明石家さんま 若手極貧時代

明石家さんま 若手極貧時代

玄関はダイヤル鍵。解錠番号は「113(よいさんま)」風呂ナシ、WCナシ、照明も漏電で壊れてナシ。テレビは全チャンネル、砂嵐。ビールケースを並べてベニヤ板を置いたベッド。ガラスがなくビニール袋を貼りつけた窓。兵庫県西宮市のそんな部屋にお笑い怪獣は生息していた。



そして目的の居酒屋に着いて飲み始めると再び上機嫌に。
次々と注文し、さんまたちは急き立てられながら必死に食べて飲んだ。
「芸人として生きていくんやったら勝たなアカン。
負けたらしまいや。
とりあえず勝て。
評判は気にするな。
行くときは行かなアカン。
ハイペースで生きろ。
マイペースはアカン。
どんどんペースが落ちる。
スピードは落とすなよ。
腹くくって行け」
横山やすしの話は大半は勝負論。
芸の話が終わると競艇の話に移行した。
店も変わり、他の若手芸人がグロッキーになっていく中、さんまだけは
「カッコよろしいなあ!」
と大きなリアクションをとって熱心に話を聞き続けた。
「気に入った!」
お前はワシに似とる。
インからグッといくタイプや。
アウトからチンタラまくるタイプちゃう。
芸人はインからガーッといかなアカン。
よっしゃ、今からワシの家行こう。
アウトの連中はサッサと帰りさらせ」


こうして他の芸人は帰らされ、さんまだけが横山やすしの自宅へ。
「さんま君。
今からモーターボートのエンジン音聞かしたるさかい、よう聞いとけよ」
かつて本気で競艇選手を目指したが、視力が足らず競艇学校に入れなかった横山やすしはボートにのめり込んでいた。
淀川の近くに家を買い、モーターボート、計測機器、コーナーコーンなどを置いて練習場をつくり、花月のある戎橋までボート通勤していた。
さんまはヘッドホンを手渡され、各メーカーのエンジン音を正確に聞き分けられるようになるまで、何度も何度も繰り返し聞かされた。
「ドヤッ、違いがわかってきたやろ。
モーターボートは奥が深いいんや。
また聞かせたるさかい、今日はもう帰れ。
ワシはもう寝る」
「やすし師匠、今日はいろいろありがとうございました」
「オッほんだらな。
グッドラック!
はよ行け」
横山やすしの家を出たのは朝の6時。
衝撃と波乱に満ちたテレビデビュー日となった。
後日、さんまは
「飲みに連れていってもらったというより市中引き回しの刑に遭うた」
とネタ化したが、160cm、42kgと小柄で華奢な横山やすしから圧倒的なオーラを感じていた。

さんまは、横山やすしの家を出た後、少しだけ仮眠をとってうめだ花月に向かった。
漫才、落語、コント、音楽、様々な芸が披露された後、吉本新喜劇が始まるが、さんまはそのセットを組み立てる間、緞帳の前で漫談をする仕事が入っていた。
楽屋に入ると
「昨日、みたで。
ようしゃべってたなあ」
と5歳年上の先輩芸人、ナンバ四郎に声をかけられた。
コミックバンド「ザ・パンチャーズ」のベーシストで、演奏中に1拍遅れて、メンバーがズッこけるというギャグで当たっていた。
この1拍オクれるギャグで後に「Mr.オクレ」と改名する先輩とさんまは、すぐに意気投合し、よく遊ぶようになった。
Mr.オクレは、顔色は悪く、大きな黒縁メガネ、ガリガリの体に七三分け。
「腹減った。
なんか食わせ」
といってくるMr.オクレにさんまは
「お化け屋敷の営業やったらどうでっか?」
とすすめたが
「金だけくれ」
と返された。

笑福亭松之助の弟子となって2年。
その間、落語家として高座に上がったのは7本だけ。
(鶴瓶は、その内の1本、朝日放送でさんまが演じた落語を録ったテープを大事に保管し、ことあるごとに
「お前もモッサリとしたことやってたんやな」
とイジり続けている)
通常、弟子は、2、3年経つと師から「年季明け」、つまり修行期間終了をいい渡される。
しかし松之助が明確にそれを告げることはなかった。
さんまが弟子として家に通わなくなっても、それまでと同様、会えば話し込み、伝えたいことがあれば手紙を渡した。
さんまも機会があれば、師匠の世話を焼き続け、松之助の落語は舞台袖から勉強した。
そのとき顔は真剣そのもの。
口は師匠のいい回しや間をなぞって小刻みに動き、手には草履を持っていて、幕が下り、師匠が立ち上がるとさんまは駆け寄り
「師匠、ご苦労様でした。
勉強させていただきました」
と頭を下げ、松之助は
「おお」
と揃えて置かれた草履を履いた。
「外までお見送りさせていただきます」
「君、忙しいんやからエエで。
帰り道くらいわかるで。
子供やないんやから」
「師匠、ボケとるかもしれまへんで」
「アホなこというな。
ところで君誰や?」
「さすが師匠。
まだまだサビてまへんな!」
師匠と弟子は声を合わせて笑った。


1本立ちし自由の身となったさんまだったが、仕事は不定期に入る花月のステージと落語会だけ。
親からの仕送りもなくなり、時間はあるが金はなく、ひたすら仲間と街を徘徊。
喫茶店に入り浸り、
「50点」
「30点」
店の外を通り過ぎる女性を採点したり、ナンパして笑わせたりした。
結局、毎日4時間くらい歩き続け、仲間の1人が足の小指から軟骨が飛び出し、医者に
「歩きすぎです」
といわれ手術。
お金はなかったが怖いものもなく
「売れる」
「キャーキャーいわれる」
という夢だけがあった。

1本立ちして間もなくさんまは、島田紳助を初めて第一久寿川荘の部屋に招待した。
さんまはまだ仕事中だったため、紳助は、雨が降る中、1人で先に第一久寿川荘に向かった。
さんまが地図を描いた地図を頼りにたどり着いたとき、時刻は18時を過ぎていて、辺りは暗くなっていた。
老朽化した階段を上がり、さんまの部屋の前に立つとダイヤル式のカギがかかっていた。
解錠番号は聞かされていない紳助は、ドアの中央に
「113」
と大きく書かれてあるのを発見。
半信半疑で番号を合わせるとアッサリ開いた。
首をかしげながら部屋に入ると、中は真っ暗。
手探りで壁を探したがスイッチは見つからない。
ライターをつけて照明のヒモを探したが見つからない。
仕方なくテレビのスイッチを入れると、どのチャンネルも砂嵐。
砂嵐によってぼんやり浮き出てきた部屋をみると、ビールケースを並べてベニヤ板を置いたベッドと小さなちゃぶ台。
窓はガラスはなくビニール袋が貼りつけられ、風が吹くと
「バサバサ」
と音がした。
押入れがあったが開ける勇気はわかず、書き置きを残し、食事に出かけた。


その後、さんまが帰宅。
扉は開いたままでテレビはつけっぱなし。
机の上に
「友達として泊まりに来たけど俺は家畜ではない。
人間としてこの部屋に泊まることはできない。
残念やけど俺は旅に出る。
紳助」
と書かれた紙があった。
40分後、食事を終えた紳助が戻って来て、再び「113」で鍵を開けて部屋に入ると自分が書いた書き置きの裏に
「君の言葉は胸に突き刺さった。
僕は今から死のうと思う」
と書かれてあった。
それを読んだ紳助は、さんまが隠れていると思い、真っ暗な部屋に向かって
「さんま、押入れに隠れてんのんわかってるんやぞ。
出て来い」
「カーテンの裏か!」
などと1人しゃべり続け、そこにお好み焼きを食べにいっていたさんまが帰ってきた。
後で確認すると「113」は「よいさんま」という意味で、紳助のためにその日だけさんまがドアに書いたものだった。
後日、さんまの部屋に遊びに行った紳助は、その番号を忘れてしまい、足で蹴るとドアは横に開かず縦に倒れた。
帰ってきたさんまが
「泥棒か!」
と焦って部屋に入ると中で紳助が寝ていた。

逆にさんまが京都の紳助の実家に泊まりに行ったとき、紳輔は彼女(現在の奥さん)を呼んで紹介した。
深夜3時頃まで3人で話した後、紳助と彼女がベッド、さんまは床で寝ることになった。
しばらくすると真っ暗な部屋の中で声がし始めた。
「ア、アカンて。
さんまさん起きてはるて。
・・・・アカン・・・・アカンて」
さんまは、
(1日くらいガマンせえよ)
と思いながらも気を利かせて
「スマン、紳助、ちょっとオレ外いってくるわ」
といった。
「どこいくねん?」
「前の公園で寝るわ」
さんまは紳助が止めてくれると思ったが、
「おうっ」
といって毛布を投げられた。
それを持って紳助の家の前にあった公園に移動するとホームレスの人に話しかけられた。
「兄ちゃん、若いのに」
「すんまへん、お邪魔して」
そしてベンチで寝て、朝になり帰るとき顔は蚊に刺されまくってボコボコになっていた。


正式な仕事は、不定期に入る花月のステージと落語会だけだったが、さんまは会社を通さない直の営業もこなしていた。
芸人同士、仕事を紹介し合って成り立つ直の営業、通称「余興」
そのギャラは1回5000円~1万円。
月に数万の収入となり、松之助からアルバイトを禁止されているさんまにとって生きていく命綱だった。
1976年5月、さんまと島田紳助は「余興」で奈良県大和高田市にできたニチイのオープニングイベントの司会をした。
1日2ステージでギャラは2人で5000円。
イベントは2日間行われ、必死に盛り上げようとしたが客は最後までクスリともしなかった。
仕事を終えた2人はトボトボと駅に向かった。
途中、さんまがコロッケを買った。
食べながら歩く姿をみて紳助は
「お前コロッケ似会うなあ」
「せやなあ。
ジャンパーも茶色やしな」
茶色のジャンパーを着ていたさんまが答えると2人は爆笑。
その後、歩いているとき、さんまが屁をこいて大袈裟に飛び上がると、紳助は再び爆笑した。

1ヵ月後、2人は京都ロイヤルホテルの営業に出た。
婦人会が会食する中、15分間、コントをするという仕事で、ギャラは2人で4万円と超高額。
2人は工事現場のコントをしたが、婦人たちは誰もこっちをみておらず大声でしゃべっていた。
2人は何とか注目させようと話しかけたが誰も応じてくれない。
「みなさーん、一生懸命やっておられるのですからみてあげてくださーい」
幹事の女性がいっても誰も耳を貸さない。
5分が経過したとき、突然、さんまはコントをやめて控え室に帰った。
紳助は破格のギャラのために最後までガマンするつもりだったが、仕方なく控え室に戻った。
さんまはすぐに着替え出し、幹事の女性が
「皆さんのお行儀が悪くてすみませんでした」
といってギャラが入った封筒を渡そうとしても
「いりません!
ちゃんとできてませんから」
と断った。
「いや、そういわずに・・」
という幹事の女性に紳助は
「ありがとうございます」
と封筒を受け取った。
そして会場を出るとさんまは
「おい、2万円渡せ」
といった。

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