戸川純の前身バンド、『ゲルニカ』が築き、壊したもの

戸川純の前身バンド、『ゲルニカ』が築き、壊したもの

『お尻だって洗ってほしい』-TOTOのCMで一躍脚光を浴びた元祖不思議ちゃんヴォーカリスト、戸川純の前身は、『ゲルニカ』という男女のユニットだった。その独特な世界観は何を生み出し、また、何を破壊していったのか。


’82~’84年、お茶の間に3度デビューした戸川純 

’82年、お茶の間を混沌と困惑に陥れたTVCMがあった。
可愛いことは可愛いのだが、なんだか視線が定まらないというか、ろれつが回らないと言うか・・・そんな女性が突如TOTOのウォシュレットの前でおしりを突き出し、「おしりだって、洗ってほしい」と宣う姿に、見る者は衝撃を受けた。
彼女こそ女優であり日本の歌謡史に残る異色のヴォーカリスト、戸川純だった。

今も語り草・・・衝撃的だったスゥイート・キッスのCM曲

戸川純をTOTOのCMで知った僕らは、再びビックリすることとなる。
おしりを突き出していたあの不思議ちゃんが今度はレトロな銀幕の歌姫になりきって、朗々と昭和歌謡風の歌を歌っている。
しかも、なんて綺麗な高音・・・同一人物とはすぐには気付かなかったくらいだ。
このとき横にいる人物が上野耕路で、クレジットには『唄、ゲルニカ』とあった。

ゲルニカ(GUERNICA)とは

『ゲルニカ』。
元の意味はスペインの小都市の名前で、パブロ・ピカソによる、戦争の悲劇を表現した同名の版画が有名だ。
日本のゲルニカは、上野耕路と戸川純、それにイラストレーターの太田螢一という、それぞれ稀代の天才アーティスト3名が意気投合し、’81年に結成された音楽ユニット名である。
当時のアート界を震撼させた太田螢一は、ゲルニカにおいて歌詞とヴィジュアル面を担当している。

ゲルニカの作曲とキーボード担当、上野耕路の前身

ボーカル=戸川純
作詞・アートコンセプト=太田螢一
では作曲とキーボード(主にオルガン調)担当の上野耕路とは何者なのだろう。
上野の前身は、佐伯健三がボーカルを担当していた、ハルメンズというバンドのメンバーだった。
ハルメンズの『昆虫軍』は、のちにソロになった戸川も歌い、アルバムに収録している。

ソロの戸川の代表曲の一つになっている『レーダーマン』も、元歌はハルメンズの佐伯ボーカルによるものだ。

ちなみに、時々ZABADAKの吉良知彦とゲルニカの上野耕路を混同している人がいるが、ZABADAKのボーカル、上野洋子とごっちゃになっていると思われる。
両上野氏にもちろん関連はない。

上野=作曲・キーボード
戸川=澄んだ高音の独特な女性ボーカル

ゲルニカの上野耕路と戸川純

吉良=作曲・主にギター
上野=澄んだ高音の独特な女性ボーカル

ちょっとこんがらがる・・・

ZABADAKの吉良知彦と上野洋子

レトロブームの火付け役となった、ゲルニカのコンセプト

’80年代はバブルの波に乗り、ワンレンやボディコンといったイケイケのファッションが流行する一方、自制の意味を込めたものか、懐古趣味のレトロブームも何種類か起こった。
海外コンセプトならアメリカのロカビリーや、アジアン・レトロ(中国雑貨屋『大中』さんにお世話になった人も多かった)。
国内コンセプトなら、モボ・モガに象徴される昭和初期~戦前、戦後あたり。
昭和初期の雰囲気を醸したゲルニカは、後者のブームをけん引することになった。

戸川純が好んで曲をカヴァーした昭和初期の代表的な歌手で女優が、李香蘭である。

ゲルニカの代表曲は?

ゲルニカの代表曲というとこれを挙げる人は多いだろう。
戦後焼け跡から復興する日本人の心意気を、朗らかに歌い上げた一曲。
戸川の女性ボーカルであるが、曲調はまんま藤山一郎である。

プロレタリアな感じもゲルニカのイメージのひとつ。
戸川は曲中で自転車に乗ったり、スケートしたり、潜水艦に乗ったりしている。

ゲルニカには意外な裏コンセプトがあった

実はゲルニカのコンセプトには裏があった。
当時音楽界は第一次バンドブーム(サザンオールスターズやツイストなど)と第二次バンドブーム(イカ天など)の狭間にあって、ユニコーンの奥田民生風に言うと誰もが『ガイジンになりたかった』、欧米のロックに憧れて髪を染め、巻き舌で歌うのが定番の時代だった。

そんな中に登場した突然の昭和歌謡。
当時を振り返り、上野はこう語っている。

期せずしてその頃から若者文化は、「ガイジンになりたい僕、私たち」と、「アジア回帰の僕、私たち」に二分されてきたようである・・・子供たちの名前が西洋風といかにもな和風に分かれ始めたのもこの頃ではないだろうか。
そして今やロックは欧米の専売特許とは限らなくなった。
着物や三味線など和風を前面に打ち出した『和ロック』(『和製ロック』ではない)や、国籍不明のボーダーレスな音楽が溢れている。
ゲルニカの上野が提唱したこの裏コンセプトは、ひっそりと革命的だったのかもしれない。

ソロになった戸川純、ゲルニカからの離脱には意外な理由が

戸川純は、’84年にソロとしてアルバムを発表。
代表曲『玉姫様』を『夜のヒットスタジオ』で披露、その奇態な姿で三度、お茶の間の話題をさらった。

幼少時に戸川をテレビで見て衝撃と影響を受けたと思われるのが、のちの鳥居みゆきや椎名林檎である。

ゲルニカが活動休止に至った本当の理由は、当時上野の実家の家業が倒産し、事後処理に追われた上野が一時的に音楽活動を休業せざるを得なくなったからなのだという。
日本人がどうがんばってロックやったって、カッコよくはならないんだから・・・上野の言を、ゲルニカ活動休止後も純ちゃんは見事に体現してくれていたし、後世に引き継いでくれたと思う。

活動休止後のゲルニカの凄さ

ゲルニカとしてのオリジナルアルバムは、これまで3枚しか発表されていない。
・’82年の『改造への躍動』
・’88年の『新世紀への運河』
・’89年の『電離層からの眼差し』

ところが、活動を休止した後の2002年に20周年記念と称した完全版(デモ含む)として、3枚セットのアルバムがリリースされ、

・2002年『GUERNICA IN MEMORIA FUTURI 〜ゲルニカ20周年記念完全盤〜』

さらに2012年には30周年記念完全版と称した、ライブも含めたアルバムがリリースされている。
・2012年『GUERNICA 30TH ANNIVERSARY 〜ゲルニカ30周年記念完全盤〜』

唯一無二であるがゆえの、彼らの根強い人気を裏付けるものである。

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ゲルニカから継承されたもの

奇しくも上野が『日本人のカッコ悪さを前面に打ち出した』と語ったはずのゲルニカは、日本人が一方的に憧れていたはずの海外アーティストたちから、当時も、今もなお「カッコイイ!」と称賛され続けている。
もちろんゲルニカや戸川純に影響を受けたと公言する表現者は、時代が移っても後を絶たない。
きゃりぱみゅも、もしかしたらレディ・ガガやSIAだって、間接的に純ちゃんの影響を受けているかも・・・。

『蛹化(むし)の女』が怖かった~。

戸川純と虫はよく出てくるイメージ

戸川純 画像 - Bing images

不気味可愛い「ブキかわ」は、純ちゃんからの踏襲か?

きゃりーぱみゅぱみゅ

きゃりーぱみゅぱみゅ 画像 - Bing images

こんな人たちもまたと出ないだろう。
各メンバーそれぞれの現在の活動ももちろん素晴らしいが、ゲルニカのリーユニット(再結成)を望むばかりである。

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