ガッツ石松  伝説の男は幻の右でKOしガッツポーズとってOK牧場

ガッツ石松 伝説の男は幻の右でKOしガッツポーズとってOK牧場

プロテストは2回目で合格。世界チャンピオンになるまで10敗以上。そして層の厚いライト級で世界タイトルを5度防衛。間違いなく偉大なボクサーである。


世界挑戦2

ガッツ石松となる

そしてこの後
「鈴木石松」は「ガッツ石松」に改名することになった
とうとう本名:鈴木有二は欠片もなくなった

エディ・タウンゼント

米倉会長は
エディ・タウンゼントをガッツ石松のトレーナーにした
伝説の名トレーナーである
「OK、ボーイ
あのネ
ボクシング、戦争ネ
戦争、相手殺す
OK?
負けること死ぬことネ」
(そうだ
勝たなくちゃなんにもならねえ
負け方考えていたオラはとことんバカだ)
「大丈夫
きっと勝つネ」
そういってエディはガッツ石松の手を覗き込んだ
「ナイス、ボーイ
この手、チャンピオンの手
OK?」

ガッツ石松は他人に強制されることが大嫌いで
万事独立独歩だった
トレーナーの命令でロードワークに出ると
途中で近道をして水道の水を浴びて全力疾走したようにみせた
「Hey、ガッツ、6時よ」
「エディさん、オレ眠いよ」	
「OK、じゃあ何時?
9時?
10時?
ハイ、10時ね」
「あ、起きます」	
「OK、走るね、GetUp」
エディはあくまで選手がやる気になるまで待った
そうされるとガッツとしても自然と起き上がれた
ガッツは初めて嫌いなロードワークを走り込んだ
こうしてすべて自分の責任においてトレーニングするのでごまかしは自分の損である
石松とエディのフィーリングはピッタリ合った

そして左を嫌になるほど繰り返した
「ガッツ
あんたの左はすっごく強い
でももっと強くなれる
あんたの打ち方は肘が上がっている
これだとパンチの力が抜けるのよ
左の脇を締めて下から上へ突き上げるの
アッパーで打つの」
エディの左手のミットを出したまま石松に左ばかり打たせた
「ミミズだって、体半分ちぎれても、コンチクショーって暴れるでしょ
もっとガッツがあるところみせてよ」
左、左、左、左である
それをバリエーションをつけていく
左ジャブ、左アッパー、左フック、左ボディ
ボディは相手のレバー(肝臓)をえぐる角度で打つ
10発20発と左を打った後、右を1発だけ打たせる
石松はうれしくて猛烈なパワーで右ストレートをぶち込む
パンチが生きるようになるまでエディはミットを受け続けた
ガッツクラスのパンチを受け過ぎると茶碗が持てなくなるがエディはかまわなかった
次はディフェンスの問題
石松はボディが弱かった
「ガッツ
ボディ空いてるね
それは肘でカバーするの
エルボーブロックね」
エディは拳を捻って肘を張ってカバーする防御を教えた

ガッツ石松は練習嫌いだとよくいわれた
確かにロードワークは嫌いだったが
ジムワークは好きで
スパーリングは大好きだった
ただしあくまで自己流にやった
ボクサーの三戒、酒、煙草、女も大歓迎だった
エディはいつもショートホープ、ハイライト、セブンスターを持ち歩くヘビースモーカーだが
ガッツ石松はエディに煙草をせびった
「オオ、ボクに煙草くれいうのガッツだけね」
そういいながら1本あげる	
そして練習はめいいっぱいやった	
「ガッツ
もういい
ストップよ」
そうエディが牽制するほどやった	
「ガッツ、練習キチガイよ」

世界挑戦3

3度目の世界挑戦に備え
伊豆の吉奈温泉で行われたキャンプでは
10kmの山道を駆け上がった
その後ろをスクーターに乗ったエディが追った
ガッツ石松の戦績を見ると冬に強かった
寒い季節にはKO勝利が増えている
寒いとスタミナが失われずにすむらしい
チャンピオン:ロドルフォ・ゴンザレスとの試合は1月
ガッツ石松は密かにほくそえんでいた
しかしゴンザレスが
ロスでトレーニング中に毒蜘蛛に刺され試合を延期したいと申し入れてきた
試合まで2週間という時だった
ガッツ石松は得意の冬の試合はパスされてしまった
「頭にきたぜ
俺が絶好調と知ってあの権兵衛は逃げたんだ
ロスまで行ってぶん殴ってやりたいぜ
こうなりゃオレはリングネームをスパイダー石松に変えて
野郎が日本に来たらブスリと毒針を刺してやる」
試合は4月ごろに延期になるため
異例の3度目のキャンプが行われた
延期はむしろラッキーだった
エディは左レバーブローを教えることができた

延期されていたガッツ石松の世界挑戦の日時が決定し
米倉会長は池袋のスナック:メモリーで記者会見を開いた
この時の思い出にふれるとエディは涙ぐんでいう
「たくさん記者を招いたの
でも来たのはたった5人よ、5人
ガッツ、かわいそうね
誰もガッツ、勝てない思った
それで5人しか来なかった
涙出るよ」
寂しい光景に米倉ジムのスタッフはがっかりした
独りガッツ石松だけは平然としていた
「来ないのは当然よ
これまでのオレの実績を考えてみろよ
オレが勝てると誰が思うものか」
長い下積みをくぐってきて無視や冷遇に対する耐性ができあがっていた
所詮この世は力がすべてなのだ
閑散とする記者会見パーティーの光景をみながら気にもとめなかった
「なんつたって実績がなければ誰も相手にしてくれないぜ
その代わり勝てばこんな狭いスナックなんか足の踏み場もなくなるほど人が詰め掛けるだろう
それが世の中というもんよ」
チャンピオン:ロドルフォ・ゴンザレスが羽田に到着
空港貴賓室で会見を行った
「毒蜘蛛に刺されたのは不覚だった
右膝がフットボールみたいに腫れてしまった」

ガッツ石松とエディは赤坂プリンスホテルに入った
ホテルの脇の坂道でガッツ石松自慢の外車がエンジンストップしてしまった
試合が近い選手に車を押すなんてさせられないよと
エディは石松を運転席に残してウンウンいいながら後ろから車を押した
「ガッツ
車はやっぱり乗るもので押すもんじゃないね」
やっと動き出した車の助手席でエディは息を弾ませて笑った
石松はそんなエディの気持ちに応えたいと思った
「エディさん
オレ必ず勝つよ
相手も人間
オレのパンチが当たったらKOさ」
「そうよガッツ
あんたは強いよ
勝つ負けるはあんたの気持ちの問題よ」
石松は過去2度の世界挑戦ではどうせ負けると思いろくな練習もせずに乗り込んだ
それで後にラグナ、デュランという名チャンピオンを相手に10Rまで耐えた
倒れたのはパンチが効いたのではなく
練習不足によるガス欠でイヤ倒れしたことを本人は自覚している
今回はたっぷり練習した
負ける気がしなかった
一方、米倉会長は頭を抱えていた
試合の4月11日は
春闘の交通ゼネストがされる日に当たっており
チケットの払い戻しが続々始まり試合の収益がどんどん逃げていった
「試合会場は閑古鳥が鳴くのでは・・・・」

ロドルフォ・ゴンザレス1

試合当日、
大規模なストが打たれ
早朝から鉄道、地下鉄、バスといった交通網がストップ
背景には
前年のオイルショックと
それに伴う便乗値上げによる物価の狂乱が今年まで流れ込み
生活の危機感の高まりがあった
夕方になると徐々に交通機関が運行され始め
試合会場の日大講堂には7000人の客が入った
2ヶ月前の同会場で行われた柴田国明の世界戦の半分の入りだった
ゴンザレスは
57戦52勝42KO5敗
KO率は73.7%
ボクシングをやる前に殺人の刑で服役したこともあり
リングでも1人殺している
ガッツ石松は
36戦25勝13KO11敗
KO率36.1%
戦前の予想は石松不利

8R
ゴンザレス、ジリジリと攻め石松をロープに詰めた
その瞬間、石松の左フックがゴンザレスの顔面へ
間髪いれず右ストレートを突き刺す
ゴンザレスがスローに前のめりに崩れていく
「ウォー」
ガッツ石松はニュートラルコーナーの走っていき右グローブを高く掲げた
レフリーのカウントが遅い
後のタイムキーパーの証言では15秒かかっている
身びいきのロングカウントだろう
意識朦朧のゴンザレスが立ち上がった
ガッツ石松は左右フックで襲いかかる
ゴンザレスはヨロヨロと後退
石松の右が当たる前に倒れた
レフリーはこれをスリップと判断
さらに仰向けになっているゴンザレスを両手を持って引っ張り起こそうとしている
ルールではレフリーはブレークの時以外選手に触れてはいけない
「ダウンだ!」
米倉会長が叫び
エディは英語で喚きながらコーナーポストに駆け上がった
ガッツ石松は
レフリーが不等にチャンピオンを勝たせようとしていること
このまま続行しても自分の勝ちは動かないことを確信した
そして自陣のセコンドがリングに入りでもしたら反則負けにされるかもしれないと思った
ガッツ石松はニュートラルコーナーから自分の青コーナーに行って叫んだ
「エディさん、黙って
大丈夫
オレ、あいつを殺すから
必ずぶっ倒すから黙っていて」
レフリーに無理やり起こされたゴンザレスはファイティングポーズをとった
ガッツ石松は猛然とラッシュ
2分12秒
ゴンザレスは崩れ落ちた

幻の右

「やったぞ」	
石松は吼えた	
(ざまあみろ、このヤロー)	
何か得体の知れない黒い巨大なものに対して心の中で怒鳴っていた	
帰りの花道でファンに胴上げされた	
控え室で新チャンピオンは矢継ぎ早に質問を受けた	
「フィニッシュのパンチは覚えてる?」	
「もちろん覚えてますよ	
あれがオレがいう幻の右です」	
「あれはストレート?フック?」	
「それがわからないところが幻のパンチでしょう	
あれはいつもはジムで打たない	
出すとパートナーが来なくなっちゃうから	
そのためしょっちゅうパートナー呼んでくれ	
いや相手がつかまらないで会長と喧嘩ですよ」	
石松は少しも疲れていなかった	
これからもう1人相手にして防衛戦やっても大丈夫と思うくらいだった	
スカッとした快勝で舌がよく回転し記者会見は独演会となった
この夜、赤坂プリンスホテルで祝勝会が開かれ
石松は元石松組員たちと徹夜マージャンに興じ
翌朝6時に妻子のいる我が家へ帰った

ガッツポーズ

「ガッツ」を国語辞典で調べると「guts」「根性」
「guts」は英和辞典では「腸」とか「中身」という意味もあるらしい
これが転じて「根性」とか「強い精神力」というような意味が生じる
ガッツ石松が世界チャンピオンになったときとったポーズを
新聞は「ガッツポーズ」と表現した
またこのガッツ石松が世界チャンピオンになってガッツポーズをとった日、
4月11日は「ガッツポーズの日」でもある

世界が変わった

その後
世界がガラリと変わった
後援会からお声がかかり
高級料亭、会員制クラブ、超高級店でご馳走され
ご祝儀ももらった
時給350円のバーテンダーは一夜で数百万の現金を得ることができた
初めてテレビにも出て
持ち前のサービス精神とノリのよさに
その強さだけでなく
そのユニークさでも圧倒的な人気を得た

チェリー・ピネダ1(初防衛戦)

名古屋市愛知県体育館でガッツ石松の初防衛戦が行われた
挑戦者は世界ランキング10位のチェリー・ピネダだった
試合2日前のパレードで
人前が大好きなガッツ石松は上着を脱ぎ捨ててハッスルした
90分のパレードを終えホテルに帰ると
減量前の栄養状態の悪さのせいか風邪を引いていて注射が打たれた
そのためか試合は凡戦だった
挑戦者が攻めチャンピオンは後退しカウンターを狙う
そんな消極的な展開が淡々と続いた
エディはイライラし始めていた
12Rまでガッツ石松はポイントで負けていた
「Hey、ガッツ!
あんた負けてるよ
何やってるの!」
ガッツ石松はハッとした
「何!
オレ負けてるの?
それ早くいってよ」
13R
ガッツ石松は遮二無二出た
この攻勢がポイントとなって辛うじてドローとなった
危ない防衛だった
おそらく外国での試合ならタイトルを失っていただろう

ロドルフォ・ゴンザレス2 (2度目の防衛戦)

ガッツ、これケンカよ

11Rが終わりコーナーの戻ると	
石松はエディにクレームをつけた	
「左ジャブ出せ、足使え、頭振って	
それをいってよ」	
エディは耳元で怒鳴った	
「あんた何いってるの
あんたこの試合負けてるの
左ジャブ、頭、足?
そんなもの関係ないよ
よく聞きなさい
ガッツ、これケンカよ
あんた得意でしょ?
ケンカよ、ケンカ」
(おお、そうか!)	
石松に急に電源が入った	
エディは石松の頭を両手でつかんでグイっとゴンザレスの方にに向けた	
「あいつの顔よくみろ
みろ!
これケンカよ
ケンカよ」
エディは耳元で何度もケンカと怒鳴った	
ガッツ石松の中で闘争本能がムラムラと蘇った	
キッとゴンザレスを見ると幸せそうな顔をしている
ムカッと腹が立ってきた
(ようし上等だよ
このヤロー
ケンカやってやろうじゃないか)
12R
(テメエ、クッソー、このヤロー)
石松はグローブを胸の前でバシバシ打ち合わせ口の中でブツブツいっている
やる気だ
終盤、ゴンザレスが不用意に詰めたところを
ガッツ石松は左フックで一閃、次いで右ストレートを打ち下ろす
ゴンザレスは顔面がぶち抜かれ
ヨロヨロとリングを横切り後退し反対側のロープへもたれた
ガッツ石松は刀を抜いたように右グローブを振りかざし突進した
顔面をカバーしロープを背負ったゴンザレスをガッツ石松の蛮刀が滅多斬りにした
ゴンザレスは動かなくなった
石松はロープに躍り上がり両手を上げて派手に吼えた
再び奇跡を起こしたのだ

ケン・ブキャナン(3度目の防衛戦)

チェリー・ピネダ2(4度目の防衛戦)

4度目の防衛戦はチェリー・ピネダとの再戦
危なげなく判定で勝った

アルバロ・ロハス(5度目の防衛戦)

5度目の防衛戦はアルバロ・ロハス
10Rに右アッパーでダウン寸前に追い込み
14Rに同じく右アッパーでKO
5度目の防衛に成功した
しかしこの頃から減量がきつくなり始めた
世界戦前の合宿でさえ
夜は女を引っ張り込むガッツ石松は
試合後は
節制などせず
酒や肉やと美食三昧だった
そのため非常にきつかった
この試合では19kgも減量した

名チャンピオン

エステバン・デ・ヘスス(6度目の防衛戦)

入札戦

WBC本部からガッツ石松に試合について打診があった
王者ガッツに挑む挑戦者はエステバン・デ・ヘスス
強打とテクニックをあわせ持ち
かつてロベルト・デュランを破ったこともある
この試合はWBC本部からの指名試合、つまり義務づけられた試合で
その上、試合の日時と場所はオークションで決めることが指示されていた
タイトルの認定権を持つWBC本部の命令は絶対である
WBC本部はメキシコにあり
中南米のボクシング関係者が
利権を得ようと日本からタイトルを奪取しようと策動しているのは明らかだ
この指示を無視すればタイトルを剥奪するだろう
米倉会長は怒りを屈辱を忍んでメキシコシティに飛んでオークションに参加した
相手はメキシコのサリナスプロモーションだった
米倉会長はオークションに勝つ自信があった
経済大国日本が中南米のプロモーターに負けるはずがない
オークションはホセ・スライマンWBC会長のオフィスで行われる
米倉会長は
15万ドルが相場と読み
20万ドルを呈示することを決めたが
ダメ押しでポケットマネー1万ドルをプラスし21万ドルを呈示した
しかし蓋を開けると相手は25万ドルを呈示し
日本側は4万ドルで負け
サリナスプロモーションは興行権を握った
内訳はチャンピオン:20万ドル、挑戦者:5万ドル
試合の場所はサンファン
期日は4月17日
当時の為替で1ドル=300円
石松のファイトマネーは6000万円となる
「まったくひどいもんです
こっちの読みの甘さもあるけど、
25万ドルとは驚いた
プエルトリコ側がそんなに払えるわけがない
これには日本のテレビ局がからんでいるんですよ
こっちの情報が筒抜けの上
同じ日本の資本で争っているんですから馬鹿馬鹿しいったらありゃしない
こんなことやってたら挑戦者のほうが強くなって世界チャンピオンの権威はガタ落ちだよ」
羽田に帰ってきた米倉会長が憤慨やるかたない表情で語った
「なんでオレばかりこんな目に遭わなきゃならないんだ
どうして米倉会長はチャンピオンが挑戦者の地元で試合しなきゃなんないの?
どっちがチャンピオンなんだ」
石松も怒っていたが次第に落ち着いていった
なんといっても6000万円のファイトマネーは悪くない
それにどこで戦っても勝てなくてはチャンピオンではないのだ

6度目の防衛に向け
ガッツ石松は19kgもの減量が必要だった
欲望のままに饅頭だ、ステーキだ、焼肉だとむさぼり食ったツケだった
ロードワークで
以前は走った坂道を登ることができなくなっていた
米倉会長は試合日を5月8日に延期させることに成功した
サンファンは暑い国で夏が苦手な石松には最悪だった
そのためにハワイホノルルでキャンプを張って調整期間を置くことにしたのだ
ホノルルでは
午前はロードワーク
午後はダウンタウンのジムで現地の選手相手にスパーリングをした
そしてプエルトリコに向けて出発
カリブ海は熱帯圏に属し加えて5月は真夏だった
「幻の右で9回から11回の間にKOしてタイトルを守る」
常夏のハワイで暑さに慣らしてサンファン入りしたガッツ石松はぶち上げた
しかし現地の新聞は石松が160ポンド(72.6kg)もあると報じた
本当ならリミットまで10kg減量しなくてはならないことになる
実際、石松は減量に四苦八苦していた
スズメの餌ほどの野菜を食べて後は寝てばかりいた
間もなく日本から応援ツアーがサンファンに入った
約20人のツアーの中には妻子もいた
石松の気持ちはようやく安らいだ
米倉会長はファイトマネーの問題で苦慮していた
200万ドルという途方もない金額で落札したくせに
サリナスプロモーションはなかなか現金を渡さない
強く迫ると懐からピストルをポトリと落として見せた
米倉会長はいざとなったら試合をキャンセルし帰る心づもりを決めた

WBC世界ライト級タイトルマッチ
チャンピオン:ガッツ石松 vs 挑戦者:エステバン・デ・ヘスス
試合当日
石松は骸骨のようにやせ細っていた
9時45分、
計量は10時だったのでチャンピオン側は現場に到着
しかし計量場である鉄格子のはまった殺風景な更衣室は
何の準備もされていなかった
10時、
定刻が過ぎても誰も来ない
「早く誰かと交渉してくれ」
早く腹いっぱい食事したい石松が怒り出し
しまいには米倉会長に嚊みついた
「オレだけ先にやらしてくれよ」
これも相手の策略だったのかもしれない
計量場は更衣室でなくマウンドに特設されたリング上だった
石松はトレーナーに両腕を抱えられるようにリングまで歩いた
10:15分、
ヘススが現れ秤に乗って計量をパスした
石松も1発でパスし
素っ裸で秤に乗ったままバンザイした
その後待機してあったワゴン車に飛び込み
いきなりオレンジジュースをがぶ飲み
胃が受け付けずバケツに吐いた
それからホテルに着くまで20分間
飲み、食い、戻し、食った
地獄の餓鬼のようだった
ホテルに戻ってもバイキング料理を片っ端から皿に盛り
口に放り込んで吐いた

「食べてみな」
少し落ち着いた石松は
とボーイを呼んで日本から持参したおやつを1つあげた
「ウッ」
ボーイは吐き出した
石松は手を叩いて喜んだ
それは梅干だった
21時
会場には30000人の観衆
夜になっても気温は30℃を超えている
ヘススはプエルトリコの英雄だった
アマチュアで33戦32勝
プロで49戦46勝25KO3敗
トレーナーには数々のチャンピオンを育てたアンジェロ・ダンディが付いた
ヘススとダンディが立てた必勝プランは
左を突いて戦って
決して無理してKOは狙わず
確実にポイントで勝つというもの
対するガッツ陣営の作戦は
ヘススはスタミナに難があるから後半勝負というもの
またオークションに持ち込んでの母国試合や数々の優遇策が
逆にヘススにプレッシャーをかけているとも読んでいた
ガッツ石松は縞のカッパに三度笠スタイルでリングに上がった
観衆は異国の風体に興奮しざわめいた
そんな中、米倉会長は密かに不安と緊張がピークに達していた
ファイトマネーがまだ支払われていない
もし試合前にファイトマネーの支払いが無ければ直ちにこのままリングを降りる覚悟だった
ボクシングはファイトマネーの支払いは試合前に現金というのが慣行になっているし
試合が終わってしまうとてんやわんやで滅茶苦茶になってしまうことは目にみえている
リングサイドでは
サリナスプロモーションの代理人と
こちらの交渉役であるリッチー井上が猛烈にやっていた
米倉会長はセコンドをしながらリング下のリッチー井上の様子を見ていた
王者と挑戦者、互いの国歌が演奏される直前
リッチー井上が親指と人差し指で丸をつくってリング上の米倉会長にOKサインが出した
米倉会長はやっとマネージャーの仕事を終えセコンドとして試合に集中できた

宙ぶらりんになってしまう

王座陥落後、ガッツ石松は1度は引退を口にしたが撤回した
解説者として仕事をしてみるとギャラは3万円だった
ヘスス戦で6000万円を得たガッツ石松にとって
1万、2万の計算などできなかった
ジムを経営するには若すぎるし
元石松組員にやらせていた副業は失敗した
例えば
金融業が遠藤に任せていた
帳簿をみると
融資先に「遠藤」の名がある
聞くと小遣いがなくなったからだという
ある3万円の貸し付けについて聞くと
遠藤が3万円を貸したその老婆の家に取り立てにいくと
部屋にはコタツとテレビだけだった
テレビを持っていこうとすると老婆は
テレビだけが楽しみだと泣いて訴えたため帰ってきたという
篠原にやらせていたスナックも
アルバイトの女の子に手を出すわ
客より多く飲むわで
儲からず借金だけを増やしていた
しかしジムにはほとんどいっていなかった
タレントとしてCMや番組で笑いをとるためにテレビ局に通ったが
なにか宙ぶらりんな生活だった

センサク・ムアンスリン

そんな生活が1年続いた後、復帰戦が決まった
1階級重いJ・ウェルター級に転向し
しかもタイトルマッチだ
勝てばいきなり2階級制覇となる
相手のセンサク・ムアンスリンは
プロ3戦目で世界チャンピオンになった怪物だった
ガッツ石松は1ヶ月の準備時間がなかった
当然負けた
センサクのパンチを避けるだけに終始し
6R、ボディにもらったパンチでリングに膝をついた

新井容日(ラストファイト)

関連する投稿


ロッキー・マルシアーノ 24歳で本格的にボクシングを始めるまで

ロッキー・マルシアーノ 24歳で本格的にボクシングを始めるまで

179㎝、84㎏。スピードも、テクニックもなく、不屈のブルドーザーのように突進するファイトスタイルで49戦49勝43KO、引き分けさえない全勝無敗のパーフェクトレコードを持つ世界ヘビー級チャンピオン。


 内藤大助  イジメに克ち、イジメっ子にリベンジ

内藤大助 イジメに克ち、イジメっ子にリベンジ

日本フライ級、東洋太平洋フライ級、WBC世界フライ級チャンピオン、42戦36勝3敗3分、勝率85.7%、KO率63.9%。恐ろしく強いボクサーなのにオネエを疑われるほど柔和、かつ元イジメられッ子。中学時代に凄絶なイジメに遭い、20歳でジムに入門し、 22歳でプロデビュー。そして24歳で全日本新人王になった後、イジメっ子と再会する。


漫画『はじめの一歩』が「ワンダ モーニングショット」と初コラボ!「ファミリーマートのはじめの一歩缶」が数量限定で発売!!

漫画『はじめの一歩』が「ワンダ モーニングショット」と初コラボ!「ファミリーマートのはじめの一歩缶」が数量限定で発売!!

ファミリーマートにて、講談社「週刊少年マガジン」で連載中の『はじめの一歩』と、アサヒ飲料のロングセラー商品「ワンダ モーニングショット」がコラボした「はじめの一歩×ワンダ モーニングショット ファミリーマートのはじめの一歩缶」が1月28日より全国のファミリーマート約16,200店にて発売されます。


漫画家・森川ジョージの麻雀優勝記念緊急企画!『はじめの一歩』の麻雀回(3話分)が無料公開中!!

漫画家・森川ジョージの麻雀優勝記念緊急企画!『はじめの一歩』の麻雀回(3話分)が無料公開中!!

「週刊少年マガジン」で『はじめの一歩』を連載中の漫画家・森川ジョージが、11月27日に放送された麻雀対局トーナメント『麻雀オールスター Japanext CUP 決勝戦』にて優勝を飾りました。それを記念し、『はじめの一歩』の麻雀回が「マガポケ」にて現在無料公開中となっています。


「CRONOS」より実録やくざ映画の金字塔『仁義なき戦い』とのコラボアイテムが発売決定!!

「CRONOS」より実録やくざ映画の金字塔『仁義なき戦い』とのコラボアイテムが発売決定!!

株式会社ワールドフィットが展開する、ミニマルでありながらスタイリッシュ且つ独創的なデザインが特長の“フィジタル パフォーマンス クロージング(※)”を提案する「CRONOS(クロノス)」より、名匠・深作欣二監督による実録やくざ映画の金字塔『仁義なき戦い』とのコラボレーションアイテムが発売されます。


最新の投稿


昭和100年を祝う夜!グランドプリンスホテル広島でTEPPANの歌謡ライブ&打ち上げ花火が開催決定

昭和100年を祝う夜!グランドプリンスホテル広島でTEPPANの歌謡ライブ&打ち上げ花火が開催決定

2026年5月5日、グランドプリンスホテル広島にて「昭和100年」を記念したスペシャルイベントが開催される。広島発の4人組ボーカルグループ「TEPPAN」による昭和歌謡ライブに加え、夜空を彩る打ち上げ花火も予定。ライブ観覧は無料。さらにホテル上層階のレストランではCD付きの特別ディナープランも登場する。


樋屋奇応丸の倉庫から幻の音源発見!デューク・エイセスが歌う昭和のCMソングが高音質で蘇る

樋屋奇応丸の倉庫から幻の音源発見!デューク・エイセスが歌う昭和のCMソングが高音質で蘇る

「ひや・きおーがん」のフレーズで親しまれる樋屋製薬の社内倉庫から、長らく歌唱者不明だった過去のCMソング音源が発見された。調査の結果、昭和を代表するコーラスグループ「デューク・エイセス」による歌唱と判明。当時のクリアな歌声を再現した「高音質版」が公開され、昭和歌謡ファンを中心に大きな話題を呼んでいる。


福岡の食のテーマパーク「直方がんだ びっくり市」が50周年!大盛況で幕を閉じた「半世紀祭」をレポ

福岡の食のテーマパーク「直方がんだ びっくり市」が50周年!大盛況で幕を閉じた「半世紀祭」をレポ

1976年の創業から50周年を迎えた福岡県直方市の「直方がんだ びっくり市」にて、2026年4月17日から19日までアニバーサリーイベント「半世紀祭」が開催された。銘柄牛が50%OFFになる「肉袋」や名物セールの復活、地元ヒーローの参戦など、半世紀の感謝を込めた熱気あふれる3日間の模様を振り返る。


『メタルスラッグ』シリーズ30周年記念プロジェクト始動!新作開発や特設サイト、記念映像が一挙公開

『メタルスラッグ』シリーズ30周年記念プロジェクト始動!新作開発や特設サイト、記念映像が一挙公開

アクションゲームの金字塔『メタルスラッグ』が2026年4月19日に誕生30周年を迎えた。株式会社SNKはこれを記念し、シリーズの再燃・リブートを掲げた記念プロジェクトを始動。新作ゲームの開発を含む多彩な企画の推進や、歴史を振り返る記念映像の公開、特設サイトの開設など、世界中のファンへ向けた展開が始まる。


山下達郎ソロ・デビュー50周年記念!JOURNAL STANDARDとコラボした限定Tシャツが発売

山下達郎ソロ・デビュー50周年記念!JOURNAL STANDARDとコラボした限定Tシャツが発売

ソロ・デビュー50周年を迎えた音楽界のレジェンド・山下達郎とJOURNAL STANDARDが特別なコラボレーションを実現。1stアルバム『CIRCUS TOWN』収録の名曲「WINDY LADY」をテーマにしたTEEがリリースされる。音楽史に刻まれた名盤の空気感を纏える、ファン垂涎の記念アイテムが登場だ。