高校野球史に残る名勝負~1991年・夏~松商学園対四日市工

高校野球史に残る名勝負~1991年・夏~松商学園対四日市工

高校野球史に残る名勝負をいくつか紹介しています。ここでは、1991年夏の大会。松商学園対四日市工戦をとりあげます。大会屈指の好投手上田佳範と井手元健一朗の投げ合いとなったこの試合は延長16回に及ぶ死闘となりました。


甲子園のスター・上田佳範選手

1991年の選抜高校野球大会が開催された時、上田佳範選手はまだ全国区の選手ではありませんでした。長野県の名門・松商学園のエースとして、この年の選抜大会で初めて甲子園の土を踏んだ上田佳範選手は、初戦で愛知県代表・愛工大名電高校と対戦し、3-2で勝利します。ちなみにこの時の愛工大名電高校のエースはあのイチロー選手でした。上田選手は、投手・イチロー選手からタイムリーヒットを放ち、打者・イチロー選手をノーヒットに抑えたのです。

以後、上田選手は天理高校、大阪桐蔭高校、国士館高校という強豪チームを3試合連続完封。35イニング連続無失点という大記録を打ち立て、チームを決勝に導きます。この無失点記録は、初回に内野ゴロの間に1点を取られて途切れ、試合は下の動画の様にもつれにもつれていきます。

春の選抜大会、決勝戦で降板し、ライトに回った上田選手の頭の上を打球が通りすぎて松商学園の春は終わりました。この借りを返す為、同年夏の大会、甲子園に再び上田選手は戻ってきます。春の選抜大会開始時点ではまだ全国区とは言えなかった上田選手ですが、夏の大会では各校からマークされる存在になっていたのです。

表紙を飾る上田投手(松商学園)

春の借りを返しに

甲子園に戻ってきた上田佳範選手は好投。初戦の 岡山東商戦を6-2。八幡商戦を松商学園8-3と退け、3回戦で 三重県代表・四日市工と対戦します。この試合が延長16回の死闘となり、高校野球史に残る名勝負として語り継がれていくのです。
試合は、上田佳範選手と、四日市工の井手元健一朗選手の投手戦で進んでいきます。均衡が破れたのは5回表。四日市工が2死3塁から、2ランホームランと井手元選手のタイムリーヒットで3点を先制します。井手元健一朗投手に完璧に抑えられていた松商学園が反撃に出たのは7回裏でした。連続ファーボールをきっかけにチャンスを掴み、一挙3点を挙げて同点に追いつくのです。

試合は9回で決着が着かずに、そのまま同点で延長戦に突入。その後両チームともにチャンスは掴むものの、あと1本が出ずにゼロ行進が続きます。しかし延長16回ウラ松商学園の攻撃で、1死満塁から上田選手への初球(井手元選手がこの試合で投げた238球目)が、上田選手の利き腕となる右肩に当たってデッドボールとなり、押し出しのサヨナラ勝ちで松商学園が勝利を収めるのです。

激闘、その後

こうして、延長16回の死闘を制した松商学園でしたが、決着の場面で上田投手がデッドボールを受けた右肩の箇所はボールの縫い目がはっきりとわかるくらいのひどい状態になっていました。それでも上田選手は監督に直訴して、翌日の準々決勝の対星稜高校戦に登板します。試合は星稜に2-3で惜敗。上田選手はこの2試合で(正確に言えば24時間の間に)328球を投げています。それでも上田選手は「右肩は痛くないと言えばウソになるが、それを負けた理由にはしたくない」と、四日市工戦のことを一切言い訳にはしなかったのです。

ちなみにこの時、星稜高校には当時2年生だった松井秀喜選手がいました。松井秀喜選手は後に著書の中で「野球人生で初めて壁を感じて大きな影響を受けたのがこの上田さんとの対戦だった」と記しています。(1990年秋の北信越大会とこの第73回選手権大会で対戦)

春の選抜大会に続く大活躍で、この年のドラフトの目玉となった上田選手を獲得したのは、日本ハムファイターズでした。投手として指名されたのですが、肩の怪我により1993年から外野手へ転向。1995年に初めて一軍に昇格し、106試合に出場、49安打を記録。1997年には規定打席にも到達し打率3割をマークしています。その後度重なるケガや不振の為レギュラー定着とはいかず、2005年のシーズンオフに日本ハムから戦力外通告を受けるのですが、かつて日本ハムで共にプレーした落合博満が監督を務める中日ドラゴンズと契約。2008年まで現役でプレーします。

上田選手(日ハム時代)

プロに入ってから外野手に転向した上田選手ですが、投手出身の強肩と好守には高い評価をされていて、現役引退後すぐの2009年から二軍外野守備走塁コーチへ就任。その後2015年まで中日、2016年度から横浜DeNAベイスターズの一軍外野守備走塁コーチを務めています。

上田投手と延長16回の死闘を演じた井出元投手も1991年のドラフト5位で中日に入団。主に左のワンポイントやリリーフ投手として起用されたのですが、怪我が重なり本来の力は発揮できず、1999年10月に戦力外通告。入団テストを受けてより西武ライオンズに移籍するものの翌2000年オフに再び戦力外通告を受けて退団します。

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