1970年代に流行った陰謀劇とSFが絶妙マッチ
公開当時、この映画をリアルタイムで観た人は、このチラシのビジュアルを観るだけで〝燃えてくる〟ハズ。走れーッ、ブルーベーカー! 逃げろーッ、ブローリン!
人類史上初の大偉業と讃えられた、1969年のアメリカによるアポロ11号の月面着陸。世界中の人々がテレビに釘付けになって、月面着陸の瞬間を注視した。だが当時、この着陸映像は、アレはどこかのスタジオで撮影された捏造、つまりヤラセ映像なのでは? と一部でささやかれたこともあった。才人ピーター・ハイアムズはそのアポロの偉業とゴシップを元にこの原案を考え、自ら脚本を書き、演出も担当。本作は『破壊!』でデビューしたハイアムズ監督の長編4本目である。
ストーリー(ネタバレ注意)&人物紹介

カプリコン1号の3人の乗組員。左からピーター・ウィリス(サム・ウォーターストン)、真ん中のチャールズ・ブルベーカー(ジェームズ・ブローリン)、右端はジョン・ウォーカー(O・J・シンプソン)。
藝術大全
世界注視の中、人類初の有人火星探査宇宙船カプリコン1号が打ち上げられようとした、まさにその時、乗組員のブルーベーカー、ウィリス、ウォーカーの3人は宇宙船から降ろされて、名も知らぬ陸軍基地へ連行される。本計画の責任者、ケラウェイ博士は3人に、カプリコン1の生命維持システムに致命的な欠陥があり、有人飛行が不可能になったことを告げる。だが計画は無事成功したように見せかけねばならない。博士は3人に、基地内に作られた火星のセットを見せて、そこにしつらえた宇宙船に乗り込んで、火星着陸の瞬間を演じるように説得する。飛行士達は拒否するが、博士は断れば家族に危害が及ぶことを匂わせたので、3人はしぶしぶ〝演技〟することを承諾することになる。
一方、取材部記者のコールフィールドは、友人のNASA局員ウィッターから、この計画に不審な点があると告げられる。コールフィールドが後にウィッター宅を訪れると、そこには見知らぬ女がいて、彼は蒸発してしまっていた。疑念を抱くコールフィールド。すると運転していた彼の車のブレーキがなぜか故障していて、暴走した挙げ句、川につッこむことに。得体の知れない敵の標的はウィッターからコールフィールドに移っており、その目に見えぬ巨大な影は常に彼の行動を監視していた。
宇宙飛行士のブルーベーカー達は、大気圏に突入したカプリコン1号が消滅したという事の展開を知るにつけ、ケラウェイ博士達は自分たちを消す気だと察し、小型ジェット機を強奪して基地を飛び出し、砂漠に逃げる。3人は捕まらぬように3方向に逃げるが、一人捕まり、一人力尽きる。ひとりブルーベーカーだけがガソリン・スタンドで身を潜めていたところ、オンボロ複葉機に乗って彼を探しにきたコールフィードに助けられ、敵の戦闘機から壮絶な追撃を受けながら辛くも難を逃れる。
アーリントン墓地では、事故死したと思われている宇宙飛行士3人の葬儀がアメリカ大統領ご臨席のもとしめやかに行われていた。大統領が弔辞を読み上げる中、墓地の彼方に死線を乗り越えてきた2人の男、ブルーベーカーとコールフィールドの姿があった。

カプリコン1号の疑惑を追究する記者のロバート・コールフィールド(エリオット・グールド)。
オジサン的人生

口説くコールフィールドに肘鉄を食らわす女ジャーナリスト、ジュディ・ドリンクウォーター(カレン・ブラック、左)。
映画と暮らす、日々に暮らす。

ジェームズ・ケラウェイ博士(ハル・ホルブルック)。ブルーベーカーの良き理解者であり有人であった彼は、いつしか政府機関の薄汚れた官吏に。
【映画】カプリコン1|『問題ねぇだろう!!』

ブルーベーカーの妻・ケイ(ブレンダ・バッカロ)。
Desmondのブログ いいじゃん!
製作途中で協力をキャンセルしたNASA
当初NASAは本作に関わる宇宙科学的な全分野に於いての協力を惜しまず、劇中に登場する宇宙飛行機の船艇、機器(金額にして50万ドル以上)などが貸し出された。ところが製作途中でラッシュ(荒編集された撮影フィルム)をNASA局員に見せたところ、態度が一変。翌日から一切の協力を受けられなくなった、という(公開当時のパンフレットより)。これは当時、1969年のアポロ11号による月面着陸の映像が、アメリカによるでっち上げ、つまりNASAが捏造(撮影)したものではないか、という風評がまだ残っていたから、それに過敏に反応したものか。

ケラウェイの説得
入間洋のホームページ

火星到着の〝世紀の一瞬〟、ただいまオンエア中!
naocrueのナオブロ

こちらがウソんこの着陸シーン。
映画ナタリー

これがホントの着陸シーン。
徒然映画日記。
『ブリット』の名スタントマンが激走シーンを担当

車載カメラによる車暴走シーン。
超個人的中年映画劇場
NASA局員の中で唯一、カプリコン1号の火星飛行に疑念を抱いていたウィッター(ロバート・ウォーデン)が〝失踪〟し、友人のコールフィールドはこの計画の裏にあるカラクリに気づく。だが気づいた途端に運転していた車のブレーキが効かなくなって、今度は彼が〝疾走〟。この暴走シーンは、カーチェイス映画の2大名作であるスティーブ・マックィーンの『ブリット』、ジーン・ハックマンの『フレンチ・コネクション』両作でカースタントを手がけた名ドライマー、ビル・ヒックマンによるもの。ムスタング・クーペのバンパーの下に特殊カメラを仕込んで、平均時速100キロ(最高時は160キロ)でロングビーチ市街を走り回って撮影された。
あたかも自分が暴走車を運転しているような錯覚にとらわれる名シーンだが、製作者のポール・N・ラザルス3世はここを「カットしろ!」と命令。しかしハイアムズ監督はそれを無視して本編に使用し、大成功を収めている。
灼熱の砂漠で壮絶なサバイバル
陸軍基地からジェット機を強奪して脱出してきたブルーベーカー達だったが、ガス欠から砂漠のまっただ中に不時着。3人は敵に見つからぬよう、それぞれ西・北・南の方角へ逃げるのだが、機内にあった救命キットの乏しい水と食糧しかなく、うだるような砂漠の中をうろうろと彷徨することに。ある者はのどの渇きに負け、ある者は険しい崖で力尽きる。
ただ一人がんばり続けるブルーベーカーも、敵のヘリを避けて入った横穴でガラガラ蛇に遭遇。だが頭を潰して蛇を殺した彼は、その腹を割いて生き血をすする・・・。このシーン、脱獄映画『パピヨン』の中でスティーブ・マックィーンがゴキブリを食うシーンとともに、当時、かなりショッキングでありました。

西・北・南の3方向に逃げる3人の宇宙飛行士。
LOOSER MOVIE LOVER COLD FISH

ヘタレなウォーカー(O・J・シノプソン)は早々に見つかって・・・。
LOOSER MOVIE LOVER COLD FISH

砂をかぶって敵のヘリをやり過ごすブルベーカー(J・ブローリン)。
REAL SOUND リアル・サウンド映画部

サソリに顔を這われるブルーベーカー。
LOOSER MOVIE LOVER COLD FISH

3人が逃げ回った場所-ロケ地。
地球探検の旅
地上との間隔54センチ! スレスレのやッべぇスカイ・アクション
カースタントが『ブリット』『フレコネ』なら、空撮のスカイ・アクションは大作『華麗なるヒコーキ野郎』で驚異のアクロバット飛行を実現した、ハリウッド一の航空専門家にして凄腕パイロット、フランク・トールマンが担当。まずトールマンは、コールフィールドとブルーベーカーが乗った農薬散布の複葉機と、それを追撃する空軍ヘリとのチェイスシーンのシーン(コンテ)を組み立て、それに基づいて驚くべき撮影法を考案。それは、特撮用のヘリの真下に新開発したカメラ・マウントを取り付け、キャメラマンがヘリに宙吊りになって撮影する、という超危険なやり方で、時速145マイルでブッ飛ぶ複葉機とジェット・ヘリをカメラで追いながら、時にキャメラマンは地表すれすれ54センチでかすめたことも。この手に汗握る空撮シーンは、カリフォルニア州モハベ沙漠で撮影された。

傷ついたブルーベーカーを収容するアルバイン運転の、旧式複葉機。
Real Sound|リアルサウンド 映画部

ブルーベーカーを救助した民間の複葉機を襲う空軍のジェットヘり。
懐かしの映画館近松座
70年代のハリウッド・スターとTVの人気者が大競演!
エリオット・グールドやカレン・ブラック、ジェームズ・ブローリンといった、70年代を代表するハリウッド・スターに伍して、本作には当時の人気テレビ番組を彩っていたTVスターが出演。まずは農薬散布用の複葉機を操縦する、儲け役・アルバインのテリー・サバラス。サバラスと言えば、CBSのテレビドラマ『刑事コジャック』でダンディで人情味ある警部補を演じて大人気で、『終身犯』『特攻大作戦』『女王陛下の007』『戦略大作戦』と60年代から70年代にかけてスクリーンでも活躍。
もう一人は、グールド扮する新聞記者コールフィールドの上司、取材部部長ウォルター・ローリン役でお懐かしやデビッド・ドイルが顔を見せる。ドイルはこれも当時の人気ドラマ『チャーリーズ・エンジェル』で3人の女私立探偵をサポートする副参謀ボスレーをユーモラスに演じて人気を博していた。

農薬散布を生業とするA&A社の社長アルバイン(テリー・サバラス)
シネマ・イラストレイテッド

コジャック役のテリー・サバラス。ダンディー ~ ♪
貴重な暇な時間

部下のコールフィールドをドヤしつける取材部の上司ローリン(デビッド・ボイル、左)。
超個人的中年映画劇場

チャールズ・タウンゼント探偵事務所の男性スタッフ、ボスレー(デビッド・ドイル)。
かずワールドへようこそ!
併映のパニック大作を凌ぐ面白さ-地方では『オルカ』と2本立て。

公開前は『オルカ』がメインだった。
CINEMA-TIMES
『カプリコン・1』の製作会社はイギリスのITCというプロダクション(主宰は製作者のサー・ルー・グレイド)で、よって英米合作なのだが、世界で初めて公開されたのはイギリスでもアメリカでもなく、我が日本。しかも珍しいことに上映時間が米英が123分で、日本が129分と日本版が6分も長い。昭和20~40年代あたりまでは、欧米作品は日本公開にあって幾分カットした短いバージョンを上映することが多かったから、日本版の方が長いというのはかなり珍しい。
本作は東宝東和配給で公開されたが、東京など大都市圏では1本立てのロードショーだが、地方ではこうした場合、同じ配給会社の別作品と抱き合わせ、つまり2本立てで公開されるのが常で、実はこの時、『カプリコン・1』は併映作品であり、レコードでいえばB面扱い。メインはリチャード・ハリス主演の『オルカ』だった。『オルカ』は、この2年前に大ブームを起こしたスピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975)にならった海洋パニック・アドベンチャーで、シャチの一種である凶暴なオルカを捕ろうとする人間の愛憎劇とオルカ親子の愛情(そして復讐)を描いた重いドラマだった。ところがフタを開けてみると、その重いドラマの『オルカ』よりも、権力批判を加味したエンターテイメントの『カプリコン・1』の方が人気が高く、批評家筋にも広く支持されたのであった。
語感は似てるが・・・カプリコンとグリコのカプリコは無関係

ジャイアントカプリコ <いちご>
『カプリコン・1』とグリコのカプリコは語感は似ているものの、当然ながらまったく関係がない。映画の〝Capricorn〟はヤギ座、もしくはギリシャ神話に出てくる「角のある海ヤギ」を意味していて、宇宙に向かって打ちあげられるロケットの形状がそれに似ていることから命名されたと思われる。ではグリコの〝Caplico〟(正式名称はジャイアントカプリコ)がそれを真似たかといえば、さにあらず。何故ならカプリコの発売は映画公開(1977=昭和52年)に先立つこと7年も前の昭和45年なのだ。真似たとすれば映画の方ということになるが、別に真似たわけではないだろう。
しかしグリコのカプリコも形状は円錐形で(逆ロケット型?)といってもいいから、カプリコを食べると『カプリコン・1』を思い出すって人もいるのでは (いないか)。とにかく、昭和40年代に小・中校生だった我々には懐かしいアイテムだ。
「捏造余話」その1 ヤラセでなく実際に元妻を殺したO・J・シンプソン

NFLのスーパースター、O・J・シンプソン。
宇宙飛行士の一人、ジョン・ウォーカーを演じているO・J・シンプソンは、アメリカでもっとも人気の高いプロアメリカン・フットボール(NFL)のスター・プレーヤー(ランニングバック)で、引退後はこの『カプリコン・1』を含め大作級の映画に多数出演。ところが1994年、この人はヤラセでもなんでもない、本当の犯罪に手を染めてしまう。それも自分の元妻ニコールとその知人男性ロナルド・ゴールドマンを殺した廉で逮捕されたのだ。しかも逮捕の時、パトカーを振り切って逃げるシンプソンの車を空撮ヘリで追跡した映像が全米に生中継される(これもヤラセではない)という、まるで映画みたいな大暴れを演じた。元スター・プレイヤーの殺人事件として騒がれたこの事件は、シンプソンを取り調べた捜査員に人種差別があったとかなかったとか、とにかく敏腕弁護士の巧みな戦術でもって、シンプソンはまさかの無罪をつかむ。
無罪になったとて芸能界復帰はままならず、では大人しく過ごしていたかと言えばそうでもなく、かさんだ弁護費用のタシにと売りに出した、ハインズマン・トロフィー(カレッジ・フットボール界における最大の栄誉)を取り戻すために、某ホテルに忍び込んで逮捕。2008年に合計33年の懲役刑を言い渡されてしまう。かくして、O・Jは今もまだムショの中ってわけである。

事件を伝える続報記事-世界のメディア・ニュースより
「捏造余話」その2 『カプリコン・1』公開後38年目の新展開=『ムーン・ウォーカーズ』

『ムーン・ウォーカーズ』(2015、フランス=ベルギー)
映画『ムーン・ウォーカーズ』公式サイト
『カプリコン・1』は火星着陸のヤラセだが、ハイアムズ監督が参考にした「アポロ11号の月面着陸(1969年7月20日)についてのヤラセ=捏造」について最近、注目された出来事がある。それは巨匠スタンリー・キューブリック監督が生前に発表したといわれる驚くべきコメント「月面着陸は捏造、私が撮影した」というもので、死後15年たって公にされた。コレは今やキューブリックにまつわる都市伝説とされており、確かにキューブリックはアポロの月着陸の前年に、SF映画の名作『2001年宇宙の旅』(1968)を完成・公開させており、当時、この分野の特撮映像を撮らせるには最適の人物であった。でも、コレって本当か?
そして、昨年(2015)、このキューブリック発の都市伝説を映画化した作品が作られた。それが『ムーン・ウォーカーズ』だ。ただしこちらはアポロの月面着陸の捏造疑惑を糾弾する、といった感じのシビアなテイストではなく、大胆にコメディ化にしたもので、その伝説自体を遊んでしまおう、という奇抜かつブロークンな出来映え(ソコが魅力)。とはいえ、そう考えるとピーター・ハイアムズ監督が着想した『カプリコン・1』は、そのエスプリな想像性は、かなり時代を先駆けていたとも言えそうだ。
そのハイアムズ監督は『2001年宇宙の旅』の続編にあたる『2010年』(1984)を監督している。ネット上の情報によれば、キューブリックとハイアムズには交流があり、その流れで『2010年』をハイアムズが監督することになったようだが、だとすればこの『カプリコン・1』の「火星着陸ヤラセ大放送の陰謀劇」にもキューブリックが一枚噛んでいるのでは。
「月面着陸は捏造、私が撮影した」スタンリー・キューブリック死後15年目の告白動画が話題! やはりNASAは月の秘密を隠している!?