西川のりお  それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。

西川のりお それは高3の夏休み、同級生からの1本の電話で始まった。

西川のりおの師匠は、なんと西川きよし。超マジメで超厳しいが一生ついていきたいきよし師と超メチャクチャで超面白い、でもついていけないやすし師。強烈な師匠に挟まれ、育まれた過激な弟子時代。


西川のりおは、家で2tトラックを運転したことはあるが、こんな高級車を動かすのは初めて。
駐車場を出て、慎重に走らせていると
「そんなスピードで走らんでエエから。
もっと速よ走り。
OK?」
スピードだけでなく
「アウトまくり。
そのまましばらくストレートで行こか」
「ヨッシャ、今度はインや。
アウトかましてイン。
アウトインアウトや」
「そこ、インかましたらエエから」
と頻繁に車線変更を指示。
西川のりおは、一般道を時速80kmで走りながら、前の車をドンドン抜いていった。
「トロトロ走ってるヤツの後ろ追いかけてる場合、違うで。
安モンの女のケツ追いかけ回すようなもんや」
といわれ、西川のりおは
「抜いて抜いて抜きまくり、前へ入りまくった」
横山やすしは
「ナッ、やったらできるやろ。
横山の指示に従いなさい」
と絶好調。

「200m向こうに大きなゲートあるやろ。
おそこにインしなさい」
その大きなゲートは、進行方向左にあったが、急に
「ストップ、ストップ、止まれ」
といわれ、急ブレーキ。
「ガツンッ」
横山やすしはフロントガラスに頭を打ちつけ、舞台上のネタのようにメガネがズレた。
「すいませんでした」
あわてて西川のりおが謝ると
「ドンマイ、ドンマイ」
とメガネをズリ上げながら笑った。
「横山や」
そういわれてゲート前にいたガードマンが誘導を開始し、西川のりおは車を中へ。
「OK、ストップ。
車そこに停めてから、後でこの建物の4階に上がって横山のところに来たいうたら案内してくれるから」
横山やすしは、そういって建物の中へ入っていった。
西川のりおはいわれた通りに駐車。
(一体ここは何なんや?)
と思いながら建物に入って、エレべーターで4階のボタンを押した。
ドアが開くと男性がいて
「スイマセン、横山・・・」
「やっさんやな。
ほんで北村君やな。
こッチコッチ」
男性に案内されたのは、窓が一面に広がる大きな部屋だった。
「やっさん、連れてきたで」
「サンキュー」
横山やすしは、その大きな窓の外を眺めていたまま、男性の方はみずに礼をいった。

そして西川のりおに
「競艇場や。
ボートレースや。
初めてか?
体張って勝負するところや」
西川のりおは、そう話す横山やすしに
「男のツッパリを感じた。
できる限り運転して役に立ちたい」
と思った。
そこは一般の客は入れないVIPルームで、いるのは金持ちそうな人ばかりだったが、
「次のレース何くるやろ」
と聞かれた横山やすしは
「5が頭で流しやろ。
まあ5-6いうとこか」
「ホンマかいな。
前もその通り勝って外したがな」
「アホか。
そやったらおのれのうすらバカ頭で買わんか。
このアホンダラ」
とボロカスにいい、レースが始まると
「インからかませ」
「まくれ、まくれ」
とガラスから飛び出しそうな勢いで観戦。

「1レースだけか。
ちょっとマイナスやな。
後のレースもやりたいんやけど、なんば花月戻らなアカンね。
2回目何時やった?」
といい、聞かれた西川のりおは時計をみてギクッとなりながら
「6時15分です」
「いま5時40分やろ。
ウーン行けるやろ。
北村君、車出して。
すぐ行こ」
車をゲートから出したが競艇が開催されているせいで渋滞。
横山やすしは、さかんにメガネを上げ下げさせながら前後左右を確認し、
「ヨシッ、北村君、右いっぱいにアウトかまそか。
対向車線で信号待ちしてる車のめいいっぱいまでいって、それらか即イン入ろか。
それから反対車線入って、またインや。
要するに道路のすき間すき間を抜けていくねん。
まずは反対車線に向かって、いっぱいいっぱいアクセル吹かせ」
オートマチック車ではないため、西川のりおは、クラッチを踏んで、ギアをローに入れ、アクセルを吹かした。
「よっしゃ、右に出とけよ。
頭2つ出しとけ。
信号が青になったら1番にスタート切れよ」
「ええぞ、吹かしとけよ」
「右に思い切りハンドル切れよ」
指示を黙って聞いていた西川のりおが
(横転するやないか!)
と思ったとき、信号が青に。
「よっしゃ、スタート!」
思い切りアクセルを吹かして、右にハンドルを切って反対車線に停まっている車の1m手前で止まると、相手は車の中で体をのけぞらせた。
「よっしゃ、インや」
左にハンドルを切って、元の車線に入ると
「よっしゃ、アウトいこ」

クラクションが鳴らされると、
「何を安もんのラッパ鳴らしとんねん。
お前らが急いでいる金儲けと俺の急いでんのとは単価が違うちゃうねん。
この前の車、なにモタモタしとんねん。
北村君、次の信号待ちのとき、コイツの前にカブしたれ」
とまったく動じず
「次の信号越えた1本目左入って、すぐ右。
ほんで次をまた右や」
と抜け道を指示。
西川のりおは必死にハンドルを切り、踏切にさしかかり
「カンカンカン」
と音がしたので、ブレーキを踏んで減速させいようとしたが、
「何をしとんねん。
行ったらエエねん。
突破したらんかい」
といわれ、アクセルを踏んだ
広い踏切で線路が何本もあり、それを越えるたびに車はジャンプ。
西川のりおは、ハンドルをカチカチに握って耐えたが、横の横山やすしが歯を食いしばっているのがみえた。
なんとか渡り終えそうになり、西川のりおがホッとした瞬間、
「ガシャン」
と天井が大きく鳴ったが、横山やすしは
「気にせんでもエエ。
ドンマイドンマイ」

踏切を渡った後もインアウト、アウトインを繰り返し、なんとか出番前になんば花月付近に到着。
横山やすしは車を飛び降り、
「駐車場に入れといてくれ」
といって走っていった。
西川のりおが駐車した後、降りてみてみるとブルーバードSSSの天井がVの字に陥没していた。
遮断機が当たったのだと思うと、改めて恐怖を感じた。
花月の中に入ると
「ご苦労様です」
と楽屋の鏡の前で田中に衣装を着せてもらっている西川きよしにアイサツ。
「なんか変わったことなかったか?」
「別に変ったことなんかなかったよな、北村君」
横山やすしにいわれ
「はい」
「正直にいいや」
「なんにもないっちゅうねん。
この男、ホンマ刑事みたいやろ。
舞台終わったら、また運転頼むわな」
「無理なことさせんといてや」
「OK」
横山やすしは軽くいって指で丸をつくった。
西川のりおは、横山やすしとの間に秘密ができたことを悟った。

舞台が終わり、いつも通り、西川きよしよりも早く着替えた横山やすしは、
「キー坊、お疲れさん。
北村君、行こ」
西川のりおは、横山やすしについていきながら、西川きよしが田中と楽し気に話すのをみて嫉妬。
そして天井がVの字型に凹んだブルーバードSSSを夜のネオン街へと走らせた。
「ストップ、ここで止めて。
あの向かいにある駐車場に入れて、君もおいで」
いわれた通り、車を停めてからミナミのラウンジに入ると横山やすしはソファーで女性を口説いていた。
「この女、ナニ値打ちつけとんじゃ。
天下の横山やすしが今晩どうやいうとんねん」
「もう。
酔うていうてるんちゃうの」
女性に肩を叩かれたり押されたりしても、怒りもせずに
「今晩エエやろ」
とニヤついている横山やすしに
(笑とるけど目は完全にマジや)
そして
「そこの隅座って好きなもん注文し」
といわれ、カウンターへ。
するとママらしき女性がやってきて
「お弟子さん、やっさん付いてたら大変やろ。
あの人、無茶苦茶なこといいはるから。
そやけどやっちゃん、突破やけどものすごー気のエエ人やから。
ほんで裏表がない人やから、我慢したってな」
ママがつくってくれたおにぎりを食べていると
「北村君、行こか」
という声が店中に響きわたり
「ハイッ」
と返事し、やすしと一緒に外へ出ようとすると、後ろからママに
「北村君、大変やと思うけどがんばりや」
といわれ一礼。

駐車場に行こうと前をみると、やすしは女性と腕を組んでいて
「北村君、車出して」
後部座席に2人を乗せて、発進。
横山やすしは女性の膝に寝転んで口説き続けていたが、女性に
「ダメ。
まだやっちゃんのこともろくすっぽ知らんのに、そんなん、今日会って今日はダメ。
だからまた今度ね。
焦らんといて。
女ってすぐってわけにはいかへんの。
だから今日は帰る」
とハッキリ断られると
「なんもさせへんくせに何エラそうなことぬかしとんじゃ。
クサレ女。
もうエエ。
ここで降りさらせ」
と豹変。
「北村、そこで停めえ。
この女降りるから」
西川のりおは、初めて『北村君』から『北村』になったこと、そして交差点の真ん中であることに驚愕。
「早よ、降り」
といわれ、女性は
「もうメチャクチャやな、アンタいう人は」
といいながら降車し、クラクションの嵐の中、道路を渡っていった。

「堺に飲みに行くから、早よ阪神高速上がれ」
怒りまくっている横山やすしに、西川のりおは
(サスペンスを通り越してホラーだ)
と思いながら運転。
「まだ上り口はないのか」
イラつく横山やすしに
「ハイッ、阪神高速の入り口は千日前越えんとないです」
と答えたが
「そこにあるやないか」
それは道頓堀出口だった。
「あれは出口ですけど」
「そやったらバックで入らんかい」
「・・・・・・」
「俺が誘導したるから、その通りやれ」
西川のりおは仕方なく高速道路の出口に向かった。
「よっしゃ、アクセル思い切り吹かしながら左寄れ。
それやったら後ろから当てられる可能性低いから」
指示に従いながら、なんとかバックで高速道路に上がり、進行方向に向かって前進。
「みてみい。
タダで高速乗れたやろ」

堺に着くと横山やすしは行きつけのスナック2軒で口説きまくったが空振り。
「北村、帰るぞ」
といわれて再び運転。
5㎞ほど走り、横山やすしの家の到着したのは夜中の1時。
西川のりおは、テレビに出ているスターにして決して大きいとはいえない、住宅地に建つ普通の家だったのでビックリ。
「よう子、帰ったぞ。
キー坊の弟子の北村君に運転してもらって送ってもらったんや」
といわれ、出てきた奥さんが、特別美人ではない、ごくごく普通の女性だったのも意外で、
「エライいすみません。
この人ムリなことばっかりいうて、きっと迷惑かけたと思います。
本当にすみません。アンタ、
ありがとうございました」
と非情に腰が低い人だったことにも驚いた。
横山やすしが
「北村君、今日俺の家に泊まれ」
というと奥さんは、中に招いてくれながら
「この人、急に泊まれいうてもねえ。
帰らんで大丈夫ですか?」
と気遣ってくれた。
通されたのは6畳くらいの応接間で、ボートレースのカップや写真が飾ってあった。
「日本ダービーのビデオはどこあんねん」
ビールの入ったコップを持った横山やすしがいうと奥さんは、
「アンタ、こんな夜中にビデオなんか観たら近所迷惑になるから」
「なにいうてるねん。
俺は名誉市民やぞ。
誰が文句ぬかしよるっちゅうねん」
ビデオがデッキに入れられると、競艇の映像が画面に映ると共に、スピーカーから耳をつんざくようなエンジン音。
「痺れるやろ。
このエンジン音が男の夢や。
ロマンやでえ」
横山やすしは、ビデオに負けない大声を出しながらビールをあおった。
やがてソファーの上で寝てしまうと、奥さんは
「カシャッ」
とすぐにビデオを取り出し、西川のりおに
「本当にごめんなさい」

最初、2人の漫才をみて
「きよしの方が、次々と面白いことをいって、やすしの頭を叩いて笑わせる。
だから面白いことをいうのはきよしで、真面目な方がやすしだ」
と分析し、西川きよしの弟子になった西川のりおだが、
「きよし師より、やすし師のほうが面白い」
と思い出した。
しかし同時に
「ついていけない」
とも思った。
「きよし師は、学生でいえば予習復習をするタイプで仕事に対して万全に備える。
やすし師は宿題すらやらない人間。
だから芸能界でも先輩で歳も上、笑いのセンスも天才的なやすし師が西川きよし師に頭が上がらなかった。
でも頭が上がらない決定的な理由は、仕事の時間をトチることだった。
『ごめんな、キー坊』
こういう仕事に入り方が多かった」

ある日、やすしきよしが初共演する映画の撮影があり、西川のりおは、早朝の名神高速を大阪から京都へ向かって時速80㎞で走っていた。
朝が弱い横山やすしは、白いジャージの上下を着て助手席で寝ていたが、
「オイッ人に抜かれて悔しないんか。
80みたいな速度は、横山は嫌いや。
オンリー100を保って走れ」
とだけいって再び寝始め、いわれた通り、時速100㎞で走り出すと一瞬起きて
「そうや。
やったらできるやないか」
といったあと即眠りについた。
西川のりおは、遅い車を何台も抜いているうちに勢いがついてしまい、降りなくてはいけない京都南インターを時速120㎞で過ぎてしまった。
「やすし師匠、すいません。
京都南行き過ごしてしまいました」
「ストップ。
止まれ」
「京都東までいって引き返しましょう」
「そんなことしとったら撮影時間遅れてまう。
キー坊にまた叱られるやないか。
道路の左側の側道に止め」
西川のりおは恐る恐る側道に停車。
早朝なので交通量は少ないが、大型トラックが多く、すぐ横を時速100㎞くらい通りすぎるとブルーバードSSSは横揺れを起こした。
京都南インターから2㎞は離れていたが
「俺の誘導に従ってバックせえ」
「はい?」
「俺の指示通りにバックしたらエエねん」
横山やすしは車を降り、西川のりおは、白いジャージの上下で高速道路に立つ姿は、とてもこの世の者とは思えなかった。
「オーライ、オーライ」
走りながら誘導する横山やすしに従って、西川のりおはバック。
横山やすしの走るスピードが速いため、何度もトラックとニアミスしながら京都南インターまで戻り切った。
「2㎞もバックしたことはなかったし、したことあるヤツもいないだろう。
まして高速道路でだ」
寒い冬の朝もやの中を走り
「朝から高速でマラソンさせて、怒るでしかし」
といいながら乗り込んできた横山やすしのメガネは曇っていた。
そして少しすると、また眠りについた。
撮影所に所に到着すると起き上がった横山やすしは、口をファスナーをしめる仕草をしながら
「さっきのことはキー坊にはチャック」
すでに現場に入っていた西川きよしは、
「無茶なことさせられてないやろな」
田中も
「やすし師匠にエラい目あってんちゃうんかいな」
と心配してくれたが、2人とも嬉しそうな顔だったので西川のりおの嬉しさは半減。
やけにウマが合って、うまくやっている2人に嫉妬した。

春、共演する月亭可朝とやすしきよしは、なんば花月から豊中市民会館まで一緒に移動することになった。
「俺の車で行こか」
という横山やすしに可朝は
「やっちゃんの運転やったら捕まるがな」
「俺は無法者か。
運転はキー坊の弟子がやんねん」
「さあ行こ」
横山やすしは助手席に乗り込み、後部座席の左右に西川きよしと可朝、真ん中に田中が座った。
西川のりおは、定員5人、満員状態の車を阪神高速を北に走らせていたが、赤いランプが点灯していることに気づいて
「ガソリンが全然ありません」
可朝が
「燃料ないんか。
下り坂のときはスイッチ切ったらエエねん」
「自転車やないんやから・・・
それにしてもウチの弟子、いつもこんな危険な状態に追いやってるんやな。
ウチの弟子を。
これはレンタル料もらわなアカンな」
西川きよしがいうと西川のりお以外は爆笑。
ガソリンメーターはEの文字を下回り、本当にガソリンがなく笑う余裕はなかった。

Eランプが灯いたまま車が高速道路を降りると横山やすしが道を指示し始めた。
「やっちゃん、道わかってんかいな」
(可朝)
「豊中市民会館やろ。
方向からいうとやや北方向にあるから」
(やすし)
「方向からて、大丈夫かい」
(きよし、目をむきながら)
「ということは北北西に進路をとれ」
(やすし)
「ヒッチコックの映画やないんやから」
(きよし)
自分以外が笑っている車内で、西川のりおは
「とりあえず左や
ほんでしばらく走って右に行け」
というおそらくヤマカンでいっている横山やすしの指示に従い、ハンドルを切った。
大きな道路から出て、最終的に行き着いたのは田んぼ。
横山やすしは、あぜ道を歩く犬を見つけ、窓を全開。
「コラッ何トロトロ歩いてんねん。
もっとサッサと行け」
「犬もまさかやっちゃんに注意されるとは想像つかんかったやろな」
可朝の言葉で、西川のりおはついに笑ってしまった。

その後も右へ左へ、指示されるがまま運転すると、鉄板を持った男性に遭遇し、
「なんや、ここ。
鉄工所の中入ったんちゃうか」
(きよし)
「手伝いまひょか」
(やすし)
その後も車は進み、金ダライを持ったオバちゃんに
「アレマッこんなところに車が」
と驚かれた。
こんなどこにいるのかわからない状態から、横山やすしの野性的カンと売れっ子芸人の悪運の強さが相まって、豊中市民会館に時間通りに到着。
西川のりおは1人でガソリンを入れながら
「こんなことがあるのか」
とつぶやいた。
市民会館ではクイズ番組の公開収録が行われたが、始まる前に可朝は、
「やすし君に帰りは適当にするっていうといて」
といった。
収録が終わって
「さあ帰ろか」
と横山やすしにいわれ、車を出していると
「可朝はんは?」
と聞かれ
「適当に帰るからいうとってといいはりました」
それを聞いて西川きよしは
「まああんなことになるんやったら乗りたないやろな。
逃げられたんや。
ホンマ俺も逃げたかったけど後で何されるかわからんから乗せてもらうわ」
横山やすしは
「キツいなあ」

やがて横山やすしは運転手がつき、西川のりおは西川きよしの弟子に返り咲いた。
しかしその数日後、事件は起こった。
同じ絶対服従でも横山やすしとはあまりに違う教育環境に加え、西川きよしは
「今日も泊まるからな」
といって楽屋で連日、徹夜マージャンを行い、それが3日続いた後
「今日も泊まるからスーパーでパンツ買うてこい」
といわれたとき、西川のりおは無性に腹が立って
「家に帰れせて下さい」
いった瞬間
(いってはならない言葉をいってしまった)
と思ったが、後悔はなかった。
「何?
お前誰に向こうていうてんねん」
西川きよしは怒鳴った。
楽屋には芸人仲間もいたが目をむけるだけむいて
「イヤやったら帰れ。
辞めて帰れ!」
マージャンをしているその場で立って大声を出した。
西川のりおは下を向いたまま
「そしたら失礼します」
(ついに決定的な一言をいってしまった)
と思いながらもスカッとした気持ちで外へ出た。
すると横から
「俺も合わせてきたんやけど前からムカついとった。
通いやいうとったのに仕事やなしにマージャンするためになんで泊まらなアカンねん」
という声がして、みると田中がいた。
「一緒に入ったんや。
そやから辞めるときも一緒や」
西川のりおは涙がボロボロこぼれて止まらなかった。

辞めたことは家族にいわず、母親に
「今日は行かんでエエんか」
と聞かれると
「東京に仕事でいってはるから行かんでエエねん」
とウソをつきながら、弟子についている間、ずっと抱いていた願望、
「ゆっくり寝たい」
を果たした後は田中と喫茶店でたむろしてバカ話。
しかし3日もするとなにか心にポッカリ穴が開いたような気分になって
「何かが欠けてる」
と思った。
家で昼ご飯を食べているとき
「師匠、今日生放送で漫才やってはったで。
お前行かんでエエんか」
と母親にいわれたが無視して食べ続けた。
4日、5日と過ぎ、朝起きても何の目的もすることもない自分に焦り、喫茶店でも
「服の着替えくらい1人でやるわなあ」
「そやけどちょっと前まで俺らが手伝っとったから、その分しんどいやろな」
などと話すようになり、
「辞めてよかったという強がりは、かなり無理があると気づいた」
しかし師匠に口答えして破門になった身。
もう弟子に戻れないのは確かだった。

1週間くらい経った昼間、母親が
「のりお、師匠から電話や」
ウレシさとコワさが激しく入り乱れ、なかなか出られなかったが
「早よ、出んかいな」
といわれ、電話をとると
「家で追ったら退屈やろ」
という優しい声がした。
「すいませんでした」
「もうエエから。
あったことは忘れたるから、明日から来たらエエからな」
「ありがとうございます」
西川のりおは電話の前で頭を下げた。
その後、田中も師匠から電話があったと電話をしてきた。

「ヨッシャ、お前らも頑張れ。
俺も頑張る」
西川きよしはめいいっぱい目をむいて両手を握った。
「君らおらんかったらさみしいやないか、エエ。
北村君には、また車の運転してもらわなアカンし」
女性用ガードルをつけた横山やすしがいうと
「運転で無茶苦茶なことやらされたら必ずオレにいえよ」
「ホンマ、キー坊は警察よりキツいやろ」
「何いうてんねん。
警察が黙ってても俺が黙ってへんからな」
数ヵ月後、横山やすしは、タクシーの運転手を殴って逮捕され、約2年間謹慎処分。
西川のりおは
「そのとき俺が運転してたらなあ」
と思ったが、どうしようもなかった。

その後、田中と「淀公一・公二」というコンビでデビューしたが、1年で解散。
田中は、すぐに芸能界を辞めて会社勤めを開始。
西川のりおは、横山エンタツ・花菱アチャコの「横」、中田ダイマル・ラケットの「中」に因み、新コンビ「横中バック・ケース」を結成。
自作のアカペラソング「漫才は楽しいな」を歌ったり、緞帳にぶら下がってはそれを引きずり下ろしたり、センターマイクにかじりついてカバーをを噛みちぎり、
「そんなことしたら感電するで」
と相方のケースにツッコまれ、
「俺はもうシビレとるんじゃ!」
クイズネタで無茶苦茶な問題を出し
「なんの関係があるんや」
と相方がいうと
「その答えを待ってたんや!」
といって、その顔面を往復ビンタ。
芸人仲間には
「スゴイ」
といわれたが、客には全くウケなかった。
神戸の松竹座に出ているとき、ウケないので相方、ケースを舞台から客席に投げ落とし、過去イチ、ウケたが、ケースは足を骨折。
ケースの入院中、勝手に次の相方を探し、元B&Bの上方よしおと「西川のりお・上方よしお」を結成。
漫才ブーム乗って、師匠やすし・きよし、ツービート、紳助竜助らと共にブラウン管を賑わし、その後、始まった「俺たちひょうきん族」では独特の暴走キャラでなくてはならない存在となった。
強烈な師匠に抑圧されていたお笑い暴走機関車は覚醒し始めた。

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山下達郎ソロ・デビュー50周年記念!JOURNAL STANDARDとコラボした限定Tシャツが発売

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ソロ・デビュー50周年を迎えた音楽界のレジェンド・山下達郎とJOURNAL STANDARDが特別なコラボレーションを実現。1stアルバム『CIRCUS TOWN』収録の名曲「WINDY LADY」をテーマにしたTEEがリリースされる。音楽史に刻まれた名盤の空気感を纏える、ファン垂涎の記念アイテムが登場だ。