「死にますか~」を連呼する『さだまさし』の名曲『防人の詩』を噛みしめる

「死にますか~」を連呼する『さだまさし』の名曲『防人の詩』を噛みしめる

1980年に発表されたさだまさしの代表曲の一つ『防人の詩』について歌詞の基となった万葉集や歌詞の意味について紹介。


さだまさし『防人の詩』

オリコン最高順位:2位、1980年度オリコン年間順位:18位

シングル盤でヒットしたテイクは渡辺俊幸の編曲によるもので、映画に使われた山本直純の編曲によるものとは異なる。

1番は山本直純のマネージャーが取りに来たのを待たせて、わずか15分で書き上げられた。
本作は、映画の公開に先立って1979年のテレビ番組『さだまさし・ライブコンサート』(NHK)で披露され、シングル盤リリースの半年以上前から世に知られた作品ではあった。

ただし、そのときの歌詩は3番までしかなかった。
4番以降はその後加筆されたものである。
なお一時期、4番の歌詩の一部を変更して歌っていた。
変更版「防人の詩」はライヴ・アルバム『夢ライヴ』に収録されており、確認出来る。

【動画】若い時と近年、それぞれのさだまさしが歌う防人の詩

『防人(さきもり)』とは

日本の防人は、663年に朝鮮半島の百済救済のために出兵した倭軍が白村江の戦いにて唐・新羅の連合軍に大敗したことを契機に、唐が攻めてくるのではないかとの憂慮から九州沿岸の防衛のため設置された辺境防備の兵である。

もとは岬守(みさきまもり)と呼ばれたが、これに唐の制度である「防人」の漢字をあてた。

中心は関東や東北から強制的に集めた農民たちである。
任期は3年だが延長されることも多く、兵士としての装備や往復の交通費は自前で、さらに留守中の税が軽くなることもなく、農民にとってはとても負担が重く、苦しい強制労働だった。

奈良時代に成立した『万葉集』には防人のために徴用された兵や家族が、残された家族の無事を祈る気持ちや家族と離れる寂しさを詠んだ悲しい歌が100首以上収録されており、防人歌と総称される。

主題歌となった映画『二百三高地』とは

乃木大将:仲代達矢、児玉源太郎:丹波哲郎、明治天皇:三船敏郎、小隊長:あおい輝彦、その恋人:夏目雅子、金子堅太郎:天知茂、伊藤博文:森繁久弥、ほかオールスターキャスト。

映画が大ヒットしたため、テレビドラマ化され1981年1月7日~2月25日に日本のTBS系列で毎週水曜日21時00分~21時55分で『二百三高地 愛は死にますか』全8話が放送された。
こちらにおいても、さだまさし『防人の詩』が主題歌である。

当時は誤解も招いた『防人の詩』

映画『二百三高地』は、日露戦争の旅順攻囲戦における203高地の日露両軍の攻防戦を描いた長編作品であった。

その主題歌『防人の詩』は、物悲しい楽想と悲痛な歌詞によって、命の儚さと尊さを歌う「反戦ソング」として紹介され、ヒットしていた。

その一方で、映画の内容が、どんなに犠牲が出ても、自衛のため開戦はやむを得ない、悲惨な戦争だが結果は勝利だ、というものであり、戦争肯定映画であるという風評が公開前から広まってもいた。

ただし、そうした映画の内容は、あくまで戦争に突き進んでしまった当時の風潮を描いたのであって、それが正当とされてしまった当時の政治についてまでは肯定しておらず、むしろそうした時代および日本の体制に対して批判の意図が込められていた。

しかし、予告編などで戦闘シーンの悲壮感を盛り上げるように使われたことから、戦争を感傷的に美化する戦争賛美の歌だとされ、一部からさだまさしは「右翼」と視られバッシングを受けることになってしまった。

戦争の悲哀を伝える強烈な歌詞

歌詞の基となったのは万葉集

「海は死にますか、山は死にますか」の元となったのは
『万葉集』第16巻第3852番

原文: 鯨魚取 海哉死為流 山哉死為流 死許曽 海者潮干而 山者枯為礼

よみ: 鯨魚(いさな)取(と)り、海や死にする、山や死にする、死ぬれこそ、海は潮(しほ)干(ひ)て、山は枯(か)れすれ

意味: 海は死にますか?! 山は死にますか?! (いいえ、海も山も死ぬのです)死ぬからこそ、海は潮が干(ひ)いて、山は枯(か)れるのです。

「鯨魚(いさな)取(と)り」は「海」を導く枕詞(まくらことば)。
鯨魚(いさな)は鯨(くじら)のことをあらわす。

『黒夢』『SADS』の清春もカバー

雪村いづみ、清春、姫野真也、Hetty Koes Endangなど数多くのアーティストにカヴァーされている。


35年が経っても色褪せることのない名曲『防人の詩』。
今ある平和を噛みしめながら、じっくりと聞きたい。

関連する投稿


【1980年の洋楽】なぜこんなことに・・・原題と違いすぎる不思議な邦題7選!

【1980年の洋楽】なぜこんなことに・・・原題と違いすぎる不思議な邦題7選!

洋楽の邦題というと、最近は原題をそのままカタカナにすることがほとんどですが、1980年代は日本語を使って新たな邦題を作るのが一種の慣例でした。中には、原題と違いすぎて不可解なものもあり、アーティストから苦情があったことも!? 今回は、1980年の洋楽の中から、原題と異なる邦題7選をご紹介します。


さだまさし50周年スペシャル企画!文化放送『さだは文化だ!さだの50曲!Special』が放送決定!!

さだまさし50周年スペシャル企画!文化放送『さだは文化だ!さだの50曲!Special』が放送決定!!

文化放送にて、さだまさし50周年スペシャル企画『さだは文化だ!さだの50曲!Special』が10月18日(水)、25日(水)の午後7時00分から2週にわたり放送されます。


80年~81年デビュー組アイドルが出演した「GOGO!チアガール」ってどんなドラマ?

80年~81年デビュー組アイドルが出演した「GOGO!チアガール」ってどんなドラマ?

ドラマ「3年B組金八先生」に山田麗子役で出演しブレイクした三原順子さん。美人でツッパリ系という役柄がクールな三原順子さんにピッタリでした。その後も歌手として女優として他のアイドルとは一線を画し、独自の魅力で大活躍しました。そんな三原順子さんが出演したドラマ「GOGO!チアガール」についてご紹介します!


【1980年】トシちゃんに聖子ちゃんに・・・日本レコード大賞新人賞の受賞曲は!?受賞者は今!?

【1980年】トシちゃんに聖子ちゃんに・・・日本レコード大賞新人賞の受賞曲は!?受賞者は今!?

昔は大晦日の夜といえば、テレビの前で一家団欒。『日本レコード大賞』と『紅白歌合戦』をはしごして視聴した方が多かったことでしょう。中でもドキドキするのが、日本レコード大賞の「大賞」と「最優秀新人賞」の発表の瞬間。今回は、日本レコード大賞の「新人賞」にフォーカスし、受賞曲と受賞者の今についてご紹介します。


【1984年洋楽】アイ・ライク・ショパン!里見八犬伝!「日本」でヒットした洋楽トップ5

【1984年洋楽】アイ・ライク・ショパン!里見八犬伝!「日本」でヒットした洋楽トップ5

「洋楽」と一言で言っても、アメリカやイギリスなど本場でヒットする曲と、日本国内でヒットする曲はかなり異なります。中には、日本でヒットしても、本国ではヒットしないという逆転現象も!? 今回は "1984年の日本" のにフォーカスして、オリコンシングルチャートを中心に「日本でヒットした洋楽5選」をご紹介します。


最新の投稿


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。


ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

小学館クリエイティブは、ウルトラマンシリーズ60周年、『小学一年生』100周年の節目に『学年誌 ウルトラふろく大全』を11月28日に発売しました。『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの学年誌・幼児誌のウルトラふろく200点以上を網羅的に掲載。組み立て済み写真や当時の記事も収録し、ふろく全盛時代の熱気を再現します。特典として、1970年の人気ふろく「ウルトラかいじゅう大パノラマ」を復刻し同梱。


伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体『UWF(ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)』が、設立40周年を記念し、特別イベント「無限大記念日」を書泉ブックタワー(東京・秋葉原)にて開催します(2025年12月24日~2026年1月12日)。第1次UWFの貴重な試合映像や控室、オフショットなど、4,000枚以上のアーカイブから厳選された写真が展示されます。復刻グッズや開催記念商品も販売され、当時の熱狂が蘇ります。


グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

株式会社グラニフは、TVアニメ『幽☆遊☆白書』との初コラボレーションアイテム全21種類を、2025年12月2日(火)より国内店舗および公式オンラインストアで販売開始します。主人公の浦飯幽助をはじめ、桑原、蔵馬、飛影のメインキャラクターに加え、戸愚呂、コエンマなど欠かせないキャラクターをデザイン。11月26日より先行予約も開始され、ファン必見のラインナップです。


全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

アシェット・コレクションズ・ジャパンは、隔週刊『1/18 エクストラスケール 国産名車コレクション』を2026年1月7日に創刊します。全長約20cm、1/18スケールのダイキャスト製で、日本の自動車史を彩る名車を精巧に再現。ボディラインやエンジンルーム、インパネなどの細部ディテールにこだわった「エクストラ」なコレクション体験を提供し、マガジンでは名車の開発秘話や技術を深掘りします。