夏の終わりに聴きたい名曲『夏をあきらめて』
夏の終わり…。
少しばかし浮かれた気分の夏が過ぎ、寂しさを感じ始める。
雨が突如降ったと思ったらいきなり晴れたり、暑かったり涼しかったり。
そんな季節の移ろいを感じながら聴きたい一曲『夏をあきらめて』。
サザンオールスターズの『夏をあきらめて』
サザンの『夏をあきらめて』はシングルカットされていないため、サザンの曲であることを知らなかったり、研ナオコのシングルの後にセルフカバーしていると認識している人も多い。
しかし、この『夏をあきらめて』が収録されたサザンのアルバム『NUDE MAN』のリリースは、研ナオコのシングルリリースより1ヶ月半ほど早い。
『いとしのエリー』、『栞のテーマ』、『YaYa~あの時代を忘れない~』、『涙のキッス』などなど、サザンの名バラードは数多くあるが、『夏をあきらめて』はそれらに勝るとも劣らない名曲である。
『夏をあきらめて』は「NUDE MAN」だけでなく、ベストアルバム「バラッド '77~'82」、「すいか」、「海のYeah!!」にも収録されている。
研ナオコの『夏をあきらめて』
研ナオコは1971年にレコードデビュー、同時にTBSドラマ「時間ですよ」にも出演。
「カックラキン大放送!!」のお婆さん役や、「8時だョ!全員集合」でのザ・ドリフターズ(志村けん)との共演でコメディアンとしての才能も開花。
1975年には宇崎竜童、阿木耀子コンビでプロデュースされた「愚図」がFNS歌謡祭、最優秀歌謡音楽賞を受賞し歌手としても認められた。
中島みゆきの作詞作曲による「あばよ」ではオリコン1位を獲得、「かもめはかもめ」で日本レコード大賞金賞を受賞。
1982年、「歌いたい曲が無かった」と新曲リリースが途切れていた時に出会った曲がサザンの『夏をあきらめて』であった。
なぜ、女性歌手である研ナオコが男性である桑田佳祐が歌っていた『夏をあきらめて』をカバーすることになったのか。
研ナオコはスタッフと食事をしているときにサザンのアルバム『NUDE MAN』を聴く機会があり、「私の声で歌ったらヒットする」という予感がして、すぐに『夏をあきらめて』を歌いたい願い出たという。
ハスキーボイスでポツリポツリと呟くような歌唱によって、天気が悪く薄暗い湘南の情景が浮かび上がってくる。
研の中性的な声とルックスにより、男視点の歌詞も違和感なく伝わっている。
桑田の描いた楽曲の世界観を壊すことなく、自らの個性を上乗せして哀愁と切なさを極限まで高めている。
その表現力はもはや絶望的な明日を感じさせるほどの暗さである。
『夏をあきらめて』の歌唱に関して、研ナオコは意識的に『波 音 が響けば』と音符を切り、その間の部分で自分のシチュエーションに入ってもらえたらいいなと工夫したと語っている。
また、桑田佳祐の声もかすれているので、その世界観を壊さないように声のがさつきにこだわったとも明かしている。
本家サザンよりも研ナオコの『夏をあきらめて』の方が好きであるという人も少なくない。
サザンのファンにおいてもカバーの良作と評価する声は多い。
こうした評価は楽曲をとことん尊敬、尊重してその魅力を伝えることに徹した姿勢が聞く人に伝わっているからではなかろうか。

研ナオコ 夏をあきらめて
1982年は記録的な冷夏だった。
この曲が発表された1982年の夏は記録的な冷夏であった。
梅雨明けが平年より大幅に遅れ関東地方、甲信地方及び東北地方では8月上旬までずれ込んだ。
また、東日本以西では7月の平均気温が平年より2℃前後低く、8月も引き続き低温傾向で夏型は長続きしなかった。
冷夏でいま一つ盛り上がらなかったこの年の夏に『夏をあきらめて』がマッチしたというのもヒットの要因であったのかもしれない。
『夏をあきらめて』の歌詞と舞台
作詞・作曲はもちろん、桑田佳祐。
サビの英語歌詞以外は『雨で海に出ることが出来ない恋人の戸惑いと失望』を光景を淡々と綴っている。
歌詞については、天気を恋に例えた失恋の歌であるとか、別れた恋人との夏を振り返った回想であるなど、聴き手によって様々な解釈がなされている。
ゆったりとした哀愁漂う物悲しいメロディーのため、それぞれが解釈した想いを曲に投影しやすいというのもこの曲の良さかもしれない。
歌詞に出てくる『PACIFIC HOTEL』
歌詞の中に登場する『PACIFIC HOTEL』は、茅ヶ崎に実在した、俳優の上原謙と息子の加山雄三らが共同経営していた『パシフィックパーク茅ヶ崎』のことである。

パシフィックパーク茅ヶ崎
夏をあきらめて - 研ナオコ - 歌詞 : 歌ネット
意外なあの人もカバー。
聴き過ぎにご注意を。
夏が過ぎると聴きたくなる名曲、『夏をあきらめて』。
だが、曲から漂う哀愁にやられ、体の力が抜けるような感覚をもたらすため、聴き過ぎにはご注意を。
くれぐれも仕事前には聴かないように。
やる気が…。