谷津嘉章のプロフィール

谷津嘉章(やつ・よしあき)は1956年7月19日、群馬県に生まれる。
身長186センチ、体重115キロ。
足利工大附属高校でレスリングを始める。
日本大学レスリング部時代に、全日本学生選手権フリースタイル100kg級で、何と4連覇!
全日本選手権でも優勝の実績がある。
谷津嘉章は、1976年のモントリオールオリンピックに出場。
そして、1980年のモスクワオリンピックにも日本代表として参加するはずだったが、選手にとっては考えられない悪夢が起きた。
政治的な理由で多くの国がモスクワオリンピックをボイコットし、日本も不参加を表明。
五輪を目指して猛練習してきた選手たちは寝耳に水の衝撃で、谷津嘉章もそのうちの一人だった。
谷津嘉章はレスリングの金メダル候補だったので、幻の金メダリストと呼ばれた。
1980年、新日本プロレスに入団。
新人レスラーは海外武者修行に行くのが通例だが、谷津嘉章も渡米し、ニューヨークのMSGのリングに立つ。
谷津嘉章が新日本プロレスのエース候補生として重要視されていたことは間違いない。
アメリカでは、ザ・グレート・ヤツのリングネームでWWFを半年間サーキットし、プロレスラーとしての経験を積む。
そして凱旋帰国し、華々しい日本デビューが待っているはずだったが、谷津嘉章にとっては悪夢の夜になってしまった・・・。
アントニオ猪木、谷津嘉章VSスタン・ハンセン、アブドーラ・ザ・ブッチャー

1981年6月24日、蔵前国技館。谷津嘉章の日本デビュー戦は、アントニオ猪木と組み、メインイベントに出場。まさに破格の扱いに見える。
しかし今思うと、あまりにも相手が悪過ぎた。
不沈艦・スタン・ハンセンと呪術師・アブドーラ・ザ・ブッチャーだ。
猪木は愛弟子を千尋の谷に突き落とす思いだったのか、それとも谷津ならこの強豪二人にも通用すると思ったのか。
あるいは新日本プロレスのフロントも、まさかあそこまでハンセンとブッチャーが暴走することは誤算だったのだろうか。
この試合後の谷津嘉章の行動を思う時、このマッチメイクは失敗だったのかとさえ思えてくる。
この試合から何十年経っても「何もあそこまでやらなくても」という声が上がるほど、ファンにとって記憶が鮮明なタッグマッチ。
もっと華々しいデビュー戦を飾っていたら、新日本プロレスのエース候補としてエリート街道を進んでいたかもしれない谷津嘉章。
そう考えると、まさにこの試合は、谷津嘉章の運命を変えた一戦だったのかもしれない。

外国人チームは、先にアブドーラ・ザ・ブッチャーが一人で入場して来て、そのあとにスタン・ハンセンが登場。
日本勢は、「イノキボンバイエ」に乗り、先頭に谷津嘉章、そしてアントニオ猪木が入場。
レフェリーはユセフ・トルコ。
試合前のセレモニーがまどろっこしいと感じたのか、ハンセンがスーツ組を蹴散らし、先を急ぐ。
今にも襲いかかりそうなブッチャー、ハンセンに、猪木もガウンを脱いで臨戦態勢。谷津は冷静な顔に見える。
60分3本勝負。いよいよ運命のゴング。猪木は谷津に闘魂ビンタをかまし、送り出す。
最初は谷津とハンセン。谷津はアームホイップ、ショルダースルーで巨体を投げ飛ばす。そしてドロップキック2連発。大歓声。
しかしハンセンは強烈なエルボーから顔面ニーパット!
ブッチャーとタッチ。ブッチャーは素早い動きでキック、地獄突き! さらにヘッドバットで追い込み、場外へ放り投げる。
ハンセンは谷津をフェンスに叩きつける。
二人は早いタッチワークで谷津に集中砲火。ブッチャーの地獄突きとキックとヘッドバット。ハンセンのエルボー、スリーパーホールド、ニードロップ。
猪木がタッチできない。谷津コールが場内に起こる。ようやく猪木とタッチで大歓声。
ブッチャーと猪木は初対決。
ブッチャーは猪木に地獄突き、ヘッドバット、そしてブレーンバスター!
ハンセンも燃える。猪木にジャンピングニーアタック! ドロップキック! ブッチャーもタックル!
猪木もブッチャーにアリキックで応戦。再び谷津が登場。

また二人に捕まってしまった。ハンセンのエルボー、ニーパット、スリーパーホールド。
ブッチャーのキック、地獄突き、ヘッドバット。
あまりにも技の一つ一つが強烈なので、どうにも反撃できない。
谷津を場外に落とすと、ハンセンとブッチャーは二人がかりで谷津を鉄柱! リング下にはサブレフェリーのミスター高橋がいるが、ハンセンはパンチ、ブッチャーは顔面かきむしり。
谷津は額を割られて大流血。
スタン・ハンセンが谷津をロープに飛ばしてウエスタンラリアット!
完璧に入ってしまった。カウントスリーで1本目は外国人チームの圧勝。

1本目と2本目のインターバルに休ませない。ブッチャーとハンセンは谷津を場外でコテンパンに叩きのめす。ユセフ・トルコは外国人の反則を取り、2本目は猪木、谷津組の反則勝ちで1-1となった。
しかし3本目のゴングが鳴っても谷津が立ち上がれない。
タッグマッチの場合、谷津が出なければいけないのだが、猪木が出て闘おうとする。
ユセフ・トルコが猪木を止める。怒りの猪木はユセフ・トルコを突き倒し、ミスター高橋も突き飛ばし、ビール瓶を持ってブッチャーを睨む。
「来いこのヤロー!」

背後から襲いかかるスタン・ハンセンを読んでいた猪木は、ビール瓶をボディに叩きつけ、頭部に一撃!
ゴングが乱打されている。レフェリーを突き飛ばした猪木の反則負け。
ハンセンが襲いかかる。ブッチャーがビール瓶を奪った。セコンド陣がリングに上がり、両者を止めるが止まらない。
流血した谷津嘉章が怒りの形相でリングに上がり、ハンセンと殴り合う。
ブッチャーはダウンしている猪木に必殺毒針殺法、ジャンピングエルボードロップ!
世界の荒鷲・坂口征二もハンセンとブッチャーとやり合う。場内騒然。
谷津嘉章にとっては、忘れられない試合になったが、ブッチャーとハンセンへの怒りよりも、新日本プロレスのフロントに不信感を抱いてもおかしくない凄惨なタッグマッチだった。
再び渡米した谷津嘉章は、トラ・ヤツのリングネームでNWA南部のテリトリーで活躍。
ジャイアント・キマラやザ・グレート・カブキなど名のあるレスラーとも対戦している。
しかし、海外の谷津嘉章に日本から会いに行ったレスラーが、まさかいたとは。新日本プロレスもアントニオ猪木も、想像すらしていなかったに違いない。
谷津嘉章が長州軍団に入る

1982年10月8日、東京後楽園ホール。ここで事件は起きた。
アントニオ猪木、藤波辰巳、長州力VSアブドーラ・ザ・ブッチャー、バット・ニュース・アレン、SDジョーンズの6人タッグマッチ。
一応、格下からコールし、最後は一番格上の猪木が呼ばれるのが通常。この日もリングアナは何の迷いもなく一番先に長州力をコールした。
右拳を上げながらも、長州力は何やら怒っている。その怒りの理由は当時、誰にもわからなかったが、長州力にしてみれば藤波辰巳と同格だから、先に呼ばれるのは不満だったのだ。
次に猪木と藤波がさっさとロープをくぐりエプロンサイドに立つと、また長州力がキレる。藤波は不思議そうな顔で激怒している長州を見ていた。
長州力はメキシコ遠征で、個性派レスラーをたくさん見てきて、個性について真剣に考えるようになった。
日本のトップであるジャイアント馬場とアントニオ猪木は、強烈な個性を持っている。では自分の売り・個性は何かを自問自答した。
そこで自分が首までぬるま湯につかっていたのではないかと猛省する。猪木と組むタッグマッチでも、相手レスラーよりも、「猪木さんに叱られないように」という気持ちで試合をしていた。
長州力は奮起した。サラリーマンのような髪型をやめて荒々しい長髪に変え、気合を全面に出すファイトスタイルに豹変。
当時は藤波への嫉妬と言っていたが、後に本音を語る。長州力は、狙っていたのだ。かませ犬事件はきっかけに過ぎない。踏み台にされたのは藤波辰巳のほうだったのだ。
試合中に口論する藤波と長州は、タッチを拒否したり、タッチの代わりに顔面を張ったりして場内騒然。
最後は猪木が場外でブッチャー軍団3人にやられているのに、助けに行かないで藤波と長州はリング上で殴り合いの喧嘩。
猪木ファンは大激怒し、藤波と長州に罵倒を浴びせ、後楽園ホールは荒れた。
ブッチャーが喧嘩する二人を寂しい顔で見上げていたのが印象的だった。
嵐が来ることを予感したのか。日本人同士の闘いという新たな図式に、外国人レスラーの出番がなくなることを予見したとも思えないが、まさかこの日がプロレス史に刻印される「長州事件」になるとは、誰もわからなかったに違いない。

長州力と行動をともにする同志が次々に増えていく。
もともとフリーのマサ斉藤、キラー・カーン、アニマル浜口に、タイガーキラーの小林邦昭も加わる。
長州力の行動は試合と一緒でスピーディーだ。長州は渡米し、何と谷津嘉章に会いに行って口説いたのだ。
熱心に誘われ、谷津嘉章は、長州維新軍に入ることを決める。やはりハンセン、ブッチャー戦が心にわだかまりをつくっていたのか。それは谷津嘉章にしかわからない。
驚いたのはアントニオ猪木と新日本プロレスだろう。
凱旋帰国したかと思ったら、長州軍の一員として、正規軍と敵対する側に立っていたのだ。
1983年11月3日、蔵前国技館。
正規軍VS維新軍の4対4の対抗戦が組まれた。カードは当日に綱引きで決める。
谷津嘉章は、アントニオ猪木と対戦することが決まり、なぜか満面笑顔でガッツポーズ。
猪木にしてみれば、裏切られた気持ちもあり、試合前から熱かった。
それに加え、谷津は猪木が捕まえようとしても場外にエスケープ。また捕まえようとしても場外に逃げてゲラゲラ笑う。
ついに猪木がキレた。
場外乱闘で猪木は喧嘩殺法。谷津をメチャクチャに叩きのめす勢い。
猪木は過去に、試合中にマジギレしてグレート・アントニオの顔面を蹴りまくって壮絶KOしたシュート事件がある。キラー猪鬼に変身したら危ないのだ。
猪木の目は血走っていた。谷津の頭部に怒りの鉄拳! そして鋭い延髄斬り! たまらずカウントスリー。
猪木の完勝だったが、谷津が猪木を怒らせたから会場をエキサイトさせた。
その後、長州力はジャパンプロレスを結成し、猪木や藤波との決着をつけないまま、全日本プロレスへ新たな闘いの場を求める。
谷津嘉章も一緒に全日本プロレスに参戦した。思えば、谷津嘉章の全日本プロレスでの活躍を考えると、全日本プロレスのほうが合っていたのかもしれない。
谷津嘉章は全日本プロレスで、多くの強豪レスラーと激突することになるのだ。
長州力、谷津嘉章VSジャンボ鶴田、天龍源一郎

ついに長州力、谷津嘉章が全日本プロレスに参戦。最終的にマサ斉藤、アニマル浜口、寺西勇、永源遙、小林邦昭、キラー・カーン等13人の大量参加となった。
試合中に乱入してマイクパフォーマンスで喧嘩を売ることは、新日流というか、長州流というか。新日本プロレスでは日常茶飯事だが、全日本プロレスの総帥・ジャイアント馬場が紳士的ではないやり方に長州力を注意した。
始めから噛み合わない。
長州力は全日本プロレスの試合を見て、「何だこれは? 俺たちのスピードについていけるのか?」
しかし全日本プロレスの選手は、「彼らの試合はスピードがあって面白いけど、プロレスの基本ができてないから危なっかしいな。教えてあげなければ」
このまるで新日本格下発言に長州力がキレた。
だからジャパンプロレスVS全日本プロレスの試合は、常にエキサイティングになり観客も大喜び。
そして、早くも頂上対決が実現する。
ジャンボ鶴田、天龍源一郎VS長州力、谷津嘉章のタッグマッチは、当時の全日本プロレスの黄金カードだった。
初対決は無効試合、二度目の対決は両者リングアウトと決着がつかないまま、三度目の対戦は、1985年世界最強タッグ決定リーグ戦で激突。
鶴田はいつもの余裕の表情で長州にアームロック。静かな展開。しかし天龍と長州は熱い闘いになる。
長州は叫びながらキック連打。天龍も猛然と張り手。
鶴田と谷津。グラウンドレスリングの攻防。天龍と谷津も激しい闘い。天龍のバックドロップ!
谷津が捕まった。天龍がキチンシンク! 鶴田も谷津に強烈なキチンシンク2連発!
谷津は鶴田にヘッドロックからブルドッキングヘッドロック! 決まったはずが効いていない。すぐに鶴田が谷津にキャメルクラッチ。
天龍と谷津。谷津が起死回生のジャーマンスープレックスホールド! 鶴田がカット。
長州が天龍にサソリ固め。鶴田がカットに入ろうとするところをリキラリアット! もう一度ロープに飛ばしてリキラリアットとジャンボラリアットの相打ち! 両者ダウン。
長州軍が攻める。天龍にリキラリアット! 谷津が十八番ワンダースープレックス! カウントツー。
長州がコーナーポスト最上段に上がり、谷津とWパイルドライバー!
長州が天龍にサソリ固め、そこを谷津がコーナーポスト最上段からダイビングニードロップ! 今度は谷津がサソリ固めで天龍を追い込む。
長州、谷津が攻め込むが、天龍が谷津に延髄斬り! 大歓声。
鶴田も本気。谷津にジャンボラリアット2連発! そして世界を獲ったバックドロップ! しかし谷津はカウントツーで返した。さすがタフだ。
鶴田は谷津にジャンピングパイルドライバー! 谷津はツーで返し、ドロップキックで反撃。
長州と鶴田。お返しとばかりに長州が鶴田にひねりを加えたバックドロップ!
長州がサソリ固め。しかし鶴田は力で返す。怪物だ。長州はブレーンバスター!
ついにタイムアップ。30分では短過ぎたか。
谷津嘉章が語るジャンボ鶴田と闘った感想に、鶴田の強さの秘密が見え隠れする。
「懐が深い」「一発一発が重い」「動かない」「底知れないスタミナ」「相手レスラーに合わせない」
また逆の角度から、ジャンボ鶴田の強さを光らせたのは、長州力と谷津嘉章だと語るファンもいる。
いつも笑みを浮かべているような余裕の表情が誤解を招き、熱い天龍に人気で負けていた鶴田が、実は他に類例のないナチュラルパワーの怪物だということが、この頃からファンの認めるところとなっていく。
「史上最強のプロレスラーは?」という問いに、必ず名前が挙がるレスラーは、アンドレ・ザ・ジャイアントとブルーザー・ブロディとローラン・ボック、そしてジャンボ鶴田だ。
長州力、谷津嘉章VSブルーザー・ブロディ、キラー・ブルックス

今の日本マット界は、新日本プロレスや全日本プロレスなど各団体のリングに自由に上がれるし、どこも知名度の高いレスラーが来るのはありがたいから歓迎される。
しかし馬場・猪木時代は、全日本プロレスのリングに上がるには、絶対にジャイアント馬場の許可が必要だし、全日本プロレスの選手が他団体のリングに上がる時も、ジャイアント馬場の許しがなければ上がれない。
こういう緊張感の中だからこそ、新日本プロレスでファイトしているスタン・ハンセンが全日本プロレスの世界最強タッグ決定リーグ戦で、ブルーザー・ブロディとジミー・スヌーカのセコンドについただけで会場は大騒ぎになった。そして試合に乱入したことはプロレス界を揺るがす大事件になったのだ。
長州軍団が新日本プロレスを大量離脱したことにより、新日本プロレスは人材不足で危機に陥っていた。
おそらくこの時期、新日本プロレスはブルーザー・ブロディへの引き抜き工作を始めていたと推測する。
ブロディ自身も、今まで初来日以来、全日本プロレスにかなり貢献してきたはずだが、フロントはスタン・ハンセンやロード・ウォリアーズ、長州力など新しいほうに光を当て、ブロディなどもともといたレスラーを重んじていないと感じてしまったようだ。
スタン・ハンセンは無二の親友だけに、ブロディは馬場プロモーターへの文句をもらしていた。
ハンセンは馬場は世界で最高のプロモーターとブロディをなだめるが、ハンセンが全日本プロレスで最高級の扱いを受けているので説得力に欠ける。
ブロディはロード・ウォリアーズを「グリーンボーイ」と言い、長州力に関しては辛辣だった。
「長州が人気者だなんて日本のファンはプロレスを知らないんじゃないのか?」
ブロディはジャンボ鶴田のことは絶賛していた。来日したら3度はファイトしたい相手と語っている。
怪物同士、全力で闘える相手だからこそ、お互いに貴重な存在なのかもしれない。
とにかくこの頃のブロディは荒れていた。プライドがエベレストよりも高いブロディは、試合で八つ当たり。
入場してきてもすぐにリングに上がらず、ずっと観客席を練り歩き、観客は逃げ惑う。
試合もブロディのタッグパートナーが戸惑うほどの暴れっぷりで、怒りを思いきり表現している感じだった。
ブロディは一度もロード・ウォリアーズとは対戦しなかったが、ついにブロディを怒らせている張本人の長州力と激突する機会がやってきた。
この日のブロディは完全にいつもと違っていた。長州力の技を全く受けない本気のプロレス。シュートだったかもしれない。
ブルーザー・ブロディがリングに上がると同時に長州力が襲いかかる。谷津嘉章はキラー・ブルックスとやり合う。
しかしブロディはチェーンで長州の顔面をかきむしり、場外に放り投げた。
ブロディは谷津を軽々と抱え上げてワンハンドゴリラスラム! ブルックスも谷津にニーパット、エルボー。
谷津が長州とタッチ。長州がコーナーにいるブロディに張り手を見舞うが、ブロディは長州の髪をつかんでパンチ連打! すぐにブルックスとタッチしてロープに飛んで長州の顔面にダイナマイトキック!
さらにロープに飛ばして長州の顔面に思いきりダイナマイトキック! すかさずフォール。カウントツー。
長州はブルックスにはエルボーバットでダウンを奪うが、ブロディが出てくると防戦一方。ブロディがロープに飛んで顔面に強烈なジャンピングニーパット! 突き刺さった。故意に顔面狙い撃ち。さらにシュミット式バックブリーカー! ブロディの技が止まらない。
ブロディは長州をロープに飛ばしてショルダースルーは長州がキック! ようやく反撃のサソリ固め。しかしブルックスがカット。
谷津が張り切る。ブルックスにドロップキック! 抱え上げてバックブリーカー!
谷津とブロディが場外乱闘。ブロディは谷津を観客席の中に放り投げ、力任せに鉄柱! リングに上がる谷津の顔面にも容赦のないダイナマイトキック!
長州と谷津が二人がかりでブロディを寝かせる。長州が足を取り、谷津がエルボードロップ。サソリ固めはブルックスがカット。
ブロディは長州を軽々と抱え上げてアバランシュホールド! さらに思いきり逆水平チョップ! 痛烈な逆水平チョップ連打!
谷津と長州がブルックスにWブレーンバスター! 長州がブルックスにサソリ固め。ブロディはこの瞬間を狙っていた。長州の顔面にダイナマイトキック! 長州がしばらく天井を見ながら起き上がれない衝撃。
ブロディは長州をコーナーに叩きつけて突進、長州がキックで迎撃し、右腕が唸る。長州がロープに飛んでブロディにリキラリアットを交わされた。長州が振り向くとブロディがドロップキック! 大歓声。
ブルックスに的を絞ったか、長州がリキラリアット! 谷津がブロディに張り手。長州と谷津がブロディとブルックスを同士討ちさせようとしたが、ブルックスとぶつかったのは谷津だった。
その谷津にブロディがドロップキック! 谷津は場外転落。
ブルックスが長州力をロープに飛ばし、待ち構えていたブロディが顔面にキック! ブルックスが長州をブレーンバスター・・・と思ったら長州がブルックスのバックを取り、バックドロップ!
谷津がブロディにタックルしてカットしカウントスリー!
長州、谷津組の勝利だ。
ブロディがチェーンを持ち出して来たので長州と谷津は素早くリング下へ。
大変な闘いだったが、何とか最後は勝ちをものにした。
結局ブロディは、このあと新日本プロレスのリングに登場し、初試合の両国国技館は超満員。人材難の新日本プロレスを盛り上げてドル箱スターとなった。
人はレスラーに限らず、自分を重んじるところに行きたくなるものである。
谷津嘉章、ついにインタータッグ王者に君臨

1986年1月28日、東京体育館でインタータッグ選手権が行われた。チャンピオンはジャンボ鶴田と天龍源一郎。挑戦者は長州力と谷津嘉章。
前の試合でジャンボ鶴田が長州力のあばら骨を負傷させたため、長州の脇腹にはテーピング。
ゴング前から怒り心頭でリングアナのマイクを奪った長州力が、「ここで俺たちを潰しておかないと後悔するぞ!」(聞き取れた)
全日本プロレスに新日色を持ち出してきた長州軍団。天龍源一郎もその喧嘩ファイトに呼応し、もともと胸中に秘められていた熱い革命の炎が燃え盛っていった。
最初はジャンボ鶴田と長州力。鶴田が手四つに組み合おうとしたが、長州がボディにキック! 鶴田も怒って蹴り返す。
谷津嘉章も熱い。ジャンボ鶴田に顔面ビンタ! 鶴田も思いきり顔面に張り手で返す。
長州と天龍が完全に喧嘩。長州がパンチ連打。怒った天龍が強烈な逆水平チョップ!
鶴田も顔が真剣だ。谷津をロープに飛ばしてキチンシンク! 谷津もドロップキックで反撃する。
鶴田は長州にジャンピングニーパット! そして負傷しているあばら骨にキック! 天龍もあばら骨にトーキック連打。この時からトーキックをやっていたとは。
ちなみにトーキックは反則技だ。
会場も不穏な空気。鶴田があばら骨にストンピング。天龍はあばら骨にトーキック。
鶴田は長州にコブラツイストを掛けながら脇腹パンチ! 谷津がコーナーポスト最上段からカットに入る。
谷津が行く。鶴田にドロップキック! バックドロップ! ニークラッシャー!
天龍と長州は場外乱闘。谷津は鶴田にスピニングトーホールド! リングに戻ってきた天龍が谷津にバックドロップ!
鶴田チャンスか。谷津にジャンボラリアット2連発から逆エビ固め!
天龍は谷津にキチンシンク! 逆水平チョップ! 鶴田のキックも痛烈。谷津苦しい。長州とタッチ。長州は鶴田に何とドロップキック! これは珍しい。
脚を取ってサソリ固め! 鶴田が粘る。脇腹の痛みで完璧に決められない長州。
谷津が燃えた。鶴田にランニングネックブリーカー! ブルドッキングヘッドロック! 引き出しが多い谷津嘉章。
場外乱闘。怒りの長州が鶴田の頭部を鉄柱! 鉄柱! 鉄柱! 3連発でついにジャンボ鶴田が流血。
今度は立場が逆転か。鶴田の割れた額に長州がストンピング! 谷津が鶴田にサソリ固め。その時天龍がロープに飛んだ。谷津めがけて自分も吹っ飛んでしまうほどのラリアット!
後に猪木戦でも見せたが、自分も吹っ飛んでしまうほど全体重を浴びせた天龍ラリアットはあまりにも強烈だ。
天龍が谷津に延髄斬り! さらにバックドロップ! しかし谷津が天龍のバックを取り、電光石火のジャーマンスープレックスホールド! カウントはワン! ツー! WOOOOOOOOOO! カウント2.99!
谷津が休まず天龍にスモールパッケージホールド! 鶴田がカット。
放送席のジャイアント馬場も、谷津嘉章のここ1年の急成長ぶりは素晴らしいと太鼓判を押した。
このメンバーの中に入っても全く劣らない。
しかし天龍の地力が凄い。谷津に延髄斬り! そして必殺パワーボム! カウントスリー!
ジャンボ鶴田、天龍源一郎の防衛だったが、凄まじい試合にファンも大満足だ。
セコンド陣に懐かしのロッキー羽田の姿が見える。時代を感じる。
1月28日と2月5日のインタータッグ2連戦は、チャンピオンチームのジャンボ鶴田と天龍源一郎にとっては、かなりハードなスケジュールだ。
挑戦者チームの長州力と谷津嘉章は燃えに燃えている。長州はあばら骨を負傷し、まだ脇腹にテーピング。谷津も鶴田に大流血させられたことを忘れてはいない。
序盤は長州と谷津が早いタッチワークで徹底的に鶴田を攻める。
谷津が鶴田をロープに飛ばしてキチンシンク! ブルドッキングヘッドロック! 長州とWブレーンバスター!
谷津が鶴田をロープに飛ばしてカウンターのスリーパーホールド! さらにランニングネックブリーカー!
長州が鶴田にサソリ固めを決めようとしたが脇腹が痛くて決まらない。谷津にタッチして谷津もサソリ固め。
長州が猛然と鶴田にストピング。フライングメイヤーからの首4の字固め。
鶴田が反撃。谷津にジャンボラリアット! 天龍にタッチ。大歓声。天龍が谷津をロープに飛ばしてエルボーバット! ブレーンバスター! フライングメイヤーからのスリーパーホールド。
何と場内は谷津コールだ!
日本のプロレスファンは強いレスラーが好き。谷津の実力向上を全日本プロレスファンも認めていた。
長州は脇腹を負傷しているが、実は天龍も1月28日のタイトルマッチで右手首を痛めていた。
天龍と谷津が喧嘩マッチ。ムッとした顔で張り手合戦。怒りの天龍がキチンシンク、ストンピング。
鶴田も長州にジャンピングニーパット! 鶴田と長州も喧嘩。猛然と張り手合戦。ムキになって髪をつかみ拳を握る長州。レフェリーのタイガー服部が止める。
天龍がまた長州の脇腹にニーパット4連発。怒った長州が脚を取ってサソリ固め! 鶴田がカット。
鶴田も長州の脇腹にキック連打。ダウンすると脇腹にストンピング。長州もボディブロー! 鶴田は脇腹狙いでボディシザース! これはきつい。
天龍も長州の脇腹にキチンシンク・・・しかしリキラリアット!
谷津が燃える。放送席ではジャイアント馬場が解説しているが、天龍に河津落とし! ニードロップ、バックドロップ!
鶴田が出てきた。谷津にジャンボラリアット! パイルドライバー!
長州と鶴田。長州がリキラリアット・・・鶴田が交わしてロープに飛んだがラリアット相打ちで両者ダウン。
先に立ち上がった鶴田が長州の脇腹にWチョップ6連発!
天龍と長州。張り手とパンチの喧嘩ファイト。天龍が延髄斬り! しかし長州も延髄斬りで返す!
谷津が天龍をロープに飛ばしてベアハッグから鮮やかなフロントスープレックス! 大歓声。さらにパワースラムで天龍を追い込む。谷津の技は多彩だ。
天龍も負けていない。谷津にラリアット! 鶴田が谷津に逆エビ固め、シュミット式バックブリーカー、キャメルクラッチ。長州がカット。
天龍と谷津がまた張り手合戦。天龍はサイドスープレックス、パワーボムと思ったらショルダーバスター! そしてテキサスクローバーズホールドを狙うが手首の痛みで決まらない。
鶴田が谷津をコーナーに叩きつけてジャンピングニーパットはよけられて自爆! 右膝を痛めたかジャンボ鶴田。
谷津が捕まった。天龍がパイルドライバー! 鶴田と天龍がW延髄斬り! トドメか、天龍が谷津にパワーボム! すでに背後にいた長州力が天龍をバックドロップ! 怒った鶴田が長州にジャンピングニーパット!
谷津と天龍だ。天龍がドロップキック! コーナーに追い込まれた谷津に天龍ラリアットを交わしてバックを取る谷津。天龍はロープを両手でつかんでジャーマンを防ぐ。
鶴田が入るとレフェリーが止める。鶴田がロープだとレフェリーに抗議している瞬間に、長州がエプロンを走って天龍の頭部にリキラリアット!
両手がロープから離れた。谷津が天龍をジャーマンスープレックスホールド! ワン! ツー! スリー! 爆発的な大歓声!
ついに王座移動。長州力と谷津嘉章がインタータッグチャンピオンに君臨した。
思えば新日本プロレスにいた頃と比べると、格段の差で谷津嘉章が強くなっているのは一目瞭然だ。
この時の谷津ならブッチャー、ハンセンと対戦しても、一方的にリンチされることはないはずだ。
将棋も強い相手と指すと強くなる。谷津も鶴龍やブロディなど強豪レスラーと闘っている間に、自然に実力アップしたに違いない。

長州力、谷津嘉章VSロード・ウォリアーズ
第35代インタータッグ選手権者、長州力と谷津嘉章。
4度目の防衛戦でとんでもない強豪レスラーと対戦することになった。暴走戦士、ロード・ウォリアーズだ。
最初は長州とアニマル。アニマルは怪力を誇示するように長州を突き倒す。怒りの長州はアニマルにいきなりリキラリアット! アニマルもパワースラムで返す。
ホークは長州にフライングショルダータックル! いつものように始めから飛ばす。ダウンしている長州にギロチンドロップはよけられた。
ホークは長州をロープに飛ばしてショルダースルーを長州がローリングクラッチホールド・・・には行かせない。頭部に上からパンチ!
ファンにアピールするホークの一瞬の隙をついて長州がバックドロップ!
谷津がホークにドロップキック! バックを取ってジャーマンか。しかしホークが両手でロープをつかむ。谷津がブレイクした瞬間にホークが痛烈なエルボー!
ホークは谷津を軽々と上げてリフトアップ。アニマルに放り投げるように渡す。アニマルが谷津をベアハッグ。危ない。ホークがロープに飛んでマッドマックスラリアット! 長州がカット。
ホークは谷津の顔面にニーパット! 抱え上げてショルダーバスター! ジャンプしてパンチを頭部に落とす! さらにキャメルクラッチ。
長州が行く。ホークに張り手、逆水平チョップ。脚を取ってサソリ固め。谷津がコーナーポスト最上段からダイビングニードロップ! アニマルがカットする。
ホークも長州にドロップキック! アニマルも長州にジャンピングエルボードロップ!
ホークが長州をロープに飛ばしてショルダースルーを狙うが長州がキック! ロープに飛んでリキラリアット!
谷津がホークにドロップキック! 長州がコーナーポストに乗る。谷津と二人がかりでホークにWパイルドライバー!
ピンチのホークにアニマルが突進。長州も突進。ラリアットは相打ち。谷津がホークのバックを取ってジャーマンスープレックスホールド! 完璧に決まったが、マネージャーのポール・エラリングが乱入して谷津に凶器攻撃。
ロード・ウォリアーズの反則負けだ。
怒りのホークは谷津を凶器でメッタ打ち。ホークとアニマルとポールが長州と谷津を殴る蹴るの暴行。
ゴングが乱打されるなか、セコンド陣が止めに入るが、3人は大暴れ。
同じ反則負けでも暴走の反則負けなら、ヒールにとって反則負けは負けではないと言えるが、この試合は少し意味合いが違う。
ホークは返せたかもしれないが、ポール・エラリングは返せないと判断して乱入してしまった。
ロード・ウォリアーズがピンフォール負けをするわけには絶対にいかないと思ったのだろう。
全盛期のロード・ウォリアーズはほとんど負けなしだったが、唯一の完敗が、長州、谷津組で、谷津嘉章のジャーマンスープレックスホールドなのだ。
長州力と谷津嘉章は、ジャンボ鶴田と天龍源一郎にベルトを奪われるまで、8回も防衛しているのは凄い記録だ。
ジャパンプロレス分裂

1986年6月。谷津嘉章は忘れ物を取りに行く。
金メダルを獲れる選手として期待されたモスクワオリンピックでまさかの日本不参加。
幻の金メダリスト・谷津嘉章は、何とレスリング全日本選手権フリースタイルに参戦し、見事に優勝!
現役プロレスラーがアマレスの全日本選手権に出場して優勝したのはおそらく史上初の出来事。
この快挙はテレビのニュースでも報道された。
全日本プロレスで大活躍し、人気も上がり、気力が充実していたのかもしれない。
しかし良いことばかりではない。強い絆で結ばれていたと思われた長州軍に亀裂が生じる。
発端は、長州力のワガママ「もう一度藤波辰巳と闘いたい」というもの。
もはや飢えのような状態で、藤波との闘いを切望していた。
異国で毎日洋食を食べ、最初は新鮮だったが、そのうち故郷の和食が死ぬほど懐かしくなる。そんな状態だっただろうか。
あくまでもプロレスのロマンを追い求める長州力。いくら何でも全日本プロレスを裏切るのは人の道としてどうなのかと憤怒する谷津嘉章。
二人は別々の道を選択することになる。
長州力は新日本プロレスに復帰する決断をし、谷津嘉章は全日本プロレスに残ることを決めた。
谷津の選択は正しかったと思う。せっかく全日本プロレスで実績を築いたのに、また長州について古巣に戻っても、永遠にNO2だ。
今こそ飛躍の時だった。
ところが、そんな簡単には行かなかった。ジャイアント馬場が契約があるからと言って、長州力は新日本プロレスのリングに上がることはできないと警告。
マサ斉藤が「紙切れ一枚で若いもんを縛るのか」と言うと、ジャイアント馬場は「この紙切れ一枚が大事なんだ」と反論。
ジャイアント馬場の信念は富士のごとく強固で動かすことはできない。もしも勝手に新日本プロレスのリングに長州力を上げたら契約違反で法廷闘争も辞さない構え。
しかし長州力は我慢できなかったのか、新日本プロレスに突然乱入し、リング上のアントニオ猪木と藤波辰巳にリキラリアット! 藤波にサソリ固め!
この事件を知ったジャイアント馬場は、「随分思いきったことをしたもんだね」
いよいよ法廷闘争の場外乱闘かと思ったそんなある日。ジャイアント馬場が全日本プロレスの道場でトレーニングをしている時、あり得ない人が突如、訪ねて来た。
プロレス専門誌が連続カラー写真で報じた。アントニオ猪木の姿が見えても、目を合わせないリング上の馬場。猪木は満面笑顔で馬場に歩み寄り、何やら言葉を交わす。
猪木の表敬訪問が功を奏したのか、長州力は無事に新日本プロレスに復帰することができた。
一方、谷津嘉章は、ジャンボ鶴田の新しいタッグパートナーに選ばれた。
革命戦士・長州力とブロディ革命を提唱するブルーザー・ブロディに刺激されたか、天龍源一郎も天龍革命を高らかに宣言した。
天龍の野望・野心を誰も抑えることはできない。自然に全日本プロレスの事実上のトップであるジャンボ鶴田は、パートナーからライバルに変わる。
谷津嘉章にしてみれば、きのうの敵はきょうの友。ジャンボ鶴田という最強のパートナーを得て、どんな強豪レスラーでも迎え撃てる。
ミュンヘンオリンピックのジャンボ鶴田とモントリオールオリンピックの谷津嘉章は、五輪コンビを結成した。

ジャンボ鶴田、谷津嘉章VSブルーザー・ブロディ、ジミー・スヌーカ
ジャンボ鶴田と谷津嘉章の五輪コンビは、1987年~1990年に全日本プロレスで活躍した。
ロード・ウォリアーズや天龍源一郎と阿修羅原の龍原砲など強豪チームと対戦し、コンビネーションも鶴龍コンビに負けないものになっていった五輪コンビ。
いよいよ全日本プロレスのビッグイベンド・世界最強タッグ決定リーグ戦に五輪コンビが出場する。
ザ・ファンクス、龍原砲、スタン・ハンセンとテリー・ゴディ、ブルーザー・ブロディとジミー・スヌーカなど強豪チームが参戦するなか、五輪コンビも勝ち点を重ね、ついに優勝戦を迎えた。

ジャンボ鶴田、谷津嘉章VSブルーザー・ブロディ、ジミー・スヌーカ。勝ったほうが文句なしに優勝だが、万が一両者リングアウトだと、まだ優勝の可能性が残っている3チーム。その3チームがリングサイドに陣取る。
ザ・ファンクスと龍原砲、そしてハンセン、ゴディがイスにすわって観戦するなかでの闘いだ。
ブロディとスヌーカは、優勝経験チーム。81年、ザ・ファンクスと決勝戦で激突したが、リング下でセコンドのスタン・ハンセンがテリー・ファンクにウエスタンラリアット!
完全KOで立ち上がれないテリー。ドリーが孤軍奮闘で二人を追い込んだが、最後はキングコングニードロップでブロディがドリーをフォールし、ブロディ、スヌーカ組が初優勝。
大激怒したジャイアント馬場とジャンボ鶴田が控室から走って来てスタン・ハンセンに襲いかかる。脳天チョップ連打でハンセンの額を割る本気の馬場。ファンク道場の盟友同士の鶴田とハンセンも殴り合いの喧嘩。
この事件をきっかけにスタン・ハンセンは全日本プロレスのリングに上がり、ブロディとミラクルパワーコンビを復活させ大暴れ。
「組むこと自体が反則」と言われたこの最強コンビは無敗の快進撃を突き進んだ。
しかしブロディは新日本プロレスに参戦。だが、ブロディは最初から新日本プロレスと揉めた。
両国国技館が新築されたばかりなので、チェーンを振り回すことに難癖をつけた新日本フロント。猪木はコスチュームとして別に問題はないという意見だったが、何しろ猪木は社長なので、ブロディは猪木がチェーンに難癖をつけたと誤解した可能性がある。
ブロディは試合前、チェーンを持って猪木の仕度部屋に乱入し、猪木をチェーンでめった打ちにし、腕を負傷させた。
ほかにも、「オレに断りもなしに前田戦やアンドレ戦を組んだ」と怒り、来日しなかった。
フロントも「いちレスラーがマッチメイクに文句を言うなんてびっくりだ」と、磁石のN局とN局のように噛み合わない。
その後もトラブルが続き、結局ブロディは全日本プロレスにUターンした。
ブロディはプロレスマスコミやプロレスファンからも非難を浴びたが、熱烈なブロディファンからしてみれば、「ブロディの性格を把握しな過ぎなんだ!」ということだ。
ジャイアント馬場は復帰したブロディに対してかなり厳しい態度だったが、全日本プロレスファンは、3年ぶりのブロディ復帰を熱烈に歓迎した。
この87年世界最強タッグの開幕戦で、タッグとはいえ、ブルーザー・ブロディVSスタン・ハンセンという夢の対決が実現してファンは大興奮。二人がタックルでぶつかり合っただけで爆発的な大歓声が巻き起こった。

ブロディの人気は凄いが、谷津嘉章も負けていない。全日本プロレスファンに着実に認められてきた。
いよいよゴング。スタートはブロディと鶴田。鶴田コールが耳に入ったのかブロディは突然場外へ飛び出し素早くフェンスも超えて観客席に雪崩れ込んでいく。慌てふためいて逃げ惑う観客。
何というエキサイティングなパフォーマンスだ。
最初の大技は鶴田のドロップッキック! しかしブロディも顔面にダイナマイトキックでお返しする。
ブロディと谷津。ブロディは軽々と抱え上げてワンハンドゴリラスラム! 早くもコーナーに歩くブロディ。危ない。助走をつけてキングコングギロチンドロップ!
カウントツーで返す谷津。
スヌーカも谷津にドロップキック! さらにフロントヘッドロック。
鶴田とスヌーカ。鶴田は貫禄のアームロック。そしてコブラツイスト。
二人はスヌーカに的を絞ったか。谷津がブルドッキンクヘッドロック! ダウンしたスヌーカに必殺の監獄固め! しかしブロディがロープに飛んで思いきり顔面にダイナマイトキック! 谷津が吹っ飛んだ。
ブロディが行く。谷津にドロップキック! 谷津は場外にエスケープ。
谷津も負けていない。ブロディにバックドロップ! カウントはツー。谷津がラフファイト。恐れなくブロディの頭部にキック連打!
ブロディも谷津を持ち上げてブロディバスター! 変形のブレーンバスターだ。カウントツーで返す谷津。
ブロディが谷津をワンハンドゴリラスラムで叩きつけ、スーパーフライが飛んだ! スヌーカがトップロープに乗ってのスワンダイブ式フライングボディプレス!
スヌーカが行く。谷津をシュミット式バックブリーカー! さらにダイビングヘッドバットはよけられ自爆。
鶴田がスヌーカにジャンピングニーパット! コブラツイスト。しかしブロディがコーナーポスト最上段から全体重を浴びせたWチョップでカット!
ブロディが鶴田の顔面にダイナマイトキック! ワンハンドゴリラスラムで叩きつけておいて、再びコーナーへ歩く。危ない。助走をつけてフライングボディプレス!
スヌーカもついに出たクンフーチョップを鶴田に叩きつける。
再びブロディと鶴田。鶴田はフライングボディシザーズ! カウントツー。さらにサイドスープレックス! 鶴田が攻める。ブロディに延髄斬り! ブロディは倒れない。延髄斬り2連発!
勝負に出たか、鶴田がブロディにジャンピングニーパット・・・を交わしてブロディがロープに飛び、フライングボディアタック! そして猪木を失神させた必殺技、ジャンピングパイルドライバー! カウント2.9で返す鶴田。
ブロディがカウントスリーだとレフェリーのジョー樋口に抗議。背を向けているブロディのバックを取って世界を獲ったバックドロップ! カウントツー。
見応え十分の怪物同士の対決。
谷津も負けていられない。ブロディに果敢にダブルアームスープレックスは不完全。しかしカバーに入る。スヌーカがダイビングヘッドバットでカット! これはきつい谷津。
スヌーカが谷津を羽交い絞め。ブロディが助走をつけて谷津の顔面にダイナマイトキック! 勢いでスヌーカも一緒に倒れ後頭部を打つ。そのまま谷津が押さえ込みカウントスリー!
ブロディこれは大失敗だ。
ジャンボ鶴田はジャイアント馬場や天龍源一郎などパートナーを変えて5度目の優勝。谷津嘉章は初優勝だ。
五輪コンビでチャンピオンベルトも獲ったが、リーグ戦での優勝はひときわ嬉しい栄冠かもしれない。

タッグマッチを中心に紹介したが、谷津嘉章はもちろんタッグ屋ではなくシングルプレイヤー。
全日本プロレスでNWA世界ヘビー級チャンピオンのリック・フレアーや、インターナショナル王者のブルーザー・ブロディなど、大物外国人レスラーとシングルマッチで熱闘を繰り広げていた。
プロレス専門誌でブロディはインタビューに答え、谷津の才能を褒め、天龍と並んで谷津嘉章を自分のライバルの一人に挙げていた。
「あの脚では私には勝てない」と谷津が脚を負傷していたことを残念がっていた。それでもブロディに果敢に監獄固めを決めて追い込んだ。
最後はリングアウト負けしてしまったが、谷津嘉章は紛れもなく全日本プロレスでトップレスラーの道を走っていたのだ。
谷津嘉章VSゲイリー・グッドリッジ

谷津嘉章は全日本プロレスを離脱してからは、SWSに参戦したり、自らSPWFを旗揚げしたりと、プロレスラーとしての活動を続けた。
谷津に限らず、時代の波というものがある。新日本プロレスの興行は成功していたとはいえ、80年代のプロレス黄金期とは比べられない。
何しろ金曜夜8時は、裏番組に『太陽にほえろ!』や『3年B組金八先生』が放送されていても、新日本プロレス中継の『ワールドプロレスリング』は視聴率20%を弾き出していたのだ。プロ野球中継に視聴率で勝つことは別に珍しくない時代だった。
プロレス人気は決して下がっていないし、ファンの数も減っていない。団体が増えたのだ。
70、80年代は、国際プロレスが幕を閉じてからは新日本プロレスと全日本プロレスの2団体しかなかった。ある意味わかりやすかった。
そのうち多くのレスラーが自分の理想のプロレスを追い求めてUWFやパンクラスやFMWが旗揚げされ、どんどん新団体が設立され、あれよあれよと70団体になってしまった。
プロレス専門誌もさすがに全団体を紹介しきれないので、谷津嘉章も表舞台になかなか出ない状態が続いた。
だから2000年10月31日、PRIDE11に谷津嘉章が参戦するというニュースは専門誌でも大きく取り上げた。
アントニオ猪木のコメントも期待感を後押しする。「谷津は面白いと思うよ。だって強いもん」
現役プロレスラーでありながらアマレスの全日本選手権で優勝した男だ。もしかしたらやってくれるかもしれない。
相手は強豪ファイターのゲイリー・グッドリッジ。相手にとって不足なしだ。無名の強いのか弱いのかわからない選手に勝っても説得力に欠ける。グッドリッジのようなPRIDEの常連ファイターに勝ったら大騒ぎだろう。

しかし、いざ闘ってみたら、やはり相手が悪かった。オープンフィンガーグローブでの打撃は、プロレスの試合にはないので、やはりレスラーにとっては不利なルール。
もちろんそれを百も承知で挑戦するわけだが、剛腕のゲイリー・グッドリッジのアッパーカット連打が谷津の顎に何発も命中。倒れないのは、さすがプロレスラーだが、レフェリーが止めてしまった。
44歳の谷津嘉章。苦しい闘いだったが、評価は高かった。
谷津嘉章は2001年9月24日、PRIDE16でゲイリー・グッドリッジと再戦したが、グッドリッジのフロントチョークでタオル投入による敗北。勝負の世界は厳しい。
しかし谷津ガードと呼ばれる独特のガードは話題になったし、何発顔面や顎にパンチがヒットしても倒れないプロレスラーのタフさなど、見せ場があった。
人生にも格闘技にもタラレバはないが、もしもレスリングの全日本選手権で優勝した30歳頃だったら、違う結果もあったかもしれない。
谷津嘉章がDEEPのスーパーバイザー就任

2002年、長州力が理想のプロレスを追い求めて新日本プロレスを再び飛び出し、WJプロレスを旗揚げ。谷津嘉章も参戦したが、やはり長州力とは意見が合わず、2003年9月に退団。
全日本プロレスの輝かしい熱闘の歴史に比べると、その後は波乱万丈の人生といえる。
2010年11月30日にプロレスラーを引退。
谷津嘉章は、炭火ホルモン『壱鉄』を出し、商売を始めるが、店を閉めたあと再び格闘技の仕事に就く。
2015年に総合格闘技団体「DEEP」のスーパーアドバイザーに就任。
幻の金メダリスト・谷津嘉章なら、レスリングの指導は的確。そして新日本プロレス、全日本プロレスをはじめ、今までの経験で培ってきたものは、必ず後輩の指導に活かされることだろう。
PRIDEで総合格闘技の実戦経験をしていることも大きい。
谷津嘉章は第三の人生を邁進中だ。
