猿岩石 1996年4月13日香港出発    6日目 中国突入

猿岩石 1996年4月13日香港出発 6日目 中国突入

アジアは、香港、中国、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマー、インド、ネパール、パキスタン、イラン、トルコ。ヨーロッパは、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、オーストリア、ドイツ、フランス、イギリス。野宿、絶食当たり前、あるときは山を登り、あるときは川を渡り、あるときは砂漠をこえる「香港-ロンドン ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」旅。


こうして有吉と森脇は、ベトナムで人生初の無一文と断食を体験したわけだが、心の中では、
「所詮はTV企画」
「最悪、スタッフが助けてくれる」
と思っていた。
しかし同行スタッフが、飲まず食わずの自分たちの前で、缶コーラをおいしそうに飲んで、余りを捨てるのをみて考えを改めた。
旅の間、同行スタッフは、2人がどんなに貧乏になって飢餓状態になっても肉やメシをバンバン食べ、酒を飲み、余ると足で踏んで食べられないようにした。
2人は同行スタッフを
「悪魔の大王」
と呼んだ。

同行スタッフがペットボトルの水を飲みながら
「あんまり水(水道水)は飲むなよ」
とアドバイスすると、有吉は、
「じゃあ、くれよ。
それっ」
「ダメ。
買えよ、自分で」
「金ねぇんだよ!」
結局、有吉と森脇は、香港からロンドンまで水問題、つまり下痢に苦しみ続けた。
特に胃腸が弱い有吉は、頻繁に腹を壊した。
「水って結構大変だなって思って。
ヒッチハイクで海外に190日いたけど、100日以上下痢。
水飲んでないのに何でお腹を壊すんだよっていったら、(現地の水で)サラダを洗っているでしょ。
それだけで壊す。
その国の水が汚いとかじゃなくて、合わないんだよね、体に」

旅の間、基本的に野宿生活の2人は、自然と「野グソ慣れ」した。
出した後は手で拭くことが多いが、森脇が左手で拭いて右手で食べるようにしたのに比べ、有吉は右手で拭いて右手で食べた。
ありとあらゆる場所でできるようになった2人だが、それでもお腹が弱い有吉は、よく下痢になり
「寝てる間も起きてる間も」
漏らすことがあり、やがて「野グソ慣れ」に続き「漏らし慣れ」もしてしまい、
「ウンコがでるだけマシ」
と屁でもなくなった。
またタバコが大好きな有吉は、旅の道中、密かに「しけもく」を集め、大切に隠し持ち、そして夜、同行スタッフがいなくなると速攻で吸った。
「ゴールする前までしけもくをパンパンに持っていたから。
あの旅でタバコやめないってなかなか根性ある」
(有吉)

一方、同行スタッフも、ある意味、猿岩石よりも苦労していた。
3人で旅をしていて、もし襲わるなら、いかにもお金がない猿岩石より、ちゃんとした身なりをしてカメラを持っている自分。
ヒッチハイクで新しい車に乗る度に緊張し、走行中も、ちゃんと目的地に向かっているかなど常に警戒。
夜は、電気がとれる場所に泊まって充電。
そしてその日撮った数時間の映像から、必要な部分を抜き出す編集作業。
編集したテープは、どこからでも送れるわけではなく、ある程度、貯めて大きな街から発送。
日本に着くのには数日かかり、さらにそこから編集して収録して放送されると 7~10日間くらいのタイムラグがあった。

「進め!電波少年」の放送時間は、日曜 22時30分 ~22時55分。
毎週、25分の間に数本のVTRが放送され、「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」は、その中の1コーナーとして

5月24日、30日      
6月3日、6日、14日、24日、30日
7月3日、18日、19日、25日、31日
8月5日、7日、9日、15日、19日、22日、29日      
9月2日、10日、17日、25日  
10月1日、11日、18日  

と26回、放送されたが、最初の頃は、3~4分。
それが人気が出てくると10分、15分と増えていき、名物コーナー化。
さらにヒットすると丸々25分放送されることになった。

ハノイ4日目の朝、数日ぶりにまともに立ち上がった2人は、ラオス領事館へいってビザを取得。
「ありがとう」
「やった」
すぐに地図を広げ、次のヒッチハイクの目的地を検討。
結果、ベトナムからラオスに入国する旅行者用の検問所がある、はるか南の街、ドンハを目指すことにした。
「初めてだったんですよ、絶食するの。
日本でダラダラした生送ってたんで、かなりキツかったですね」
そういう森脇は、暑さと空腹でフラフラになりながら
「DONGHA」
と書いた紙を掲げてヒッチハイク開始。
しかし通るのは乗用車やバイクで長距離トラックがいない。
トラックを求め、あてもなくさまよっていると何かの市場なのか、何十台もトラックが集まっている場所を発見。
「おお、トラック、たくさんいるよ」
「これ、チャンスだぞ。
「これ、全部に当たっていけば・・・」
2人は中に入り、
「誰か、ドンハいく人いませんか?」
「ドンハ」
と聞いて回った。
やっとトラックの運転席から
『いいよ』
といってくれる運転手を発見。
ちょうどそのとき腕に赤い腕章を巻いた男がやってきて
「ここは政府機関だから外に出て」
といわれ、カメラを叩き落された。
それでもなんとか粘って運転手と交渉を続け、ギリギリでヒッチハイク成功。
「あー、よかったあ」
有吉は泣きながらトラックの荷台に上がり、森脇も
「うれしいよ」
と泣いた。

地獄のハノイを脱出して2時間後、疲れ切った2人は狭い荷台で眠りこけた。
23時、トラックがドライブインに立ち寄り、ドライバーにオゴってもらい、4日ぶりの食事。
「ベトナムのハノイで3日間絶食。
これが初めての絶食で、あれを救ってくれた運転手にオゴっていただいて・・・
あの普通のほうれん草のおひたしみたいなやつと、あと卵焼きとご飯と水ですか。
あれが忘れられないですね、もう。
おいしかった。
そら何つうのかな、今食べるとどうかわかんないよ。
でも嬉しかったのよすっごい」
(森脇)
「泣いて食べてたもんね」
(有吉)
翌朝、ハノイを出てから13時間たったが、先はまだまだ長いらしく、強い日差しを受けながら眠る2人をみて、ドライバーはトラックを停めて、荷台にビニールシートを張ってくれた。
猿岩石は、ビニールシートの屋根とドライバーの優しさと守られながら、再び眠りについた。
昼12時、700㎞を20時間かかって移動し、ついに国境手前の街、ドンハに到着。
親切にしてもらったドライバーにお礼をいって握手してお別れした。
ちなみに有吉は、このヒッチハイク旅で
「人間、食べないでいられる限界は3日」
「野宿は慣れて全然大丈夫になるが、腹減るのはツラい。
1番ツラい」
ということを学んだという。

1日目 断食している自分に酔う
2日目 まだ「メシ食いてえ」と叫べる
3日目 腹が減りすぎて死にそうになる
4日目 狂気で目が血走り、食い逃げや人を襲って食べ物を奪うことも考えるが体は動かない

といい、3日目まではなんとかなるが4日目からは頭に食べ物のことばかり浮かんで胃散が出てお腹が痛くなる「空腹地獄」が続くという。

こうして24日目、5月6日、トラックに20時間揺られ、ハノイから約700kmのドンハに到着した2人は、
「お前汚ねーよ」
(有吉)
「お前もだよ」
(森脇)
と互いに相手の汚れた服や体を笑いながら歩ていると川に遭遇。
「これ、体、洗うには十分だな」
と濁っている川に入って10日ぶりの入浴。
「気持ちイイッ」
川の中から眺める夕日は最高で、そのまま川にかかる橋の下で野宿した。

25日目、起きて橋の上に出るとそこはマーケットだった。
目の前にたくさん食べ物があるのに無一文で
「腹減ったよ」
と嘆く有吉。
「金があったらなあ」
森脇はそういった後、ダルそうに歩く有吉のリュックをみて閃いた。
リュックに丸めてはさんであった、野宿のときにかけ布団代わりにしていた赤と白の2枚のジャケットを引っ張って
「売れよ、コレ!
けっこういいモンにみえるんじゃないの」
「やってみるだけやってみようか」
「当たってみよう」
そしてマーケットで服を売っていた女性に
「お姉さん、どう?みて」
といって赤いジャケットを渡した。
愛想のいい女性は
『オオッ』
と喜んで自分で着てみたが、すぐに
『オムツのようなニオイがする』
と笑いながら脱いだ。
そして有吉が
「これもつけよう」
と白いジャケットを示すと
『そっちは、もっと臭そうだわ』
といって笑った。
そして女性が示した買取価格は、5(US)ドルだった。

「ちょっと待ってください」
有吉はそういって他店と交渉することに。
2店目は、ジャケットに触れもせずに
『NO』
3店目の女性店員が赤いジャケットを羽織ると
「オオ、ビューティフル」
「ホント、キレイ」
とヨイショし、
『7ドル』
4店目、同じように女性店員がジャケットを着ると、有吉は
「アララ、似合うわ」
森脇は
「キレイ、カシャカシャカシャ」
とカメラで撮るジェスチャーし
『10ドル』
5店目の女性店員はジャケットを広げ、タグや縫い方など隅々までチェック。
2人は
「専門家みたい」
「見るねえ」
とヨイショ。
すると女性店員は
『日本製ね』
といって紙に数字を書いた。
「3万ドン?
3ドルくらい?
ダメだな」
有吉がいうと同行スタッフが
『3万ドン?
30万ドンじゃない?』
2人の目は紙に吸い込まれた。
「あ、30万ドンだ」
「あ、ホンマや」
なんと30万ドン=30ドル。
「いいの?」
「OK?」
『OK』
お金をもらうと2人は
「たしかにいただきました。
ありがとうございました」
と日本人らしく丁寧にお辞儀。
マーケットの外に出ると、
「やった」
「すごいぞ」
と喜んで走り出し、少し離れた場所でお金を確認。
「ギャハハハハ」
「札束だよ。
あれ、2つでいくらだったの?」
「1つはもらったのね。
で、赤いのは2千円で買ったの」

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