ガッツ石松  伝説の男は幻の右でKOしガッツポーズとってOK牧場

ガッツ石松 伝説の男は幻の右でKOしガッツポーズとってOK牧場

プロテストは2回目で合格。世界チャンピオンになるまで10敗以上。そして層の厚いライト級で世界タイトルを5度防衛。間違いなく偉大なボクサーである。


上京

東京都品川区
小さな町工場が並ぶ一角に
ガッツ石松がの就職先があった
工場で出来上がったネジを自転車に積んで配達し
ステンレスのブラシで機械の汚れを落とし
布で磨き油をさした

3日後、駅のゴミ箱で拾った新聞で
日暮里の弁当屋の仕事を見つけ
その日のうちに強引に働き出した
ネジ屋で学んだことは安易に夢を口にしないことだった
密かにボクシングへの想いを燃やしつつ働いた

ヨネクラジム

上京して1年
「この近くに米倉ジムっつうのがあんべ」
ある日、再会した栃木の同級生がいった
この何気ない一言で決まった
次の日、ガッツ石松は
仕事後、入会金と月謝を持って米倉ジムに向かった
暗い路地にジムの明かりが漏れていた
中では男たちがひたすらトレーニングに励んでいた
「こんにちは」
「なんだ!」
「あのオラ、ボクシングがやりたくて
よろしくお願いします」
「入会希望か
この紙を書けや」
と紙と鉛筆を渡された
住所、氏名、年齢、希望を記入するようになっていた
希望にはアマチュアとプロの選択
「ボキッ」
プロと書こうとして力が入り鉛筆の芯が折れた
「あっ」
「どうした」
「あの鉛筆が」
「しょうがねえなあ、ホラ」
投げられた2本目の鉛筆もまた折れ
3本目でやっと書き上げた
「鈴木有二
プロ希望か
俺はトレーナーの松本だ
厳しいぞ
やれるか」
「はい!
よろしくお願いします」
「おう!
ロッカーはそっちだ」

松本清司トレーナー

サンドバッグが1つ空いていた
ガッツ石松はそっと近づき
1発、ドスッと殴った
1年ぶり、柿の木以来だった
「気持ちいいべ」
夢中で殴った
「今までやったことあんのか?」
いつの間にか松本トレーナーが立っていた
松本清司トレーナーは
「ボクシングの鬼」と呼ばれ
愛弟子を試合中の事故で亡くした後も
男たちをリングに送り出し5人の世界チャンピオンを生み出した伝説のトレーナーで
自ら「ボクシング中毒」と公言していた男だった
「いえ」
「ふーん
おい、誰かこいつにグローブつけてやれ」
いわれるまま生まれて初めてグローブをつけてもらった
「準備できたらこっち来いや」
リング上から松本トレーナーが呼んだ
「沢登、お前相手してやれ」
いきなりのスパーリング
ファイティングポーズをとれたのは最初の15秒だけ
喧嘩腰で向かっていったが
ガンガン、パンチをもらい
3R目にガックリ膝を折ったオエオエとえづいた
「よーしそれまで
沢登、どうだ?」
「いいんじゃないすかね」
「そうか
おい鈴木
明日からもちゃんと来いよ」
松本トレーナーは歩いていった
「おい」
沢登が手を伸ばしガッツ石松を助け起こした
「大丈夫か?」
「ああ」
「まるで喧嘩だな
面白いよ
けどな
ボクシングは喧嘩じゃない
スポーツだぜ
それだけはキッチリ区別しろよ」
「そうけ
じゃあオラ、喧嘩とボクシングの両方でそのうちおめえをぶっちめてやる」
「強気だな」
「弱気でボクシングなんかできねえべさ
オラいつかチャンピオンになんだ」
「どっちが先にチャンピオンになるか
その相談も兼ねてこれからメシ食うってのはどうだ?」
「いいな!」

米倉ジムに通って4ヶ月
17歳をなるのを待ちかね受けたプロテストは不合格だった
「お前のはボクシングじゃねえ」
松本トレーナーにいわれた
スパーリングでは相手を圧倒した
しかし荒っぽすぎた
まるで殺し合いのようだった
次の日ジムにいったときのこと
「こんにちは」
「おお何しに来た」
「あの練習に」
「そうか
まだやるか」
「はい」
松本トレーナーはニヤッと笑った
「心配するな
大丈夫だよ
とにかく脇を締めて大振りはしないこと
荒い癖のついた自己流は嫌われるからな
それだけ気をつければ大丈夫だ」
沢登にいわれた
「けどオラ不合格だ
おめえは1発で合格だったんだんべ?」
「俺は器用なだけだよ
でもお前は違う
どこまで強くなるのかわからない
コワいよ」
ガッツ石松は
1ヵ月後のテストでプロボクサーになった

鈴木石松となる

デビュー戦を1RKO
その後も連勝した
5戦目は不慣れなサウスポーを相手に判定負けした
「しょうがねえなあ」
と米倉会長は
ガッツ石松を
ジムの後援会長であり安土桃山時代の武将、蜂須賀小六の末裔だという蜂須賀氏に引き合わせた
「お前の面構えは森の石松そっくりだねえ」
「はっ?」
「決まりだ
今日からお前は鈴木石松だ」
「いいですねえ
ついでに三度笠に道中合羽でも羽織らせますか」
「ちょんまげ結って刀差すってのはどうだ?」
わっはっはと会長たちは盛り上がっていた
そして6戦目、
三度笠、合羽姿で登場
合羽をからげて
三度笠を客席に向げ投げポーズをとった
「(ゴチン!)痛ェッ!」
笠が大きく弧を描いて後頭部に直撃した
会場は大ウケ
レフリーと対戦相手も笑いをこらえていた
そしてこの前回負けたサウスポーボクサーとの再戦を引き分けた
この後、月1回というハイペースで試合をこなしていった

石松組

「一途もいいけど
硬すぎる刀は折れやすいってな
俺みたいなナマクラでちょうどいいのさ」
そういう沢登に誘われ
ジムの帰り道に酒を飲み
仲間内で花札をやった
さらに沢登からイカサマ技も教えてもらい
ジムの仲間から小遣いを巻き上げるようになった
博打で金を得るようになると弁当屋をやめた
親分肌のガッツ石松の周りには自然と仲間が集まってきた
その中には栃木時代の仲間もいた
彼らは自らを「石松組」と呼び
花札で遊び
お姉ちゃんをからかい
侠気を競い合った

やがて石松組は白タク
(営業許可を受けず自家用車でタクシーをすること)
を始めた
定職がなくなり自然と生活は荒れたが
ジムでの練習は力が入った
鼻息を荒くしてがむしゃらにパンチを叩き込んだ
そして全日本ライト級新人王となった
同期の新人王にウェルター級の輪島功一がいた
ガッツ石松が19歳のときである

世界挑戦1

20歳で
ガッツ石松は
東洋太平洋ライト級チャンピオン:ジャガー柿沢に勝ち
ジャガー柿沢が挑戦するはずだった世界タイトルマッチに挑むことになった
試合はパナマで行われた
「ピー、エヌ、エー、エム
オラの飛行機だべか
パナマって書いてある」
そういってガッツ石松はパンアメリカン(PANAM)航空の飛行機に乗った

自分を、自分の拳を信じられる者と信じられない者

パナマから帰ってくると
また石松組の面々に囲まれ
ボロアパートでイカサマ花札を引いて
ジムで1時間半ミッチリ練習し
白タクを転がす生活に戻った
ガッツ石松に限らず
チャンピオンになれない多くのボクサーは悲惨だった
夢をあきらめて世間の片隅で生きていく者
ヤクザな用心棒に身を落とす者
覇気をなくし生きていく者
多くの者が落ちていく世界だった
しかしたとえチャンピオンになれなくても
たとえ試合に勝てなくても
自分を、自分の拳を信じられる者がいる
チャンピオンになれるかなれないかではなく
自分を信じられるか信じられないか
それこそボクシングの本当の意味なのかもしれない
沢登は
ボクシングを引退した後、自殺した
ガッツ石松は
悔しかった
悔しくて腹が立った
「いっぱしの男になる
絶対に勝たくなくちゃならねえ」
と誓った
ガッツ石松は土壇場で自分を信じられる男だった

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