「まずい!」と言われた個性派スポーツドリンク『ポストウォーター』
1990年の春に誕生したキリンの『ポストウォーター』。
このドリンクを初めて飲んだ時の衝撃は凄った…
それまで、スポーツドリンクといえば、甘くて濃いのが当たり前だった。
対して、『ポストウォーター』はまず薄い!
水で大幅に薄めたんじゃないかと疑うぐらいに。
甘さもほんのりと感じる程度。
そして、当時は馴染みの薄かったライチ味。
少しの甘みを感じた後にやってくる若干苦いともいえる微妙な後味。
鮮烈なインパクトを残し、いまだに多くの人が「ああ、あのポストウォーターか!」と覚えている『ポストウォーター』について振り返る。
1990年に発売された初代ポストウォーター
コンセプトは『次世代の飲料水』。
だから、商品名がポスト(~の次)ウォーター(水)なのである。
他社のスポーツドリンクと直接比較するのではなく、水を飲むならポストウォーターを飲んだ方が良いよといった訴求に近かった。
『ポストウォーター』新登場時のポスター
従来のスポーツドリンクの概念を崩した斬新な味は、受け入れられにくく「まずい!」と感じる人が続出した。
私の周囲では10人中8~9人ぐらいは嫌いと答えていた。
だが、私自身はどうしようもなく好きだった。
というより、好きになった。
初めて飲んだ時は私も「うわ!ナニコレ。失敗した」と思っていた。
しかし、部活動の後に寄る自販機にスポーツドリンクはポストウォーターしかなかったのだ。
やむを得ず水部補給できればいいやぐらいの気持ちで数回飲んでいたら、だんだんと病みつきになってきたのだった。
まるで天下一品のこってりラーメンみたいな中毒性を秘めていた。
今もGoogleで検索すると予測変換で「ポストウォーター まずい」と出てくるぐらい不評なドリンクだったが、一部の熱狂的なファンも見つけることができて嬉しい。
ブルースウィリスを起用した大胆なCM戦略
予想外に売り上げの初動が良かったのか、もしくは逆に売り上げが悪すぎたのか、キリンは大きな賭けにでる。
『ダイ・ハード』シリーズで人気絶頂のブルースウィリスをテレビCMに起用したのだ。
いったどれだけのギャラが発生したのか…。
ユニークな形状で注目を集めたポストウォーターの瓶ボトル
1996年4月の小容量PETボトル解禁までは再使用を前提としないガラス製のワンウェイ瓶が主流であった。
ポストウォーターでは、缶と合わせて独創的な瓶ボトルを発売。
フラスコ型のほうは、雑誌『POPEYE』でグッドデザイン賞を受賞した。
ボトルの中央が握った指の痕になっているグリップ型の瓶ボトルも機能性を追求した見事なデザインであったが、左利きである私にとっては握りにくいだけだった…。
ポストウォーターの瓶ボトル
CMキャラクターとパッケージデザインの変更
売り上げが伸びなかったのか、1992年には早々にパッケージデザインを変更。
コスト削減なのか、ブルースウィリスを使った前回と異なり、国内のグラビアアイドル&大学教授を起用した。
新CMキャラクター、細川ふみえと森毅
ポストウォーター缶の新デザイン
ポストウォーター、迷走した1993年のリニューアル
パッケージを変えても、CMキャラクターを変えても、成功しなかったポストウォーターはたった1年で商品自体をリニューアルすることにした。
この時のCMキャラクターは筋肉少女帯。
メンバー全員がCMに出演し、シングル曲『君よ!俺で変われ!』に別歌詞を載せ「君よ!ポストウォーターで変われ!」とした音源をCMソングに使用した。
『君よ! ポストウォーターで変われ!』の歌詞
バンドブームが去り、経営難となっていた所属事務所を筋肉少女帯は1992年9月に辞め、翌1993年暮れにはレコード会社との契約打ち切りも経験している。
その時期に来たこのCM出演&CMソング作成の依頼。
苦悩の末に引き受けたらしい。
パッケージも再変更。
ブランド力に勝るポカリスエット(大塚製薬)やアクエリアス(日本コカ・コーラ)に対抗して、個性的なライチ味とユニークな瓶ボトルなどを開発したポストウォーター。
だが、味もパッケージも個性が無くなったこの時点で運命は決まってしまった。
リニューアルでブレイクすることもなく、ひっそりと消えていった。
2006年に突如復活したキリン『ポストウォーター』
「もう二度と飲めない」というファンの絶望を聞きつけてか、2006年に復活したポストウォーター 。
だが、商品名が同じだけでその全てが以前のポストウォーターとは別物であった…。
新しいポストウォーターは個性的なライチ味のスポーツドリンクではなく、食物繊維とカルニチンを配合したレモン風味・カロリーゼロの『ファイバー&ダイエット飲料』になっていた。
「ポストウォーターが復活した~♪」と喜んでいたかつてのファンは「コレジャナイ」と失望と怒りに震え、かつての味を「まずい」と認識していた人からは試されることなく敬遠された。
『甘くない』『味が薄くゴクゴク飲める』という点だけは、ポストウォーターらしくもあったが「レストランで出てくる薄~いレモン水」のようだった。
まったく別の商品名であれば成功したかもしれないドリンクにかつての個性派ドリンクの名前を無理矢理使った失敗により、このポストウォーターはわずか1年前後で姿を消した。
以降、キリンは「ポストウォーター」の名を使ったドリンクを発売していない。
『ソルティ・ライチ』は、『ポストウォーター』の味に近い?
同じキリンが2010年から発売している『ソルティ・ライチ』が現存する飲料の中ではもっとも初代『ポストウォーター』の味に近いのではないかと言われている。
キリン『ソルティ・ライチ』
ソルティライチ|キリン
『ソルティ・ライチ』は、発売1ヶ月で年間販売目標の45万ケースを達成し、目標設定値を当初の2倍(90万ケース)に上方修正するほどのヒット製品となった。
以降、数度のリニューアルを繰り返しながら、現在も多くの人に愛飲されている。
我が愛しのポストウォーターとなんという違い。
味の特徴としては、ポストウォーターよりライチの風味も甘さも濃い。
ポストウォーター独特の後味の苦みのようなものも無い気がする。
ソルトフリー(塩分ゼロ)がウリであったポストウォーターに対して、ソルティ・ライチは沖縄海塩の使用をウリにしている点も大きな違いである。
だが、同じライチ味であるソルティ・ライチは間違いなくポストウォーターの系譜をたどっている。
もしや、今の時代ならばポストウォーターもヒットするのではないかという淡い期待すら感じてしまうではないか。
キリンの担当者様。
何度か貶してごめんなさい。
どうかもう一度、初代の『ポストウォーター』を再販して下さい!