Let It Be
ビートルズの「レット・イット・ビー」という曲をご存知でしょうか?日本において最も売れたビートルズのシングルです。
特別にビートルズ・ファン、音楽ファンでなくとも40代以上であれば誰もが耳にしたことがあると思われる名曲ですね。
この曲は、ビートルズの22枚目のオリジナル・シングル曲であり、ビートルズ活動中の最後のシングル盤で1970年3月に発売されました。
この曲、及び同名のアルバム「レット・イット・ビー」の制作はビートルズのレコーディング史上最も混乱を極めたものでした。
世紀のスーパーグループ:ビートルズの「レット・イット・ビー」制作ヒストリーを時系列でまとめてみました。
Get Back Session
60年代後半になるとビートルズの人間関係はギクシャクしたものとなっていました。そんな中、ポール・マッカートニーの発案によってデビュー当時のようにオーバーダビングを極力行わず、シンプルなアルバムを制作し、そのレコーディング風景をドキュメントタッチで映画化するという企画が進められることになります。
しかし、開始早々人間関係は更に悪化。レコーディング自体も散漫なものとなってしまいます。
これが1969年1月から始められたゲット・バック・セッションと呼ばれよもので、後にアルバム及び映画「レット・イット・ビー」となるのですが、当初は「原点に返ろう(Get back)」ということをコンセプトにし、アルバムタイトルも「ゲット・バック」となる予定でした。

1月10日にはポール・マッカートニーと対立したジョージ・ハリスンがセッションを放棄し数日間戻らないという事件も起こるほどにバンド内は荒れていました。因みに2人が口論している場面は映画にも撮影され残っています。
Get Back
1969年1月31日、「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」や「レット・イット・ビー」がレコーディングされ映画撮影は打ち切られました。
この時点ではアルバム「ゲット・バック」をビートルズは完成させることが出来ず投げ出してしまいます。そして2月から断続的に新たなアルバム作りを開始します。これが後のアルバム「アビイ・ロード」となります。
1969年3月、エンジニアだったグリン・ジョンズにダラダラと演奏された膨大な量の録音テープをアルバムにまとめる作業が依頼されます。

グリン・ジョンズ
そして4月、不毛とも言われた「ゲット・バック・セッション」から初めての収獲となるシングル「ゲット・バック」が発売されました。この曲は1000万枚以上の売り上げとなる大ヒットを記録しました。

ゲット・バック
そもそも「ゲット・バック・セッション」では最後までまともに演奏された曲がほとんどないという状況ですから継接ぎ継接ぎの編集作業は大変だったことでしょう。それでもグリン・ジョンズの尽力により、5月28日にアルバム「ゲット・バック」は完成します。
しかし、テスト盤が出来、ジャケットも完成していたのですが完成度が一連のビートルズのアルバムに達していないということで発売は見送られます。

ゲット・バック
ここで始めて「レット・イット・ビー」を聴くことが出来ますが、このグリン・ジョンズ版の「レット・イット・ビー」悪くないです。
是非聴いてみてください。
良い出来ですよね?しかし、このアルバムが正式に発売されていたとしたらアルバム「レット・イット・ビー」に入っているジョン・レノンの大名曲「Across The Universe」が収録されないことになってたんですね。
Abbey Road
1969年2月22日から断続的にレコーディングされていた新しいアルバムは、ビートルズの従来のプロデューサーであるジョージ・マーティンを迎え7月から正式に制作が開始され、1969年10月にアルバム「アビイ・ロード」として発売されました。

アビイ・ロード
ビートルズの最高傑作とも言われるアルバム「アビイ・ロード」ですが、収められている曲の多くは、不毛とも言われた「ゲット・バック・セッション」で既に演奏されていたものでした。
ビートルズが最後の力を振り絞って作り上げた金字塔、事実上のラストアルバムです。
Get Back 1970
1969年12月、ビートルズはドキュメント映画の内容に沿ったサウンドトラックにするようにと要望し、グリン・ジョンズにアルバム「ゲット・バック」の再編集を依頼します。

ゲット・バック
採用はされなかったものの、1970年1月4日にはマラカスやリード・ギター、ブラス、ストリングスを「レット・イット・ビー」にオーヴァー・ダビングするという作業が行われています。
また、「アイ・ミー・マイン」が追加録音されたり、ゲット・バック・セッションでは録音されていなかった「アクロス・ザ・ユニヴァース」が追加されたりし、 1970年1月5日に新たなアルバム「ゲット・バック」は完成するのですが、これもまた日の目を見ることはありませんでした。
そして1970年3月23日、ゲット・バック・セッションのテープはコンセプトを変更し、フィル・スペクターに託されることになります。
Let It Be
フィリップ・スペクターは、ウォール・オブ・サウンドと称される独特の音作りで知られているアメリカ人のプロデューサーです。

フィル・スペクター
3月23日にテープを受け取ったフィリップ・スペクターは驚異的なスピードで仕事を行い、5月8日にはビートルズの13枚目にして最後となるアルバム「レット・イット・ビー」として発売にこぎつけています。

レット・イット・ビー
ようやく発売となったゲット・バック・セッションでしたが、この時ビートルズは既に解散していました。オーバーダビングを繰りかえすたためどうしても音がこもってしまうフィル・スペクターのプロデュースのせいでしょうか。ゲット・バック・セッションによる録音がずさんな為でしょうか、このアルバムは他のビートルズのアルバムとは感じが違います。
何よりも大胆なオーバーダビングが行われ、当初の目的から大きく外れたアルバムとなっています。
しかし、何よりも映画「レット・イット・ビー」の公開に間に合わせる必要があったという現実は無視できませんね。ここはフィル・スペクターの手腕を称えるべきでしょう。
Let It Be (movie)
映画「レット・イット・ビー」がイギリスで公開されたのは1970年5月20日です。アルバム「レット・イット・ビー」の発売から12日後のことでした。
映画で使われている音源はアルバムのものとは異なります。ポール・マッカートニーは当初意図したものに近いと感じていたようです。

レット・イット・ビー
映画はゲット・バック・セッションと、予告無しでアップル本社の屋上で行われたライブ(通称:ルーフトップ・コンサート)を記録したドキュメンタリーとなっています。
当初の案としては全て新曲のライブを行い、その模様を全世界にテレビ中継し、同時にアルバムも発売するというもので、そのリハーサルとレコーディングをドキュメンタリーとして映画にするというものでした。
映画「レット・イット・ビー」は、ギスギスした人間関係が映し出され、解散が近いことを感じさせるものとなっています。
The Beatles' Anthology 3
1995年からビートルズの未発表曲集「ザ・ビートルズ・アンソロジー」が3集にわたって発売されます。1996年にリリースされた「ザ・ビートルズ・アンソロジー3」ではゲット・バック・セッションでの音源を聴くことが出来ます。

アンソロジー 3
様々な楽曲が入っていて楽しめますが、アウトテイク集ですからアルバムとしてのまとまりはありません。
Let It Be... Naked
フィル・スペクターのプロデュースに強い不満を持っていたポール・マッカートニーは、映画の中で聴ける音に近づけるようにとリミックスすることを計画し実行に移します。
そうして出来たのが、2003年11月17日に発売された「レット・イット・ビー・ネイキッド」です。

レット・イット・ビー・ネイキッド
これこそ本来の音、真の「レット・イット・ビー」とビートルズは満足したようです。ストリングスなどを取り除きシンプルな音になったことで力強さが生まれました。そしてとてもクリアな音です。とても継接ぎして作られているとは思えません。
しかし、しかしです。音がこもっていようと、大げさなアレンジだったにしても、聴きなれた「レット・イット・ビー」こそが本物という感じがします。
もしかすると、ビートルズのことです。これからも更に新しい「レット・イット・ビー」が発表されるのかもしれません。それはそれで楽しみです。