明石家さんま 若手極貧時代

明石家さんま 若手極貧時代

玄関はダイヤル鍵。解錠番号は「113(よいさんま)」風呂ナシ、WCナシ、照明も漏電で壊れてナシ。テレビは全チャンネル、砂嵐。ビールケースを並べてベニヤ板を置いたベッド。ガラスがなくビニール袋を貼りつけた窓。兵庫県西宮市のそんな部屋にお笑い怪獣は生息していた。


さんまは兵庫県西宮市今津久寿川町の第一久寿川荘に部屋を借りた。
トイレと炊事場は共同で家賃は8000円。
天井に照明器具がついていなかったので、裸電球がついた大きなチョウチンを花月からもらってきた。
夜、帰ってきてスイッチを入れると、それは漏電していて
「パチパチッ」
と音が鳴って天井に火花が散った。
さんまが
「線香花火みたい」
と思っていると
「ボンッ」
と電球が爆発しチョウチンが落ちてきた。

本来、修行を途中で投げ出した弟子は即破門。
松之助はそれを許したものの、このまま「笑福亭」を名乗らせていると
「いつか角が立つかもしれない」
と思い、自分の本名「明石」から「明石家」という屋号を与え、「笑福亭さんま」から「明石家さんま」に変名させた。
これはしきたりの多い落語界に縛られず自由に活動しやすいようにするという目的もあった。
またさんまに
「借りれるなら借りとけ」
と毎月5万円、実家から仕送りをしてもらうよう命じた。
その理由は
「アルバイトする時間があったら人の舞台や世間をみて1日も早く1人前になれ」
というもの。
さんまは実家と決別することを決めたばかりだったが仕送りをしてもらうことにした。


1975年4月、さんまは同期の島田紳助と再会。
「さんまが東京へ逃げた」
と聞いたとき、密かにコンビを組みたいと思っていた紳助はショックを受け、一時は東京に探しに行こうとまでした。
何よりさんまが黙って消えたことに怒り、オール巨人や桂小枝などまだ弟子っ子をしていた同期芸人に
「おい、俺らは友達や
さんまみたいに黙っていくのは絶対、ナシや。
やめるときは一言、声をかけてからやめようぜ」
といった。
みんなうなずいたが以後、半年足らずで、その大半が何もいわずに去っていった。
そして帰ってきたさんまに、紳助は思いのたけをぶつけた。
まくし立てる紳助に、さんまはまくし立て返し、2人は貪りつくようにしゃべり続けた。


ある日、さんまが松之助の家の玄関先を掃除していると、大きなクラクションが鳴り、振り返ると自分と同世代の男が運転するスポーツカーがそばを走り抜けていった。
それをみていた松之助は声をかけた。
「掃除、楽しいか?」
「エッ?」
「さっきから一生懸命掃いてるけど楽しいか?」
「いえ、楽しくないです」
「せやろ。
そんなもん楽しいわけがない。
せやからやな、掃除をどないしたら楽しくなるか考えてみい。
楽しくなることを考えているときは楽しいやろ?
どないしたらイヤなことが楽しくなるか、一生懸命考えてみい。
同じやるなら楽しいほうがエエやろ」
以後、さんまは
「今日はテレビからやってみよ」
「今日は真ん中からやってみよ」
「歌を歌いながらやってみよ」
と工夫して掃除。
結局、掃除が楽しくなることはなかったが、どうすれば楽しく掃除できるかを考えれば楽しくなった。
「どうしたら面白くなるか?
どうすれば楽しくなるか?
ああしてみよう、こうしてみようとどうすれば楽しくなるかと考えていくと楽しい」
ということを発見。
さんまの笑いの軸の1つとなった。


さんまは落語にも真剣に取り組んだ。
勉強会に積極的に参加し、松之助以外の師匠クラスにも稽古をつけてもらった。
そして6歳上の同門、小禄と2人で落語会を開こうとしたが、無料で貸してくれる場所がなかなか見つからない。
あきらめかけて飛び込んだのが、祇園の酒場で流しをやっていたやしきたかじんと恋人がやっていた喫茶店。
2人は事情を聞いて快く承諾。
さんまと小禄は稽古を重ねたが、当日、京都は台風に直撃された。
開始時間を2時間過ぎても誰も来ず、喫茶店にいるのはさんま、小禄、たかじん、恋人の4人だけ。
みかねたたかじんが友人に
「みにきたって」
と電話をかけまくり、結果、知り合いのスナックのマスターが1人来店。
こうして2人落語会は3人の客の前で和やかに行われた。
このときさんまもやしきたかじんも共に無名。
後に
「あのとき客席で笑っていた男がこうなるとは」
「あのときのアレがコレになるとは、そらわからんわな」
と驚いた。


「最後にもう1度合って話をしたい」
東京で別れを告げられた女性のことを忘れることはできないさんまは、女性の実家に電話をかけたがつながらなかった。
芸人として修行に励みつつ、女性が利用する近鉄難波駅で、彼女が何時に通るのかわからないまま改札口で待つこともあった。
そして東京でフラれてから半年後、難波駅の改札で1時間待った後、地下街を歩いていると、スーツ姿の男性の腕をつかんで歩く女性を発見。
とっさに方向転換したが、背後から女性に呼び止められ、大袈裟に驚くフリをした。
「こないだ話した幼馴染で芸人さん」
女性に紹介されると男性は
「どうも初めまして。
お話はうかがってます」
と屈託のない笑顔で挨拶してきたので、さんまも会釈。
「ほな、またな」
「急いでるの?」
「おお、ちょっとな」
さんまは最後に男性に
「幸せにしてあげてください」
女性には
「ほんじゃあ」
といって去った。
地下街を足早に抜けて地上に出ると千日前商店街にアン・ルイスの「グッド・バイ・マイ・ラブ」がかかっていた。

さんまがうめだ花月の楽屋で師匠の出番を準備していると先輩芸人の森啓二に声をかけられた。
「さんまちゃん、出番終わったら行こか。
上本町行こう。
夕方、仕事帰りの若い女が地下からわんさか沸いて出てくる」
森啓二は同い年。
西川きよしの弟子だったが、すでに修行を終え、喜多洋司と漫才コンビを組んで活動していた。
2人はよく終電間際まで街を歩いてナンパをしていた。
ナンパの成否は
「ターゲットをいかに笑わせるか」
で2人で作戦を練った。
ターゲットを後ろから追い越し、距離を保って歩き続け、わざと片方の靴を脱いで気づかないフリで何歩か進んだ後、
「あっ靴忘れた!」
と大袈裟にいって取りに戻り、ちょうど脱いだ靴のところでターゲットと鉢合わせ。
そこで笑っていれば、そのまま話しかけ、喫茶店へ誘い込む。
運よく喫茶店に連れ込めれば、ひたすらしゃべってイヤというほど笑わせる。
店を出ると笑顔で女性を見送るというのが、いつものパターン。
たとえ収穫がなくても女性を眺めながら2人で会話するのが楽しくて仕方なかった。
この他にもさんまは、花月で仕事の合間や終わった後に芸人仲間と喫茶店に入り、コーヒー1杯で3時間ほど居座ってしゃべった。
特に美人ウエイトレスがいる店には通い続け、笑わせ、交際を申し込むこともあった。


笑福亭松之助は、酒が大好き。
普段は温和だが飲むとムチャクチャになってしまう。
酔って家に帰って鍵が閉まっていると手でガラスを割って開けたり、楽屋でもなにかあると怒鳴り散らした。
さんまは舞台袖で
「さんま、持っとけ」
といわれフラフラの松之助を帯を持って支え、出囃子が鳴るとリリース。
泥酔したまま舞台に上がった松之助は
「あっ、酔うてる」
と女性客にいわれ
「じゃかしい。
生理もないくせに」
といい返し、
「みなさん知ってまっか?
わたい、笑福亭松之助です。
お後がよろしいようで」
といってアッという間に降りてしまった。
次の出番のカウス・ボタンは、20分はやると思っていた松之助が5秒で降りてきたため、
「師匠、あきまへんがな。
着替えもしてへんのに」
と文句をいうと
「お前らがアカンねん。
高座は何があるかわからへんねん。
いつでも着替えて待っとけ!」
と逆に説教された。
松之助は酒で吉本から何度も注意を受け、前座に変えられてしまったこともあった。
さんまはよく酒を買いに行かされたが、一升瓶だと一気に飲んでしまうため、少しでも量を減らすために小さなカップ酒を1本だけ何度も買いにいくようにした。

1976年1月15日、20歳になったさんまはテレビ初出演が決まった。
それは人気深夜番組「11PM」だった。
放送5日前、1月10日は成人式。
男女30名の若手芸人が「20歳の成熟度ピンクテスト」というコーナーに生放送で出演。
15名ずつが左右にわかれて座った。
前列中央に座ったさんまは、他の落語家はみんな着物を着ているのに、少しでも目立とうと真っ赤なスーツ、ストライプのシャツ、黒のネクタイ。
司会は、藤本義一。
アシスタントは、海原千里、万里。
コメンテーターは、横山やすし、露乃五郎(落語家)、窪園千枝子(歌手、女優、性評論家)
若手芸人はスイッチを持ち、出題される性に関するアンケートに回答していく。
さんまは物怖じすることなく、スキあらばしゃべり、質問が出れば真っ先に挙手し、自らの性生活を明かしていった。
『性技の48手以外の技は?』
「逆さ十字落とし」
『それはどんな技なの?』
「女性を逆さに持ち上げまして、そのままベッドに落とすんですわ」
これがドカーンとウケたところでCMに入った。
すると藤本義一が
「君、名前なんていうねん」
さんまがホメてもらえると思いながら
「アッ、さんまです」
と答えると藤本義一は
「サンマかイワシか知らんけどな、テレビでいうてエエことと悪いことがあるんや。
それくらい覚えてから出て来い!」
と怒り、盛り上がっていた現場はシーンとなった。
そしてCM明け、藤本義一がいった。
「それにしても君はしゃべるな。
名前はなんていうの?」
「明石家さんまです」
「師匠は誰?」
ここで横山やすしが割って入った。
「松之助師匠とこの弟子ですわ」
「ああそうか、松っちゃんとこの弟子かいな。
それならしゃーないわ」


生放送が終わり、さんまが控え室で帰り支度をしていると突然、白いマリンキャップをかぶった横山やすしが入ってきた。
「おう、さんま君」
「はい」
「自分、吉本やな?」
「はい」
「そうか、飲みに行こう」
「あっはい、よろしくお願いします」
「気に入った。
話が早い。
さすが松っちゃん師匠とこの弟子や」
お前らも来い。
連れてったる」
横山やすし、さんま、数人の芸人は2台のタクシーに分乗。
途中、あれだけ機嫌がよかった横山やすしが表情がみるみる険しくなって、
「視界不良や」
といって後部座席から助手席のヘッドレストを取り外させた。
そして運転手に
「オイ、コラ、運転手。
なにチンタラ走っとんねん。
ワシは吉本を担う若手を乗しとんねん。
恥かかすな、アホンダラ」
「アクセルはふかすためについとんねん。
ふかせ!ふかせ!
「さっさと前の車追い抜かんかい、アホンダラが」
「歩道を走れ、歩道を!」
と運転手を急かし続けた。

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