
「それもありや。
でも好きなことしてるときは努力してるなんて意識ないやろ」
「そうだよね」
「そもそも俺は努力いう言葉、嫌いやねん。
辞書から消したいねん。
俺、ええこというたな。
メシ食おう」
「はい、いただきましょう。
ほら、ジミーちゃんも」

次の日、大阪で仕事が終わったジミー大西は、
「みせたいものがある」
と真由美にいわれ、タクシーで古いビルに連れてこられた。
階段を上がって扉を開けると、コンクリート打ちっぱなしのガランとした部屋に、絵の道具が置いてあった。
「ピカソの気分?」
真由美はいったが、ジミー大西は素直に喜ばなかった。
「アカン、なんか落ち着かん」
「楽屋や喫茶店で周りに気兼ねして描くよりいいかなって」
「別に楽屋でもエエねん」
「なんて?」
「描く気になればどこでも描ける」
「どういうこと?」
「せやから道端でも公園でも描く気になったらどこでも描けるいうてんねん」
「じゃあ、ここは無駄ってこと?」
「わからんやっちゃな
描く気にならへんいうことや」
「なんで?」
「そんなんわかってたらとっくに描いてるわ。
わからんからイラついてんねん。
自分でもようわからん。
絵を描こう描こうとすると気が急いて描けへん。
若に迷惑かけられへんし、どないしたらええのか。
ようわからんようになって、落ち着いて描ける場所あったらいうてもてん」
「私がそれに乗ってしまったというわけ?
アホやな」
「ほんまのアホは僕です。
真由美さんのせいやない」
「私がアホやねん。
アトリエどこがいいかなってあっちこっち探し回って・・・
そんなことよりも肝心のジミーさんの気持ちがわかってなかった・・・
知り合ったばっかりやのにいっぱしのマネージャー面してごめんなさい」
うつむいて肩を震わす真由美をみて、ジミー大西はイスに座って机に向かった。
「よう見つけてくれて、ありがとう」
鉛筆を握るとなにも考えずに線が引けた。

アトリエのことを知ると、みんなに
「番組のオチの絵を描くだけなのにアホやな」
「画家気取りか」
といわれたが、1度描き始めるとジミー大西はすごかった。
仕事、食べること、寝ること以外はひたすらキャンパスに集中。
真由美は、他の仕事はできるだけセーブし、絵もそばについてサポート。
キャンパスには誰か、人の顔が描かれていて
「誰の絵?」
と聞いたが教えてもらえず、そのうち真由美が近づくとジミー大西は絵を隠すようになった。
そして絵は完成し、スタッフに運ばれていった。

「芸能人絵画オークション大会」の本番当日。
仁科点展への出品経験者や美大出身の芸能人の絵が次々と紹介されていった。
その度にスタジオには歓声が起こり、審査員の美術評論家がコメントしていく。
そして視聴者参加型のオークションで、次々の値がついていった。
オチという重要なポジションを背負ったジミー大西と真由美は
「どうかウケますように」
と祈っていた。
「それでは最後の作品、ジミー大西君。
どんな絵かみてみましょう」
島田紳助が覆っていた布を外すと、会場はシンとなった
奇妙な絵だった。
人の顔であることはわかるが、その大半が赤く塗られ、唇は青で頬に4本の緑の線が走っていた。
「ではジミー君、どうぞこちらへ」
紳助に呼ばれジミー大西は小走りで絵の前へ。
「何でしょう、この絵は?」
「これはマネージャの顔です」
「マネージャー?
この口はなんでこんな風に?」
「はい、いつも僕を怒らはるんで青色にしました」
「怒ってる口は青なんや」
「はい」
「なんで?」
「自分でもようわかりません。
すんません」
「すんませんて?」
「もっとドーンとウケると思いました」
「そやな、俺もお前の絵がオチやと思ってたから、なんか中途半端な空気やな」
「すんません。
でも一生懸命描きました」

紳助は腕を組んで絵を見つめ、そして
「まあ、ほなオークションいきましょう。
ジミー大西君の絵、なんぼの値段がつくでしょう」
金額を示す電光掲示板の数字は、あっという間に10万円に上がり、最終的に33万円になった。
「なんと33万円。
すごい値段がつきました」
紳助は興奮してジミー大西をバシバシと叩いた。
「お前、すごいやないか。
ダントツの最高額やぞ」
「33万っていくらですか?」
審査員は
「唇が青というのはジミー大西さんにはそうみえるんですよね?」
と聞き、ジミー大西がうなずくと
「これはまさにキュービズムです」
といった。
「絵は見たまま描かなくてもいいという手法ですね。
異なる角度、異なる視点でとらえて描く。
ピカソが編み出したともいわれています」
「お前、キュビズムって知ってた?」
「はい」
「ホンマか?」
「私、ウソをついておりました」
「そんなんええねん」
爆笑が起こり、ジミー大西はニヤニヤ笑った。

評論家に絶賛された絵は、ジミー大西が真由美の顔を感じたまま描いただけだった。
楽屋でショージたちと一緒に番組をみていたさんまは
「オチとしては弱いな」
と思っていたが、アッという間に30万円の高値がつき呆気にとられた。
その話を聞いた大竹しのぶは
「それって恋の始まりじゃん」
と目を輝かせた。
深夜番組だったのにもかかわらず、ジミー大西の絵は評判になり、吉本には絵を描いて欲しいという電話が殺到。
真由美は上司にそれらの依頼に応えるよう指示された。
そして広告代理店が銀座の一流画廊で展示即売会を企画し、吉本を訪れ、
「ジミーさんの絵を30点ほど飾らせてください」
といってきた。
「僕の絵、30点」
と落ち込むジミー大西に真由美は絵の点数でないことを教えると
「あっ、点数ちゃうんか!」
といつものボケっぷりをみせた。

その後、広告代理店は個展の宣伝を開始し、ジミー大西は絵の製作に入った。
最初はあれほど苦しんだのに1度描いてしまうと後は絵が描くのが楽しくて仕方なかった。
しかし本業のお笑いでミスを連発した。
どこか気が抜け、間も悪く、ギャグを忘れ、セリフを忘れ、トチった。
さんまの番組でも、オチの一言をトバしてしまい、さんまと共演者がつくってくれた流れを潰してしまった。
「絵を描くほうに気がいってんねん。
お前は絵描きや笑いやといろいろ器用にできる男や無いからな。
二兎追う者は?」
「三兎も追う!」
「まあ欲張り・・・違うねん」
結局、さんまは
「笑いか、絵か、どっちにするか決めなアカン」
といった。
「笑いと絵と・・・」
「俺の干支、羊やねん」
さんまがボケると
「その干支ちがいますがな」
村上ショージがツッコんだ。
「何がや!」
「世田谷!」
「でっ、画家と芸人どっちいくねん?」
と聞かれジミー大西は
「どっちがモテますか?」
と答えた。

芸人か、絵か。
ジミー大西は、東京から大阪への新幹線で悩み続けた。
そして真由美にいった。
「個展の話しやけど、断れへんかな」
「えっ?」
「お笑いの仕事ちゃんとせんと」
「絵はやめるってこと?」
「わからんけど、若の役に立ちたいし、若は芸人として叱ってくれたし。
こんな絵なんかのせいで・・・
こんなんなんぼ描いても若は喜んでくれへん。
意味ないわ」
「意味ない?」
真由美はジミー大西の胸倉をつかんだ。
「個展断るのはええわ。
そんなん私が頭下げたらすむ話や
けどそれと絵をやめるのは違う話しやろ。
あんた絵描くとき目キラキラさせてるやん。
絵描くの好きなんやろ?」
「す、す、好きて」
「大事なのはアンタが今なにをしたいかや」
息がかかるほどの至近距離で真由美にいわれ、ジミー大西は
「な、なにがしたいて、キスしたい」
といった。
真剣な話をしているときに、ハアハアと息を荒くしてキスを迫ってくるジミー大西を真由美は思い切りひっぱたいた。

後日、ジミー大西は真由美に一通の手紙を渡された。
封筒いっぱいに大きな字で吉本の会社の住所とジミー大西という宛名が書かれてあった。
手紙をもらうのが初めてのジミー大西が、真由美にいわれて裏をみると、「岡本太郎」と書かれてあった。
「あの岡本太郎?!
ウソや。
だまされへん。
ドッキリやろ!」
小学生のとき、家の近くで大阪万博が開かれ、「太陽の塔」をみて興味がわき、誰がつくったのか学校の先生に聞いて教えてもらった名前だった。
真由美は岡本太郎が紳助のオークション番組をみていたらしいと伝えた。
開封すると
「前略、ジミー大西君。
四角い枠にとらわれるな。
キャンパスからはみ出しなさい」
と書かれてあり、手紙を持つ手が震えた。
「あ、あああああの、僕、絵描いてもかまへんかな」
その後、ジミー大西は絵の制作に没頭。
個展は連日、たくさんの人が訪れ、
「ひと目みて心を奪われる」
と評判になった。

個展では多くの絵が売れたが、お金に欲がないジミー大西は、その後、ドンドン絵を描いて、ドンドンあげていった。
師匠のぼんちおさむ、先輩芸人、お茶子のオバちゃん、番組関係者、たまり場にしている喫茶店などお世話になっている人々に無料で配り、特にさんまの家はジミー大西の絵でいっぱいになった。
まだ花月で進行係をしているとき、出番を間違えて中田ボタンに怒られ、反省するためにトイレットペーパーをチンチンにくくつけて下半身裸で階段に立つという事件を起こしたことがあったが、中田ボタンにも
「トチってすんませんでした」
といって絵を贈り
「何年経ってる思てるねん」
といわれたが
「この絵はええなあ」
とホメられた。
桂三枝は、ジミー大西が岡本太郎に「キャンバスからはみ出せ」と書かれた手紙をもらったことを知ると
「お前、芸能界からはみ出てるやないか」
といった。

1996年1月7日に岡本太郎が84歳で亡くなった。
20代でピカソの絵に影響を受けて芸術の道を志し、「ピカソを超える」ことを目標に芸術作品を次々と生み出した。
特に大阪万博で手がけた「太陽の塔」、渋谷駅構内のJR線と井の頭線の連絡通路に飾られている壁画「明日の神話」は有名だった。
絵だけにとどまらず、本を出してもベストセラー、テレビに出てもインパクトを残し、幅広い方面でその個性と才能を発揮した。
巨匠の死を知るとジミー大西は泣きながら
「もう自分の絵をみてくれてる人がおらへん。
絵はやめる。
芸人になる」
といい出し、芸人の仕事だけをして、絵はまったく描かなくなり、やがてアトリエには近づかなくなった。
そんなときピカソの故郷、スペインの画商から、1年間、こちらで絵を描いてみないかというオファーが入った。
ジミー大西は、吉本にスペイン行きを命じられたが渋った。
「無理や。
そんな1年も」
「スペイン行きなんて、またとない大チャンスやで」
「僕、スペイン語できひんし」
「通訳はつける。
絵だけ描いていればええんや」
ジミー大西と会社は押し問答。
しかしジミー大西は
「エッチできひんし」
といって断った。

しかし周囲からみると間違いなくジミー大西は絵が好きだった。
吉本の利益などうでもいいが、ジミー大西が絵をやめてしまうことを心配し、真由美を含めいろいろな人が真剣に説得したが、ジミー大西がうなずくことはなかった。
しかし村上ショージとMr.オクレに
「ジミー、スペインのお姉ちゃんはおっぱい大きいで」
「ヌーディストビーチもあるらしいで」
といわれるとニカニカと笑いながら
「僕、スペイン行きます」
といった。
「なんやねん、それ」
「あっちでもがんばれよ」
「お前もがんばれよ」

こうして芸人としてもバカ売れしていたジミー大西は、スペインに渡った。
ダウンタウンの松本人志は、
「もったいないなぁ。
誰も勝たれへんで!
他に辞めなあかん奴いっぱいおんのに」
と惜しんだ。
2人はほぼ同期。
NSCに落ちたジミー大西は高校在学中から吉本で働きだしたので数ヵ月先輩になる。
スペインでは人里はなれた高台にあるアトリエで絵を描き続け、近くにある家で真由美と一緒に住んだ。
1年の滞在予定は3年に延長。
その間に真由美と結婚。
プロポーズの言葉は
「一生僕を食べさせてね」
だった。

Jimmy (文春文庫) | さんま, 明石家 |本 | 通販 | Amazon

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