
左・吉本浩二先生、右・地球のお魚ぽんちゃん先生
「下品です。漫画描いてます。男子高校生が好きです。 単行本『男子高校生とふれあう方法』発売中。漫画アクションにて連載してます。」(ツイッター自己紹介より引用)と語る、女性漫画家。
女子大生時代に末田雄一郎先生・吉本浩二先生の『昭和の中坊』に出逢って熱狂。自身もネットでシュールな漫画を発表し始め、注目される。双葉社で連載を執筆するようになり、書き溜めた作品は双葉社で『男子高校生とふれあう方法』(2016年)として単行本化。いま、もっとも2冊目の刊行が待たれる漫画家の一人である。
取材:尾之上浩司(https://shimirubon.jp/users/1672465)
地球のお魚ぽんちゃん先生『昭和の中坊』にハマる
――大学の先輩から古い「漫画アクション」を借りて、吉本先生の『昭和の中坊』を知ったのですね。
**ぽん**
ガツンときて、一気に読みました。でも、知ったときは連載がもう終わっていたんですよ。
――当時、他にはどんな漫画を読んでらっしゃったんですか?
**ぽん**
『NARUTO-ナルト-』とか『銀魂』とか『浦安鉄筋家族』ですかね。王道のギャグ漫画しか読んでなくて。小中学生の頃は、少女漫画しか読んでなかったです。
――主に男の子が活躍する系。中でも『浦安鉄筋家族』は『昭和の中坊』に通じる内容ですね。ギャグ漫画が特にお好きなのですか?
**ぽん**
はい、最初に読んだのが『浦安鉄筋家族』でした。その後が『銀魂』で、一回、腐女子になって、大学に入ったらそういう熱が薄れ(笑)、そのときに『昭和の中坊』をお薦めされたんですよ。それが、自分が漫画家になったきっかけでした。
**吉本**
そうだったんですね(ひとごとのように)。
**一同**
(爆笑)
**ぽん**
当時は『昭和の中坊』の単行本が書店にはもう置いてなくて、古本屋をまわって探しました。私、何かひとつ好きになると、それだけ追うところがあって……。それまで青年漫画は読んでなかったんですが、これがきっかけで「漫画アクション」を買い始めたんです。
『昭和の中坊』の中の思い入れのあるキャラクター
――『昭和の中坊』のお気に入りのキャラクターを教えていただけませんか?
**吉本**
自分をキャラに投影していないつもりだったんですが、丸木は自分の要素が入っていると思います。
**ぽん**
私も今日は好きなキャラクターを選んできたんですが、私も丸木、好きです! すぐに顔が真っ赤になっちゃう所がいいんですよね。アイコラを作る回(第30話「できるのかな?」)の丸木が特に好きです。アイドル雑誌とエロ本を切り張りして、アイコラを作る作業をひたすら地味に続けているのですが、なかなかうまく出来なくて、丸木がニゴシに「真剣にやれ!」と切れられちゃうんです。するとアイドル雑誌は丸木がお姉ちゃんの雑誌を勝手に持ってきちゃってたもので、丸木が泣いちゃうという……。とても可哀相なんだけど、笑っちゃいました。

テンパると顔が真っ赤になるのがチャームポイントの丸木
**吉本**
それから矢島先輩が好きでしたね。
**ぽん**
矢島先輩、良いですよね! 痛々しい場面がけっこう多くって(笑)。それも愛おしいんですが(笑)。それより何より、めちゃくちゃちっちゃいんですよ。大好きなシーンがあるんです。矢島先輩が多摩川の橋を渡るシーンです。矢島先輩がニゴシたちにエロ情報を気持ちよさそうに自慢げに話していたんですが、転校生の肥後くんの方がエロ情報に詳しくて、矢島先輩が拗ねて多摩川を渡っていくんです。東京側から神奈川側にちっちゃい矢島先輩が歩いていくのを、ニゴシたちが呆然としながら見ているんですよね。そんな矢島先輩が可哀相で。私、地元が多摩川沿いなので、多摩川の橋の長さと距離感が分かるんです。大分長い時間、とぼとぼと歩く所をニゴシたちに見られてたんだなあ、と思うと、矢島先輩が可哀相で。

哀しき矢島先輩……

見られている矢島先輩……
**吉本**
意外と、ニゴシのお父さんが好きかも。
**ぽん**
私もニゴシのお父さんを選びました! 夜中にエロい番組を観ようとしてお母さんにバレそうになったニゴシをかばったり(第4話「動く裸の夜」)して、とにかく優しいんですよね。

昭和の時代にはそこらじゅうに居た、いい笑顔のお父さん

左・『昭和の中坊』担当時を振り返る平田昌幸「漫画アクション」編集長
**ぽん**
そして最後に、B組の竹光ははずせません(笑)。

ニゴシが窮地に立たされると、颯爽と回想シーンに現れる快男子・B組の竹光
――エロのために、誰よりも先に妄想の実現にチャレンジしている、伝説の男子ですね(笑)。
**吉本**
そうか、竹光がいましたね(笑)。
**ぽん**
竹光は、主人公のニゴシたちと違うクラスなんですよね。実際にニゴシたちと出会う場面は、最後まで無いですよね。常に回想シーンにしか登場しないんですよね。
――ぽんちゃん先生、『昭和の中坊』の好きな回を教えていただけますか?
**ぽん**
河原に落ちてたコンドームを毎日のように見に行く話(第10話「英雄コンドーム」)が好きです。セリフ回しが面白くて。セックスって“する”ものじゃないですか。ところが「セックスが行われている」や「セックスされてる」って表現が出てきて(笑)。彼らにとっては“未知なもの”なんですよね。だから、そういう言葉遣いになるんだなって。無知だからこその神がかった台詞ですね。

セックスが現実に存在することを知り、衝撃を受けるニゴシたち
**編集長**
これは末田さんの原作通りのセリフです。末田さんの言葉のチョイスも素晴らしさも、『昭和の中坊』の面白さの秘訣です。
**吉本**
僕も、この回がいちばん好きかも。
**編集長**
この回の原稿が上がったときの達成感が、半端なかったですよ。ラストで川に流れたコンドームをニゴシたちがひたすら追いかけるんです。そのシーンの吉本さんの演出がとにかく感動的で秀逸なんです。元ネタは映画『泥の河』です。

『昭和の中坊』屈指の名シーン
**吉本**
……そうでしたか、いや、ええと……。
**編集長**
「『泥の河』で行きましょう」って提案したのは吉本さんですよ(笑)。掲載誌を読んだ末田さんも、「これ『泥の河』ですね」って一発で見抜いて、さすがだな! と思いました。
**吉本**
ちょっと古めの映画が好きでして。
**ぽん**
それから駅に置いてある有害図書を捨てるポストからエロ本を盗もうとする話(第15話「ポストと嘘と有害図書」)のラストシーンがとても好きです。駅員さんに見つかっちゃって。ニゴシは「漫画が捨ててあるって聞いたんで、拾いに来たんです!」と嘘をついて逃れようとするんですよね。ところが駅員さんが「大人」で、ニゴシにいらない漫画雑誌をあげるんです。その中には大人の漫画雑誌も混ざっていて、ニゴシは大人漫画の世界を知るんです。その姿が、『昭和の中坊』を知り、「漫画アクション」を知り、世界が広がった当時の私の姿と被るんです。

大学生当時の記憶が甦る、ぽんちゃん先生思い出のシーン
**吉本**
そうでしたか……。そんな風に読んでいただけるなんて、うまく言えないのですが、とても嬉しいです。

尊敬する吉本先生への緊張も解けてきて、ここからエンジン全開になるぽんちゃん先生
**ぽんちゃん担当**
(急に話しに入ってきて)、ぽんちゃん、「今日は長年知りたかったことをいっぱい聞くぞ~」って張り切ってたじゃないですか。どんどん質問しましょうよ!
**ぽん**
あ、はい、まずは29話「丸木正一郎屋上事件」の扉のイラストなんですが、なんで丸木が胴上げされているイラストなんですか?

問題の扉イラスト
**吉本**
あ、はい、これは丸木が初めてヒロインの岩渕と話しをして、男泣きする回ですね。
**編集長**
「漫画アクション」掲載時には、「丸木、おめでとう! とにかくおめでとう! 何がめでたいのかは、お話を読んでね」というキャッチが入っていたんですね。
**ぽん**
あ、そうだったんですね……。あとそれから……(この後ぽんちゃん先生からたくさん質問がありましたが、マニアックすぎるので割愛させて頂きます)
**吉本**
(ぽんちゃんの熱量に圧倒されて)……すごい読み込んでいただいてありがとうございます。すみません、僕も忘れてしまったことがあったりして、アタフタしてしまって……。こんなに『昭和の中坊』について話す機会はもう二度と無いんじゃないでしょうか……。
**ぽん**
(感動している吉本先生を無視して完全に自分のペースになり)最後にもう一つだけいいですか? ギター弾きの加勢ヨーと変わり者のまたろうがバンドを組む回(第47話「シンガー・ソング・中坊」)なんですが、ラストシーンが頭に焼き付いていて……。またろうの歌う形相が異様で……。これは絶対何か意味があるコマなんじゃないかと思ってまして。このコマに込めた思いを教えてください。

このコマから何らかのメッセージをぽんちゃん先生は受け止めた
**吉本**
……これは、ええと……。
**編集長**
覚えてますか?(笑)
**吉本**
(編集長の顔を見ながらやや不安そうに)……『オールド・ボーイ』……ですよね?
**編集長**
そうです、正解です。これも吉本さんのアイデアですよ(笑)
**吉本**
(ホッとしながら)当時平田さんが担当していた『オールド・ボーイ』という作品が韓国で映画化されて、話題になっていたんです。
**編集長**
≪敵≫の柿沼が少年時代に一生懸命歌を歌うシーンが物語の核心なんですが、そこから持ってきました。(同席していた編集部員に)『オールド・ボーイ』の8巻持ってきて。

長年気になっていたシーンとネタ元の『オールド・ボーイ』(原作・土屋ガロン/作画・嶺岸信明)8巻を見比べるぽんちゃん先生
**ぽん**
あ、これなんですね! 長年の疑問が解けました。
**吉本**
そういう所に引っかかるのは、漫画家だからだと思いますよ。僕も気付いてもらって、漫画家冥利につきます。
――吉本先生、ぽんちゃん先生、編集長、御三方の『昭和の中坊』の最大の読み所を伺いたいのですが。
**編集長**
読者が作品を読むうちに、この中坊たちの世界に自分も生きているような気になってくる。そこが魅力だと思います。あと、悪いヤツが出てこないので、そこも心地良いと思います。
**ぽん**
わたしは女性ですし、彼らとは生きている時代も違うんですが、エロを追う姿は男女問わず、時代を超えた普遍性があると思います。それをもの凄く上手く描いた漫画だと思います。愛らしい馬鹿たちの話なんですよ。
**吉本**
久しぶりに読んで「うらやましい」感じが自分でもしました。大人になると、毎日の生活に追われてしまって気付かないけれど、日常にも面白いことっていっぱいあるんだよなと、改めて気付ける漫画かなと思います。
『男子高校生とふれあう方法』を読む
――ぽんちゃん先生の『男子高校生とふれあう方法』を読んだ感想を、吉本先生からお伺いしましょうか。
**吉本**
女性にこういうものを描かれると、敵わないなって思います。男性の漫画家さんは、特にそう思うはずです。“こじらせる”という表現が流行っていますが、あれはまだプライドを意識して守って描いているような気がします。でも『男子高校生とふれあう方法』は“こじらせ系”を超えている感じがします(笑)。
**ぽん**
読者の側だったときは、自分が漫画を描くようになるなんて思ってもみなかったし、自分の単行本を吉本先生に読んでいただくなんて想像していませんでした。ありがとうございます。本当に嬉しいです!
――今日のお話を聞いて、昭和を描けば右に出る者がいない作家から、平成生まれの注目株作家へと、バトンが渡っているように感じました。
そんな吉本先生の新連載『「ルーザーズ」~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~』は、「漫画アクション」創刊50周年記念作として、半世紀にわたり脈々と受け継がれてきた最初のバトンの物語ですね。

ルーザーズ ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~
『ルパン三世』『子連れ狼』『この世界の片隅に』などの名作を誕生させた「漫画アクション」の創刊にまつわる物語なので、興味深く拝読しています。
初代編集長の清水文人さんや、『ルパン三世』の作者・モンキー・パンチ先生たちの若き日々が吉本先生の筆で生き生きと描かれていて、物語に引き込まれます。
そして、ぽんちゃん先生の2冊目の単行本を待ち焦がれている読者も多いですから、こちらもさらに熱くなりそうですね。
今日は、お三方の貴重なお話をありがとうございました。

著者よりも『昭和の中坊』に詳しいぽんちゃん先生にひたすら圧倒された吉本先生。お互いエールを送ります。
シュールのようでシュールだけでもない。笑えるけれど、笑えない。泣けるようで、泣いていられない。 それが『男子高校生とふれあう方法』。
地球のお魚ぽんちゃん先生がSNSに発表していた短編がもとで、これが徐々に話題となり、2016年に双葉社より単行本が発売される。瞬く間に重版出来! カルトな人気はさらに一般へと広がりを見せている。 物語の軸は、男子高校生につきまとう謎のDKO(男子高校生おんな)。作者の趣味嗜好を反映させているというDKOが、男子高校生に様々なかたちで接触をはかろうとする姿を淡々と描き、読者を圧倒する。 なお、DKOは、ぽんちゃん先生ご自身にとてもよく似ている。
2017年10月より「漫画アクション」で連載が始まり、多くの読者が、次の単行本化を心待ちにしているところである。