オリンピックの歴史
古代ギリシアで行われていた「オリンピア祭典競技」。古代オリンピックの競技は男性だけで行われ女子禁制だった。
1896年に開催された第一回アテネオリンピックも、男子9競技が行われ女子は参加していない。1900年第2回パリ大会から女性も参加、997人のうち女子は僅か22人だけだった。

100年以上の時を経て女性が参加できる種目は増えていったが、試合は男女別競技で実施されている。
オリンピック大会における性別疑惑
1936年のベルリンオリンピック大会で初めて性別に関する疑惑が発生した。
アメリカの陸上選手ヘレン・ステフェンス(1918年2月3日-1994年1月17日)が出した100 メートル 11 秒 5 という記録が早すぎると2位のポーランド選手が異議を唱えた。彼女の要求で視認による女性性確認テストが行われたのだ。そして検査の結果ステフェンスは女性と判断された。

ヘレン・スティーヴンス
File:Helen Stephens 1936.jpg - Wikimedia Commons
この時に異議を申し立てたポーランドの選手スタニスラワ・ワラシェビッチ(1911年4月3日- 1980年12月4日)は、オリンピック大会から約半世紀を経た1980年に強盗に襲われ殺されている。そして検死の際に両性具有者であることが判明した。外見は女性であるが、体には睾丸があったのだ。

スタニスラワ・ワラシェビッチ
File:Stanisława Walasiewicz na fotografii portretowej.jpg - Wikimedia Commons
1992年まで国際陸連は両性具有者が女性の競技に出場することを認めていなかった。
ワラシェビッチが残した記録を抹消するか否かという議論が発生した。
しかし、国際オリンピック委員会と国際陸連はとも記録は抹消しなかった。
現在までワラシェビッチの残した記録は残っている。
ナチスにより強制参加させられたドラ・ラチエン
ドラ・ラチエン(1918年11月20日 – 2008年4月22日)は、ドイツの陸上競技選手である。
1936年ベルリンオリンピックでドイツ代表として男性でありながら女性選手として登録、女子走高跳に出場し、4位に入賞した。しかし、ラチエンは後に男性であることが発覚。後日このメダルは剥奪された。

ドラ・ラチエン
File:Bundesarchiv Bild 183-C10379, Hermann Ratjen alias "Dora Ratjen".jpg - Wikimedia Commons
ドラ・ラチエンはナチス・ドイツ当局の強制によって女装して競技させたれていた。身体的には彼の生殖器には瘢痕創傷があり女性と性的交渉は不可能と思われた。出生時に陰茎と陰嚢が中間部で分割しているようだったという。
女性の性別確認ホルモン検査
1968年から国際オリンピック委員会(IOC)では、試合にのぞむにあたり、女性のみを対象に性別確認検査が導入された。当時の検査方法は、女性選手は「医師団の前を全裸で歩くよう求められた」これは、男性が女性を装い競技で優位に立つこと阻止することが目的だった。
検査の基準は、1968年メキシコシティーオリンピックから染色体検査が開始された。目的は男性の女性偽装を見分けることだった。1996年アトランタオリンピックが最後に染色体検査は停止された。2009年にテストステロン検査が導入され男性ホルモンのテストステロン値で女子種目に参加できる女性の「身体」の範囲を限定した。
しかし、人間の体ははさまざまで、生まれつきテストステロン値の高い女性選手が競技から排除される事態もおこった。
男性ホルモン値で法定闘争に発展したケース
オリンピック女子800mの金メダリスト、キャスター・セメンヤ(1991年1月7日 - )選手の場合、男性のような外見と筋肉質な体格、低い声から男性疑惑もあった。しかし診断では両性具有と診断された。
検査の結果、子宮と卵巣が無く体内に精巣が備わっていた。アンドロゲン過剰症という性分化疾患がみつかり通常の女性の3倍以上の男性ホルモン(テストステロン)が分泌していることが判明した。
国際陸上競技連盟(IAAF)は「テストステロン値が高い女性の出場資格を制限する」という内容の新規定を2018年11月から導入すると発表。男性ホルモンが多いセメンヤ選手の世界陸上への出場が停止された。

キャスター・セメンヤ
File:20090819 Caster Semenya cropped.jpg - Wikimedia Commons
セメンヤが大会に出場するには、薬を服用してテストステロン値を下げる必要がある。
ただし、セメンヤは薬を服用せず、撤回を求め、欧州人権裁判所に提訴している。
スポーツ仲裁裁判所は2019年5月1日に「テストステロン値が高い女性の出場資格を制限する」(400メートルから1マイルの各種目への参加は不可)という国際陸上競技連盟の新規定を容認、セメンヤの訴えを棄却した。セメンヤが大会に出場するには、テストステロン値を下げる薬の服用が必要とされる。ただし、セメンヤは薬を服用せず、撤回を求め、欧州人権裁判所に提訴する意向を表明している。
「男」「女」の性別確認の結果健康な女性選手に投薬によりテストステロンの数値を下げさせるという問題が生じている。
セメンヤ選手の法廷闘争は、これまでスポーツ仲裁裁判所(CAS)とスイスの連邦最高裁で敗訴している。競技種目を200メートルに転向、有力選手として東京五輪に出場する意向を示している。
性別を変えた場合の性別適合について
女性として生まれた選手が男子競技・種目に出ることに条件はない。
男性として生まれた選手が女子競技・種目に出る場合は、性別変更宣言して4年間変更せず、血中の男性ホルモンであるテストステロンの値が12カ月間一定レベルを下回っていることを証明しなければならない。
つまり筋肉量に影響がある男性ホルモンの「テストステロン」の値を薬によって事前に抑制しなければならないのだ。
日本国内では、性別変更のルールはない。日本スポーツ協会は内部規則で性別適合手術をうけ戸籍変更することを要求している。
2015年IOCは性別変更についてのガイドラインを変更、性別適合手術(性転換)を条件から外した。性別変更をした選手は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックから初めてトランスジェンダーの選手の五輪出場が認められる。
五輪競技の中で、男女で競う混合種目はあるのか
五輪競技の中で、唯一男女の区別がない競技は馬術のみ。
1996年アトランタ五輪からバドミントンの混合ダブルスを採用した。
2012年ロンドン五輪からテニスも混合ダブルスを採用した。
2016年リオ五輪ではセーリング混合種目が初めて実施した。
2020年東京五輪では、柔道の団体、射撃、アーチェリーの混合種目、卓球のダブルス。競泳の400メートルメドレーリレー、陸上の1600メートルリレーで男女混合種目が初めて採用される。