珍記録誕生の経緯
珍記録の試合があったのは、1974年9月29日、日本ハムファイターズと南海ホークスのダブルヘッダー2試合目です。この年、日本ハムはダントツの最下位。南海戦は消化試合で、この日の企画は、当時の三原脩球団社長が考えついたファンサービスでした。
この日の主役は、高橋博士選手。1人で全9ポジションの守備についた立役者です。プロ入りした際の球団は南海でしたが、1972年に日本ハム(当時の東映)に移籍しています。本業は捕手ですが、南海時代は、正捕手・野村克也がいたため、他ポジションも経験したとのこと。また、この年は、登録名を高橋博から高橋博士に変えた特別な年でもありました。
そしてもう一つの不思議が、投手交代。なんと1イニング1投手の継投で、最終回のみ2人投げて合計10人の投手が登板しました。その一人がもちろん、高橋博士選手です。
さて、どのような選手交代、守備の入れ替えが行われたのでしょうか?

ロッテ時代の高橋博士
1回
以下が先発オーダー。
張本、大杉、白仁天ら主砲がいない、消化試合らしいオーダーです。
この時、張本は首位打者が確定していました。
1: 中 島津
2: 右 千藤
3: 一 高橋
4: 捕 大沢
5: 左 岡持
6: 遊 相本
7: 三 八重沢
8: 投 鵜飼
9: 二 新屋
この中の3番・高橋が、全9ポジションを守ります。
まずは一塁手から。
1回表、鵜飼が南海打線に捕まり、門田のタイムリー、ロリッチのホームランでいきなり4点を奪われます。1回裏、日本ハムは無得点。意気込んだ企画とは裏腹に、波乱の幕開けです。
スコアは、日本ハム0-4南海。

門田博光
2回
まだ2回ですが、早速、選手交代や守備の入れ替えが行われます。
1: 中 島津
2: 右 千藤
3: 一 高橋 → 捕 高橋
4: 捕 大沢 → 一 大杉
5: 左 岡持
6: 遊 相本
7: 三 八重沢
8: 投 鵜飼 → 投 皆川
9: 二 新屋
高橋は一塁手から本業の捕手へ。捕手をしていた大沢がベンチに下がり、代わりに大杉が途中出場で一塁に入ります。投手も皆川に交代。皆川は第1試合からの連投です。
しかし、2回表、その皆川も打たれ追加点を奪われます。2回裏、日本ハムは無得点。
スコアは、日本ハム0-5南海。

大杉勝男
3回
3回、この試合最大の選手交代、守備の入れ替えが行われます。
1: 中 島津
2: 右 千藤
3: 捕 高橋 → 三 高橋
4: 一 大杉
5: 左 岡持
6: 遊 相本
7: 三 八重沢 → 二 八重沢
8: 投 皆川 → 捕 村井
9: 二 新屋 → 投 保坂 → 打 小山田
高橋は捕手から三塁手へ。三塁手をしていた八重沢は二塁へ。二塁手をしていた新屋がベンチに下がり、代わりに村井が捕手として途中出場します。投手は保坂に交代です。
3回表、ロリッチが保坂から2打席連続ホームラン。3回裏、日本ハムは、代打に小山田を送るも無得点に終わります。
スコアは、日本ハム0-6南海。
4回
4回は、ポジションのやりくりが大変です。
1: 中 島津
2: 右 千藤
3: 三 高橋 → 遊 高橋
4: 一 大杉
5: 左 岡持
6: 遊 相本 → 二 相本
7: 二 八重沢 → 三 八重沢
8: 捕 村井
9: 投 保坂 → 打 小山田 → 投 三浦
高橋は三塁手から遊撃手へ。遊撃手をしていた相本は二塁へ。二塁手をしていた八重沢は、再び三塁に戻ります。投手は三浦に交代です。
4回表、その三浦も打たれ、これで4イニング連続失点。4回裏、日本ハムは無得点に終わります。
スコアは、日本ハム0-7南海。
5回
5回は、二遊間の守備の入れ替えと投手交代のみ。
1: 中 島津
2: 右 千藤
3: 遊 高橋 → 二 高橋
4: 一 大杉
5: 左 岡持
6: 二 相本 → 遊 相本
7: 三 八重沢
8: 捕 村井
9: 投 三浦 → 投 野村 → 打 吉田
高橋は遊撃手から二塁手へ。二塁手をしていた相本は遊撃手に戻ります。投手は野村に交代です。
5回表、この試合初めて、野村が無失点に抑えます。しかし、5回裏も、日本ハムは代打に吉田を送るも無得点。
スコアは、日本ハム0-7南海のままです。

コーチ時代の野村収
6回
6回以降は、さらにポジション調整の見せ所です。
1: 中 島津
2: 右 千藤 → 二 中原
3: 二 高橋 → 左 高橋
4: 一 大杉
5: 左 岡持 → 右 岡持
6: 遊 相本
7: 三 八重沢
8: 捕 村井
9: 投 野村 → 打 吉田 → 投 宇田
投手以外の内野を守り切った高橋は、二塁手から外野・左翼手へ。左翼手をしていた岡持は右翼手に移りますが、右翼手だった千藤はベンチに下がり、二塁手として中原が途中出場します。投手は宇田に交代です。
6回表、宇田も無失点に抑えますが、6回裏も日本ハムは無得点。
スコアは、日本ハム0-7南海のままです。
7回
7回は、外野の入れ替えと投手交代のみ。
1: 中 島津 → 左 島津
2: 二 中原 →
3: 左 高橋 → 中 高橋
4: 一 大杉
5: 右 岡持
6: 遊 相本
7: 三 八重沢
8: 捕 村井
9: 投 宇田 → 投 森中
高橋は左翼手から中堅手へ。中堅手だった島津が左翼手に移ります。投手は森中へ交代。森中は第1試合からの連投です。
7回表、森中も無失点に抑えますが、7回裏も日本ハムは無得点。
スコアは、日本ハム0-7南海のままです。
8回
8回は、外野の総入れ替えです。
1: 左 島津 → 中 島津
2: 二 中原
3: 中 高橋 → 右 高橋
4: 一 大杉
5: 右 岡持 → 左 岡持
6: 遊 相本
7: 三 八重沢
8: 捕 村井
9: 投 森中 → 投 江田 → 打 末永
高橋が中堅手から外野最後のポジション・右翼手へ。島津も岡持も、元の守備位置に戻ります。投手は江田へ交代。江田も第1試合からの連投です。
5回以降は投手陣が頑張り、江田も無失点に抑えます。打線は相変わらずで、8回裏も日本ハムは無得点。
スコアは、日本ハム0-7南海のままです。
9回
9回は、いよいよ総仕上げ。高橋の9ポジション制覇と、投手10人の継投です。
1: 中 島津
2: 二 中原
3: 右 高橋 → 投 高橋 → 投 渡辺
4: 一 大杉
5: 左 岡持
6: 遊 相本 → 打 加藤
7: 三 八重沢
8: 捕 村井
9: 投 江田 → 打 末永 → 右 大室
高橋は、最後の守備位置・投手として、マウンドに登ります。高橋にとっては、生涯唯一の登板です。打者は、狙ったかのように、ちょうど投手の野崎。高橋は、野崎を抑えると、すぐさま10人目の投手・渡辺に交代します。9ポジション達成と同時に、ベンチに下がりました。右翼手は大室が途中出場で入り、見事入れ替え成功です。
しかし、試合は惨敗。日本ハム0-7南海のまま、完封負けを喫します。南海・野崎に、この年唯一の勝利を4安打完封で献上。派手なファンサービスとは裏腹に、あまり盛り上がらない結果に終わってしまいました。

広島時代の渡辺秀武
結局、1回から9回まで守備についたのは、高橋以外では、島津、岡持、相本、八重沢の4選手。彼らは、自分のポジションを高橋に譲るために、一旦他のポジションに移り、再び元のポジションに戻っています。また、二塁手に至っては、新屋、八重沢、相本、高橋、中原の5選手が交代で守りました。
全ポジションでの出場は、後にオリックスの五十嵐章人が達成していますが、それを1試合で達成したのは、2022年現在、高橋博士だけです。

独立リーグ監督時代の五十嵐章人