ジョージ・ロイ・ヒル
日本でジョージ・ロイ・ヒル監督はどれほど人気があるのか?若者はおそらくその存在すら知らないのではないでしょうか?いや、若者でなくとも知らない人の方が多いような気がします。
そもそも映画界全体を見渡すと認知度の高い映画監督自体がそんなに居ませんからね。ジョージ・ロイ・ヒルが知られていなくとも不思議ではありません。

ジョージ・ロイ・ヒル
しかし、彼の作品となると観たことある、聞いたことあるという人は多いと思います。アカデミー賞を受賞していますし、日本でもヒットしていて観て損なしの名作ばかりですからね。むしろ観ていなかったら損!ぜひとも観て頂きたいジョージ・ロイ・ヒルの作品をご紹介します。
明日に向って撃て!
ジョージ・ロイ・ヒルの映画監督デビュー作は、テネシー・ウィリアムズの戯曲を原作とした1962年の「Period of Adjustment」でした。その後何本か監督した後、1967年の「モダン・ミリー」でアカデミー作曲賞をはじめいくつもの映画賞にノミネート及び受賞をし注目されるようになりました。
しかし、なんといってもジョージ・ロイ・ヒルの名を広く世界に知らしめたのは1969年(日本では1970年)に公開された「明日に向って撃て!」でしょう!
ご覧になられた方が多い作品だと思います。西部劇に自転車が出てくる。しかもコミカルな演出で。そしてその時に主題歌の「雨にぬれても」が流れるというシーンが印象的な名作です。ここのところは、その後の緊迫したシーンと対照的なだけに実に効果的でした。
映画史に残る名シーンとの呼び声が高いストップモーションで終わるラストシーン。いま観ると流石に当時の斬新さは失われているとは思いますが、まぁ、カッコイイです。そりゃそうですよね。ポール・ニューマンと当時はまだ無名だったとはいえロバート・レッドフォードですから。カッコよくて面白い。名コンビですよ、この二人。
ところが当初はポール・ニューマンとスティーブ・マックイーンのコンビになる予定だったそうですよ。しかも、ポール・ニューマンはロバート・レッドフォードが演じたサンダンス・キッド役の予定だったとか。
それはそれで観てみたかったですね。
スティング
アカデミー賞をはじめ数々の映画賞を受賞した「明日に向って撃て!」でしたが、残念ながらアカデミー賞においてはノミネートされたものの作品賞、監督賞は逃してしまいました。
リベンジ。そんな思いもあったのでしょうか?いや、そんな考えは持たなかったでしょうねジョージ・ロイ・ヒルは。しかし、結果としてリベンジに成功したのが「明日に向って撃て!」と同じくポール・ニューマンとロバート・レッドフォード主演で撮った1973年公開の「スティング 」です。
これもご存じの方が多い作品でしょうね。間違いなく名作です!ただの名作ではありませんよ。名作中の名作ですよ、これは。
「スティング 」は、アカデミーの作品賞、監督賞をはじめ多くの映画賞を獲得しました!

スティング
どんでん返しに次ぐどんでん返し。キツネとタヌキの化かしあいとでもいうのでしょうか、面白いにも程があるっていうくらいに面白い映画です。
そしてファッション。オシャレなんですよね。主役の二人だけではなく、ロバート・ショウをはじめとして出演者全員がカッコいいのです。
物語は1936年を舞台としていますので貨幣価値が現在とは大きく違います。物価水準は、約19倍になっていると想定されるらしいので、最後の賭博場で賭けられる50万ドルは現在価値で950万ドル。日本円で約9億5千万円ということになるようです。
それにしても鮮やかな、胸のすくラストシーンです。
華麗なるヒコーキ野郎
「明日に向って撃て!」「スティング」(その間にカート・ヴォネガットの小説を原作とした「スローターハウス5」があります。これもイイ作品)が大成功を収めたことで印象が薄くなっているように思えるのが1975年の「華麗なるヒコーキ野郎」です。
主演はロバート・レッドフォード。ジョージ・ロイ・ヒルは監督だけでなく原案、製作にも携わっていることからも分かるように、この作品に対する思い入れがひしひしと伝わってくる実に力の入った作品です。

華麗なるヒコーキ野郎
解説・あらすじ - 華麗なるヒコーキ野郎 - 作品 - Yahoo!映画
「華麗なるヒコーキ野郎」にはロバート・レッドフォードだけではなく、「スティング」のスタッフも参加しています。
ジョージ・ロイ・ヒルが信頼のおけるキャスト・スタッフを集め、心置きなく力を発揮した作品といっていいでしょう。
原題は「The Great Waldo Pepper」。それが何故「華麗なるヒコーキ野郎」になったかといえば、前年ロバート・レッドフォード主演で公開され日本でも大ヒットした「The Great Gatsby」の邦題が「華麗なるギャツビー」だったからでしょう。「Great」つながりということかな???
スラップ・ショット
ロバート・レッドフォードが出たんだったら次は俺だと言ったとか言わなかったとかで、ジョージ・ロイ・ヒルの「華麗なるヒコーキ野郎」に次ぐ作品「スラップ・ショット」の主役はポール・ニューマンです。

スラップ・ショット
ロバート・レッドフォードはジョージ・ロイ・ヒルによって見出されたといえますが、ポール・ニューマンはそうではありません。ジョージ・ロイ・ヒル作品に出る前から既に大スターでした。そのポール・ニューマンを自分の作品の色に染めてしまうジョージ・ロイ・ヒルの手腕はやはり見事と言うほかはありません。
名作と言われる作品に多数出演しているポール・ニューマンですが、ジョージ・ロイ・ヒル作品はひと味違いますよ。
「スラップ・ショット」は、ひと言で言えば痛快アイスホッケー映画ということになります。アイスホッケー映画というのは珍しいですよね。アイスホッケーのルールは知らないという方でも大丈夫!間違いなく楽しめます。
「スラップ・ショット2」「スラップ・ショット3」と続編が作られていることからこの作品の人気の高さが伺えます。しかし、それはジョージ・ロイ・ヒルともポール・ニューマンとも別のお話。
リメイクが予定されているらしいので、それはそれで楽しみです。
リトルロマンス
少年と少女による最高の恋愛映画「リトル・ロマンス」がジョージ・ロイ・ヒル作品の70年代最後を飾ります。
ポール・ニューマンもロバート・レッドフォードも出てきませんが、ヒロインを当時15歳のダイアン・レインが演じています。彼女これがデビュー作なのですが、ジョージ・ロイ・ヒルよくぞ発掘してくれました。最高にカワイイです。それだけでも観る価値があるのですが、ダイアン・レインを別にしても作品自体が素晴らしいのですよ。

リトルロマンス
「リトル・ロマンス」はダニエルとローレンという少年少女の淡い恋の物語です。個人的には、この手の映画としては「小さな恋のメロディ」と双璧をなす作品だと思っています。
「リトル・ロマンス」のクライマックスはなんといってもサンセット・キッスです。サンセット・キッスというのは、ダニエルとローレンがふとしたことで知り合った老人から聞いた伝説で、ベネチアにある嘆きの橋の下で日没の瞬間にキスをすると永遠の愛を手にすることが出来るというものです。
2人は自分たちも体験しようと老人と共にベネチアに旅立つのですが、当然まわりは大騒ぎ。誘拐事件としてニュースになってしまします。しかも一緒にいる老人が実は詐欺師だったのです。サンセット・キッスの伝説は嘘だったのか?!どうするダニエルとローレン!ということで、ダニエルとローレンの出会いからサンセット・キッスまでワクワクドキドキの連続で思いっきり楽しませてくれます。もう必見!!
詐欺師の老人を、シェイクスピア俳優として名高い名優ローレンス・オリヴィエが実にいい味を出して演じていますよ。
ジョージ・ロイ・ヒルの作品にはヘンに小難しいところがないんですよね。誰にでも楽しめる、スカッとする。そんな作風です。
ただ残念なことに、この後には、1982年「ガープの世界」、1984年「リトル・ドラマー・ガール」、1988年「ファニー・ファーム 勝手にユートピア」と僅かに3本しか残しておらず、その後パーキンソン病を発病し映画の製作から離れ、2002年12月27日に80歳で亡くなりました。惜しい。なんとも惜しい。体調さえ万全であれば、80年代、90年代にも素晴らしい作品を作れたに違いありません。
それでもジョージ・ロイ・ヒルは偉大な作品を残してくれました。ジョージ・ロイ・ヒルの充実した70年代の作品はこれからも輝きを失うことはないでしょう。