ミドルエッジ世代にとっての立体映画体験と言えば、やはり赤と青のセロファンメガネで観た、『東映まんがまつり』の記憶ではないだろうか?

当時の立体映画鑑賞のイメージ
だが、当時主流だったこの方式は、通常の撮影に比べて費用がかかるのと、やはり観客の目にも負担が大きいため、主に映画の見せ場だけに立体部分が使用されたり、上映時間も短編や短めの作品が多かった。

『空飛ぶ十字剣』日本版ポスター
そんな中1977年に突然日本で公開されたのが、このウルトラ・キュービックという新方式による立体映画『空飛ぶ十字剣』だった。当時としてはケタ外れの立体感が味わえると評判だった本作に付けられた名称は、その名もズバリ『超立体映画』!

『空飛ぶ十字剣』オリジナルポスター

劇場パンフにも掲載された、その撮影方法!
そこで今回は、40年前に公開されて以来未だに未ソフト化のままの本作を、振り返ってみたいと思う。
『空飛ぶ十字剣』ストーリー
17世紀の明王朝時代。滅びつつある王朝の宦官首領のツァオ(パイ・イン)は権力をほしいままにしていた。彼に追われた天子の弟は、武道寺の総本山ホアン・チュー寺に隠れている。そして、そこには家族をツァオに殺され復讐を誓うタン(レオン・タン)もいた。
ある日、タンの留守中の寺をツァオが襲い、天子の弟も僧達も殺される。決意と行動の時がタンに訪れた。ツァオの刺客からも切り抜け、タンとツァオとの対決が迫る。かつて天子の弟が放ったスパイのラン(タン・ウェイ)が昧方に加わり、ツァオの奇妙な新兵器による攻撃に苦戦するタン達。だが、ついに大木をつきさしてツァオは倒れた。かくして明王朝を堕落させた宦官勢力は一掃されるのであった...
いきなり日本に上陸した立体映画の衝撃!
実は自分も当時親には連れて行ってもらえず、実際に劇場でどれほどの立体効果があったのかは確認していない本作。

当時の新聞広告
当時小学生だった自分には、画像で紹介した新聞広告からその内容を空想するしか無かったのだが、当時見た人に話を聞いたところでは、一般的な赤青メガネ方式での鑑賞に比べれば、かなりの立体感だったとのこと。もちろん現在の3D方式の様な効果は期待できるはずも無いが、それでも当時の観客には相当な驚きだった様だ。
この後80年代に入って、遂に現代の立体感に近付いた3D映画、『ジョーズ3D』や『13日の金曜日パート3』が連続公開されるのだが、残念ながらこれらの新たな動きも制作コストなどの問題から、一時のブームで終わってしまっている。

オリジナルロビーカード
冒頭で触れた通り、残念ながら現在に至るまで日本では一切ソフト化されていない本作。

立体効果満点の「断頭クワガタ剣」!
自分も海外で出たビデオや、日本でテレビ放映された際の録画ビデオは所有しているのだが、ここで紹介した画像の様に明らかにここで飛び出してる!と思われるシーンを見ては、「ああ、当時劇場で見ていれば・・・」と毎回思っている次第。
特に今でも強烈に記憶しているのが、当時夕方のテレビで流れていた本作の宣伝スポットだ。
確か映画本編の映像は出て来ず、真っ黒な背景の前に役者が現れ、「これから超立体映画を見に行って来る」と言い残してカメラのフレームから外れる。やがて再びカメラのフレームに入って来た役者のお腹には作り物の槍が刺さっていて、「刺された・・・」と一言。そこに男性のナレーションで、「超立体映画、空飛ぶ十字剣!君にも、刺・さ・る!」と流れるといった内容の物。
敢えて本編映像を隠すことで、観客の興味を引きつける戦略は、当時の感覚でも非常に新しいと感じたものだ。
驚異の脚力、主演のレオン・タンの足技が凄い!

本作主演のレオン・タン
本作の主人公タンを演じたのは、カンフー・スターのレオン・タン。
日本の映画ファンにはジャッキーチェンの未公開作品『ジャッキーチェンの秘龍拳』で主役をやった俳優、と言った方が分かりやすいだろうか?

『帰ってきたドラゴン』劇場パンフより
ミドルエッジ世代には懐かしい、あの名作『帰ってきたドラゴン』で主演の二人が披露していた、狭い路地の壁に両足をかけて、そのまま少しずつジャンプしながら壁を上っていく!という驚異の技「壁虎功」!実はその「壁虎功」の第一人者が、このレオン・タンなのだ。

とにかく足技が凄い!
この『空飛ぶ十字剣』では、壁ではなく二本の木の間を足の力だけで高く登って行く!という荒業を見せてくれるレオン・タン。
本作ではこのシーン以外にも、彼のその自慢の足技を存分に楽しむことが出来る。
そもそも、タイトルの十字剣って何?

飛ぶ前の状態の十字剣がこれだ!
その名前だけでも最強の武器っぽい、空飛ぶ十字剣。実はそれは、敵のラスボスであるツァオが普段着ている、鎖かたびらの様な防具のこと。身に着けていたこの防具を広げて、片手で回し始めると遠心力で画像の様に広がるのだ!

英語版ビデオのタイトルシーンより
映画の内容的には、英語タイトルの『DYNASTY(王朝)』が現す通りの時代劇なのだが、奇想天外な武器や秘密兵器が登場する本作の内容は、日本の『仮面の忍者赤影』を連想させて、当時の子供たちにも大人気だったのだ。

巨大な十字剣がブーメランの様に飛ぶ!
防具としても最強でありながら、広げて飛ばすと最強の武器にもなるという、この十字剣の威力!
果たしてこの最強の武器に、主人公のタンがどうやって立ち向かうのか?その勝敗の行方が非常に気になるところだ。
最後に
劇場公開後、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)の『木曜洋画劇場』で放送された際に、やっと憧れの『超立体映画」』の全貌に触れられた、というミドルエッジ世代の方も多いはずの本作。
確かに、最近の3D技術の進歩の前には比較対象にもならないクオリティだが、やはり当時のままの『超立体映画』として、一度は体験してみたい!と思うのも事実。70年代に咲いたこの異色の作品の一日も早いソフト化と、イベントなどの特別上映が実現することを願って止まない。