大瀧詠一と内田裕也が激突!70年代に起きた「日本語ロック論争」

大瀧詠一と内田裕也が激突!70年代に起きた「日本語ロック論争」

70年代初頭。ロックンロールという外来の音楽文化を換骨奪胎するにあたり、「日本語で歌うべきか?英語で歌うべきか?」という論争が、日本国内であったのをご存知でしょうか?今回は、そんな内田裕也と大瀧詠一が中心となって巻き起こした「日本語ロック論争」について紹介していきます。


昔、ロックについて本気出して考えていた時代があった

ロックは日本語で歌うべきか それとも、英語で歌うべきか…

かつて、このような論争が巻き起こったのをご存知でしょうか?

言うまでもなく、現在、和製ロックを日本語で歌うなど当たり前のこと。それどころか、日本語詞の中に「WOW WOW」「Yeah Yeah」といった英語詞を織り交ぜ、和洋折衷の歌詞になっていることもしばしば。また、ロックのみならず、ラップやレゲエといったさまざまな洋楽のジャンルが同様のスタンスでJ‐POP化し、日本人シンガーに歌われているのはご存じの通りです。

今や日本語ラップもすっかり一般に定着

WE LOVE JAPANESE HIP HOP Mixed by DJ NUCKEY

Amazon | WE LOVE JAPANESE HIP HOP Mixed by DJ NUCKEY | オムニバス | ヒップホップ一般 | 音楽 通販

グループサウンズのアンチテーゼとして生まれた「ニューロック」

よくよく考えれば不思議なこの文化。遡ると1960年代、「ロックンロール」という異文化をどのように日本人向けに咀嚼・吸収すべきかという、作り手側の試行錯誤から生まれたものであり、そうした葛藤の中から産声を上げたのが、グループサウンズでした。
1966年、ビートルズの来日をきっかけにブームとなったGSは、リバプールサウンドとマージビートの日本的解釈を目指してはいたものの、その実、どこの国発祥か分からないような奇妙で無国籍な音のオンパレード。それに売れ専の楽曲は、湿っぽい日本語詞と相まってどことなくムード歌謡っぽい曲ばかりでした。

「こんなものはロックじゃない!」

そんな一部アーティストたちが“新しいロック”を志向したことによって生まれたのが、「ニューロック」という言葉だったのです。

グループサウンズの代表的バンド「ザ・スパイダース」

ザ・スパイダース - Wikipedia

ニューロック…。では新しいロックとは、いったい、どのようなものであるべきなのか?このような命題を掘り下げていくうえで、どうしても避けて通れなかったのが「ロックを日本語で歌うべきか 英語で歌うべきか」という課題です。

この課題に対し「英語であるべきだ」としたのが、当時フラワー・トラベリン・バンドを結成していた内田裕也や、ザ・モップスのボーカリスト・鈴木ヒロミツです。彼らの主張は至ってシンプルで「ロックに日本語詞は乗らない」というもの。J‐POP・J‐ROCKが当たり前のように鳴り響いている今の時代からしたら、えらい価値観の違いです。

ニューロックの夜明け WEA編

Amazon | ニューロックの夜明け WEA編 | オムニバス, ジャスティン・ヒースクリフ, GLUE&SHINKI SPEED, ファーラウト, フラワー・トラベリン・バンド, ファニー・カンパニー, 柳田ヒロ, ロック・パイロット | J-POP | 音楽 通販

雑誌の対談で繰り広げられた「大瀧詠一vs内田裕也」

なお、この英語論者たち、特に内田裕也は、かねてより欧米での成功を目指しており、そのために、フラワー・トラベリン・バンドをプロデュースしたこともあって、ことさら、日本語ロックへ食ってかかります。というか、ほとんど内田らがケンカを吹っかけたことで、この日本語ロック闘争は巻き起こったとも言っても過言ではありません。
海外志向の強い内田のこと。おそらく、国内だけでドメスティックに“偽物のロック”耽溺している日本語ロッカーの野暮ったさがやりきれなかったのでしょう。

内田の対決姿勢が露わになったのが、『新宿プレイマップ』1970年10月号におけるニューロック座談会(:内田裕也、鈴木ひろみつ、ミッキー・カーチス、大滝詠一、中山久民 司会:相倉久人)。喧嘩を売られた日本語ロッカーは、大瀧詠一でした。以下に、両者のつばぜり合いの一部抜粋を記します。

ミュージシャンのエゴとエゴがバチバチぶつかり合う、凄まじい舌戦ではないでしょうか。なお、誌上で内田は「でも大滝君達が日本語でやるというのなら成功してほしいと思う。」としたものの、興奮は収まらなかったようで、1971年『ニューミュージック・マガジン』1971年5月号で、第2ラウンドの火ぶたが切って落とされることに。

NEW MUSIC MAGAZINE 1972年6月号

NEW MUSIC MAGAZINE 1972年6月号 ニューミュージック・マガジン | 中古 | ミュージックマガジン | 通販ショップの駿河屋

ここには、大瀧の盟友・松本隆も参戦。内田が「はっぴいえんどの楽曲は歌詞とメロディとリズムのバランスが悪く、日本語とロックの結びつきに成功しているとはいえない」と批判すると、松本はあっさりとその事実を認めます。

さらに、内田が「フラワー・トラベリン・バンドとザ・モップスをどう思うか?」と問うと「他のバンドが日本語で歌おうが、英語で歌おうがどちらでも構わない」と一蹴。おそらく松本は、早くこの不毛な議論を終わらせたかったのでしょう。

松本隆 twitterより

松本 隆(@takashi_mtmt)さん | Twitter

その後、内田率いるフラワー・トラベリン・バンドは、カナダへ渡り、現地のチャートにランクインするなどそれなりの成功を収め、一方のはっぴいえんどは、活動当時こそアングラな存在であったものの、90年代以降は、現在のJ‐POPの基礎を築いたグループとして再評価されるに至っています。
松本隆が言ったように「人は人。自分は自分」的スタンスで、それぞれのバンドが独自の道を突き進んだこともあり、「日本語ロック論争」は、あっという間に立ち消えとなったのでした。

サトリ(FLOWER TRAVELLIN’ BAND)

Amazon | サトリ | フラワー・トラベリン・バンド | J-POP | 音楽 通販

(こじへい)

関連する投稿


【訃報】英ロック歌手、オジー・オズボーンさん死去。ロックバンド「ブラック・サバス」など

【訃報】英ロック歌手、オジー・オズボーンさん死去。ロックバンド「ブラック・サバス」など

イギリスのヘヴィメタル・ミュージシャンとして知られるオジー・オズボーンさんが22日、亡くなっていたことが家族によって明らかとなりました。76歳でした。


ブルース・クリエイション『悪魔と11人の子供達』など、伝説的な日本のロックアルバム5タイトルがレコードで復刻!!

ブルース・クリエイション『悪魔と11人の子供達』など、伝説的な日本のロックアルバム5タイトルがレコードで復刻!!

日本コロムビアのカタログからカッティング・エッジな作品を世界に発信する再発プロジェクト「J-DIGS reissues」より、ブルース・クリエイション『悪魔と11人の子供達』などカルトな人気を誇る伝説的な日本のロック5タイトルがアナログ・レコードでリイシューされます。


英ロックバンド「オアシス」唯一の公式インタビュー本『スーパーソニック 完全、公式、ノーカット・インタビュー』が発売!!

英ロックバンド「オアシス」唯一の公式インタビュー本『スーパーソニック 完全、公式、ノーカット・インタビュー』が発売!!

光文社より、イギリスのロックバンド「oasis(オアシス)」の公式インタビュー集「Supersonic: The Complete, Authorised and Uncut Interviews」の翻訳書籍『スーパーソニック 完全、公式、ノーカット・インタビュー』の発売が決定しました。


織田哲郎が語る「西城秀樹」というロックとは?「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」が放送決定!!

織田哲郎が語る「西城秀樹」というロックとは?「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」が放送決定!!

全国無料放送のBS12 トゥエルビで毎週木曜よる9時から放送中の「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」4月10日放送分にて、「昭和のスーパースター西城秀樹 誰も知らない素顔(後編)」が特集されます。


布袋寅泰『GUITARHYTHM VIII』発売記念!「GUITARHYTHM」の世界を堪能できる期間限定バーがオープン!

布袋寅泰『GUITARHYTHM VIII』発売記念!「GUITARHYTHM」の世界を堪能できる期間限定バーがオープン!

長浜浪漫ビールが運営する日本最小規模のウイスキー蒸溜所「長濱蒸溜所」が、布袋寅泰のアルバム『GUITARHYTHM Ⅷ』の発売を記念し、POPUPバー「Bar BEAT EMOTION」を表参道に期間限定オープンします。


最新の投稿


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。


ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

小学館クリエイティブは、ウルトラマンシリーズ60周年、『小学一年生』100周年の節目に『学年誌 ウルトラふろく大全』を11月28日に発売しました。『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの学年誌・幼児誌のウルトラふろく200点以上を網羅的に掲載。組み立て済み写真や当時の記事も収録し、ふろく全盛時代の熱気を再現します。特典として、1970年の人気ふろく「ウルトラかいじゅう大パノラマ」を復刻し同梱。


伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体『UWF(ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)』が、設立40周年を記念し、特別イベント「無限大記念日」を書泉ブックタワー(東京・秋葉原)にて開催します(2025年12月24日~2026年1月12日)。第1次UWFの貴重な試合映像や控室、オフショットなど、4,000枚以上のアーカイブから厳選された写真が展示されます。復刻グッズや開催記念商品も販売され、当時の熱狂が蘇ります。


グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

株式会社グラニフは、TVアニメ『幽☆遊☆白書』との初コラボレーションアイテム全21種類を、2025年12月2日(火)より国内店舗および公式オンラインストアで販売開始します。主人公の浦飯幽助をはじめ、桑原、蔵馬、飛影のメインキャラクターに加え、戸愚呂、コエンマなど欠かせないキャラクターをデザイン。11月26日より先行予約も開始され、ファン必見のラインナップです。


全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

アシェット・コレクションズ・ジャパンは、隔週刊『1/18 エクストラスケール 国産名車コレクション』を2026年1月7日に創刊します。全長約20cm、1/18スケールのダイキャスト製で、日本の自動車史を彩る名車を精巧に再現。ボディラインやエンジンルーム、インパネなどの細部ディテールにこだわった「エクストラ」なコレクション体験を提供し、マガジンでは名車の開発秘話や技術を深掘りします。