西川のりお  それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。

西川のりお それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。

西川のりおの師匠は、なんと西川きよし。超マジメで超厳しいが一生ついていきたいきよし師と超メチャクチャで超面白い、でもついていけないやすし師。強烈な師匠に挟まれ、育まれた過激な弟子時代。


それから連日、花月に通い、1日に何度も
「弟子にしてください」
といい続けた。
横山やすしは
「本気かいな。
勝負するっちゅうんかい」
と脈ありだったが、西川きよしは
「君らが思っている世界と違うで。
やめとき」
と繰り返した。
しかし西川のりおは弟子にしてもらうまで通うつもりだった。
ある日、
「毎日来とったなあ」
と横山やすしは優しい目でいい
「ハイッ」
と答えると、
「キー坊やったら、もうちょっとしたら出てくるで。
ほなら」
といって手を振って去っていった。
しばらくすると西川きよしが出てきたので
「お疲れさんでした」
と通っている内に覚えたアイサツ。
すると
「ホンマにやろうと思うてんねんな。
今日は楽日楽日(らくび、最終日)やから、来月、うめだ花月に出てるから、またおいで」
「ハイッ、来ます!」
花月は、うめだ、なんば、京都と3館あり、それぞれ1~10日、11~20日、21日~月末で公演していた。
そういう日程の中で西川きよしは、8月21日に来いといったのである。
そして
「お父さんお母さんには花月来てるこというてんのか」
と聞いた。
西川のりおは、本当はいっていなかったが
「ハイッ、いってます」
とウソをついた。

60人いるクラスの中で、成績は常にビリから5人以内。
その5人の顔ぶれはいつも同じで互いに
「アホ5人衆」
と呼び合い、仲が良かった。
西川のりおが花月に通い出した夏休み、母親は学校に呼ばれ、要件がわからずとりあえず夏物の着物を着ていったが
「今の状態やったら卒業も厳しいです」
といわれ、帰宅後、
「このクソ暑いのにわざわざお宅の息子さんアホやていわれにいったようなもんや」
と文句をいった。
西川のりおよりもレベルの低い高校に通う田中も、成績は悪かった。

それからテレビでやすきよをチェックし、
「昨日の前のよりオモロかったな」
「あそこアドリブやろ」
と田中と電話で漫才談義。
西川きよしは23歳で5歳上。
最終学歴中学という苦労人。
横山やすしは、25歳で7歳上。
小学生の頃から天才少年漫才師といわれ、何人か相方を変えて、西川きよしは5人目だった。
西川のりおは、
「きよしの方が、次々と面白いことをいって、やすしの頭を叩いて笑わせる。
だから面白いことをいうのはきよしで、真面目な方がやすしだ」
と分析し、
「どうせ弟子入りするなら面白い方にしよう」
と西川きよしの弟子になろうと思っていた。
田中は西川のりおに
「田中も弟子になるんやろ」
と聞かれ、その勢いにタジタジになりながら
「そうやな、エエで」
と答えた。
「漫才のことは田中の方が詳しかったかもしれないが、今や完全に俺がリーダーになってきていて、ものすごくよい気持ちになっていた」

8月21日、2人は、西川きよしにいわれた通りにうめだ花月へ。
「アッ、来た!」
西川のりおは、昼過ぎなのに
「おはようございます」
と業界風にあいさつ。
「オッ、来てるやないかあ」
西川きよしは目をむいて少し驚いたように返した。
「ハイッ」
西川のりおは道行く人に西川きよしと話す姿をみられるのがたまらなかった。
「コレ終わったら仕事やねん。
そやからすぐ出ていかなアカンねん」
といって西川きよしは消えた。
続いて横山やすしがスピード感のある歩き方でやってきたので
「おはようございます」
やすしは、一瞬、立ち止まり
「来てるなあ。
お主ら」
といってからスピーディーに去っていった。
そして1回目の舞台が終わると、やすきよは駆け足でタクシーに乗って消えた。
2回目の舞台のために戻ってきた2人に、
「お疲れさんでした」
西川きよしは
「ホンマに芸人なりたいんかいな」
西川のりおは、躊躇せず、
「ハイッ」
「やめといたほうがエエけどなあ」
西川きよしは、そういいながらうめだ花月へ入っていった。

西川のりおと田中は、うめだ花月通いと1日2回のあいさつと「弟子にしてください」アピールを再開。
5日後、1回目の舞台が終わった西川きよしが、いつものように通り過ぎていくのかと思いきや、
「一緒に来るか?」
「ハイッ」
「ヨッシャ、行いこか」
横山やすし、西川きよし、西川のりお、田中の4人は、タクシー乗り場へ。
後部座席に、まず西川きよし、西川のりお、田中。
横山やすしは、前のの助手席に乗り込んだ。
そして西川きよしが
「スンマヘン、運転手さん。
朝日放送まで行ってもらえまっか」
いうと横山やすしが
「アイアイサー」
西川のりおと田中は爆笑。
「運転手さん、スンマヘンなあ。
やすし君はなんでもボートに置き換えまんねん」
横山やすしは後部座席の西川のりおと田中をみながら
「この子らの前でぶっちゃけられたらかなんな」
「この子らにウケた思て、この言葉、舞台で使うたらどうすんねん。
この男はやりかねん」
西川のりおと田中は、さらに笑い転げた。
福島の朝日放送に着くと西川きよしの顔は引き締まり
「いつまで乗ってるねん。早よ、降りんかい」
と急かした。
そして
「行くぞ」
といって、テレビ局の中へ入り、会う人会う人に大きな声で
「おはようございます」
それに続いて横山やすしは軽く
「おはよございます」

西川きよしに
「ついといでや
俺のそばからあんまり離れんようにしいや」
といわれている西川のりおは2人についていきながらテレビ局の中に入れたことに
(これはすごい!)
と興奮したが、テレビ局のスタジオは想像していたよりはるかに小さく
「近所の集会場所程度」
だった。
西川きよしは、
「周りの芸人さんの邪魔にならんようにせなアカンで」
といって出演者が集まる控室に。
中は芸人だらけ。
漫才オールスター的な番組で、吉本の芸人だけでなく他社の芸人が勢ぞろいし、テレビで何回もみて名前を知っている有名な人もいて、西川のりおはカチンカチンで直立不動。
「こっちやぞ」
西川きよしに呼ばれ、あわてていくと
「今日は軽くやっときますね」
といって若い女性が、西川きよしの顔にスポンジでなにかを塗り始め、男が化粧するのを初めてみた西川のりおは
「ゲッ」
と驚いた。

「忙しいやろ。
あんまり儲けたらアカンで」
と話しかけられた西川きよしは、
「そんなん、ギャラが安いですから・・・
やっぱり師匠みたいにならんことには」
と返事。
「ホンマかいな」
といって相手が去ると西川のりおに
「ホメてくれてもその気になったらアカンねん」
その横では
「スコーンといかな」
といって横山やすしが女芸人を笑わせていた。
西川のりおはトイレへ。
途中、ギターを練習している人に
「あとどれくらいしたら始まりますか?」
と聞かれ、
「あと5分くらいです」
と適当に答えた。
トイレから帰ってきた後、ギターを練習していた人がメンバーに
「もう本番だから用意せなアカンで」
に声をかけ、
「本番まで20分以上あるがな」
「さっきそこで聞いたんや」
「誰がそんなエエかげんなこと」
「トイレの前でや」
と話すのをみて首をすぼめた。

テレビ収録が始まり、やすきよは前半の最後に出番が来た。
うめだ花月でやった野球ネタを
「ピッチャーできるんかい?」
「アイアイサー」
「さっきタクシー乗って、アイアイサーいうたら一緒の乗ってる者が笑いましたんや。
ほんだら早速使いやがって」
横山やすしは、スタジオの端でみている西川のりおをっみながら笑い転げ、スタジオもそれをみて大爆笑。
出番が終わり、帰りのタクシーで西川きよしは
「恐い男やろ。
言うた通り使いおった」
そしてうめだ花月に着くと、西川のりおたちは入り口で待とうとしたが
「入っといで。
この子ら入れたって」
初めて花月の中に入った田中は
「ホンマに弟子になるん?」
と聞いたが、西川のりおは
「やるでえ」
と明るく答えた。
田中は悩んでいる表情をみせたが、そんなのことはおかまいなしだった。
家に帰り
「今日、きよし師匠にテレビ局に連れて行ってもらって有名な芸能人もいっぱいみたんや。
タクシーに一緒に乗せてもらったんやで」
と一生懸命話したが、兄も姉も
『コイツ、ナニいうてるねん』
という表情をするだけで無反応。
母親は
「ホンマかいな。
よかったな」
と気持ちをまったくこめずにいった。

それからも毎日、うめだ花月に通った。
ただ待機場所は入り口ではなく、切符切りの横の扉を
「おはようございます」
といって関係者のように通って、ノレンのかかった楽屋口の前に変わった。
8月31日の日曜日、この日はうめだ花月の楽日(らくび、最終日)
その1回目の舞台が終わった後、西川きよしに
「オッシャ、君らも一緒にコーヒー飲みに行こか」
といわれ、うめだ花月の向かいにある喫茶店「アメリカン」へ。
西川きよしは、アロハシャツに白いパンツ、白い靴という舞台衣装で2階の席へ。
「あの人、テレビ出てる人違う?」
周りがザワつき、視線が集中したとき、西川のりおは
「俺をみているわけではないが、なんという気持ちよさ」
と快感を感じた。
立ったままの西川のりおと田中を、西川きよしは
「立っとかんと座り。
コーヒーでエエか?」
と聞かれ、西川のりおは背筋を伸ばして
(ホンマは冷コー(アイスコーヒー)が良かったなあ)
と思いながら
「ハイッ」
返事。
西川きよしは
「今仕事中ちゃうから楽にしいや」
と優しくいった。
コーヒーが来ても猫をかぶって飲まない西川のりおたちに
「冷めるから早よ飲み」
西川のりおは、喫茶店に入れば必ず冷コー(アイスコーヒー)で熱いコーヒーは初めてだったが、ミルクと砂糖を入れて初めて飲むと
(うまいな!)
そして猛烈にタバコが吸いたくなった。
高校に入って間もなく吸い出し、このときもセブンスターを忍ばせていた。

そのとき唐突に西川きよしが
「ひょっとしたら、もうタバコ吸うてねんやろ」
といったためにオドオドしてしまい、西川きよしは、、その様子を笑った。
「学校、9月になったら始まるやろ。
せっかく行かせてもろてんねやから、学校はちゃんといっときや」
マジメな顔でいう西川きよしに、西川のりおは
「そしたら僕らはこれから師匠のところに行くのにどうしたらよいでしょうか」
と使い慣れない言葉で質問。
「日曜とか祝日みたいな休みの日においで。
もし実際にやるとしても卒業してからやからな。
まだまだ考える時間もあるから、あせらんでもエエし。
ほんでよーう考えてみ」
それは西川きよしの真心だったが、西川のりおは心の中で
(ひょっとしたら弟子にせえへんつもりちゃうか)
と不安になった。

うめだ花月からの帰り、初めて漫才をした天満の公園を歩いていると田中がハンドルを持った運転手のフリをして
「不細工な女やな」
西川のりおは1度後ろをみてから顔を前に戻し、
「お前んとこの姉さんや」
「誰がやねん!
オッ、次はエライきれいな女の子や」
「俺んとこの姉さんや」
「ええかげんにせえ」
と2時間ほどやすきよの漫才をした。
そして天満駅まで来ると
「茶しよか」
と行きつけの喫茶店へ。
昼間、ガマンしたタバコを吸いながら、1曲50円のジュークボックスで大好きないしだあゆみの「喧嘩の後で口づけ」をリクエストし、足でリズムをとりながら
「♪けんかのあとでくちづけをぉ~」
と口ずさんだ。
そして西川のりおが
「休みの日は全部行こな」
と明るくいうと田中は煙を吐きながら
「行こ行こ」
と軽く応じた。

夏休みが終わり学校が始まっても、休みの日と応援団の活動がない日は欠かさずうめだ花月へ通って
「弟子まがいの用事」
をするようになった。
ある日、西川きよしは
「楽屋へ入れてあげるけど師匠とかいうなよ。
俺より先輩の人がまだ弟子とってないねんから」
といってから、少し悩み、
「そうや。
呼ぶときは兄さんというように。
エエか、くれぐれも師匠というなよ」
と念押しした後、
「よし、入り」
夢にまでみた楽屋に入れることになり
「俺はコーフンの息はすでに超えて、ボワァ~~。
田中は目をむけるだけむいて、きよしより大きかった」
西川きよしに続き、ノレンをくぐって入り通路を歩くと、公衆電話と出演者の名前と出番の時間が黒板が置いてある場所があって、紺色の事務服を着た60歳くらいの女性と50歳くらいの女性が立ち話をしていた。
「この子ら知り合いの子で漫才を勉強したいのでよろしくお願いします」
「まだ学生やな。
子供の顔してるがな」
「ハイッ高校3年生です」
西川のりおは、他では決してみせないブリブリブリッ子で返事。
西川きよしに
「お茶子さんいうて楽屋のいろいろな用事をしてくれてはんねん」
と教えてもらい、後をついていくと階段があり
(狭いし汚いしボロいし手すりはサビてるし)
と心の中で毒づきながら降りていった。

「おはようございます」
楽屋に入った西川きよしはすでに楽屋にいた芸人たちに挨拶。
「この子ら知り合いの子で・・・」
と紹介された2人が
「借りてきたネコ以上の異常な状態」
でいると、真っ赤なTシャツ、白のエナメル靴、白のスラックスの横山やすしが入ってきて、
「コイツら、ついに楽屋いれてもろたんかい」
やすしの登場で楽屋の空気は一気ににぎやかになり、きよしが
「かなんな。
もう出番ギリギリの時間やがな。
ボート乗ってたか、船券でも買うてたんと違うか」
とチャかすと
「ボートには乗っとらんかったけど、コッチのほうに乗っとった」
といって小指を立て、楽屋に大きな笑いが起こると西川のりおたちをみながら
「かなんな。
この子ら、兄ちゃんの秘密知ってしまったのね」
「君ら、ようウケるから、やすし君、舞台で何いうかわからへん」

「ハンガーに吊ってるズボンとって」
鏡の前で準備している西川きよしにいわれ、初めて用事を頼まれた西川のりおは、ドギマギしながらステージ衣装をハンガーから外して渡した。
「サンキュー」
「やすし師匠もとりましょか?」
「アイアイサー」
そういった横山やすしは、女物のガードルをはいていた。
「ワシなあ。
男のイチモツがモッコリしてふくらみがバレるのイヤなんや。
そやからブリーフはいた上にガードルをはいてんねん」
それからステージ衣装のズボンをサッとはき、ベルトをキュッとしめ、カッターシャツのボタンを留め、ネクタイをギュッと締め、靴を履くまで動作が
(無呼吸でやってるん違うか)
と思うほど異様に速く
(こんな人間いない)
と思った。
反対に西川きよしは、何度も七三分けのヘアスタイルを斜めから、正面からと10回以上チェックし、衣装もゆっくりと1つ1つ確認しながら着ていた。
「ヨッシャ」
西川きよしは、自分に気合を入れるようにいい、やすきよは楽屋の細い階段をかけ上がって舞台袖へ。
これまで客席から観ていた西川のりおは、舞台袖の小ささ、狭苦しさに驚いた。
舞台で行われていた夫婦漫才が終わって、出囃子が鳴ると
「行こか」
「ヨッシャッ行こ」
西川きよしと横山やすしは声をかけ合った後、すぐに舞台のマイクめがけて走っていった。
西川のりおは、初めて横からやすきよ漫才を観た。
舞台上では横山やすしがメガネを外されて投げられ、それを探す仕草で爆笑をとっていた。

西川のりおは学校では
「エエかげんにせえよ」
と目をむいて西川きよしのマネをやって
「やすしきよしは最高にオモロいでや」
と熱く語っていたが、高3の冬のある日、田中が電話で
「友達がヤンタンの桂三枝のやってる土曜日の素人演芸コーナーにハガキ出しよってん。
俺らの名前で
どないしたらエエねん」
といってきた。
「行ったらんとしゃあないのとちゃうの」
「その予選が来週の土曜日の昼からやてハガキまで来てるらしいわ」
西川のりおは、予選に出る不安と、その一面識もない友達への不満が入り混じる中、練習を続けた。
ドライブネタをやることにし
「不細工やなあ」
「お前んとこの姉ちゃんや」
「かわいい女の子やなあ」
「俺んとこの姉ちゃんや」
のやりとりを練習。
予選前日、
「明日やるだけやってアカンかっても別にエエから気にすることないやん」
「そやな」


当日は大阪、千里の毎日放送まで田中の友人の車で送ってもらった。
西川のりおは、この友人とは以前に1回会ったことがあった。
20㎞くらい距離があるので、ドライブネタを練習しようとしたが、実際に歩いている女性をみて
「ホンマ不細工やな。
猪八戒みたいな顔しとる」
というと車内は大爆笑。
いつの間にかドライブ気分でワイワイとハイテンションになりまくり、予選前の緊張感は消滅。
「笑いすぎて道間違えてるんちゃうか」
「大丈夫や。
まかせてといて」
「大丈夫て、お前が1番信用でけへんのじゃ。
田中の友達いうから辛抱しとるだけや」
「お願いやから、もうなんもいわんといてくれ」
笑いすぎて運転している友人は懇願した。
(この2回目にあった男と、こんなに打ち解け、しゃべれ、ウケまくっている)
西川のりおは自分に実力に酔いしれた。
こんなときいつもなら
「北村は、ウケたら勘違いして、オモロないこというてもウケてると思い込むタイプやから、あんまり図に乗せたらアカンねん」
という田中は黙っていた。

夕方、車は、毎日放送に到着し、友人と共にヤンタンの予選会場へ。
漫才、モノマネ、漫談、落語、それなりにできる連中が集まっていると想像していたが、同い年らし男やき年上らしき男が20人ほどいた。
みんな壁に向かってネタの練習をしていて、雑談しているのは西川のりおたちだけ。
やがてスタッフが現れ
「予選に出られる方の名前尾を呼びますので手を上げて大きな声で返事してください」
といって点呼を行い
「続いて予選を受ける順番をいいますから、よく聞いて自分の順番を覚えておいてください」
と指示。
西川のりおと田中は8番目だった。
毎日放送のアナウンサーの進行で予選が始まり、80人くらいの客の前で落語やモノマネ、漫才が行われた。
しかし前の7組は、すべて
「ブーッ」
とブザーが鳴って不合格。
しかし西川のりおと田中はドライブネタは大爆笑となり、ネタの途中で
「ピンポンパンポン」
と連続で鳴り、
「合格です。
おめでとうございます」
と告げられ、友人にも
「お前らオモロいなあ」
といわれ、完全に有頂天。
帰りの車は来るときよりもハシャいだ。
番組は公開録音だったため、
「ヤングタウン土曜、桂三枝がやってるヤツ知ってるやろ」
「ヤンタン土曜に出るんや」
と学校中で宣伝。
うれしくて、すでに顔はコワモテではなかった。


3週間後の土曜日の昼過ぎ、同じメンバー、同じ交通手段で大阪、千里の毎日放送へ。
ヤンタンの収録はすでに始まっていて、桂三枝が200人くらいの観客を笑わせているのを横目にみながら控室へ。
「どや、緊張してるか?」
田中にを聞かれ、いたって平常心だった西川のりおは
「いーや」
やがてスタッフに
「そろそろスタンバイしてください」
といわれ、舞台袖へ。
「それではヤンタン演芸コーナー、今日は漫才で、〇〇工業高校の北村君と〇〇商業高校の田中君。
それではどうぞ」
桂三枝に紹介され、小走りでスタンドマイクの前へ。
「こんにちは。
北村です」
とアイサツしてから
「かわいい女の子やな」
と漫才を開始。
ドライブネタは確実に笑いをとり、しかも話が進むにつれてスタジオの笑いが大きくなっていき、桂三枝がゲラゲラ笑うのもみえた。
「もうエエわ」
田中がツッコみで終了。
桂三枝がやってきて、
「オモロいな。
しかし君、オッサンみたいな声してるな」
と西川のりおをイジって、笑いをとった後、
「しかしオモロい。
来週も呼びたいな」
というと会場から拍手が起こった。
西川のりおはテレながら
(エエ気持ちや。
今まで色んなことでそう思ったけど、間違いなく今日が1番エエ気持ちや)
田中はうれしいのを通り越して顔を真っ赤にして涙をボロボロ流していた。

素人名人会の予選の日、マネージャーの車に乗って毎日放送へ。
ヤンタンに比べて予選を受ける人の平均年齢が高く、出し物も踊りやマジック、民謡といったものが多かった。
出番が来て
「かわいい女の子やなあ」
といつものようにドライブネタ。
「カンカンカン」
と鐘が連打されて
「合格です」
得意になって控室でハシャいでいるとスタッフが現れ
「出演は、正月1月3日の生放送で、うめだ花月からやりますのでよろしくお願いします」
西川のりおは嬉しさをこらえきれずに叫んだ。
「いつも名人会は録画でやってるやん。
そやのになんで俺らは生放送なんや。
おまけに正月やて。
ましてうめだ花月や」
田中も
「正月で生放送や」
と呼応し、その後はお互い何をいっているのかわからない会話が続き、友人のマネージャーは、
「やったな」
を繰り返していた。


その後、ヤンタンに5週間連続で出演し、学校で
「聞いたで、ヤンタン」
「桂三枝もオモロいいうたてな」
と知っている者だけでなく知らない者まで話しかけられるなど、ちょっとした有名人。
授業中、物理の先生に
「応援団でスゴミきかせてるだけや思うとったが、人を笑わせることもできるやな」
といわれると
「はあ」
と髪の毛をかいてみせ、応援団でも後輩に
「面白いし演舞をするのもカッコイイ」
といわれてもと無表情でいたが
「本当はもうめちゃくちゃエエ気分やった」
このときすでに2ヵ月以上、西川きよしのところにいっていないことには、まったく気づいていなかった。
「というより完全に忘れてしまっていたね」

名人会の出演が近づいてきた年末のある日、いつもの天満の喫茶店で
「素人名人会にうめだ花月から生放送で出ますってきよし師匠に報告に行かなアカンな」
とタバコを吸いながっら田中にいうと
「今どこに出てはんのかなあ」
うめだ花月に電話して確認するとお茶子さんが
「なんば花月ですわ」
と教えてくれたので
「12月23日に行こか。
冬休みやし日曜違うてもエエやろ」
「エエよ。
23日行こ」
そして当日、電話も入れずに花月の前で待っていると西川きよしがやってきたので
「おはようございます」
と大きな声であいさつ。
「オオッお前らか。
何や今日は?」
西川きよしはそういいながらサッと前を通り過ぎて入っていった。
「この子ら入れたって」
とはいってくれなかった。
続いて横山やすしが来て、
「オッ君らか。
久しぶりやな。
今までどないしとったんや。
長い間連絡ないからキー坊心配しとったで。
連絡は入れなアカン。
絶えずな。
それがスキンシップちゅうもんや」
と早口でいいながら1歩も足を止めずに中へ入っていった。
1回目の公演が終わり、2人はテレビ局に行くためにタクシー乗り場でタクシーに乗ったが、ずっと知らん顔。
発車するとき、横山やすしは車内で手を上げてくれたが、西川きよしは、まったくこちらをみようともしない。
タクシーが走り去った後、
「きよし師匠なんであんなに怒ってはるんや」
「そんなん、わかるわけないがな」
「とりあえず2回目の舞台前まで待とう」

待っている間、看板芸人が何人も通っていった。
以前なら気を引こうと
「おはようございます」
と大声であいさつしていた西川のりおだが、
「俺はヤンタンに出て、名人会にも出るんや」
という気持ちがジャマしてできない。
ましてや名前が売れていない芸人にあいさつするなどバカらしく思えた。
西川きよしに対しても、ヤンタンや素人名人会のことを話して
「ようやったなあ」
とホメてもらおうと思っていたので、
「あのつれない態度はなんだ」
と怒りを感じていた。
3時間以上、待って田中が
「遅いなあ、腹減ったなあ」
とグチり出したとき、
「オーッ、待っとったんか。
石の上にも3時間45分やな」
といって横山やすしが登場。
西川きよしが後ろにいたので、
「お疲れさまでした」
と思い切り大声であいさつしたが目もくれず行ってしまった。
(なんや知らん顔しやがって)
怒る西川のりおは、田中に
「終わるまで待とう!」

出番が終わって出てきた横山やすしは
「オオッまだいてるのか」
といった後、商店街へ消えていった。
30分後、西川きよしが出てきて
「お疲れさまでした」
とヤケクソ気味の大声を張り上げると
「ちょっとおいで」
と手招きされ、ロビーへ。
舞台では新喜劇が始まっていた。
「君ら、長い間、顔も出さんと何しとたんや」
「・・・・・・」
しゃべり方は優しかったが、西川のりおは西川きよしがコワく何いえなかった。
「弟子にしてくれとあれだけしょっちゅうとったのになあ。
来れるときは行かせていただきますっていうとったやないか」
「・・・・・・」
「なんかラジオに何回か出たんやろ?
会社の人から聞いたよ。
そやから来んかったか。
もう弟子にしてくれと頼む必要がないて思たんか。
それやったらそれでやれや。
そやけどな、そんなやり方や考え方では、この世界で一瞬は通用しても、いずれはアカンようになって誰も相手してくれんようになるで。
芸能界おちょっくたらアカンぞ。
ナメたらアカンで」
「・・・・・・」
西川のりおは西川きよしの目を見る勇気がなく、ずっとうなだれていた。

「何回も俺に会いに花月に来てなんか縁があるんやろと思って楽屋にも入れて、俺は君らのために先輩に気も遣たんや。
弟子にしてやろと本気で考えとったんや。
それやのに気持ち踏みにじるようなマネしたらアカンやろ。
嫁はん(西川ヘレン)にも弟子とるかもしれんぞというとったんや」
西川のりおと田中は目からロビーの床にポタポタと涙が落ちた。
「泣いたらアカンやないか」
そういう西川きよしの声も涙ぐんでいた。
「今日来たらホメられる思てたんやろ。
ほんまホメたろ思ってたんや。
素人名人会も出るんやろ。
正月に。
お客さんいっぱい来てるし、ヤンタンの客層と違うて年配の人が多いで。
同じやり方やったら笑えへんぞ。
プロの芸人が出てるところやからな。
俺もその日、みれるんならみとくわ」
西川のりおと田中は、素人名人会に出ることを知っていたことに驚きながら、胸がいっぱいで大きな声が出ず、小さな声で
「ありがとうございました」
「ホナもう遅いし気をつけて帰りや。
お父さんお母さんにヨロソク伝えといて」
そういって西川きよしはロビーを出ていった。
しかし西川のりおは親が西川きよしのところへいっていることを信用していないので伝えようがなかった。

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全国無料放送のBS12 トゥエルビで現在放送中の、笑福亭鶴瓶と阿川佐和子がMCを務めるトークバラエティ「鶴瓶ちゃんとサワコちゃん~昭和の大先輩とおかしな2人~」第47回放送分(7月28日よる9時00分~)にて、お笑い芸人・ビートきよしがゲスト出演します。


まさかの芸失敗!?衝撃の髪型事件を語る!『ますだおかだ増田のラジオハンター』に芸歴55周年の海原はるか・かなたが出演!!

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ABCラジオで毎週木曜日12時から放送の『ますだおかだ増田のラジオハンター』7月10日放送分にて、髪型漫才界の重鎮、髪型ハンターこと海原はるか・かなたがゲスト出演しました。


2丁拳銃    愛人12人の小堀裕之と経験人数、生涯1人の川谷修士、そしてその妻、小堀真弓、野々村友紀子は、同じ1974年生まれ

2丁拳銃 愛人12人の小堀裕之と経験人数、生涯1人の川谷修士、そしてその妻、小堀真弓、野々村友紀子は、同じ1974年生まれ

NSC大阪校12期生、1993年結成の2丁拳銃が、2003年にM-1への挑戦を終えるまで。


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中山美穂のコンサート史を凝縮した5枚組Blu-ray BOX『Miho Nakayama Complete Blu-ray BOX~Forever』が2026年6月17日に発売される。1986年の初公演から98年までを網羅し、全編HD・オーディオリマスタリングを敢行。未発表ライブ映像やMVも初収録した、ファン必携の記念碑的作品だ。


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日本競馬界のレジェンド、武豊騎手のデビュー40年を記念した特別展が2026年4月28日より銀座三越で開催される。前人未到の「日本ダービー6勝」に焦点を当てた展示や、AI・ARを駆使した最新デジタル体験、会場限定のオリジナルグッズ販売など、頂点を走り続けるジョッキーの栄光と進化を体感できる貴重な催事だ。