江戸川乱歩
江戸川乱歩は映画化された作品が最も多い小説家のひとりでしょう。確認できただけでも2022年に公開された「人でなしの恋」まで実に48作品!「人でなしの恋」は1995年にも映画化されていますが、小説として発表されたのは1926年ですからねぇ。息が長い!あの独特な江戸川乱歩の世界観は今なお魅力があるという事でしょう。

江戸川乱歩
初の映画化は1927年の「一寸法師(志波西果監督会)」で、2本目は、1946年に短編小説「心理試験」をベースにした「パレットナイフの殺人(久松静児監督)」です。
1作目から随分と時間が経っているのは、その間、日本は帝国主義の真っ最中でドンパチやっていたのと無関係ではないでしょう。それは1945年まで続きます。つまり終戦の翌年に「パレットナイフの殺人」は製作されてるんです。人気のほどが伺えます。
その後は80年代を除き、江戸川乱歩作品は余り間をあけることなくコンスタントに映画化されています。
江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間
数ある江戸川乱歩の映画作品からいくつかご紹介しましょう。
先ず最初にご紹介したいのは1969年、石井輝男監督の「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」です。よくぞここまでやってくれた!いえ、むしろ、こりゃやっちまったな!と言ってもいいほどの快作です。
内容的には江戸川乱歩の代表作「パノラマ島奇談」「孤島の鬼」などをミックスし、怪奇・幻想・耽美に恐怖まで加えた得体のしれない作品に仕上がっています。
![監督:石井輝男
脚本:石井輝男、掛札昌裕
出演者:吉田輝雄、土方巽
音楽:鏑木創[1]
撮影:赤塚滋
編集:神田忠男
製作会社:東映京都
配給:東映
公開:1969年10月19日
上映時間:99分](/assets/loading-white-036a89e74d12e2370818d8c3c529c859a6fee8fc9cdb71ed2771bae412866e0b.png)
江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間
60年代には日本でも前衛芸術が注目され一部で熱狂的なファンを獲得していました。その前衛芸術の中のひとつに暗黒舞踏というものがあり、その代表的なグループである土方巽と暗黒舞踏塾が「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の中でめくるめく猟奇の世界を表現しているのですが、一言で言えば、異常。
もう何というか、他に言葉が見つかりません。。。
石井輝男監督といえば、高倉健主演で大ヒットした「網走番外地シリーズ」で知られる東映のヒットメーカーの一人です。
そのような監督が何故こんな作品を撮ったのかという思いも起きないではありません。が、石井輝男は2005年に亡くなられているのですが、最後の監督作品はやはり江戸川乱歩原作による2001年公開の「盲獣vs一寸法師」でした。
江戸川乱歩の陰獣
江戸川乱歩と仲の良かった横溝正史も称賛したと言う1977年の「江戸川乱歩の陰獣」。
監督の加藤泰は小津 安二郎と並ぶロー・アングルを駆使した作品で知られており、「江戸川乱歩の陰獣」でもその技を存分に楽しませてくれます。
が、しかし、そんな事より香山美子です。美しいです。もう香山美子を見るだけで価値のある作品ですよ。

江戸川乱歩の陰獣
因みに「江戸川乱歩の陰獣」はワイドスクリーン全盛の頃であったにも関わらず監督の希望によりスタンダードサイズで撮影されたのだそうですよ。
が、松竹が興行的に懸念して、上映の際には上下にマスクをつけて、無理矢理ビスタサイズにしたのだそうです。何という事でしょう!
もっともDVD化の際にはオリジナルのスタンダードサイズになっています。
どの時代にも映画化されている江戸川乱歩作品ですが、不思議と80年代には1本も映画化されていないようです。
もっとも1977年〜1985年までテレビドラマ「江戸川乱歩の美女シリーズ」というものが放送されていました。しかし、まぁ、なんですよ。この時代、華やかなバブル時代に江戸川乱歩の淫靡な世界は似合わんというのもあったかもしれませんね。
RAMPO
1994年6月に公開された「RAMPO」。これは作品そのものよりも公開されるまでのすったもんだで注目を集めました。
「映画生誕100年・江戸川乱歩生誕100周年・松竹創業100周年記念作品」と銘打って100年づくしで黛りんたろう監督によって製作されていたのですが、なんとビックリ!その出来栄えにプロデューサーの奥山和由がダメ出しをして撮りなおし自ら監督したのですよ。

RAMPO
それにしても、プロデューサーが口を出して自ら監督をするというのはあまり聞きませんよね。というか、前代未聞と言っていいでしょう。
しかも、黛りんたろう監督のオリジナルバージョンも同時に公開されたので大きな話題となりました。
ここまでくると前代未聞じゃ済まされない、なんですが、これはもしかすると話題作りだったのかもしれませんね。これもまたプロモーションなり、です。明智小五郎もさぞやビックリしたことでしょう。
D坂の殺人事件
小説「D坂の殺人事件」は名探偵・明智小五郎の初登場作品として知られています。最近では2015年に窪田将治監督が映画化していますし、以前にはテレビ化も漫画化もされている作品です。
が、やはり良いのは1998年、真田広之主演で実相寺昭雄監督が作り上げた「D坂の殺人事件」でしょう。
因みに「D坂」とは、東京都文京区の千駄木にある「団子坂」のことだと言われています。

D坂の殺人事件
明智小五郎を演じるのは嶋田久作。これがなかなか良いです!
内容はと言うと、「D坂の殺人事件」以外にも「心理試験」「屋根裏の散歩者」という江戸川乱歩の3作品を取り入れたオリジナルストーリーとなっています。
ポスター等のイメージビジュアルを担当したのは漫画家の丸尾末広。もうピッタリです!江戸川乱歩の妖しげな世界を描けるのは丸尾末広しか居ない!と言いきっても良いかと思います。
実際、丸尾末広は「パノラマ島綺譚」「芋虫」などの江戸川乱歩作品を漫画化していますしね。これがまた素晴らしいのですよ。
双生児 -GEMINI-
さて、今回最後にご紹介するのは塚本晋也です。
塚本晋也監と言えば映画「鉄男」「六月の蛇」「悪夢探偵」などで知られるカリスマ的な人気を誇る監督ですね。
その塚本晋也監督が1999年に江戸川乱歩の短編小説「双生児〜ある死刑囚が教誨師にうちあけた話〜」を映画化しています。

双生児 -GEMINI-
双生児 GEMINI | 塚本晋也 TSUKAMOTO SHINYA OFFICIAL WEBSITE
「双生児 -GEMINI-」は好き嫌いが分かれる映画と言えるかと思います。もっとも塚本晋也監督の作品は本作に限らずクセの強いものですし、そもそも江戸川乱歩自体が好みの分かれるものですからねぇ。
とは言え、とは言え「双生児 -GEMINI-」は素晴らしいです。それは、99年プサン国際映画祭観客賞、00年ヌシャテル映画祭グランプリ、00年シッチェス映画祭音楽賞、第14回高崎映画祭最優秀主演女優賞(りょう)を受賞していることが証明しております!
因みに俳優としても活躍している塚本晋也監督ですが、2001年に公開された江戸川乱歩の小説を原作とした石井輝男監督による「督盲獣vs一寸法師」にも 明智小五郎として出演しています。
江戸川乱歩の特異な世界は、どれもハマると抜け出せない魅力にあふれています。ぜひ一度覗いてみてください!