谷津嘉章の熱闘10番勝負!鶴龍との対決・本気のブロディ・五輪コンビ・グッドリッジとの激闘を振り返る

谷津嘉章の熱闘10番勝負!鶴龍との対決・本気のブロディ・五輪コンビ・グッドリッジとの激闘を振り返る

谷津嘉章の熱闘を当時の時代背景を交えながらドラマティックに振り返る。ブッチャー&ハンセンの血祭り事件。キレた猪木。ブロディの本気。PRIDEでグッドリッジと激闘。鶴龍との対決や五輪コンビの活躍などもプロレス的感性で語り尽くす。


第35代インタータッグ選手権者、長州力と谷津嘉章。
4度目の防衛戦でとんでもない強豪レスラーと対戦することになった。暴走戦士、ロード・ウォリアーズだ。

最初は長州とアニマル。アニマルは怪力を誇示するように長州を突き倒す。怒りの長州はアニマルにいきなりリキラリアット! アニマルもパワースラムで返す。
ホークは長州にフライングショルダータックル! いつものように始めから飛ばす。ダウンしている長州にギロチンドロップはよけられた。
ホークは長州をロープに飛ばしてショルダースルーを長州がローリングクラッチホールド・・・には行かせない。頭部に上からパンチ!
ファンにアピールするホークの一瞬の隙をついて長州がバックドロップ!
谷津がホークにドロップキック! バックを取ってジャーマンか。しかしホークが両手でロープをつかむ。谷津がブレイクした瞬間にホークが痛烈なエルボー! 
ホークは谷津を軽々と上げてリフトアップ。アニマルに放り投げるように渡す。アニマルが谷津をベアハッグ。危ない。ホークがロープに飛んでマッドマックスラリアット! 長州がカット。
ホークは谷津の顔面にニーパット! 抱え上げてショルダーバスター! ジャンプしてパンチを頭部に落とす! さらにキャメルクラッチ。
長州が行く。ホークに張り手、逆水平チョップ。脚を取ってサソリ固め。谷津がコーナーポスト最上段からダイビングニードロップ! アニマルがカットする。
ホークも長州にドロップキック!  アニマルも長州にジャンピングエルボードロップ!
ホークが長州をロープに飛ばしてショルダースルーを狙うが長州がキック! ロープに飛んでリキラリアット!
谷津がホークにドロップキック! 長州がコーナーポストに乗る。谷津と二人がかりでホークにWパイルドライバー!
ピンチのホークにアニマルが突進。長州も突進。ラリアットは相打ち。谷津がホークのバックを取ってジャーマンスープレックスホールド! 完璧に決まったが、マネージャーのポール・エラリングが乱入して谷津に凶器攻撃。
ロード・ウォリアーズの反則負けだ。
怒りのホークは谷津を凶器でメッタ打ち。ホークとアニマルとポールが長州と谷津を殴る蹴るの暴行。
ゴングが乱打されるなか、セコンド陣が止めに入るが、3人は大暴れ。

同じ反則負けでも暴走の反則負けなら、ヒールにとって反則負けは負けではないと言えるが、この試合は少し意味合いが違う。
ホークは返せたかもしれないが、ポール・エラリングは返せないと判断して乱入してしまった。
ロード・ウォリアーズがピンフォール負けをするわけには絶対にいかないと思ったのだろう。
全盛期のロード・ウォリアーズはほとんど負けなしだったが、唯一の完敗が、長州、谷津組で、谷津嘉章のジャーマンスープレックスホールドなのだ。

長州力と谷津嘉章は、ジャンボ鶴田と天龍源一郎にベルトを奪われるまで、8回も防衛しているのは凄い記録だ。

ジャパンプロレス分裂

1986年6月。谷津嘉章は忘れ物を取りに行く。
金メダルを獲れる選手として期待されたモスクワオリンピックでまさかの日本不参加。
幻の金メダリスト・谷津嘉章は、何とレスリング全日本選手権フリースタイルに参戦し、見事に優勝!
現役プロレスラーがアマレスの全日本選手権に出場して優勝したのはおそらく史上初の出来事。
この快挙はテレビのニュースでも報道された。
全日本プロレスで大活躍し、人気も上がり、気力が充実していたのかもしれない。
しかし良いことばかりではない。強い絆で結ばれていたと思われた長州軍に亀裂が生じる。
発端は、長州力のワガママ「もう一度藤波辰巳と闘いたい」というもの。
もはや飢えのような状態で、藤波との闘いを切望していた。
異国で毎日洋食を食べ、最初は新鮮だったが、そのうち故郷の和食が死ぬほど懐かしくなる。そんな状態だっただろうか。
あくまでもプロレスのロマンを追い求める長州力。いくら何でも全日本プロレスを裏切るのは人の道としてどうなのかと憤怒する谷津嘉章。
二人は別々の道を選択することになる。
長州力は新日本プロレスに復帰する決断をし、谷津嘉章は全日本プロレスに残ることを決めた。
谷津の選択は正しかったと思う。せっかく全日本プロレスで実績を築いたのに、また長州について古巣に戻っても、永遠にNO2だ。
今こそ飛躍の時だった。
ところが、そんな簡単には行かなかった。ジャイアント馬場が契約があるからと言って、長州力は新日本プロレスのリングに上がることはできないと警告。
マサ斉藤が「紙切れ一枚で若いもんを縛るのか」と言うと、ジャイアント馬場は「この紙切れ一枚が大事なんだ」と反論。
ジャイアント馬場の信念は富士のごとく強固で動かすことはできない。もしも勝手に新日本プロレスのリングに長州力を上げたら契約違反で法廷闘争も辞さない構え。
しかし長州力は我慢できなかったのか、新日本プロレスに突然乱入し、リング上のアントニオ猪木と藤波辰巳にリキラリアット! 藤波にサソリ固め!
この事件を知ったジャイアント馬場は、「随分思いきったことをしたもんだね」 
いよいよ法廷闘争の場外乱闘かと思ったそんなある日。ジャイアント馬場が全日本プロレスの道場でトレーニングをしている時、あり得ない人が突如、訪ねて来た。
プロレス専門誌が連続カラー写真で報じた。アントニオ猪木の姿が見えても、目を合わせないリング上の馬場。猪木は満面笑顔で馬場に歩み寄り、何やら言葉を交わす。
猪木の表敬訪問が功を奏したのか、長州力は無事に新日本プロレスに復帰することができた。

一方、谷津嘉章は、ジャンボ鶴田の新しいタッグパートナーに選ばれた。
革命戦士・長州力とブロディ革命を提唱するブルーザー・ブロディに刺激されたか、天龍源一郎も天龍革命を高らかに宣言した。
天龍の野望・野心を誰も抑えることはできない。自然に全日本プロレスの事実上のトップであるジャンボ鶴田は、パートナーからライバルに変わる。
谷津嘉章にしてみれば、きのうの敵はきょうの友。ジャンボ鶴田という最強のパートナーを得て、どんな強豪レスラーでも迎え撃てる。
ミュンヘンオリンピックのジャンボ鶴田とモントリオールオリンピックの谷津嘉章は、五輪コンビを結成した。

ジャンボ鶴田、谷津嘉章VSブルーザー・ブロディ、ジミー・スヌーカ

ジャンボ鶴田と谷津嘉章の五輪コンビは、1987年~1990年に全日本プロレスで活躍した。
ロード・ウォリアーズや天龍源一郎と阿修羅原の龍原砲など強豪チームと対戦し、コンビネーションも鶴龍コンビに負けないものになっていった五輪コンビ。
いよいよ全日本プロレスのビッグイベンド・世界最強タッグ決定リーグ戦に五輪コンビが出場する。
ザ・ファンクス、龍原砲、スタン・ハンセンとテリー・ゴディ、ブルーザー・ブロディとジミー・スヌーカなど強豪チームが参戦するなか、五輪コンビも勝ち点を重ね、ついに優勝戦を迎えた。

ジャンボ鶴田、谷津嘉章VSブルーザー・ブロディ、ジミー・スヌーカ。勝ったほうが文句なしに優勝だが、万が一両者リングアウトだと、まだ優勝の可能性が残っている3チーム。その3チームがリングサイドに陣取る。
ザ・ファンクスと龍原砲、そしてハンセン、ゴディがイスにすわって観戦するなかでの闘いだ。

ブロディとスヌーカは、優勝経験チーム。81年、ザ・ファンクスと決勝戦で激突したが、リング下でセコンドのスタン・ハンセンがテリー・ファンクにウエスタンラリアット! 
完全KOで立ち上がれないテリー。ドリーが孤軍奮闘で二人を追い込んだが、最後はキングコングニードロップでブロディがドリーをフォールし、ブロディ、スヌーカ組が初優勝。
大激怒したジャイアント馬場とジャンボ鶴田が控室から走って来てスタン・ハンセンに襲いかかる。脳天チョップ連打でハンセンの額を割る本気の馬場。ファンク道場の盟友同士の鶴田とハンセンも殴り合いの喧嘩。
この事件をきっかけにスタン・ハンセンは全日本プロレスのリングに上がり、ブロディとミラクルパワーコンビを復活させ大暴れ。
「組むこと自体が反則」と言われたこの最強コンビは無敗の快進撃を突き進んだ。
しかしブロディは新日本プロレスに参戦。だが、ブロディは最初から新日本プロレスと揉めた。
両国国技館が新築されたばかりなので、チェーンを振り回すことに難癖をつけた新日本フロント。猪木はコスチュームとして別に問題はないという意見だったが、何しろ猪木は社長なので、ブロディは猪木がチェーンに難癖をつけたと誤解した可能性がある。
ブロディは試合前、チェーンを持って猪木の仕度部屋に乱入し、猪木をチェーンでめった打ちにし、腕を負傷させた。
ほかにも、「オレに断りもなしに前田戦やアンドレ戦を組んだ」と怒り、来日しなかった。
フロントも「いちレスラーがマッチメイクに文句を言うなんてびっくりだ」と、磁石のN局とN局のように噛み合わない。
その後もトラブルが続き、結局ブロディは全日本プロレスにUターンした。
ブロディはプロレスマスコミやプロレスファンからも非難を浴びたが、熱烈なブロディファンからしてみれば、「ブロディの性格を把握しな過ぎなんだ!」ということだ。

ジャイアント馬場は復帰したブロディに対してかなり厳しい態度だったが、全日本プロレスファンは、3年ぶりのブロディ復帰を熱烈に歓迎した。
この87年世界最強タッグの開幕戦で、タッグとはいえ、ブルーザー・ブロディVSスタン・ハンセンという夢の対決が実現してファンは大興奮。二人がタックルでぶつかり合っただけで爆発的な大歓声が巻き起こった。

ブロディの人気は凄いが、谷津嘉章も負けていない。全日本プロレスファンに着実に認められてきた。
いよいよゴング。スタートはブロディと鶴田。鶴田コールが耳に入ったのかブロディは突然場外へ飛び出し素早くフェンスも超えて観客席に雪崩れ込んでいく。慌てふためいて逃げ惑う観客。
何というエキサイティングなパフォーマンスだ。
最初の大技は鶴田のドロップッキック! しかしブロディも顔面にダイナマイトキックでお返しする。
ブロディと谷津。ブロディは軽々と抱え上げてワンハンドゴリラスラム! 早くもコーナーに歩くブロディ。危ない。助走をつけてキングコングギロチンドロップ!
カウントツーで返す谷津。
スヌーカも谷津にドロップキック! さらにフロントヘッドロック。
鶴田とスヌーカ。鶴田は貫禄のアームロック。そしてコブラツイスト。
二人はスヌーカに的を絞ったか。谷津がブルドッキンクヘッドロック! ダウンしたスヌーカに必殺の監獄固め! しかしブロディがロープに飛んで思いきり顔面にダイナマイトキック! 谷津が吹っ飛んだ。
ブロディが行く。谷津にドロップキック! 谷津は場外にエスケープ。
谷津も負けていない。ブロディにバックドロップ! カウントはツー。谷津がラフファイト。恐れなくブロディの頭部にキック連打!
ブロディも谷津を持ち上げてブロディバスター! 変形のブレーンバスターだ。カウントツーで返す谷津。
ブロディが谷津をワンハンドゴリラスラムで叩きつけ、スーパーフライが飛んだ! スヌーカがトップロープに乗ってのスワンダイブ式フライングボディプレス!
スヌーカが行く。谷津をシュミット式バックブリーカー! さらにダイビングヘッドバットはよけられ自爆。
鶴田がスヌーカにジャンピングニーパット! コブラツイスト。しかしブロディがコーナーポスト最上段から全体重を浴びせたWチョップでカット!
ブロディが鶴田の顔面にダイナマイトキック! ワンハンドゴリラスラムで叩きつけておいて、再びコーナーへ歩く。危ない。助走をつけてフライングボディプレス! 
スヌーカもついに出たクンフーチョップを鶴田に叩きつける。
再びブロディと鶴田。鶴田はフライングボディシザーズ! カウントツー。さらにサイドスープレックス! 鶴田が攻める。ブロディに延髄斬り! ブロディは倒れない。延髄斬り2連発!
勝負に出たか、鶴田がブロディにジャンピングニーパット・・・を交わしてブロディがロープに飛び、フライングボディアタック! そして猪木を失神させた必殺技、ジャンピングパイルドライバー! カウント2.9で返す鶴田。
ブロディがカウントスリーだとレフェリーのジョー樋口に抗議。背を向けているブロディのバックを取って世界を獲ったバックドロップ! カウントツー。
見応え十分の怪物同士の対決。
谷津も負けていられない。ブロディに果敢にダブルアームスープレックスは不完全。しかしカバーに入る。スヌーカがダイビングヘッドバットでカット! これはきつい谷津。
スヌーカが谷津を羽交い絞め。ブロディが助走をつけて谷津の顔面にダイナマイトキック! 勢いでスヌーカも一緒に倒れ後頭部を打つ。そのまま谷津が押さえ込みカウントスリー!
ブロディこれは大失敗だ。

ジャンボ鶴田はジャイアント馬場や天龍源一郎などパートナーを変えて5度目の優勝。谷津嘉章は初優勝だ。
五輪コンビでチャンピオンベルトも獲ったが、リーグ戦での優勝はひときわ嬉しい栄冠かもしれない。

タッグマッチを中心に紹介したが、谷津嘉章はもちろんタッグ屋ではなくシングルプレイヤー。
全日本プロレスでNWA世界ヘビー級チャンピオンのリック・フレアーや、インターナショナル王者のブルーザー・ブロディなど、大物外国人レスラーとシングルマッチで熱闘を繰り広げていた。
プロレス専門誌でブロディはインタビューに答え、谷津の才能を褒め、天龍と並んで谷津嘉章を自分のライバルの一人に挙げていた。
「あの脚では私には勝てない」と谷津が脚を負傷していたことを残念がっていた。それでもブロディに果敢に監獄固めを決めて追い込んだ。
最後はリングアウト負けしてしまったが、谷津嘉章は紛れもなく全日本プロレスでトップレスラーの道を走っていたのだ。

谷津嘉章VSゲイリー・グッドリッジ

谷津嘉章は全日本プロレスを離脱してからは、SWSに参戦したり、自らSPWFを旗揚げしたりと、プロレスラーとしての活動を続けた。
谷津に限らず、時代の波というものがある。新日本プロレスの興行は成功していたとはいえ、80年代のプロレス黄金期とは比べられない。
何しろ金曜夜8時は、裏番組に『太陽にほえろ!』や『3年B組金八先生』が放送されていても、新日本プロレス中継の『ワールドプロレスリング』は視聴率20%を弾き出していたのだ。プロ野球中継に視聴率で勝つことは別に珍しくない時代だった。
プロレス人気は決して下がっていないし、ファンの数も減っていない。団体が増えたのだ。
70、80年代は、国際プロレスが幕を閉じてからは新日本プロレスと全日本プロレスの2団体しかなかった。ある意味わかりやすかった。
そのうち多くのレスラーが自分の理想のプロレスを追い求めてUWFやパンクラスやFMWが旗揚げされ、どんどん新団体が設立され、あれよあれよと70団体になってしまった。
プロレス専門誌もさすがに全団体を紹介しきれないので、谷津嘉章も表舞台になかなか出ない状態が続いた。
だから2000年10月31日、PRIDE11に谷津嘉章が参戦するというニュースは専門誌でも大きく取り上げた。
アントニオ猪木のコメントも期待感を後押しする。「谷津は面白いと思うよ。だって強いもん」
現役プロレスラーでありながらアマレスの全日本選手権で優勝した男だ。もしかしたらやってくれるかもしれない。
相手は強豪ファイターのゲイリー・グッドリッジ。相手にとって不足なしだ。無名の強いのか弱いのかわからない選手に勝っても説得力に欠ける。グッドリッジのようなPRIDEの常連ファイターに勝ったら大騒ぎだろう。

しかし、いざ闘ってみたら、やはり相手が悪かった。オープンフィンガーグローブでの打撃は、プロレスの試合にはないので、やはりレスラーにとっては不利なルール。
もちろんそれを百も承知で挑戦するわけだが、剛腕のゲイリー・グッドリッジのアッパーカット連打が谷津の顎に何発も命中。倒れないのは、さすがプロレスラーだが、レフェリーが止めてしまった。
44歳の谷津嘉章。苦しい闘いだったが、評価は高かった。

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