80年代のボブ・ディラン
天才の名をほしいままに、音楽界のみならず2016年にはノーベル文学賞まで受賞したボブ・ディラン。 しかし、そんな彼も常に順風満帆というわけではありません。何と言ってもキャリアが長いですから、当然様々なことが起こっているわけです。

ボブ・ディラン
60年代初頭、デビュー早々フォーク界のプリンスとして成功を収めたボブ・ディラン。ロックへと転身してからも勢いは留まることをしらず(まぁ、若干の停滞期があったとはいえ)、60年代、70年代を駆け抜けます。ファンからも評論家からも賞賛され続け、既にカリスマと呼ばれるようになって迎えた80年代、いきなり暗黒時代へと突入してしまします。
栄光に満ちたボブ・ディランの黒歴史、ファンからも評論家からも目を背けられ、おそらく本人も思い出したくないと思われる80年代を振ります。
Slow Train Coming
ケチの付きはじめは、1978年末にボーン・アゲイン・クリスチャンとなったことから始まります。宗教色というかゴスペル色を前面に押し出したアルバムを立て続けに3枚リリースするのですが、ここからボブ・ディラン人気は急降下することに。
俗にいう「キリスト教三部作」ですが、その1作目が1979年にリリースされた「スロー・トレイン・カミング」です。

スロー・トレイン・カミング
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1974年「プラネット・ウェイヴズ」、1975年「血の轍」、1976年「欲望」と立て続けに全米1位となるアルバムをリリースしていたボブ・ディラン。「スロー・トレイン・カミング 」だって全米3位ですから勢いはあったんですね。
音の方はダイア・ストレイツのギタリスト、マーク・ノップラーが貢献していて、シングルとなった「ガッタ・サーヴ・サムバディ」でグラミー賞の最優秀男性ロック歌手を獲得しています。
「スロー・トレイン・カミング 」は決して悪いアルバムじゃありません。評価が低いのは音楽性というよりもボブ・ディランが改宗したということが影響したようです。そう、これは実は良いアルバムなんです。
しかし、まぁ、ジャケットがいかんですね。「キリスト教三部作」はどれもこれもジャケットが最悪。耳を覆う前に目を覆ってしまいます。
Saved
「キリスト教3部作」の第2弾。1980年リリースの「セイブド」です。「スロー・トレイン・カミング 」もそうですが、この「セイブド」最近は再評価の声が高まってきてはいるんです。「ソリッド・ロック」などがベスト・アルバムにも収録され、ライブでも取り上げられているからでしょう。

セイヴド
腐ってもボブ・ディラン!全てのアルバムは、どのような状況であっても最低限のクオリティは担保されてはいます。しかし、ジャケットとなると話は別です。俄かに信じがたいデザイン。これがあの天下のボブ・ディランのアルバム・ジャケットなのか?!そりゃ売れんだろ。全米24位。
Shot of Love
目を覆いたくなるジャケット・シリーズ、もとい「キリスト教3部作」の第3弾。1981年「ショット・オブ・ラブ」。これまた凄いジャケットですよねぇ。破れかぶれ。そんな言葉が浮かびます。

ショット・オブ・ラブ
ところが本作も内容は悪くないです。エミルー・ハリス他いろいろなアーティストにカバーされている「エヴリィ・グレイン・オブ・サンド」をはじめ、心に響くメロディを持った曲が多数収められています。
因みにこのアルバムは、U2のボノのフェイヴァリット・アルバムだそうですよ。ホントか?!
Empire Burlesque
「ショット・オブ・ラブ」に続いてリリースされた1983年のアルバム「インフィデル」にファンは狂喜しました。あのボブ・ディランが帰ってきたと。あのボブ・ディランとは宗教とは関係のないボブ・ディランのことです。まるで「キリスト教三部作」などなかったかのような身代わりの早いボブ・ディラン。評論家筋にも好評だった「インフィデル」。ジャケットもカッコよかった「インフィデル」。誰もがこの路線を続けてほしいと願った1985年に新たな暗黒時代の幕開けとなるアルバム「エンパイア・バーレスク」はリリースされます。

エンパイア・バーレスク
「キリスト教三部作」はジャケットは悪かったが、曲は良かった。ここから続く3作品はジャケットは相変わらずで曲がいまひとつ。理由はオリジナル曲の減少にあるのかもしれません。
更には収録曲の「フォーリング・フロム・ザ・ スカイ」は、アウトテイク集のブートレッグ・シリーズで聴くことが出来るボツとなった方が数倍素晴らしいというおかしかことが起こっています。
そんな中、嬉しいのはシングルとなった「タイト・コネクション」のプロモーション・ビデオが日本で制作されたことでしょうか。
しかし、ビデオの出来はヒドイ。意味不明。制作を依頼した監督のポール・シュレイダーもボブ・ディランもその出来に満足しなかったそうです。当然でしょうね。
Knocked Out Loaded
特に80年代ということになりますが、ボブ・ディランのジャケットには意味不明なデザインが多い。本作もそう。なんだかただ事ではないドラマチックな人間模様が展開されていますが。。。映画のサントラ盤のようとでも言えばいいのでしょうか。

ノックト・アウト・ローデッド
しかし、ジャケットよりも残念なのはオリジナル曲が少ないということでしょう。カバーが3曲に共作が3曲。ボブ・ディラン単独のオリジナルは僅かに2曲か。
オリジナルでなければイカンというわけではありませんが、ボブ・ディランの場合はやっぱりね。
Down in the Groove
またしてもボブ・ディラン単独のオリジナルは2曲しかない。共作も2曲で、残りの6曲はカバーという構成の「ダウン・イン・ザ・グルーヴ」1988年のリリースです。「エンパイア・バーレスク」からの3枚のアルバムは評価・セールスとも振るわずスランプ期とされています。暗黒時代と呼ぶにふさわしい3枚に違いありません!

ダウン・イン・ザ・グルーヴ
ジャケットを見るとアコースティクのライブアルバムのようですが、そうではありません。それも含め、いつもながらとは言え、ジャケットはもう少し何とかならなかったんですかねぇ。
しかし、まぁ、さすがにボブ・ディランです。「キリスト教3部作」の後のアルバム「インフィデル」がそうであったように、「インフィデル」の後から始まった3枚のスランプ期のアルバムの後には全曲ボブ・ディラン作詞・作曲の名盤「オー・マーシー」が待ち構えているのです。
起死回生の一発が何度でも出てくる。これぞカリスマ。これぞボブ・ディランなり。暗黒時代をブッ飛ばして以降何度もピークを迎えています。