佐山聡が虎のマスクを脱ぐまで

佐山聡が虎のマスクを脱ぐまで

1981年4月23日、突然、リングに現れたタイガーマスクは、2年4カ月後、突然、消えた。


8月12日、二子玉川駅近くの富士観光館で大塚博美(新日本プロレス副社長)、望月和治(新日本プロレス常務取締役)、山本小鉄、佐山聡が会合。
佐山聡は頭を下げて、虎のマスクと保持していた2つのチャンピオンベルトを返した。
大塚博美(副社長)、望月和治(常務取締役)は、テレビ朝日からの出向社員で、会社に佐山聡の主張を伝え、新日本プロレスの組織改革の必要性を訴えた。

8月13日、タイガーマスクがカナダでタイトルマッチを行い、日本でも中継される予定だったが、佐山聡がいないため、猪木の付き人として同行していた高田延彦が急遽、代役を務めることになった
21歳の高田延彦は、このTVデビュー戦をレッグロールクラッチで勝利。
古館一郎に
「青春のエスペランサ(ポルトガル語で「希望」)」
と呼ばれた。
週刊プロレスは
「タイガーマスクが消える?」
という見出しで、マスクを脱いだ佐山聡の後ろ姿とインタビュー記事を掲載。
肝心なことには
「答えられない」
というばかりの内容だったがバカ売れした。

8月18日、テレビ朝日「欽ちゃんのどこまでやるの!?」にタイガーマスクが出演し、マスクを脱いでテレビで素顔をさらした。
衝撃的なデビューから始まったタイガーマスク・ブームは2年4カ月で幕を閉じた。
結婚問題や経理問題、クーデター事件に嫌気がさしたこと、格闘技への情熱が理由と思われるが、一般的には謎だらけの衝撃的な引退で、それは「猪木舌出し失神KO負け事件」の比ではなかった。
8月21日、アントニオ猪木が帰国。
成田空港には1人の社員が出迎えにいき、大塚直樹ら数人の辞職願を渡した。
猪木は山本小鉄に連絡。
「佐山聡と会いたい」
と伝えた。
この時点で猪木は山本小鉄が新団体設立に動いていることを知らなかった。
1983年8月22日、猪木は自身が経営する六本木のレストラン「アントンリブ」で佐山聡と食事。
新日本プロレスに戻るように説得したが、佐山の決意は固かった。

8月24日、新間寿が帰国。
19時、アントニオ猪木は赤坂プリンスホテルでパーティーに出席。
同時刻、同ホテルの一室に山本小鉄、藤波辰巳、長州力らレスラーと社員、18名が集っていた。
これは偶然のバッティングだったが、彼らはアントニオ猪木、坂口征二、新間寿の退陣を迫り、それがなされない場合、一緒に離脱し、新しいスポンサーを見つけて新団体をつくることを誓い、「団結誓約書」に署名した。
佐山聡、前田日明も連絡をもらっていたが会合に参加しなかった。
8月25日15時、東京、南青山の新日本プロレス事務所で緊急役員会が開かれ、アントニオ猪木は代表取締役社長を解任された。
8月26日、坂口征二も副社長を退いた。
「忘れもしない1983年8月24日、まさに寝耳に水だった。
今も耳にこびりつき夢にまで出てくるアントニオ猪木の声。
『新間、もうダメだ。
俺が両手をついて頼むから新日本プロレスを辞めてくれ』
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
何とも弱々しい猪木の声。
これが世界最強の男の吐く言葉か。
『な、何で、社長・・・・・・』
すぐには信じられなかった。
何が起こっているのかすらも理解できなかった。
が、猪木の声を聞いてるうちにプロレスの情熱がスーッと抜けていった」
(新間寿)


1983年8月29日、新日本プロレスは、望月和治、大塚博美、山本小鉄の3名を代表取締役とする新体制を発足。
こうしてクーデター側の勝利に終わったにみえたが、それは
「猪木がいなくてもプロレスを続けられるのか?
猪木が新日プロを辞めたらウチ(テレビ朝日)は放送を打ち切るよ」
というテレビ朝日の重役の一言で終わった。
11月1日、新日本プロレス事務所で臨時株主総会が開かれ、猪木が代表取締役社長に、坂口が取締役副社長に復帰。
望月和治はテレビ朝日に戻され、大塚博美と山本小鉄は取締役に降格。
新間寿と大塚直樹は新日本プロレスを辞めた。
大塚直樹は、株式会社新日本プロレス興行を設立。
これが長州力らの大量離脱へとつながっていく。

一連の動きをみながら佐山聡は
「小さな道場をもって自分だけで理想を追求していこう」
と思っていた。
しかし
「一連のクーデーターを主導したのは佐山」
という報道が起こると、アントニオ猪木だけには誤解されるが嫌だったので直接会って説明するために猪木のマンションを訪問した。
そして
「なぜプロレスをおろそかにしたんですか」
と控えめながらも、そもそもの原因は猪木にあるといった。
横にいた倍賞美津子が泣き出し、猪木は
「わかった」
そして
「帰ってこい」
といった。
「猪木さん、昔、僕を新日本プロレスの格闘技第1号の選手にするっておっしゃいましたよね。
メキシコでもイギリスでも、タイガーマスクとして帰ってきてからも、その言葉を忘れたことはなかった。
今、僕はそれをやりたいんです」
猪木は腕組みをしたまま何もいわなかったが、誤解が解くことができた佐山はスッキリした気持ちで帰ることができた。

佐山聡は礼儀として自分を新日本プロレスに入れてくれた新間寿とも会った。
しかし
「新日本の腐敗の元凶は新間」
「自分を退社に追い込んだのは佐山」
と憎しみ合う2人は、京王プラザホテルで会うなり最初からケンカ腰。
険悪なムードに中、23時から7時間、話しているうちに、
「何っ?」
「えっ」
と驚き合い、たくさんの誤解があることに気づいた。
アントニオ猪木が辛夷本プロレスの社長に返り咲いて、3ヵ月後、1984年2月11日、東京、世田谷のスポーツジクラブの中で「タイガージム」がオープン。
佐山聡は、長年の夢、理想の格闘技実現のための第1歩を踏み出した。
一方、新間寿は、自分の団体をつくることを決意。
新日本プロレスからアントニオ猪木や長州力を引き抜き、自分を追い出した人間を見返してやろうと目論み、その復讐にための団体を
「UWF(ユニバーサル・レスリング連盟)」
と名付けた。

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