闇に葬られた、幻のタイガーマスク実写版
漫画やアニメで長期にわたって熱烈なファンを獲得した、梶原一騎原作・辻なおき作画の『タイガーマスク』。
佐山聡など実在のプロレスラーが扮することで、さらなるファンを獲得し、その人気は現在も衰えを知らない。
2013年にはウエンツ瑛士の主演により初の実写化タイガーマスクとして映画が公開され、大きな話題となった。
だが、はるか以前1990年代に『幻』と言われるタイガーマスクの実写版がアメリカ・ハリウッドで制作されていたことを知るものは少ない。
幻の実写版タイガーマスク『LONE TIGER』

LONE TIGER

主演はブルース・ロック(Bruce Locke)
この『LONE TIGER』は当初、タイガーマスクとして制作されていた。
なぜ、タイガーマスクではなくなったのかは後述する。
これじゃない感が凄い!『LONE TIGER』の内容
タイトルが変更されたとはいえ、タイガーマスクをモチーフにした実写版となれば、ワクワクせずにいられない。
だが、その期待は映像が進むごとに驚きとため息に変わっていく…。

着ぐるみタイプのタイガーマスク

なぜかヌンチャクを使う

虎の穴による地味な特訓

技も地味である…
人気作品の実写化は難しいとはいえ、これは…。
海外の映画批評サイトにおいても評価が低く、タイガーマスク・ファンとしてはこの悲しく切ない気持ちを誰かと共有したくて、この記事を書いてみることにした。
どんな感じなのか、もうチョット見てみたい方に『LONE TIGER』予告編の映像をご案内。
『タイガーマスク』からタイトル変更になった理由…。
『LONE TIGER』の原作は『タイガーマスク・ザ・スター』。
この『タイガーマスク・ザ・スター』は、原作者・梶原一騎の没後の1993~1994年にスポーツ新聞『東京スポーツ』に連載されていた。
原作は梶原一騎の実弟である真樹日佐夫、作画は風忍。
この作品はタイガーマスクのリメイク的な内容となっており、「孤児院で育った青年・紅血勇児(くれない・ちゅうじ)が、謎のマスクマン「タイガーマスク・ザ・スター」としてアメリカの闇プロレス組織から抜け出し、表舞台のWWF(のちのWWE)に転進、やがて日本マット界へと舞台を移していく」という内容であった。
「孤児院出身」、「実在レスラーが登場」、「闇レスラー」など共通点は多いが、掲載紙がスポーツ新聞だったこともあり内容はややアダルト向けであり、アメリカが舞台であることなども異なる。
単行本は2巻まで出て、いよいよ日本を舞台にして日本人レスラーと絡んでいくところまで進展していたが、いくら原作者の弟とはいえ、勝手にリメイクしちゃまずかった。
元の漫画『タイガーマスク』作画担当である辻なおきが「自分に無断ではじめた連載」と連載差止めを要求し訴訟にまで発展。
東京地裁により差止が認められ、未完の状態で『タイガーマスク・ザ・スター』は中止された。
この影響で、漫画と同時にハリウッドで進行していた実写化作品『タイガーマスク THE STAR』もタイトル変更を余儀なくされ、『LONE TIGER』となった。
また、コナミでは『タイガーマスク・ザ・スター』のスーパーファミコン用ゲームソフト化も進行しており、東京ゲームショウで配布されたコナミ社の製品カタログにも新製品としてタイトルやプラットフォームといった概要が発表されていたが、こちらも販売中止となった。

【漫画】タイガーマスク・ザ・スター
『タイガーマスク・ザ・スター』を実写版(LONE TIGER)は、日本ではオリジナルビデオ(VHS)として、『闇のファイター/ビハインド・ザ・マスク』のタイトルで2まで発売された。
DVD化はされていない。

闇のファイター / ビハインド・ザ・マスク1

闇のファイター / ビハインド・ザ・マスク2
差し替え前の「タイガーマスク THE STAR」パッケージも存在していた。

変更前のパッケージ
『LONE TIGER』の教訓を生かした?2013年公開の実写版『タイガーマスク』
『LONE TIGER』での厳しい仕上がりや批評から来る教訓を生かして、2013年公開の実写版『タイガーマスク』では、着ぐるみタイプのマスクを止め、体つきをごまかせるボディースーツ着用にしたのであろうか?
タイガーマスクが実写化されることや、ウエンツ瑛士が主演を務めることから当初は話題にはなったが、「こんなのタイガーマスクじゃない!」との意見が大勢を占め、公開後1~2週間で打ち切りになってしまうほど不人気であった。
この失敗は、ウエンツにとって大きな心の傷となっており、2016年5月29日放送の『ワイドナショー』で松本人志から「タイガーマスク2はないの?」と聞かれ、「やらないよっ!」と強く言い放っていた。
もう当面は『タイガーマスク』が実写化されることはなさそうだ。
いつかまた、実写化企画が持ち上がった際には、このウエンツ版のタイガーマスクと共に、幻のタイガーマスク『LONE TIGER』も教訓にして、多くのタイガーマスク・ファンが満足できるような作品にしてもらいたい。