真心ブラザーズのファーストアルバム『ねじれの位置』。その記念すべき一曲目に抜擢されているのが『どか~ん』です。「どかーんと景気よく やってみよーおーよー♪」という前奏なしの歌い出しから始まる同曲は、ビートルズにおける『I Saw Her Standing There』、サザンオールスターズにおける『勝手にシンドバッド』のような、デビュー直後の溌剌としたエネルギーを制御不能にぶちまけているかのようで、インパクト絶大です。

ねじれの位置(真心ブラザーズ)
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夏の甲子園における応援歌としてもお馴染み
『どか~ん』がシングルカットされた際の、オリコン週間ランキング最高位は57位。決して、大ヒットの部類に入る曲ではありません。にも関わらず、この楽曲が広く知れ渡っているのは、夏の甲子園における応援歌として、アルプススタンドから吹奏楽部が演奏し続けていることも関係しているのでしょう。
実際、2016年に開催された第99回全国高校野球選手権大会で応援歌として使用した学校の数は6校。あまちゃんの主題歌・コンバットマーチと並ぶ20位の成績です。27年も前に発表された曲ということを考慮にいれれば、なかなかすごいことだと言えるのではないでしょうか。
『ニュースステーション』のワンコーナー『プロ野球1分勝負』でも流れていた
『どか~ん』が甲子園の定番曲になったのは、おそらく、テレビ朝日系でかつて放送されていた報道番組『ニュースステーション』のワンコーナー『プロ野球1分勝負』に使われていたことも関係しているはずです。当日行われたプロ野球の試合をダイジェストでテンポよく紹介していくこのコーナーと、始まりから終わりまで、ずっとノリノリな同曲の相性はバツグン。全国区の有名ニュース番組で長らく流れ続けていたからこそ、「どか~ん=野球」のイメージが付いたのだと思われます。

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桜井秀俊は「最高のポジティブ・ソング」と絶賛
そんなアゲアゲな同曲の歌詞は、やはりポジポジ。メンバーの桜井秀俊は「YO-KINGという大天才が書いた日本の国民的ソング」「自分の相棒が作った曲ながら、いまだこれを超えるポジティブ・ソングを聴いたことはありません」とインタビューで絶賛しています。
このような激励が飛ぶ『どか〜ん』は、たしかに超前向き思考な歌です。しかし、その中には、YO-KINGが込めた深い覚悟の念を読み取ることもできます。
YO-KING曰く、楽しく生きるにも覚悟が必要
これは、リクナビの就活ジャーナルでYO-KINGが答えていたインタビューの一部抜粋です。楽しく生きるという覚悟…。何とも深い言葉ではないでしょうか。
YO-KINGは日常生活で感じたことを、そのまま歌詞にするタイプのミュージシャンです。そのため「どかーんと景気よく やってみよう」という歌詞も、当時デビューしたばかりだった自分たちの覚悟を歌ったとも捉えられます。アーティストとして景気よく、元気よく仕事をしていくという覚悟を。

デビュー当時の2人
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過去には「名盤と呼ばれるものを作らなくてもいい」と発言
こちらは、雑誌「パチパチ」1998年12月号に掲載されたインタビューの抜粋。YO-KINGは良い意味で自分に対して諦念があり、必要上に自分に期待をかけない人なのでしょう。
明石家さんまの名言で「俺は、絶対落ち込まないのよ。落ち込む人っていうのは、自分のこと過大評価しすぎやねん。過大評価しているからうまくいかなくて落ち込むのよ。人間なんて、今日できたこと、やったことがすべてやねん。」というのがありますが、先述したYO-KINGの言葉にはそれに通ずる精神性を感じます。
過大評価するからこそ、深く落ち込む。落ち込むのが嫌だから、身の丈以上の挑戦をしなくなる。結果、小さくまとまった人間になる…。そんな人がこの世の中にどれだけ多くいることでしょうか。
YO-KINGのいう「楽しく生きる覚悟」とは、冗長な言い方をすると、名盤をつくろう、歴史に名を残すアーティストになろうなどと大きく見積もらず、等身大の実力を受け入れたうえで楽しくベストを尽くす覚悟、と解釈することもできます。
ラストの一節「当たって砕けろ 死んでもともと」に心ふるえる
こうしたYO-KINGの価値観・考え方を知ったうえで『どか〜ん』を聞くと、実に歌詞が身に沁みます。特に響くのはラストの一節。
漫画『カイジ』のラスボス・兵藤が放った「命はもっと粗末に扱うべきなのだ…!命は、生命は…丁寧に扱いすぎると澱み腐る」という一言に通じる箴言。名門・早稲田大学を卒業し、あえて、約束されていない歌手業で生きることを選択したYO-KINGの“楽しむ覚悟”に、勇気が湧いてくるというものです。
(こじへい)