映画「鬼畜」とは


2002年放送のテレビドラマ版では父親役をビートたけしが演じている。(鬼嫁役は黒木瞳)
鬼畜というほど鬼畜じゃあない「鬼畜」 - 電視台Today
子供の頃観て、岩下志麻演じる母親の、あまりの恐ろしさにトラウマになった人も多いんではないでしょうか?私は「もし、自分が両親の本当の子じゃなかったらどうしよう!」と心底怯えたのを覚えています。(笑)
子供を捨てる、育てない、置き去りにする、と岩下志麻・緒方直人の夫婦に対する恐怖感のみで内容そっちのけだった私ですが、ミドルエッジ世代になり、母親になって改めて観直した「鬼畜」。
本当に鬼畜なのは一体誰なのか?ラストシーンの子供の一言は本当に感動的なものなのか?など考えながら振り返ってみました。
主な登場人物
宗吉 緒形拳

川越で印刷所を営む。仕事熱心な良い亭主かと思いきや、7年も面倒を見ている愛人と3人の子供までいた。
「鬼畜」 - 心の栄養♪映画と英語のジョーク
お梅 岩下志麻

宗吉の妻。子供はいないが夫と一緒に印刷所を守り立てようと必死に働いてきた。(銀行の担当者いわく、やり手)
【映画】鬼畜 - いくらおにぎりブログ
菊代 小川真由美

料理屋の女中。宗吉の愛人で、宗吉との間に3人の子供がいる。
【映画】鬼畜 - いくらおにぎりブログ
利一

良子と庄二

菊代と宗吉の長女と次男
けん
ストーリー


埼玉県川越市で妻のお梅と印刷所を経営する宗吉。仕事を真面目にこなし、子供はできずとも妻と2人で平凡に暮らしているようにみえた。しかし、宗吉には7年も前から愛人の菊代、2人の間にできた3人の子供までいた。
菊代との関係も、最初は良かったものの、印刷所が火事になり、お得意様を失くし、銀行からの融資も断られるようになり菊代たちに生活費を工面できなくなっていた。
生活に困った菊代は子供たち3人を連れて宗吉の家に乗り込んで来た。事実を知ったお梅は激怒を超えて怒り狂う。自分はともかく子供たちも放って寝入る宗吉に愛想を尽かした菊代は、子供3人を残したまま姿を消す。

菊代の行方を探してはみるものの手がかりはなく、仕方なく自宅で子供たちの面倒を見始める。お梅は「あの女(菊代)の子!」と3人をとことん嫌う。しつけ、の一線を越えた接し方に、宗吉は子供たちとお梅との間に挟まれての針の筵のような生活が始まる。
誰が一体「鬼畜」なのか?
☆菊代の鬼畜っぷり

①3人の子供を連れて宗吉の自宅まできて、現在までの関係を洗いざらい妻のお梅に暴露。
②電車がない(終電の時間を過ぎていた)という理由で宗吉の家に泊まりこむ。
③「あんたが産めなかった子供を私が3人も産んだんだ!悔しいんだろぉ~!」などと、正妻であるお梅の気持ちを逆なでし騒ぐ。
④子供3人を置き去りにし失踪。

鬼畜か否か・・・
①宗吉から生活費をもらえなくなり、3人の子を抱えて困り果て怒りが爆発してしまったんだな~、とまだ庇える。
②いくらなんでも図々しくないですか?(笑)というか、よく居られるよなぁ…と。
③劇中、お梅が子供が産めない身体である、とはハッキリわかるシーンはありませんが、子供を産めない女性にこの高笑いは酷すぎます。
④置き去りにするなんてあり得ません!庄二はまだヨチヨチ歩きの乳飲み子です!せめて悲劇が起きぬうちに迎えにきてやって欲しかった。
…間違いなく鬼畜でした!
☆お梅の鬼畜っぷり
①宗吉が子供たちを気にして部屋を出ようとすると、首をカミソリで切りつける


自宅兼作業場のため、作業場に寝ることになった子供たち、イライラと団扇をはたく菊代が気になる宗吉。
布団を出ようとすると首筋に痛みが走る。「あの女の所に行ったら許さない」お梅は微笑を浮かべるだけだが、カミソリの刃がそう言っていた。
この時、切られても子供たちのいる作業場へ行っていたら、菊代の暴言や失踪はなかったかもしれない。
②まだミルクが必要な庄二の口にご飯を押し込める

ヨチヨチ歩きでちゃぶ台の上に出しっぱなしにされた食べ残しで遊ぶ庄二。お椀に醤油を入れては炊飯器に入れる、おままごとのようだ。それを見つけたお梅は、まだ離乳食、もしくはミルクを必要とする庄二の口に容赦なく米の飯を押し込む。

「庄ちゃん、泡吐いてるよ~」病院に駆け込むと、10日以上続いているであろう酷い下痢、栄養障害と言われる。
けん
ミルクやきちんとした食事を与えられず、庄二は激しい下痢で衰弱していく。
③庄二の顔の上に棚からビニールシートが落ちてもそのままにする

まだ自分で払いのけるのとができない庄二。
けん
ビニールシートが落ちていたのは偶然か、お梅の仕業なのか…。何度目かのビニールシートの落下、激しい身体の衰弱から、亡くなってしまった。
④「汚いっ!」と鋭く叫び、良子の頭に洗濯洗剤をぶっかける

風呂にもろくに入れてもらえていなかったようだ。臭い!と言ってこの仕打ち。ちょうど洗濯をしていた宗吉は、「おばさんに近づかないようにって言っただろう?」と洗ってやるのだったが、なんの解決にもならない。
⑤青酸カリを用意し、利一に少しずつ使ってだんだん身体を弱らせよう!と提案

⑥熱海だの伊豆だのに連れて行って殺害して来いと宗吉をたきつける

「こうすると身元がわからない」と、洋服のタグをすべて切り取る。
けん
遺体となって見つかっても、身元がわからないようにと用意周到。
彼女には子供たちを受け入れようとする気持ちは微塵もありませんでした。優しさや笑顔そんなものもカケラもありません。ただあるのは「あの女」菊代に対しての恨み、憎しみだけでした。
菊代や自分を7年も騙していた夫に対する怒りを、子供たちに、ただただ向け続けていました。7年も裏切りに気づかず、子供ができなかった事を菊代に愚弄され本当に気の毒とは思いますが、お梅のやった事は人のやることではない。まさに鬼畜。ただ、お梅を鬼畜にしてしまったのは菊代、そして馬鹿な亭主の宗吉なのです。
☆宗吉の鬼畜っぷり
①良子を東京タワーに置き去りにする


ゴミ箱に捨てられた良子の大切にしていた人形を見つける利一。親戚に預けられたと聞かされるが納得がいかない。
けん
最後に楽しい思いをさせてやろうとしたのか?、東京タワーに連れてきた宗吉。まだ住所や父親の名前などを覚えていない良子は、展望台で置き去りにされる。その後の消息は不明。
②青酸カリ入りのパンを利一の口に押し込む

宗吉は利一にお梅が用意した青酸カリを入れたパンを食べさせる。が、「苦い!」と言って吐き出してしまう。「さっきは美味しいって言ったじゃないか!さぁ食え!食え!」無理矢理口に押し込める宗吉。暴れて嫌がる利一。通行人に不審がられ、青酸カリパンでの殺害は失敗に終わる。
③利一を崖から落とす

もう名前も住所も言える6歳の利一を捨ててくることはできない。覚悟を決めた宗吉は、能登半島の崖から利一を投げ落とした。
印刷所が火事にならなければ菊代や子供たちと今まで通りやっていけたのかもしれません。菊代が失踪しても、お梅に人並みの母性がカケラでもあれば違ったのかもしれません。乳飲み子の庄二を含め3人の子供を残し失踪した菊代は鬼畜でした。お梅も鬼畜です。しかし、大元を辿っていくと、やはり宗吉が本当の鬼畜に思えてなりません。愛人にも妻にもどっちつかずにイイ顔をし、自分しか頼ることのできない子供たちを見殺しにしたのですから。そして何より罪なのは、2人の女を同時に、一瞬にして鬼畜にしてしまったことだと思います。
ラストシーン


警察で対面する利一と宗吉
けん

「父ちゃんじゃない!知らないおじさんだよ!」
けん

利一の足にすがりつき泣いて詫びる宗吉だった
けん
「しらないおじさんだよ!」と父を庇う利一。自分を崖から投げ捨て、鬼のようになった妻の言いなりで自分を庇うことなく正気さえ失っていった父親を庇った。宗吉は息子の足にすがりつき泣くことしかできなかった。利一が養護施設に送られるところで映画は終わります。
子供の頃に何回か観た映画「鬼畜」。ラストシーンは父を庇う利一に涙しましたが、ミドルエッジ世代になった今、改めて観直すと、ラストシーンの利一の言葉は、父を庇ったんではなく彼の本心だったんじゃないかな?と感じました。
「父ちゃんじゃない!知らないおじさんだよ!」は、
こんな親父いらねぇよ!こんな奴もう係わり合いになりたくねぇよ!お前なんて親じゃねぇよ!と利一の絶縁宣言だったんじゃないかな?そうであって欲しいな、と思うのです。
ちなみに・・・
田中邦衛

大竹しのぶ

子供たち
