斉藤仁  エベレストを楽々と踏破しながら、ついに富士山に登ることはできなかった男。 無敵のロス、地獄のソウル、オリンピック2連覇。

斉藤仁 エベレストを楽々と踏破しながら、ついに富士山に登ることはできなかった男。 無敵のロス、地獄のソウル、オリンピック2連覇。

まるで北斗の拳だ。天は2人の天才を同時代に送り出し、まるでラオウとトキのように、斉藤仁は山下泰裕を超えることに人生をかけた。


上村春樹監督は、ソウルオリンピックの95kg超級の日本代表に斉藤仁を選んだ。
このオリンピックから無差別級が廃止され、95kg超級が最重量級となっていたので、斉藤仁は最強のクラスを任されたことになる。
しかし斉藤仁を日本代表にすることに疑問視する声もあった。
肘と膝に爆弾を抱え、全日本選手権と全日本選抜体重別で優勝したときも全盛期のような技は出ていなかった。
斉藤仁も代表になった後、他のメンバーと同じメニューが全然こなせず、
「俺はオリンピックに出ていいのかな?」
「辞退したほうがいいんじゃないか?」
と悩んだことがあった。
そんなとき(当時はまだJOCがなかったので)日本体育協会から
「日本選手団全体のキャプテンをお願いしたい」
という依頼が来たため、腹をくくった。
「やるしかない」

ソウルオリンピックで、日本男子柔道は、

60kg級 細川伸二 銅
65kg級 山本洋祐 銅
71kg級 メダルなし
78kg級 メダルなし
86kg級 大迫明伸 銅
95kg級 メダルなし

と6日を終わって銅メダル3個。
そして1988年10月1日、最終日、95kg超級の斉藤仁が登場。
日本はここまでは銅メダル3個のみ。
1964年の東京オリンピック以来、続く金メダル獲得に黄色信号。
「俺がそんなに気張んなくても、その前に2つか3つは金メダルを獲っているだろうと。
それが、あれ?あれ?って。
あれよ、あれよで(金メダル0の状態で)来ちゃいましたからね」
斉藤仁は膝の状態は悪く、
「明日持てよ、頼むぞ」
という気持ちだけ緊張や不安、プレッシャーを感じる余裕もなかった。
吉村和郎に
「斎藤、お前が勝つためだったらなんでもしてやる。
なんでもいえ」
といわれ
「先生、試合の朝、炭水化物をいっぱい摂りたいんで、スパゲッティを作ってもらえますか」
と頼んだ。
吉村和郎は買い物に出た。
しかし韓国にスパゲッティはなく、南大門市場からロッテデパート、そこら中を探したが見つからず、結局、細いうどんをパスタの代わりにした。

異様な重圧の中、斉藤仁は1回戦、2回戦、準々決勝と寝技による1本勝ち。
準決勝で反則技で地獄に落とされた因縁の相手、趙容徹と対戦。
2人が畳に上がると、さすが地元、会場は嵐のような趙容徹コール。
「趙への声援がすごいですね」
試合を実況していたTVアナウンサーがいうと、解説者だった山下泰裕は、
「そうですか、私にはサイトウ、サイトウと聞こえますけど」
とサラリと答えた。
そして試合は、完全に斉藤仁ペース。
途中、斉藤仁の圧力に趙容徹は下がりながら場外間際で技をかけて倒れるようになる。
斉藤仁が追い趙容徹が掛け逃げ。
鬼ごっこのような展開が繰り返され、斉藤仁も
「やってられない」
と両手でアピール。
試合残り20秒、消極的な趙容徹に主審は
「指導」
さらに残り10秒、不用意に場外に出た趙容徹に
「注意」
を与えた。
その後、趙容徹は戦意を喪失し構えもせずに棒立ち。
「趙は、もう試合をしない!」
TVアナウンサーが絶叫。
地元の大歓声を受けながら趙容徹は、斉藤仁に手も足も出ず、最後はほぼ試合放棄という異様な展開で試合は終わった。
決勝戦で斉藤仁はヘンリー・ストール(東ドイツ)と対戦。
右足を引きづりながらも前に前にひたすら攻め続け、根負けしたヘンリー・ストールに「指導」が与えられ、判定勝ち。
男子柔道、唯一の金メダリストとなって日本の威信を守り、男子柔道史上初のオリンピック2連覇を達成。
オリンピックの金メダルの数で山下泰裕に勝った。

「選手時代の後半はケガが多かったけど、それは神様が『お前はまだまだチャンピオンになる器じゃないんだ』と『もう少し、人間的にしっかりしなさい』と。
『チャンピオンになるためには、チャンピオンになれる権利のある心を身につけなければダメなんだよ』ということを神様に教えてもらったのかなと。
肘をケガして、それでも気がつかない自分がいて、今度は膝をケガした。
ケガをしたことで感謝という気持ちを教えてもらった。
そう思うんですよね」

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