ことわざ「鬼がでるか蛇がでるか」なぜ蛇は鬼と同格になったの??

ことわざ「鬼がでるか蛇がでるか」なぜ蛇は鬼と同格になったの??

「これからどんな恐ろしいことが起きるか予測ができないこと」を、ことわざで「鬼がでるか蛇がでるか」と言います。鬼も蛇も不気味で恐ろしい存在ということで、このことわざが生まれたそうです。が!古代日本では蛇は不気味な存在ではない。どうして鬼と同格になったのか。


「これからどんな恐ろしいことが起きるか予測ができないこと」を、ことわざで「鬼がでるか蛇がでるか」と言います。鬼も蛇も不気味で恐ろしい存在ということで、このことわざが生まれたそうです。

が!古代日本では蛇は不気味な存在ではない。どうして鬼と同格になったのか。
今回はそんな雑学コラムです。

片想いのあまり鬼の形相・蛇体と化した姫の伝説

和歌山県に伝わる有名な伝説があります。「安珍清姫」伝説という、能楽や歌舞伎などでは「道成寺」として知られている伝説です。片想いのあまり鬼の形相・蛇体と化した清姫に焼き殺される美男僧侶・安珍のお話です。

そんな嫉妬やら恨みやらといったマイナス感情むき出しの女性の顔を、能楽では「般若」面で表現します。これが、まさに鬼。テレビ時代劇「桃太郎侍」の影響なのか、般若面=男性(あるいは俳優・高橋秀樹さん)をイメージする方が多いようですが、違います。コレは本来女性の顔なんです。しかも、般若の上には更にもうひとつ、女性の感情マックスを表現する、「真蛇」という面もあります。般若まではまだ人間なので耳があるのですが、真蛇は耳が無い。もう人間ではなくなっちゃって・・・女性の負の感情の恐ろしさたるや(汗)

で、ここで今回のテーマです。

「なんで鬼と蛇が合体しているのか?」

9世紀、平安時代初期に確立した日本最古の仏教説話集『日本霊異記』をご存知でしょうか?正式名称は『日本国現報善悪霊異記』(にほんこくげんほうぜんあくりょういき)。著者は法相宗の僧侶・景戒(けいかい)さん。出自ははっきりしていませんが、日本霊異記に紀伊国(和歌山県)の説話が多いことから、和歌山出身かな?と思われます。おお、和歌山・・・安珍清姫伝説・・・。

さて、この日本霊異記の中巻に「女人悪しき鬼に点(けが)され喰噉(く)はるる縁」というお話があります。人が「人ではない何か」と結婚をする、民俗学上「異類婚姻譚」に分類されるお話です。
このお話では、男性(実は鬼)の求婚を受け入れ、初夜を迎えた女性が食い殺されてしまいます。いやはや鬼婿おそるべし、です。
ところが平安時代よりも前に書かれている『常陸国風土記』や『備前国風土記』などに見られる「異類婚姻譚」だと、ちょっと違います。男性の正体は鬼ではなく「蛇」で、食い殺しもしません。ただ、蛇だっただけです。そして、彼はリアルな蛇ではなく、水神としての蛇なのです。

古代日本において異類婚の相手は鬼ではなく蛇

そう。古代日本においては、異類婚の相手は鬼ではないのです。民俗学用語で「蛇聟入(へびむこいり)」。日本の昔話の中にガッチリ存在感をアピールしています。
ちなみに異類婚姻譚の代表的なお話は古事記にみられる三輪山のお話です。神様との結婚です。

さて、そんな蛇婿から鬼婿に変わったのはなぜか。それは、平安時代あたりで、大陸由来の発想や仏教と合体したからです。

さきほどの『日本霊異記』ですが、実は、中国の食人鬼の説話の影響があると指摘されています。つまり、外来の発想なんです。そして、仏教の発想では蛇は「畜生」。神ではなく畜生道に落ちた存在なんです。そんな蛇と交わる行為は・・・仏教からすると女性側が罪の対象になるようです。うう。そのため、平安時代には、話ががらりと替わってしまったのですね。本来は神的存在との結婚だったのに・・・。

こうした訳で日本古来のものと仏教の価値観がミックスされた説話が生まれるようになりました。冒頭に紹介した「安珍清姫」伝説もです。この説話は平安中期成立の仏教説話集『大日本国法華験記』(通称『法華験記』)が初出。平安末期に成立した『今昔物語集』にも紹介されております。日本古来の「人ではない何か」としての蛇と、畜生道に落ちた蛇、悪しき存在としての鬼、罪を持つ女・・・それらが合体して生まれた日本的仏教的説話伝説として。

結果、今では鬼と蛇は近しい存在になっておりますが、元々は違うんだー!ということだけ、お伝えしたい自分です。

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