柳和龍
柳和龍 &畑山隆則
京浜川崎ジムで
練習を始めて2週間くらい
柳和龍トレーナーが声をかけてきた
柳和龍は
韓国ジュニアライト級初代チャンピオンで
韓国と日本で試合を重ね
後の世界王者ロイヤル小林にKO負けを喫し引退した
「お前、今日スパーリングやれ」
リングに上がるのは初めてだった
スパーリング後、
また柳トレーナーに呼ばれた
「ちょっと上、事務所に来い」
事務所に行くと聞かれた
「おまえいくつだ?」
「17歳です」
「何のためにボクシングやってんの?」
「ボクは世界チャンピオンになるたえに青森から出てきたんです」
「じゃあお前、俺と一緒にやるか?
俺と一緒にやったら
俺が必ず世界チャンピオンにしてやるから」
今度の仕事は土建業だった
7時に現場に出発
17時まで働き
それからジムにいった
「それじゃダメ」
「違う、違う」
柳トレーナーはずっと基本練習ばかりさせた
「もういいや
先生、教えてくれなくてもいいッス」
そういって何日も口もきかないこともあった
畑山と柳トレーナーはケンカと仲直りを繰り返して練習を重ねた
プロテスト
後楽園ホール
京浜川崎ジムに来て2ヵ月後、プロテストを受けた
後楽園ホールでスパーリングテストとペーパーテストを行われた
このとき畑山は思った
「ホールってテレビでみるよりちっちゃいなあ・・・」
全日本新人王決定戦
全日本新人王決定戦は
プロボクシングの新人ボクサーの日本一を決めるトーナメントである
東日本・西日本・中日本・西日本の各地区・各階級の代表決定トーナメントを勝ち抜き
さらに東日本地区以外の3地区の新人王は「西軍代表」を決定するトーナメントを勝ち抜き
そして東日本新人王(東軍代表)と西軍代表が全日本新人王決定戦で対戦する
「畑山、
新人王戦、申し込んじゃったから・・・」
ジムのマネージャーが
勝手に東日本新人王トーナメントに畑山の出場を申し込んでいた
「やられた
これで無敗で引退するという夢は消えた」
まだボクシングを始めて
1年も経っていない
右ストレートとワンツーを教わったばかりだった
J・ライト(現スーパーフェザー)級のトーナメントには
49人がエントリーし
ノーシードの畑山は6回勝たないと優勝できなかった
新人王トーナメントは
1ヶ月1試合だから6ヶ月勝ち続けないといけない
少しでも有利になるよう
土建業を辞め
住み込みのパチンコ屋の仕事に変えた
1回戦(デビュー戦)と2回戦は1RKOした
3回戦は
インターハイ準優勝の経歴を持つ選手だった
1R、2Rとポイントを奪われ
3Rにはダウンした
残りは最終の4Rだけだった
「行かなきゃ負けるよ
勝負かけい!」
柳トレーナーが叫んだ
畑山は逆転TKO勝ちした
4戦目は判定勝ち
5戦目もダウンを奪っての判定勝ち
この試合後から柳トレーナーとの練習にロードワークが加わった
「もっと速くっ!」
多摩川の河川敷を走る畑山を自転車に乗った柳トレーナーが追いかけた