「ベンチがアホやから野球がでけへん」とは
「ベンチがアホやから野球がでけへん」とは、江本孟紀が阪神タイガースの投手時代、1981年8月26日のヤクルトスワローズ戦で、ベンチの無策に怒りを爆発させ、ベンチ裏で発したとされる暴言のことです。この暴言が監督批判と受け取られ、翌日のスポーツ新聞で記事にされたことで、責任を感じた江本は突然の現役引退を表明しました。
以上のように喧伝されていますが、真相はどうだったのでしょうか。近年、江本は、元プロ野球選手のYouTubeチャンネルにあちこちゲスト出演し、事の真相を語っています。YouTuberの顔ぶれを見ると、高橋慶彦、中西清起、槙原寛己、デーブ大久保など。。。この中から、槙原寛己と中西清起のYouTubeチャンネルの動画が明瞭なので、この二つの動画をもとに真相を振り返ります。
ベンチから指示がない!
1981年、毎年恒例の死のロードを終え、甲子園に帰ってきたのが8月25日、ヤクルトとの3連戦でした。その2戦目(1981年8月26日)に江本が先発登板します。
江本は、この日絶好調で、7回まで1点に抑える好投。味方打線は4点を挙げ、7回を終わって4対1と勝利投手目前という状況でした。ところが、8回表も続投すると、連打で追加点を取られ、一転してピンチを迎えます。スコアリングポジションにランナーがいて8番打者を迎えたため、ベンチの指示を仰ごうとしますが、なんと中西太監督はベンチにいない!交代?勝負?敬遠?一切指示がなく、その違和感が後の暴言につながったと江本は語っています。
8番打者への対応がはっきりしないまま、江本はとりあえず一球外すことにします。しかし、これが外し切れず、打ち返されライト前にヒット。ライトを守っていた佐野は、敬遠だと思って腕を組んでいたようで、ボールを処理できず、その間にランナーが生還。ついに同点に追いつかれます。
その回はなんとか同点で切り抜けますが、憤懣やるかたない江本は、ベンチにはいられず、「先、帰りますわ!」と言って、ベンチ裏に出ていきます。そして、あの暴言へとつながっていくのです。
※動画で江本は「ランナー2塁1点差で8番打者にヒットを打たれ同点に追いつかれた」と話していますが、正確には、ランナー2-3塁2点差で、2点タイムリーを打たれ同点に追いつかれています。
以下は、中西のYouTubeチャンネルで聞ける江本の話です。
【真実】江本孟紀、電撃引退の裏話(エモやんコラボ④) - YouTube
ベンチ裏での暴言
ベンチ裏に出た江本は、ロッカールームに向かいますが、その途中に "暴れ部屋" なる通路があり、そこで怒りを爆発させたとのこと。
「何考えとるんやベンチは!」
「そんなもん野球できるか!」
すると、遠くの方に若手新聞記者が数名、聞き耳を立てており、江本の暴言はベンチ批判として翌日の新聞記事に書かれることになるのです。
蓄積した不満と怒り
江本によれば、この日の暴言は、この日のことだけでなく、前々から監督、首脳陣に対して不満と怒りが蓄積しており、それが爆発したものだったといいます。そして、電撃の引退も、暴言の責任を取ってというよりも、自身のやる気の低下が最大の理由だったとのこと。
たとえば、江本が不満や怒りを感じたエピソードには、以下のようなものがあります。
・ピッチャーが練習している場所で、バッティングコーチが特打を始めた。ピッチャーにボールが飛んでくる危険な状況で、とうとう誰かに当たってしまい、江本は監督にブチ切れた。
・ピッチングコーチが、キャンプの登板スケジュールを発表した際、江本の名前が出てこなかった。聞いたら、忘れていたと言われた。
・オープン戦の最中、江本は先発ともリリーフとも告げられなかったが、他投手の調子が悪く、開幕直前にいきなり先発と言われた。しかし、そのひと月後にリリーフと言われた。
・先発した試合で5回無失点に抑えるも、若いのを育てるから交代と告げられた。
このような嫌がらせを受け、たまりにたまったものがあったようです。詳細は、中西のYouTubeチャンネルで、江本が語っています。
電撃の引退
江本は、球団事務所に呼ばれ、球団代表と編成部長から新聞記事について指摘され、10日間の謹慎を言い渡されます。しかし、江本は「10日休むということは、次投げるのに一月かかる。それはやめろというのと一緒のこと。辞めていいのか?」と反駁します。球団側は「中西監督は今年いっぱいだから我慢してくれ」と説得を試みますが、江本は譲らず、引退が決定しました。
その後、江本には、関西からの仕事が一切来なくなり、阪神球団には完全に出入り禁止となったそうです。
以下は、中西のYouTubeチャンネルで聞ける江本の話です。
【真実】江本孟紀、電撃引退の裏話(エモやんコラボ④) - YouTube
引退後も活躍
以上が、YouTubeで江本本人が語る事の真相です。球団側の言い分も聞かないと不公平かもしれませんが、40年以上経ってもこうして江本本人から聞けるのは貴重です。当時は後味の悪い引退劇でしたが、その後の江本の活躍は、野球解説者、タレント、政治家、実業家、YouTuberと幅広く、今後の活躍も楽しみです。