TOMMY
1975年に公開されたイギリスのミュージカル映画「トミー」をご覧になったことがありますか?イギリスのミュージシャンが多数出演しており音楽ファンにはたまらない1本です。また、ミュージカルなだけに全てのセリフは歌だけで出来ていて、地にセリフは一切ありません。
このためミュージシャンは勿論のこと、俳優もすべて自分の演じるパートは一切アフレコはなく自ら歌っています。なので、アン=マーグレットは勿論のこと医者の役をしているジャック・ニコルソンや主人公の継父役のオリヴァー・リードも自ら歌っており見どころ、聴きどころのひとつになっています。
監督を務めたのは、「肉体の悪魔 」、「狂えるメサイア 」、「アルタード・ステーツ/未知への挑戦 」などで知られるケン・ラッセルです。

ケン・ラッセル
ケン・ラッセル監督の作品は「スキャンダラス」「狂気」「耽美的」「変質的」などと形容され、かなりアバンギャルドな作風のものが多いのですが、トミーも例外ではなく映像全体が原色を基調としたとてもカラフルな作りになっています。
ところで、当初は監督には若きジョージ・ルーカスを考えており、実際に依頼を出したのだそうです。しかし、その時既に「アメリカン・グラフィティ」の製作にとりかかっていたため、このオファーを断っています。
ジョージ・ルーカスが作ったトミーも観てみたかったですね。
さて、この映画はそもそもザ・フーが1969年5月に発表した史上初のロック・オペラ・アルバムである「トミー」が元になっています。

トミー
名盤として名高い「トミー」は、映画「トミー」のサウンドトラックではなく、このアルバムを映画化しているのです。なので、原案はもちろん、音楽監督はザ・フーのピート・タウンゼントが担当しています。そして主人公のトミーを同じくザ・フーのロジャー・ダルトリーが演じました。
サウンドトラック・アルバムは別にあり、ザ・フーのメンバーはもちろんのこと、映画にも出演してるエリック・クラプトン、エルトン・ジョン、ティナ・ターナーをはじめとして、ニッキー・ホプキンス、ロン・ウッドなどなど豪華なミュージシャンが多数参加しています。

トミーオリジナル・サウンドトラック
Sound System
この映画は1975年4月から一般公開されました。はじめて公開された当時のポスターの上部に「衝撃のサウンド・システム QSクインタフォニック方式」という聞きなれない言葉がありますね。

トミー
衝撃のサウンド・システム QSクインタフォニック方式>という活字で、友だちに付き添ってもらって有楽町の日比谷スカラ座に観に(聴きに?)行きました。
とは、日本の音響メーカー山水電気が開発した4チャンネルオーディオ再生技術です。2チャンネル音声信号から4チャンネル音声信号を創成するマトリックス再生理論を応用した方式の一つです。
「トミー」はドルビー・ステレオの歴史では最初にドルビー・ステレオ方式を採用した作品とされているようです。
Story
物語は特に難しいものではありません。簡単に言えば、主人公トミーの成長物語です。アルバムの曲順に話が進んでいきますが、この映画の特異なところはセリフが一切なく、全て歌だけで出来ているというところですね。
時代は第二次世界大戦、トミーが生まれる前に父親は戦争で亡くなります。母親は再婚するのですが、ある日、亡くなったと思っていた父親が帰ってきます。新しい父親と争いとなり、実の父親は殺されてしまうのですが、一部始終を見ていたトミーはこのことがトラウマとなり、盲目、聾唖の三重苦に陥ってしまいます。
成長してからも三重苦のままだったトミーを母親はマリリン・モンローを偶像崇拝するカルト教団の集会に連れ出します。
この奇妙な教団の教祖を演じているのがエリック・クラプトンです。
また、治療のため売春宿にいるアシッド・クイーンにトミー診せるのですが、アシッド・クイーンは麻薬でトミーを治療しようとするのでした。この役を演じているのはティナ・ターナーです。
ある日、両親はトミーの前から姿を消します。友達や叔父にいじめられるトミー。トミーはずっと鏡ばかりを見つめるようになります。鏡の中の世界に入ってしまうトミーでしたが、ピンボールに光を見出します。
三重苦の少年がピンボールをするという噂が話題となり注目を集めます。そしてピンボールの試合で勝ち続けたトミーは、ついにピンボール・チャンピオンと対決することになるのです。
ピンボール・チャンピオンを当時大人気だったエルトン・ジョンが演じます。曲はザ・フーの大人気曲「ピンボールの魔術師」です。エルトン・ジョンが歌ったこの曲はシングル・カットされ全英7位とヒットしました。
トミーはチャンピオンに勝ち大金を手に入れますが、トミーの三重苦は治りません。母親が必死になって話しかけてもトミーは何も反応しません。医者は、視覚、聴覚は正常なので話す事は可能だが、心の中の障害がそれを阻んでいると診断しました。
この医者を名優ジャック・ニコルソンが演じています。見事な歌いっぷりです。
母親が弾みでトミーを鏡にぶつけてしまい、鏡が割れます。鏡が割れたことで、トミーは自由になり、ついに回復します。
トミーが回復したというニュースは世界中に広まり、トミーの元には世界中から信者たちが集まってきます。しかし、叔父がグッズの売り上げをかすめ取ったことなどから次第に信奉者達はトミーを疑い始め、暴徒化し、混乱に巻き込まれた両親は死んでしまいます。
一瞬にして全てを失ったトミーは、再び孤独の世界に閉じこもるのですが、何も縛るものがなくなったことで、トミーは真の自由を手に入れたのでした。
原作者であるピート・タウンゼントはこの映画の出来栄えに不満だったそうですが、本作は1975年度のアカデミー賞にアン・マーグレットが最優秀主演女優賞に、ピート・タウンゼントが最優秀歌曲・編曲賞にノミネートされるなど高い評価を得ています。
またゴールデン・グローブ賞でもマーグレットがミュージカル/コメディ部門最優秀主演女優賞を受賞し、ロジャー・ダルトリーは最優秀新人男優賞にノミネートされています。
Staff
監督・脚本:ケン・ラッセル
製作:ロバート・スティグウッド、ケン・ラッセル
製作総指揮:ベリル・ヴァーチュー、クリス・スタンプ
衣装:シャーリー・ラッセル
編集:スチュアート・ベアード
原作・音楽監督:ピート・タウンゼント