デヴィッド・リンチ
デヴィッド・リンチ監督。ご存じの方には改めて言うまでの事ではないのですが、変わった監督です。 1946年アメリカはモンタナ州生まれで、1967年に最初の短編映画「Six Men Getting Sick (Six Times) 」を制作し、長編映画監督としてデビューしたのは1976年、デヴィッド・リンチ30歳の時です。
おそらく日本においてデヴィッド・リンチの名が知られるようになったのは1989年のテレビドラマ「ツイン・ピークス」においてでしょう。
これは流行りました。日本だけではなく、世界的な大ブームを巻き起こしましたね。実際、面白かったです。謎が謎を呼ぶストーリーもさることながら、何と言っても出演者をはじめ作品の雰囲気がテレビドラマとは思えない、そう、まさしく映画でした。連続物の映画を見ているようなクオリティがありましたよ。今にして思えば、この時には既にデヴィッド・リンチは作風を確立してたということがよく分かります。面白いはずですよ。
もっともデヴィッド・リンチは最初からデヴィッド・リンチではありましたね。思いっきり異才を放ってました。
ではどの作品でスタイルを確立したのでしょう?ということで、デビュー作をはじめ80年代のデヴィッド・リンチ作品を見ていきましょう。
イレイザーヘッド
長編映画第1作目は4年の歳月をかけ作り上げたという1976年公開の「イレイザーヘッド」です。今でこそカルト映画として有名な「イレイザーヘッド」ですが、日本人でこの作品をリアルタイムで見たという人は少ないと思います(日本公開は1981年)。そもそもカルトという評価は一般的にはヒットしていないということですからね。今と違ってYou Tubeもありませんし、なかなか見る機会がない作品だったわけです。
それでは「イレイザーヘッド」がつまらん作品かというと、とんでもありません。傑作です!人によってはこの作品がデヴィッド・リンチの最高傑作と言ってるくらいですからね。

イレイザーヘッド
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傑作とは言え、「イレイザーヘッド」を見て、シュールすぎて何のことだかさっぱり分からん!という感想を持たれた方、多いと思います。騙されたとさえ思った方もいるでしょう。その気持ち、良く分かります。それが普通の感覚だと思いますよ。誰だって理解できんと思います。それでは面白くないかというと、どうです?面白いでしょうが?全編にみなぎるパワーがありますからね。
まだスタイルを確立しているとは言い難いものの「イレイザーヘッド」にはデヴィッド・リンチの特徴、個性がはっきりと表れています。
気持ち悪いけど目が離せない。悪夢を見ているような感覚。それはデヴィッド・リンチの魅力に他なりません。
この作品、自主制作ですから資金はかぎられてる訳です。制作に4年をかけた大作というよりも、資金不足のため長い時間がかかってしまった。そういうことのようです。しかし、考えてみてください。4年もの間ぶれることなくひとつの作品を作り続けるというのは並大抵のことではありませんよ。
当人にとって名誉なのか不名誉なのか微妙なところではありますが、デヴィッド・リンチには「カルトの帝王」という称号を与えられることになります。
当時は上映中、内容があまりにもショッキングなため、妊婦は鑑賞しないようにと警告されていたそうです。全体に意味不明で不気味なんですが、まぁ、とにかくラストは異常も異常。トラウマ待った無しです!
エレファント・マン
「イレイザーヘッド」には奇形という言葉では言い表せない、奇妙な赤ん坊が圧倒的な存在感を出していました。もちろん作り物、作り話でしたが、デヴィッド・リンチの2作目は実在した生まれつきの奇形の男の物語です。この作品は日本でもヒットしましたからリアルタイムで見られた方は多いと思います。「エレファント・マン」です。
1980年に公開された「エレファント・マン」は商業的に大成功しただけではなく、アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭においてグランプリを受賞。アカデミー賞では最優秀作品賞、主演男優賞など8部門にノミネートされるなど一般的にも高い評価を受けました。

エレファント・マン
断っておきますが、「エレファント・マン」はヒューマンドラマです。恐怖映画ではありませんよ。「イレイザーヘッド」とは違います。いえ、「イレイザーヘッド」も恐怖映画ではありませんが、「エレファント・マン」にはしっかりとした誰にでもわかるストーリーがあります。知能が低いと思われていた主人公が、実はそうではないということが分かり、徐々に心を開いていくというストーリーは感動的です。もう一度言いますが恐怖映画ではありません。分かりやすいストーリーもある。しかし、何というか、デヴィッド・リンチなんですよね。
プロデューサーに、コメディ映画の巨匠として知られるメル・ブルックスがプロデューサーに名を連ねています。メル・ブルックスは商業的にはパッとしなかった「イレイザーヘッド」を高く評価していたそうですね。
デューン/砂の惑星
カルト映画をバカにしてはいけませんよ。「スターウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」で知られるジョージ・ルーカス監督もまた「イレイザーヘッド」のファンだったそうですからね。見てる人は見てるものなんですね。で、「スター・ウォーズ ジェダイの復讐」の監督のオファーを出したのだそうですから驚きです。が、デヴィッド・リンチはこれをキッパリ断って取り組んだのが、1984年公開の「デューン/砂の惑星」です。

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フランク・ハーバートのSF大河小説「デューン」をデヴィッド・リンチが映画化。初の原作物。制作費は120億円とも言われる大作。結果はどうだったかと言えば、残念ながら商業的にも評論家的にも大失敗となりました。
主役に抜擢されたのは、以後デヴィッド・リンチ作品の常連となるカイル・マクラクランです。そう、「ツイン・ピークス」のクーパー特別捜査官ですね。
デヴィッド・リンチにとっては意欲作だったそうですが、「デューン/砂の惑星」は何故失敗してしまったのでしょうか?
そもそも原作が長いんですよね。とても2~3時間では描き切れないという問題があります。そこに持ってきて、デヴィッド・リンチはファイナル・カットの権利を持っていなかったため、配給会社から大幅にカットされてしまい、中途半端なものになってしまったようです。メジャーはメジャーで厳しいですね。
しかし、この経験を活かし、次作ではファイナル・カットの権利を手に入れ、巻き返しを図ることになります!
ブルーベルベット
大幅に予算カットはカットされたものの、ファイナル・カットの権利を手に入れて制作された「ブルーベルベット」。まぁ、確かに小粒ではありますが、これぞデヴィッド・リンチという作品に仕上がっています。大作よりも自由を選んだということですね。
変態的な情事をのぞき見するという内容もさることながら、暴力描写や女性が全裸で外に飛び出すといった表現が賛否両論を巻き起こしたものの、アカデミーの監督賞にも再びノミネートされ、全米映画批評家協会賞やロサンゼルス映画批評家協会賞での監督賞など多くの賞を獲得し、アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭においてはグランプリに輝いています。
復活。デヴィッド・リンチ復活です。

ブルーベルベット
主人公は前作に続きカイル・マクラクラン。ヒロインは精神的に壊れているマゾという実に難しい役どころを魅力的に演じているイザベラ・ロッセリーニ。そして、異才というか個性を発揮しまくっているのがデニス・ホッパー。もう狂気としか言いようがありません。
「ブルーベルベット」は、デヴィッド・リンチ作品の特徴である悪夢のような鮮烈な映像に、複数の題材を多く盛り込むというスタイルを確立した作品と言えますね。
以上がデヴィッド・リンチの80年代の映画作品です。4作品少ないですね。因みに90年代も4作品。そして2000年代には2作品で、2006年公開の「インランド・エンパイア」が最後となっています。テレビ作品や短編映画は数多く撮っているのですが、肝心の長編映画が少ない。
「ブルーベルベット」以降、加速度を増して素晴らしい作品のオンパレードとなるだけに、一人でも多くの方に見てもらいたいですし、デヴィッド・リンチには1本でも多くの作品を残してほしいものです。