更級日記の作者藤原孝標の女がオタクで面白過ぎる

更級日記の作者藤原孝標の女がオタクで面白過ぎる

昭和の時代はオタクである事をカミングアウトしづらい風潮がありましたが、今は芸能人もオタクである事を公言する時代となり、アニメや漫画好きだと堂々と言える時代になりましたよね。実は1000年以上も前にもオタクを宣言していた姫がいたのです。平安時代は源氏物語や枕草子など女流文学が花開いた時代ですが、そんな平安の時代に源氏物語愛が強すぎる日記を書いた女性がいました。今回はそんな更級日記の作者である藤原孝標の女についてご紹介します!


更級日記の作者・藤原孝標の女のプロフィール

まずは更級日記の作者・藤原孝標の女(むすめ)のプロフィールからご紹介します。
本名:伝わっていない
当然ですが藤原孝標の女というのは本名ではなく、父親が藤原孝標(ふじわらのたかすえ)という事です!
生年月日:1008年(寛弘5年)
没年:不詳
更級日記は50歳頃まで書かれているので、それ以降である事は間違いありません。
出生地:上総の国(現在の千葉県)
家族:父親・藤原孝標(菅原道真の玄孫)
母親:藤原倫寧
夫:橘俊通(たちばなのとしみち)1040年頃結婚
長男:仲俊
長女・次女(名前不詳)
母親の異母姉:藤原道綱の女(蜻蛉日記の作者)
父親の藤原孝標は、上総の国と常陸の国の受領(上総の介)として任期中に出生しました。
1020年(13歳頃)には、上総の介の人気が終わったために、帰京(京都)しています。
更級日記はまだ上総の国に居る頃(10歳頃)から始まっていました。
父親は学問の神様と呼ばれる菅原道真の玄孫ですし、母親の異母姉が有名な蜻蛉日記の作者ですから、どちらに似ても文才はありそうです。
まさに文学のサラブレッドといったところでしょうか。
職業:後朱雀天皇皇女の祐子(ゆうし・すけこ)内親王の侍女
当時の女性の名前は、皇族でもないと伝わっていないので残念ですよね。
きっと可愛らしい名前だったのではないでしょうか。

更級日記とは?内容は?

藤原孝標の女の銅像(千葉県市原市)

更級日記とは、平安時代に花開いた女流日記文学の代表作の一つです。
上総の国を出る少女時代から、50歳頃の中年期までのおよそ40年間に渡る回想録ですね。
上総の国から京へ移住した事に関する少女時代の回想の原文の冒頭がこちらです。↓

「あづま路の道のはてよりも、なほ奥つ方に生ひ出たる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひはじめけることにか、世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなるひるま、宵居などに、姉、継母などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。 いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を造りて、手洗ひなどして、人まにみそかに入りつつ、『京にとく上げたまひて、物語の多くさぶらふなる、あるかぎり見せたまへ』と、身を捨てて額をつき祈り申すほどに、 十三になる年、上らむとて、九月三日門出して、いまたちといふ所にうつる。 年ごろ遊び馴れつる所を、あらはにこほちちらして、立ち騒ぎて、日の入りぎはの、いとすごく霧りわたりたるに、車に乗るとて、うち見やりたれば、人まには参りつつ額をつきし薬師仏の立ちたまへるを、見捨てたてまつる悲しくて、人知れずうち泣かれぬ。」

https://honcierge.jp/articles/shelf_story/5814?msclkid=e141e599abfd11ec91710610b9426f5c

5分でわかる更級日記!作者やあらすじをわかりやすく解説 | ホンシェルジュ

なんて言っているのか、現代風に意訳します。
東の果ての常陸の国(茨城県)より更に奥まった上総の国(千葉県)で生まれ育った私は、田舎っぽい女の子だったのよね。
世の中にはどうも、物語という物があると知って読んでみたいとずっと思っていたの。
母や姉が暇な時に語ってくれる「源氏物語」というお話を、それはそれは楽しく聞いていたのだけれど、残念ながら母や姉もうろ覚えだったので所々しか聞けなかった。
それでもどうしても源氏物語のラストを知りたかった私は、薬師如来像まで作らせちゃったの。
その薬師如来様に毎日祈ったものよ…。
「早く源氏物語を読ませて下さい、京に上らせてください」って。
そしてとうとう、13歳になる頃に父の任期が終わって京に行ける事になったの!
でもね、夢にまで見た京に旅立つ時に牛車からうちを見たら、薬師如来様がポツンと立っていて、涙が出てきちゃった…。
等身大(すごいの作りましたね)の大きな薬師如来像を、持っていく訳には行かないけれど、置いていくのは悲しいな…

願い事を叶えるために、薬師如来像まで作ってしまう感性凄いですよね。
しかも源氏物語を読みたい!って知識欲が素晴らしいです。
毎日祈ってい薬師如来様を置いていくのは、確かに心が痛むかもしれません。
でも大型トラックでなければ千葉から京都まで運べないでしょうから、牛車ではさすがに無理ですよね…。

上京してから可愛がってくれた乳母がはやり病で亡くなってしまい、一時期悲嘆に暮れて源氏物語への情熱が失われてしまいます。
でも14歳の時に念願の「源氏物語」の全巻を親戚から貰ったのでした。
すると再び情熱が蘇り、源氏物語を読み進めていくと、「皇后になるよりも、源氏物語を読む事が大事」と考えるようになっていきます。
当時の女性の一番の憧れと言えば、天皇の奥さんになってゆくゆくは、女性の最高位である皇后になることだったと思うのです。
でも藤原孝標の女は、「源氏物語の方が大事」と言い切っていますよね。
思っていてもなかなか言えないセリフかもしれません。
そして何度も繰り返し読んでいたら、遂に内容がスラスラと出てくるまでになっていました。
そのことを無邪気に喜んで、とても可愛らしいです。
そして「今はまだ幼いけれど、成長したら夕顔や浮舟みたいにすごい美人になるはず!」と思いこんでいくようにまでなりました。
この気持ちわかりますね。
私も子供の頃は、大きくなったらアイドルみたいに可愛くなるに違いないと思いこんでいました。(笑)
ただパーツがまるで違うので、残念ながら成長という自然現象だけではどうにもなりませんでしたね。
こんな感じで20代までは夢見がちに過ごしていた藤原孝標の女ですが、30代になって佑子内親王に仕えるようになり、結婚や出産をして多忙になっていきます。
するとあんなに好きだった源氏物語よりリアルの方が大事になっていくのですね。
51歳で夫が亡くなったときには、子供たちは既に自立していて孤独を感じるようになってしまっていました。
そして物語にのめりこんだ若い日々を後悔し、もっと仏教を勉強しておけば良かったと悔恨し、これからは真面目に仏教と向き合いたいと目標を持ったところで日記は終わっています。

源氏物語にのめりこんだ若い日々を悔恨した藤原孝標の女ですが、何も後悔することはないと現代の感覚では思いますよね。
源氏物語はあんなに長い物語なのに、文章がスラスラと言えるようになるほど読み耽るってよっぽどの努力が必要です。
好きな道を究めた藤原孝標の女は素晴らしいと思いますが、仏教への信仰心で極楽に行けるのか地獄行きになるのかが決まると当時は現代よりずっと真剣に考えられていました。
年齢を重ねれば重ねるほど、身に迫ってくるものがあったのでしょう。
そう思うと藤原孝標の女の気持ちもよくわかります。
晩年は少し寂しく感じましたが、リアルな心情が伝わる感性豊かな更級日記を後世に残して下さり、本当にありがとうございました。

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