五輪真弓『恋人よ』悲しい別れから生まれた心を揺さぶる名曲

五輪真弓『恋人よ』悲しい別れから生まれた心を揺さぶる名曲

1980年に五輪真弓(いつわまゆみ)がリリースした、愛する人との切なく悲しい別れの歌『恋人よ』。 奥深く伸びやかな歌声が心に響くこの名曲は、五輪の実体験から生まれていた…。 昭和を代表する名曲が生まれた悲しいエピソードと、五輪真弓本人や有名歌手たちがカバーした『恋人よ』の歌唱動画をたっぷりご紹介。


1980年の大ヒット曲『恋人よ』五輪真弓

奥深い歌声で歌い出しの「枯葉散る夕暮れは」のワンフレーズで聴衆の心を握りしめる。
深い嘆きと悲しみが溢れ出るメロディーに乗せた歌詞は胸に残って離れない。
そんな名曲中の名曲、五輪真弓の『恋人よ』。

1980年8月21日リリース。
作詞・作曲:五輪真弓、編曲:船山基紀

五輪真弓の通算18枚目シングル

『恋人よ』五輪真弓

後世に語り継がれる名曲『恋人よ』はなぜ、どのようにして生まれたのか?

日本的な歌謡曲への回帰から生まれた『恋人よ』

五輪真弓(いつわまゆみ)は、1972年にアルバム『少女』でデビュー。
当時としては珍しい海外(LA)録音で、キャロル・キングもレコーディングに参加したことから"和製キャロル・キング"と称され、女性シンガー・ソングライターとして松任谷由実や中島みゆき、吉田美奈子に先駆ける存在になった。

圧倒的な歌唱力は海外でも高く評価され、フランスからアルバム制作の申し出があり、全フランス語による『MAYUMI』が1977年に発売された。

海外で活動することで、日本的な歌謡曲へ転向。

1970年代半ばぐらいまでは、海外テイストの楽曲が多かった五輪真弓。
フランスで活動中に『母国の音楽にこそオリジナリティがある』と気付かされ、生まれ育った日本の情緒をもっと音楽に取り入れたいと考えるようになっていった。

1978年、そうして生まれた歌謡曲テイストの「さよならだけは言わないで」がヒット。
フジテレビ『夜のヒットスタジオ』やTBSテレビ『ザ・ベストテン』など多くの歌番組に出演した。

『恋人よ』のテーマ”究極の別れ”と、悲しい実体験。

国内外で実力を高く評価され、ヒット曲も出した。
実力派シンガーソングライターとしての地位を確立した五輪真弓が次に構想したのは”究極の別れ”を歌にすることだった。

そんな矢先、五輪のデビュー時からプロデューサーとして深く関わっていた木田高介が突然の交通事故で亡くなってしまう。
木田はデビューアルバムで渡仏した不安な五輪を常にサポートし、その後も家族ぐるみで可愛がってくれた兄のような存在であったという。

ジャックスのメンバーを経て、編曲家となり「出発の歌」(上條恒彦)、「神田川」(かぐや姫)など数々のヒット曲を手掛ける。
編曲家・作曲家・演奏家・プロデューサーとして、黎明期にあった1970年代のフォーク/ニューミュージック・シーンを作り上げた。
ソロ活動を始めた矢先の1980年5月18日、山梨県の河口湖沿いにて車を運転中に事故を起こし、同乗していた編曲家・阿部晴彦と共に死去、31歳の若さだった。

木田高介(きだ たかすけ)

五輪は昔から、人やペットと別れるのが何よりも辛く感じ、その思いを歌の形で吐き出すことで自身の心を明るく保っていたという。

初めて経験する親しい人との永遠の別れで感じた、『昨日までいた人が突然いなくなってしまう』という現実。
そして、木田の葬儀に参列した五輪真弓は、「愛する人を失った」木田の妻の悲嘆ぶりを目の当たりにする。

感情や印象がどんどん溢れ出て、葬儀からの帰り道で『恋人よ』の歌詞は既に浮かんでいた。
「冗談だよと笑ってほしい」という有名なフレーズもこの時、心の底から出てきた想いだったという。

『恋人よ』のメロディーに感じる独特な暗さと重さ。
全てを無くしたかのような絶望的な悲哀が込められた歌詞。
それは、親しい人との「今生の別れ」という”究極の別れ”が生み出したものだった。

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【動画】五輪真弓の歌う『恋人よ』

深みのある美しいビブラートが特徴的。
大袈裟な情感は込めていないのに、ズシン!と胸に響いてくる圧倒的な迫力。
また、「愛する人との別れ」を恨み憎しむような強い目力も印象的であった。

五輪は「この曲を歌うときは手が抜けない。イントロが始まると背筋がピンと伸びる。」と語っている。

『恋人よ』はミリオンセラーを記録、自身最大のヒット曲に。

現実に起きた悲劇を基に作った『恋人よ』だが、当初はB面(カップリング)用の曲として考えていた。
しかし、歌入れの後にその出来の素晴らしさからA面として発売されることになったという。

この判断が大きく当たり「恋人よ」は大ヒット。
オリコン1位を獲得し、第22回日本レコード大賞金賞を受賞。
『第31回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たした。
累計売上はミリオンセラーを記録している。

五輪真弓自身も「この一曲を歌いきることで、他に何も歌わずとも満足するくらいに完成された歌と感じて、多くの人が共感するだろうと確信していた」とその手応えを語っている。

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1980年 五輪真弓

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