モハメド・アリ   アメリカに、大切なのは肌の色ではなく、心であり魂であり精神だと教えた男。

モハメド・アリ アメリカに、大切なのは肌の色ではなく、心であり魂であり精神だと教えた男。

ローマオリンピックボクシングライトヘビー級金メダリスト。 「蝶のように舞い、蜂のように刺す」ボクシングで、ソニー・リストン、ジョージ・フォアマン、ジョー・フレージャーらとの名勝負を行いながら、3度も世界最強の座に就いたグレーティスト・チャンピオン。 信念に基づきベトナム戦争の徴兵を拒否し、その制裁として世界ヘビー級チャンピオンのタイトルを剥奪され、3年6ヵ月間、試合ができず、全盛期のキャリアを失いながらも、法廷でアメリカ政府と争い、無罪を勝ち取ったザ・ピープルズ・チャンピオン。 モハメド・アリは、常に常識と権威に挑み続け、大切なのは、心であり魂であり精神だと教えてくれた。


1967年5月、モハメド・アリは大陪審(起訴の有無を決定する陪審)で「徴兵拒否」で起訴された。
1967年6月、全員が白人の陪審員団は、モハメド・アリに、禁固5年と罰金10000ドルの判決を下した。
モハメド・アリはすぐに控訴した。
その後、アメリカ全州のボクシング委員会は、モハメド・アリの試合を行うことを禁止した。
いくつかの州は、彼のボクシングライセンスをも剥奪した。
さらにWBA(世界ボクシング協会)は、モハメド・アリから世界ヘビー級チャンピオンのタイトルを剥奪した。
また裁判が終わるまで、モハメド・アリは、政府からパスポートも取り上げられた。
これで海外で試合をする道も閉ざされた。
モハメド・アリは、無罪を勝ちとるために控訴審に挑んだ。
しかしルイジアナ州ニューオリンズの連邦裁判所は、一審を支持する判決を出した。
これで、後は最高裁判所に上告するしかなくなった。
モハメド・アリの弁護士は、世論の変化に弱い裁判所の特長を読み、上告の手続きをできるだけ引き伸ばす作戦をとった。

反戦

当初、年間100万ドルを稼ぎ、赤のキャデラックを乗り回す男の徴兵拒否は、ベトナムで戦っているアメリカの多くの若者を考えると許されないといわれた。
一方、モハメド・アリ同様、多くの若者も、自国の東南アジア政策に疑問を抱き、徴兵を拒否した。
彼らは5年の禁固刑( 懲役刑と異なり刑務所に入るだけで労働の義務はない)、あるいは長期間、外国へ逃げることを覚悟の上で、そのような選択を行った。
アメリカは、毎月、数十億ドルの戦費を使って、毎週100人近くのアメリカ兵が死に、500人以上が負傷した。
やがて進展しない戦局に、ベトナム反戦運動は拡大し、大規模なデモや集会が行われ、世論調査で、ベトナム派兵は誤りだとする人は50%を超えた。
アメリカ全軍からの脱走兵は数万人に上り、帰還兵の多くも反戦運動に加わった。
モハメド・アリは、全米の大学を公演して回り、そのカリスマ的魅力から人気者になった。
またラジオやテレビのトークショーにも出演した。

キング牧師(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)暗殺

1968年4月4日、公民権運動の指導者の1人、キング牧師(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)が暗殺された。
キング牧師の暗殺は、各地で暴動を引き起こした。
未だアメリカ社会は、黒人と白人に分離されていた。

カムバック

1970年になっても、1965年から始まったベトナム戦争は続いていた。
それはすでに泥沼化していた。
多くのアメリカの国民は、勝ち目のない戦争を終わりにしてほしかった。
モハメド・アリの弁護士は、今なら最高裁判所は、モハメド・アリの無罪を認めるだろうと考えた。
1970年6月20日、モハメド・アリのボクシングライセンスまで奪ってしまったのは違法である-という裁判所の判断が出た。
その3ヵ月後には、黒人有権者が多いジョージア州のアトランタ市の市長に、黒人政治家が働きかけ、モハメド・アリの試合を行う許可を得た
1970年10月26日、モハメド・アリとジェリー・クォーリーの試合が行われた。
これはタイトル戦ではないが、不敗のまま世界ヘビー級チャンピオンのタイトルを取り上げられたモハメド・アリにとって特別な試合だった。
3年半ぶりの試合に向け、懸命にトレーニングした。
その3年半、徴兵拒否罪に対する法廷闘争、人種差別撤廃運動、ベトナム反戦運動、・・・モハメド・アリはアメリカのヒーローだった。
黒人も、白人も、学生も、労働者も、会社員も、ヒッピーも、みんながカムバックを応援した。
ジェリー・クォーリーも、尊敬する元世界チャンピオンに果敢にアタックした。
試合はモハメド・アリが3R、TKO勝ちし、プロ入り後、30連勝(24KO)となった。

ロープ・ア・ドープ(Rope a Dope、ロープ際のまぬけ)

1971年3月8日、世界ヘビー級チャンピオン:ジョー・フレージャー vs モハメド・アリの試合が行われた。
モハメド・アリは「6R、KO」を予告した。
この試合は、初の宇宙中継で、世界中の3億人の人々に観戦された。
試合会場のマジソン・スクエア・ガーデンも135万ドルというチケットの最高売り上げ記録となった。
ジョー・フレージャーは真正面から向かっていった。
アリはその攻撃をフットワークでかわすのではなく、左ジャブでけん制しながら、ロープによりかかったり、ロープの弾力を利用したりして、ジョー・フレージャーの攻撃に対応した。
ロープ・ア・ドープ(ロープ際のまぬけ)作戦だった。
これはロープ際で防御している自分を攻め続けるまぬけ(ドープ)な相手ということである。
ジョー・フレージャーは、かなりのパンチを出したが、ほとんどはかわされたりブロックされた。

しかし4R、ジョー・フレージャーのパンチでモハメド・アリの顔面から出血した。
5Rには、ジョー・フレージャーは両腕を下してノーガードになり、モハメド・アリを挑発した。
9R、突然、モハメド・アリのフックがジョー・フレージャーを痛打した。
モハメド・アリが追撃するとジョー・フレージャーはふらつきながら顔面をガードするし、何とか生き延びた。
12R、ジョー・フレージャーの攻撃で、モハメド・アリはフラフラになった。
最終の15R、KO決着はないと思われた、その瞬間、ジョー・フレージャーの左フックでモハメド・アリはダウンした。
何とか立ち上がった後、2人はにらみ合った。
そして試合は終わった。
ジョー・フレージャーが勝った。
モハメド・アリは、(プロ入り後、)初の敗北だった。

逆転無罪

1971年6月28日、最高裁判所は、全員一致で、モハメド・アリの徴兵拒否裁判における有罪判決を無効にした。

「蝶は羽を失い、蜂は針を失った」

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