【追悼・白石冬美】ナチチャコパックの思い出

【追悼・白石冬美】ナチチャコパックの思い出

かつて一世を風靡したTBS深夜ラジオ番組「パックインミュージック」金曜日の名コンビ、野沢那智と白石冬実の「ナチチャコパック」。なんであんなに楽しかったのか、夢中になったのか、その思い出を語ります。


当時は文化放送で土居まさるがパーソナリティを務める
「真夜中のリクエストコーナー」が人気で
アナウンサーらしからぬ土居まさるのくだけた語りと
ハガキでのリクエストにこたえてオンエアを流すという
インタラクティブな構成が、主に受験勉強中の若い世代に受けていました。
時代は受験戦争が熾烈になってきた1960年代半ば。
「四当五落(睡眠時間4時間だと合格で5時間だと不合格)」
なんて言葉も言われていた時代でした。

金曜日の担当を任された熊沢敦ディレクターが
パーソナリティに挙げたのが
以前、映画音楽の録音番組「スクリーン・ミュージック」で共演した
白石冬美と野沢那智。
その時に聞かせた掛けあいの絶妙さが、新しい番組の顔となるオファーにつながりました。

ナチチャコパックの楽しさ

1.「お題拝借」

「金パ」と言えば「お題拝借」とすぐ出る人も多いかと。
ハガキのリクエストだけでは2時間持たないと考えた熊沢ディレクターが
翌週のお題を出して、リスナーに何か書いて送ってもらおうと企画したコーナーです。
お題は「清く正しく美しく」とか「滑り込みセーフ」とか、いろいろでしたが
これがめちゃくちゃ面白かった。
真面目な話もあれば、ハチャメチャな話、エロあり下ネタあり
それが、ハガキではなく分厚い封書で
毎週段ボール箱1杯に届いていたそうです。

2.常連のラジオネームたち

1日に読まれる投書はだいたい5~6通。
読んでもらうために、ネタを盛り込み表現を工夫したリスナーはたくさんいたでしょうね。

よく読まれる投書には特徴がありました。
「お晩でやんす」「小生〇〇でやんすよ」
といった、当時流行った赤塚不二夫のケムンパスの言い回しを使い
(今で言うならおんJ用語的なものかな)
本当かどうかわからない(いやたぶんほとんど創作)けれど
妙に現実味のある内容の投書が多かったです。
そうして毎回読まれるようになる、おなじみのラジオネームが増えていくと
続きものを聞き、参加する共有意識が芽生え、リスナーの連帯感が高まっていきました。

有名なのは「樽屋三吉」「明鴉の安蔵」「早稲田の星」
「愛の伝道師・札幌のマルチン・デター」「お茶ノ水のおひろ」・・・
おそらくどの投稿者も、真夜中に勉強している受験生だったのでしょう。
マルとバツの採点から解き放たれ、面白ければ読んでもらえて、笑ってもらえる
そんな自由をこの企画から得たと、のちに「樽屋三吉」氏は語っていたそうです。

3.共感と場の共有

投稿内容への共感は、ラジオを夜中に聞いている個人という
物理的な空間をラジオの外へ一気にひろげました。
樽屋三吉が大学に合格し、「参考書を焚書しよう」と呼びかけると
それに応えたリスナーが石神井公園に200人以上集まり祭りになったとか、
ラジオネーム「狸女のお志乃」に「失恋魔術師」が土下座でお詫びするとして
日本女子大に300人が集まったとか、
今のSNS的な動きがこの番組からは自然と発信されていました。
群馬県高崎市の高崎高校と前橋市の前橋高校の
2つの高校間の抗争(笑)も、
「前高×高高(まえたか・たかたか)」シリーズとして全国区の知名度を得ました。

4.掛けあいが絶妙

リスナーの投書だけで番組が盛り上がったわけではありません。
やはりそれを読むナッちゃんの、声の役者としての技量と
それに呼応するチャコちゃんの絶妙な掛けあいがあったからこそです。

番組が始まる前にディレクターやスタッフが取り上げる投書を選び
ナッちゃんは目を通すのですが、
チャコちゃんは投書の内容は一切知らずにいたそうです。
ナッちゃんの読む内容に反応するチャコちゃんの声は、
ラジオを聞いているリスナーと完璧にシンクロし、
チャコちゃんがゲラゲラ笑えば自分たちも大笑いし、
チャコちゃんがシンとなれば自分たちもしんみりする
そんなところにも時間と場所の共有が存在したのだと思います。

5.番組内番組「金瓶梅」

「金瓶梅」というのは、「水滸伝」からのスピンオフ作品で
16~17世紀に成立したとされる中国の四大奇書のひとつ。
まあ要するに、明の時代のエロ本です。
これを、ナッちゃんが弁士になって読む。
当代切っての声優が演じるのだから、面白くないはずがないです。
で、「永遠の〇〇歳」のカマトトチャコちゃんが
「これってどういう意味?」って聞いて、
ナッちゃんが四苦八苦して説明しながら番組が進んでいきます。
チャコは「カマトト」の意味を知らず、ずっと褒められているんだと思っていたそう。
でも時々チャコがナッちゃんに
かっこいいセリフを「いい声で読んで」って頼んで
アラン・ドロンばりにセリフを言ってくれたりすると、ぞくぞくした覚えがあります。

6.最後のお便り

そして、番組のエンディング直前に読まれる「最後のお便り」。
それまでの大笑い系の投書と異なり、この最後の手紙は
一人のリスナーとしての声
ごく普通に生きて、生活している、でも
夜中ラジオを聞きながらたったひとりで想い、ペンを取って書いた
一人の孤独な人間としての声が取り上げられ、
それが時代を反映しているものとして、リスナーの我々の心を打つものでした。

学生運動、過酷な労働環境、貧困、家族問題、差別など
投書を読むナッちゃんの声はしばしば途切れがちになりました。
エンディングの「シバの女王」が流れ出し、リスナーに何かを投げかけて
チャコちゃんの「お元気よう」の最後の一言で
深夜27時、金曜パックは終了します。
聞いているリスナーはひとり、投げかけられた「何か」をかみしめながら
今夜もたいして勉強がはかどらなかったことを悔やむのです。

パックインミュージックの終焉

パックインミュージックは、1982年7月に番組終了しました。
前年81年9月に文化放送の「セイ!ヤング」が終了し、
「ヤングの中でも年齢層の高い人達がラジオからやや離れかけている」状況から
15年という区切りの年に、番組改編という形でピリオドが打たれました。

しかし、番組終了を告げた4月の金パの放送直後から、
「やめないで」の声が大きくなっていきました。
多くのリスナーの署名、ニュース番組での特集
そして6月下旬の終了反対デモ。

そしてナチチャコパック終了の2日前の朝日新聞の「天声人語」には
金パ終了を悼むこんな文章が掲載されました。

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