谷津嘉章の熱闘10番勝負!鶴龍との対決・本気のブロディ・五輪コンビ・グッドリッジとの激闘を振り返る

谷津嘉章の熱闘10番勝負!鶴龍との対決・本気のブロディ・五輪コンビ・グッドリッジとの激闘を振り返る

谷津嘉章の熱闘を当時の時代背景を交えながらドラマティックに振り返る。ブッチャー&ハンセンの血祭り事件。キレた猪木。ブロディの本気。PRIDEでグッドリッジと激闘。鶴龍との対決や五輪コンビの活躍などもプロレス的感性で語り尽くす。


谷津嘉章のプロフィール

谷津嘉章(やつ・よしあき)は1956年7月19日、群馬県に生まれる。
身長186センチ、体重115キロ。
足利工大附属高校でレスリングを始める。
日本大学レスリング部時代に、全日本学生選手権フリースタイル100kg級で、何と4連覇!
全日本選手権でも優勝の実績がある。
谷津嘉章は、1976年のモントリオールオリンピックに出場。
そして、1980年のモスクワオリンピックにも日本代表として参加するはずだったが、選手にとっては考えられない悪夢が起きた。
政治的な理由で多くの国がモスクワオリンピックをボイコットし、日本も不参加を表明。
五輪を目指して猛練習してきた選手たちは寝耳に水の衝撃で、谷津嘉章もそのうちの一人だった。
谷津嘉章はレスリングの金メダル候補だったので、幻の金メダリストと呼ばれた。

1980年、新日本プロレスに入団。
新人レスラーは海外武者修行に行くのが通例だが、谷津嘉章も渡米し、ニューヨークのMSGのリングに立つ。
谷津嘉章が新日本プロレスのエース候補生として重要視されていたことは間違いない。
アメリカでは、ザ・グレート・ヤツのリングネームでWWFを半年間サーキットし、プロレスラーとしての経験を積む。
そして凱旋帰国し、華々しい日本デビューが待っているはずだったが、谷津嘉章にとっては悪夢の夜になってしまった・・・。

アントニオ猪木、谷津嘉章VSスタン・ハンセン、アブドーラ・ザ・ブッチャー

1981年6月24日、蔵前国技館。谷津嘉章の日本デビュー戦は、アントニオ猪木と組み、メインイベントに出場。まさに破格の扱いに見える。
しかし今思うと、あまりにも相手が悪過ぎた。
不沈艦・スタン・ハンセンと呪術師・アブドーラ・ザ・ブッチャーだ。
猪木は愛弟子を千尋の谷に突き落とす思いだったのか、それとも谷津ならこの強豪二人にも通用すると思ったのか。
あるいは新日本プロレスのフロントも、まさかあそこまでハンセンとブッチャーが暴走することは誤算だったのだろうか。
この試合後の谷津嘉章の行動を思う時、このマッチメイクは失敗だったのかとさえ思えてくる。
この試合から何十年経っても「何もあそこまでやらなくても」という声が上がるほど、ファンにとって記憶が鮮明なタッグマッチ。
もっと華々しいデビュー戦を飾っていたら、新日本プロレスのエース候補としてエリート街道を進んでいたかもしれない谷津嘉章。
そう考えると、まさにこの試合は、谷津嘉章の運命を変えた一戦だったのかもしれない。

外国人チームは、先にアブドーラ・ザ・ブッチャーが一人で入場して来て、そのあとにスタン・ハンセンが登場。
日本勢は、「イノキボンバイエ」に乗り、先頭に谷津嘉章、そしてアントニオ猪木が入場。
レフェリーはユセフ・トルコ。
試合前のセレモニーがまどろっこしいと感じたのか、ハンセンがスーツ組を蹴散らし、先を急ぐ。
今にも襲いかかりそうなブッチャー、ハンセンに、猪木もガウンを脱いで臨戦態勢。谷津は冷静な顔に見える。
60分3本勝負。いよいよ運命のゴング。猪木は谷津に闘魂ビンタをかまし、送り出す。
最初は谷津とハンセン。谷津はアームホイップ、ショルダースルーで巨体を投げ飛ばす。そしてドロップキック2連発。大歓声。
しかしハンセンは強烈なエルボーから顔面ニーパット!
ブッチャーとタッチ。ブッチャーは素早い動きでキック、地獄突き! さらにヘッドバットで追い込み、場外へ放り投げる。
ハンセンは谷津をフェンスに叩きつける。
二人は早いタッチワークで谷津に集中砲火。ブッチャーの地獄突きとキックとヘッドバット。ハンセンのエルボー、スリーパーホールド、ニードロップ。
猪木がタッチできない。谷津コールが場内に起こる。ようやく猪木とタッチで大歓声。
ブッチャーと猪木は初対決。
ブッチャーは猪木に地獄突き、ヘッドバット、そしてブレーンバスター!
ハンセンも燃える。猪木にジャンピングニーアタック! ドロップキック! ブッチャーもタックル!
猪木もブッチャーにアリキックで応戦。再び谷津が登場。

また二人に捕まってしまった。ハンセンのエルボー、ニーパット、スリーパーホールド。
ブッチャーのキック、地獄突き、ヘッドバット。
あまりにも技の一つ一つが強烈なので、どうにも反撃できない。
谷津を場外に落とすと、ハンセンとブッチャーは二人がかりで谷津を鉄柱! リング下にはサブレフェリーのミスター高橋がいるが、ハンセンはパンチ、ブッチャーは顔面かきむしり。
谷津は額を割られて大流血。
スタン・ハンセンが谷津をロープに飛ばしてウエスタンラリアット!
完璧に入ってしまった。カウントスリーで1本目は外国人チームの圧勝。

1本目と2本目のインターバルに休ませない。ブッチャーとハンセンは谷津を場外でコテンパンに叩きのめす。ユセフ・トルコは外国人の反則を取り、2本目は猪木、谷津組の反則勝ちで1-1となった。
しかし3本目のゴングが鳴っても谷津が立ち上がれない。
タッグマッチの場合、谷津が出なければいけないのだが、猪木が出て闘おうとする。
ユセフ・トルコが猪木を止める。怒りの猪木はユセフ・トルコを突き倒し、ミスター高橋も突き飛ばし、ビール瓶を持ってブッチャーを睨む。
「来いこのヤロー!」

背後から襲いかかるスタン・ハンセンを読んでいた猪木は、ビール瓶をボディに叩きつけ、頭部に一撃!
ゴングが乱打されている。レフェリーを突き飛ばした猪木の反則負け。
ハンセンが襲いかかる。ブッチャーがビール瓶を奪った。セコンド陣がリングに上がり、両者を止めるが止まらない。
流血した谷津嘉章が怒りの形相でリングに上がり、ハンセンと殴り合う。
ブッチャーはダウンしている猪木に必殺毒針殺法、ジャンピングエルボードロップ!
世界の荒鷲・坂口征二もハンセンとブッチャーとやり合う。場内騒然。
谷津嘉章にとっては、忘れられない試合になったが、ブッチャーとハンセンへの怒りよりも、新日本プロレスのフロントに不信感を抱いてもおかしくない凄惨なタッグマッチだった。

再び渡米した谷津嘉章は、トラ・ヤツのリングネームでNWA南部のテリトリーで活躍。
ジャイアント・キマラやザ・グレート・カブキなど名のあるレスラーとも対戦している。
しかし、海外の谷津嘉章に日本から会いに行ったレスラーが、まさかいたとは。新日本プロレスもアントニオ猪木も、想像すらしていなかったに違いない。

谷津嘉章が長州軍団に入る

1982年10月8日、東京後楽園ホール。ここで事件は起きた。
アントニオ猪木、藤波辰巳、長州力VSアブドーラ・ザ・ブッチャー、バット・ニュース・アレン、SDジョーンズの6人タッグマッチ。
一応、格下からコールし、最後は一番格上の猪木が呼ばれるのが通常。この日もリングアナは何の迷いもなく一番先に長州力をコールした。
右拳を上げながらも、長州力は何やら怒っている。その怒りの理由は当時、誰にもわからなかったが、長州力にしてみれば藤波辰巳と同格だから、先に呼ばれるのは不満だったのだ。
次に猪木と藤波がさっさとロープをくぐりエプロンサイドに立つと、また長州力がキレる。藤波は不思議そうな顔で激怒している長州を見ていた。
長州力はメキシコ遠征で、個性派レスラーをたくさん見てきて、個性について真剣に考えるようになった。
日本のトップであるジャイアント馬場とアントニオ猪木は、強烈な個性を持っている。では自分の売り・個性は何かを自問自答した。
そこで自分が首までぬるま湯につかっていたのではないかと猛省する。猪木と組むタッグマッチでも、相手レスラーよりも、「猪木さんに叱られないように」という気持ちで試合をしていた。
長州力は奮起した。サラリーマンのような髪型をやめて荒々しい長髪に変え、気合を全面に出すファイトスタイルに豹変。
当時は藤波への嫉妬と言っていたが、後に本音を語る。長州力は、狙っていたのだ。かませ犬事件はきっかけに過ぎない。踏み台にされたのは藤波辰巳のほうだったのだ。
試合中に口論する藤波と長州は、タッチを拒否したり、タッチの代わりに顔面を張ったりして場内騒然。
最後は猪木が場外でブッチャー軍団3人にやられているのに、助けに行かないで藤波と長州はリング上で殴り合いの喧嘩。
猪木ファンは大激怒し、藤波と長州に罵倒を浴びせ、後楽園ホールは荒れた。
ブッチャーが喧嘩する二人を寂しい顔で見上げていたのが印象的だった。
嵐が来ることを予感したのか。日本人同士の闘いという新たな図式に、外国人レスラーの出番がなくなることを予見したとも思えないが、まさかこの日がプロレス史に刻印される「長州事件」になるとは、誰もわからなかったに違いない。

長州力と行動をともにする同志が次々に増えていく。
もともとフリーのマサ斉藤、キラー・カーン、アニマル浜口に、タイガーキラーの小林邦昭も加わる。
長州力の行動は試合と一緒でスピーディーだ。長州は渡米し、何と谷津嘉章に会いに行って口説いたのだ。
熱心に誘われ、谷津嘉章は、長州維新軍に入ることを決める。やはりハンセン、ブッチャー戦が心にわだかまりをつくっていたのか。それは谷津嘉章にしかわからない。

驚いたのはアントニオ猪木と新日本プロレスだろう。
凱旋帰国したかと思ったら、長州軍の一員として、正規軍と敵対する側に立っていたのだ。
1983年11月3日、蔵前国技館。
正規軍VS維新軍の4対4の対抗戦が組まれた。カードは当日に綱引きで決める。
谷津嘉章は、アントニオ猪木と対戦することが決まり、なぜか満面笑顔でガッツポーズ。
猪木にしてみれば、裏切られた気持ちもあり、試合前から熱かった。
それに加え、谷津は猪木が捕まえようとしても場外にエスケープ。また捕まえようとしても場外に逃げてゲラゲラ笑う。
ついに猪木がキレた。
場外乱闘で猪木は喧嘩殺法。谷津をメチャクチャに叩きのめす勢い。
猪木は過去に、試合中にマジギレしてグレート・アントニオの顔面を蹴りまくって壮絶KOしたシュート事件がある。キラー猪鬼に変身したら危ないのだ。
猪木の目は血走っていた。谷津の頭部に怒りの鉄拳! そして鋭い延髄斬り! たまらずカウントスリー。
猪木の完勝だったが、谷津が猪木を怒らせたから会場をエキサイトさせた。

その後、長州力はジャパンプロレスを結成し、猪木や藤波との決着をつけないまま、全日本プロレスへ新たな闘いの場を求める。
谷津嘉章も一緒に全日本プロレスに参戦した。思えば、谷津嘉章の全日本プロレスでの活躍を考えると、全日本プロレスのほうが合っていたのかもしれない。
谷津嘉章は全日本プロレスで、多くの強豪レスラーと激突することになるのだ。

長州力、谷津嘉章VSジャンボ鶴田、天龍源一郎

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