石井慧  運動オンチ少年がオーバーワークという暴挙で起こした奇跡。

石井慧 運動オンチ少年がオーバーワークという暴挙で起こした奇跡。

石井慧の幼少児から国士舘大学に入るまで。地球上で60億分の1の存在になる、人類で1番強い男になるための序章。


国士舘高校柔道部監督、岩淵公一は、
「練習しろ」
といったことは何万回もあったが
「練習するな」
といったのは初めてだったという。
一方、石井慧は
「オーバーワークという暴挙が奇跡を起こす」
と思っていた。
「オーバーワークは一流選手が使う言葉。
自分はまだそこまで達していなんで、これくらいやらないと。
柔道に限らず運動選手は質を高めることはしますけど、量を高めようとしないじゃないですか。
でも自分は量が質を凌駕すると思ってるんで。
ですから自分はどんなときでも何かしら体を動かすようにしています」

また石井慧は、お菓子やジャンクフードはまったく口にせず、プロテインをはじめとするサプリメント、卵の白身や納豆にハマるなど強くなるため、勝つための食事の研究と実践に余念がなかった。
例えばミキサーに
・生卵4個
・ハチミツ
・レモン果汁
・豆乳
・ピーナツバター
・牛乳
・バナナ1本
・オリーブオイル
・プロテイン
を入れた特製プロテインは
「オリーブオイルは良質なリンパ液を増やすので、ちょっとたらすだけで全然、違うんです」
という
健康意識も高く、あるとき父、義彦が電話が出ると、石井慧は困った様子で
「お父さん、今、人が吐いたタバコの煙吸ってしまった。
背が止まってしまう」
といった。

国士舘高校に入ることで実家暮らしから寮暮らしに変わった石井慧だが、部屋に小さな神棚を設置。
清風中学時代、大きな試合に勝ったとき、ご褒美は何がいいか聞かれ、曼荼羅と校長室に飾ってあった仏像をもらったが、それを飾った。
そして
「もっと大きな神棚が欲しい」
とグレードアップしたり、様々なものを設置して本格的になものにしていった。
そして
「神様を頼ってはいけない。
敬わないと意味がない」
といい、周りが理由を聞くと
「敬うというのは神様をご供養するという気持ち。
お疲れ様という気持ち」
と説明した。

乱取りになると必ず1番強い人とやる石井慧は、国士館大学に出稽古にいけば鈴木桂治に向かってダッシュ。
講道館の強化合宿にいけばキョロキョロ見回して、井上康生を見つけた途端にダッシュ。
そして目の前で
「お願いします」
と頭を下げた。
それは相手が試合前でもおかまいなしだったので
「ケガさせたらどうするんだ」
と周囲に止められることもあった。

しかし試合に出られなかった1年間は、精神的に不安定だった。
なにかあるとよく実家に電話をかけ、辛そうな息子に両親が
「帰っておいで」
というと
「そんなんできるわけないやろ」
と怒った。
あるとき国士舘高校の先輩である棚橋正典が、泣きながら携帯電話で親と話す石井慧を目撃。
奇妙だったのはもう片方の手にも携帯が握られていて、2台の携帯を持って話していたこと。
後で
「なんで2台持っていたの」
と聞くと、
「1台は電話しながら投げるためです」
と答えが返ってきた。
すぐにモノに当たってしまう石井慧は20台くらいの携帯を破壊してしまい、父、義彦に
「携帯に罪はないやろ」
と諭された。

癒しを求める石井慧は、
「犬を飼いたい」
とミニチュアダックスフンドを購入。
マラソン選手のアベベ選手から
「べべちゃん」
と名づけ、ペット禁止の寮で飼い始めたが、すぐにバレて、べべちゃんは大阪の実家に引き取られた。
試合前、レギュラー選手はコンディショニングのため練習を流して行ったり、乱取りの相手は投げられてやることもあり、指導者もそれを黙認していた。
しかし石井慧はまったく手を抜かず、ケンカ腰で乱取りをし、場外に出て壁にぶつかってもやめようとしなかった。
試合では観覧席で制服を着て応援したが、国士舘高校の同級生には全国大会で優勝する者もいた。
石井慧は不安で不安で仕方なく、かつそういった強い同級生や先輩に勝ちたくて仕方なかった。
「試合に出れず、置いてけぼりになったような気持ちになってチワワのようにビビッていました。
表向きは土佐犬のようにしてましたけど・・・」

2004年、公式試合出場停止処分が解けた高校2年生の1月、石井慧は全国高校柔道選手権に出場。
試合10日前、ハムストリングスの靭帯が切れかかっていることが判明したが、
「ケガは病気じゃない」
といって練習を継続。
それは
「病気のまま練習を続けると弱くなるがケガはそうではない」
という意味だったが、試合当日、個人戦は寝技を多用しながら勝ち進んだが、世田谷学園高校の選手に負け、
「もうダメです。
自分はダメだ」
といって大泣き。
試合後、寮に帰っても泣き続けた。
翌日、団体戦の決勝戦で世田谷学園高校と対戦。
国士舘は先方から中堅まで抜かれたが、副将の石井慧は、4人を抜いて、大将戦を引き分け。
代表戦となって、国士舘は石井慧が出て優勢勝ちし、優勝した。
春の選手権では、鬼気迫るような練習とトレーニングを繰り返し、試合3日前、
「俺は世界で1番強い」
といってはばからなかったが、2日前になると
「アカン、俺、負ける」
と弱気になり、試合前日は寮で部屋が近かった棚橋正典に
「先輩、寂しい。
一緒に寝て。
この部屋にいて励ましてください」
と頼んだ。

謹慎中は情緒不安定で、たとえ夜中であろうと頻繁に実家に電話をかけていた石井慧。
電話がない日、両親は
「よかった」
と胸をなでおろしていたが、試合に出られるようになった途端、電話がないどころか手紙を出してもなしのつぶてで、逆に心配になってきた。
たまにしか行けない東京で母、美智子は、寮の部屋を掃除しようとしたが、きれい好きの石井慧によって整理整頓されていてあまりやることはなかった。
冷蔵庫に食べ物を入れていると、冷凍庫で自分が送った手紙の束を発見。
「なんでこんなとこ入れてるの?」
と聞くと
「大事なモンは冷凍庫やろ」
といわれた。
また母、美智子はベッドの下からノートを発見。
表紙に「苦しいとき」と書いてあり、中には
「試合に出れない悔しさを思い出せ」
など悔しかった出来事、格言や思ったことがズラズラと書いてあった。
石井慧の、このノートへの書き込みはずっと続き、まだ強化選手になれず自費で全日本の合宿に参加したとき、選ばれた選手しか飲み物が配られず
「ポカリスエットをもらえなかった悔しさを忘れるな」
と書いた。
そんなセコい恨みつらみと共に、後に「石井節」と話題になる自由奔放な発言につながるようなことも書かれてあり、石井慧にとって初心を忘れず、自分を奮起させる原動力になると共に大事なネタ帳でもあった。
また父、義彦は、
「お父さん、やろう」
と高校2年生の息子にいわれ、久しぶりの乱取りを行い、投げられまくった。
初めて負けて、
「昨日ビール飲み過ぎた」
とごまかしたが、これが最後の乱取りとなった。

2004年、高校3年生になった石井慧は、インターハイ優勝、アジアジュニアと世界ジュニア選手権をオール1本勝ちで優勝。
そして講道館杯で前年チャンピオン、穴井降将と対戦。
穴井降将は、2歳上の天理高校2年生で、インター杯優勝、天理大学1年生で大学選手権優勝と成績でも1つ上回っていた。
試合開始から石井慧は自分の柔道をさせてもらえず、反則や技によってポイントを奪われた。
しかし終盤、豪快な大外刈りが炸裂させて逆転勝利。
同大会3人目の高校生チャンピオンとなった。
(翌年も連覇)
その後、全柔連の強化選手に選ばれた石井慧は、合宿で穴井降将と再会。
「こんにちは。
調子どうですか?」
と話しかけ
「お前に負けてから調子悪いわ」
といわれた。
以後、穴井降将は、空気を読まない憎めない石井慧を食事に連れていったり、いろいろアドバイをした。

2005年、石井慧は、国士舘大学に進学。
国士館大学柔道部には柔道の鬼がいた。
斉藤仁である。
1984年のロスオリンピック、1988年のソウルオリンピックと2連覇した後、1989年3月に現役を引退し、母校の国士舘大学で指導者になった。
体育学部の授業では
「筋肉は使わないと弱くなりますが、使いすぎるても弱くなります」
とまともに教えるが、柔道部では一切の妥協を許さず、あまりの怖さと厳しさに音を上げる柔道部員も多かった。
1992年、バルセロナオリンピックが終わった後、山下康裕が全日本代表の監督になると斉藤仁は重量級のコーチに就任。
ある国際大会で日本人選手が豪快な投げで1本勝ちした後、喜びのあまり、寝転んだままなかなか起き上がらなかった。
すると斉藤仁は
「何やってるんだ!
立て!」
と猛然と怒り、外国人に
「勝ってるのに?」
と不思議がられた。

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