アメリカ
爽やかなコーラスとノスタルジックなメロディー、素人っぽいともいえる素朴なサウンドで70年代に人気を誇ったアメリカ。メンバーはジェリー・ベックリー、デューイ・バネル、ダン・ピークの3人でイギリスはロンドンで結成されました。1972年のファーストシングルの「名前のない馬」が世界中で大ヒットしたことで知られていますが、ファーストアルバム「名前のない馬」は前年に出ていて、当初「名前のない馬」は収録されていなかったんです。

名前のない馬
このアルバム、邦題はヒット曲に便乗して「名前のない馬」ですが、原題はシンプルに「アメリカ」。アルバム発売後、シングルで出したら大ヒットしたんで、急遽アルバムに収録したんです。すると、それが功を奏してアルバムも全米ナンバー1をはじめとして全世界で大ヒットしたんですね。日本では当初、曲は入ってないくせにタイトルだけ「名前のない馬」にするという可笑しなことが起こりました。
アメリカと言えば「名前のない馬」。「名前のない馬」といえばアメリカと、こればかり取りざたされる事が多いのですが、「名前のない馬」そしてこのファーストアルバムは確かにアメリカを代表する作品に違いはありませんが、アメリカはそれで終わりという訳ではなんですね。作品としてよくなるのは、実はこれ以降なんですよ。
Homecoming
1972年にリリースされたセカンド・アルバム「ホームカミング」。サウンドメイクと言う意味では、やはりここからでしょう。
ハル・ブレイン、ジョー・オズボーンという強力なリズム隊の参加が効いています。

ホームカミング
アルバムは3枚目のシングルとなった「ヴェンチュラ・ハイウェイ」で幕を開けるわけですが、これがもう爽やかと言う言葉しか思いつかないアメリカのサウンド。既に個性が確立されているのがわかります。
ファンの間ではよく知られている事ですが、このアルバムから1977年の「ハーバー」まで、アルバムタイトルが全て「H」で始まってるんですよ。この間がアメリカの充実期でもあると思います。
Hat Trick
ビーチボーイズのカール・ウィルソンとブルース・ジョンストン。1975年からイーグルスに参加することになるジョー・ウォルシュなど多彩なゲストを招いて制作されたのが1973年の「ハットトリック」です。さすがに3枚目と言うことで余裕が出てきたようですね。

ハット・トリック
「ハット・トリック」の1曲目「マスクラット・ラブ」は、1976年にキャプテン&テニールが歌ってヒットさせたことでも知られていますが、オリジナルはウィリス・アラン・ラムゼイの「マスクラット・キャンドルライト」です。アメリカは改題してシングルにしたのですが、残念ながらヒットしませんでした。
ヒット曲が収録されていないからか、大きな話題がなかったからか、地味な感のあるアルバム「ハット・トリック」。しかし、いいアルバムですよ、これは。が、商業的にはファーストが全米1位、セカンドの「ホームカミング」が全米9位だったのに対して「ハット・トリック」は28位と低迷してしまうんですね。これじゃイカン!と本人たちも思ったか、いえ、それよりもレコード会社の方が強く思ったのではないかと推測されますが、次作より強力なプロデューサーが付くことになります。
Holiday
アメリカが多大な影響を受けたと思われるビートルズ。そのビートルズをプロデュースしていたのはジョージ・マーティンなる人物なのですが、1974年にリリースされたアメリカの4枚目のアルバム「ホリデイ」は彼のプロデュースによるものです。

ホリデイ
アルバムにはビートルズを思わせるところが随所に見受けられます。1曲目の「Miniature」などいかにもジョージ・マーティンだなぁという曲から始まり、ビートルズというか、ポール・マッカートニー風のノスタルジックな色合いを持った「Mad Dog」など正に粒ぞろい。中でも「Tin Man」。邦題では「魔法のロボット」となっていますが、「オズの魔法使い」に出てくるブリキのロボットをテーマにしたこの曲はファン間でとても人気があります。
このアルバムの特徴をもう一つ挙げるとすると、イギリスに渡りゲストを招かずバンド形式でレコーディングされているということでしょうか。
ドラムスのウィリー・リーコックが準メンバーとして加わり、前作にも参加していたベースのデヴィッド・ディッキーを交え、アメリカは5人編成のバンドというスタイルで活動を始めることになります。
Hearts
やはりジョージ・マーティンの影響は大きかったのでしょう?!アルバム「ホリデイ」は全米3位と言うヒットとなりました。気をよくしてか1974年のアルバム「ハート」もプロデュースはジョージ・マーティンです。

ハート
このアルバムからは「Sister Golden Hair」という大ヒット曲が生まれます。邦題は「金色の髪の少女」。アルバム全体に、いえ、アメリカの作品全部にいえることではありますが、美しいコーラスと哀愁漂うメロディがこのアルバムでは特に遺憾なく発揮されています。
イントロの印象的なスライド・ギターが、たまらん曲ですよね。もう、名曲間違いなしですよ。
Hideaway
ハイダウェイとは閑静な場所、隠れ場所と言った意味です。または、手つかずの自然が残っている場所や、観光客の少ないリゾート地をそう呼んだりもしています。では、1976年にリリースされた6枚目のアルバム「ハイダウェイ」は静かで地味なアルバムかというと、そんなことはありません。

ハイダウェイ
シングル・ヒットには恵まれず、アルバムも全米11位止まりと、今一つパッとしませんでしたが、アルバムに収められている曲ときたら、あぁ、哀愁のメロディラインがたまらん!ですよ。時代に関係なく聴ける曲ばかりです。
前作「ハート」でリフの作り方が格段に向上したアメリカでしたが、本作ではそれを発展させています。しかも、ポップなのに穏やかな印象をうけるという、まぁ、これぞアメリカといったアルバムですよ、「ハイダウェイ」は。
Harbor
1977年にリリースされたアルバム「ハーバー」。今作でもプロデュースにジョージ・マーティンが参加しています。「ハート」「ハイダウェイ」「ハーバー」、そしてこの後に出る「ライブ」と、ビートルズ以外でジョージ・マーティンがこんなに長くひとつのバンドと関りを持つのは珍しいです。相性が良かったんでしょうね。とは言え、ジョージ・マーティンとはこれが最後のスタジオアルバムです。
更に相性は最高で鉄壁のチームワークを誇ったアメリカからメンバーの一人、ダン・ピークが本作を最後に脱退してしまうんですよね。

ハーバー
大きな分岐点となったアルバム「ハーバー」。そう言えば「H」から始まるアルバムタイトルも本作で途切れてしまいます。
こう書くと、もうなんか散々って感じですが、このアルバムは佳曲てんこ盛りなんですよ。3人のメンバーそれぞれのソングライティングが充実しまくっていますからね。
「ハーバー」はジャケットからも分かるように、ハワイで録音されています。イメージチェンジを図ろうとしたのでしょうか?真相は分かりませんが、「ハーバー」は、プラチナはおろかゴールドディスクさえも獲得できなかった最初のアルバムとなってしまい、シングルカットされた3曲も全米チャーチに入ることすらありませんでした。
しかし、本作でも哀愁のメロディと美しいアコースティックな響き、バツグンのハーモニーというアメリカは健在ですよ。
2人となってからもアメリカは活動を続け、「夢のカリフォルニア」や「風のマジック」といったスマッシュ・ヒットを放ちましたが、キャリアのピークとなるとやはりオリジナルメンバー3人で活動していた、つまり一連のアルバムタイトルが「H」から始まる70年代と言うことになるのではないでしょうか。
アメリカは現在でも活動していますが、脱退したダン・ピークが2011年7月24日に60歳という若さで亡くなってしまったため、オリジナルメンバーでの活動と言うファンの願いは叶わぬものとなってしまいました。それがとても残念です。