「非・ビートルズ直撃世代」が歌うビートルズ体験歌
桑田佳祐が2011年にリリースしたオリジナル・アルバム『MUSICMAN』の中に、『月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)』という楽曲があります。これは、1966年の日本武道館における来日公演や1969年のルーフトップ・コンサートなど、いわゆる“ビートルズ体験”について歌ったナンバー。
桑田は1956年生まれであり、正真正銘ビートルズ直撃世代。彼ら4人の音楽に触れた少年時代の感動をストレートに表現した同曲は、ビートルズを知らない世代が聴いても、胸にグッとくるものがあります。ミュージックステーションで本人によって歌唱されたときなど、司会を務めた竹内由恵アナが「何度も涙した」というほどです。
桑田と違って、YO‐KINGはビートルズ非直撃世代。ゆえに斉藤和義と同様、もうこの世にはない「テレビの中のビートルズ」を歌にします。それが、真心ブラザーズ14枚目のシングル『拝啓、ジョン・レノン』です。

拝啓、ジョン・レノン(真心ブラザーズ)
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「あのダサいおじさん」と、ジョンを批判?
こんな歌い出しから始まる『拝啓、ジョン・レノン』。十代中頃でファンになってから、二十歳で一番かぶれていた…と続くその歌詞は、あたかも、届かないラブレターのようです。しかし、その直後に以下のようなフレーズが並びます。
打って変わって、ひどいクサしようではありませんか。実際、こうした歌詞のせいで一部ファンから「ジョンを冒涜している!」との批判を食らい、いくつかの放送局では放送禁止歌扱いを受けていたといいます。

ジョン・レノン
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本当はダメ人間だったジョン・レノン
世間一般で勘違いされがちですが、そもそもジョン・レノンは、LOVE&PEACEを説く聖人などではありません。一言でいえば、ダメ人間。それは、本人の日記や肉声テープをもとに書かれた、ジェフリー・ジュリアーノ著『ジョン・レノン アメリカでの日々』に詳しく記されています。

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秘書のメイパンを愛人として囲うわ、それ以外の女性とも不倫しまくるわ、ドラッグをやりまくるわ、精神不安から育児放棄するわ…。世間で語られているイメージと大きく乖離した事実がいくつも明かされているのです。もちろん、この著書に書かれていることすべてが真実ではないかもしれません。しかし、本の中に書かれている関係者各位のコメントを見る限り、少なくとも「いい人」ではなかったことがよくわかります。
「父さんはいろんな点でマッチョを気取ったブタ野郎だった」‐ショーン・レノン
「愛と平和を語るそのいっぽうで、家庭を崩壊させ、意思の疎通を図ろうともせず、不倫の果てに離婚だなんて、どうすればそんな真似ができるんだろう?」‐ジュリアン・レノン
「ジョンは偉大な人物だ。でも、彼の偉大さは、彼が聖人ではないという点にもあるんだ」-ポール・マッカートニー
たった4人のバンドメンバーと仲良くすることもできないくせに、『Imagine』や『Give Peace A Chance』で高らかに世界平和を歌い、しまいには『How Do You Sleep?』という楽曲で、長年の盟友・ポールを口汚く痛罵する…。この二面性、不可解さ、不明瞭さ、人間臭さこそがジョンの魅力。『拝啓、ジョン・レノン』でも「僕もあなたも大して変わりはしない」とのフレーズが登場するあたり、YO‐KINGもそのへんは十分理解したうえで、人間・ジョン・レノンを愛していたのでしょう。

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「ビートルズを聴かないようにしていた」とも告白
「彼らから逃れそうとすればするほど、ビートルズの磁場に吸い寄せられていく。ビートルズはまるで出口のない迷宮なんだ」
これは、ビートルズ誕生以前の過去にタイムスリップしたコピーバンドが、彼ら4人になり替わろうとする物語を描いた漫画『僕はビートルズ』の中に出てきたセリフ。あまりに革新的で魅力的であるがゆえに、オリジナルで曲を書いたつもりが、気づけば彼らの模倣をしてしまっている…。そんなミュージシャンの苦悩が、このセリフにおいて表現されているのです。

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YO‐KINGもかつては似たような悩みを抱いていたらしく、『拝啓、ジョン・レノン』には以下のような一節が出てきます。
そんな愛も憎も綯交ぜになったようなジョンへの気持ちを吐露したあとに、続くのはこんなフレーズです。
やはり、強力な磁場のように、ジョンへ回帰していくYO‐KING。曲のラストでは『Strawberry Fields Forever』『Don't Let Me Down』『I'm Only Sleeping』『I Am The Walrus』『I've Got A Feeling』など、ジョンが主体的に制作に携わったとされるビートルズソングを列記しています。
こうしたジョンへ捧げられた届かぬラブレター『拝啓、ジョン・レノン』は、多くの「非ビートルズ直撃世代」の共感を呼び、サンボマスターやチャットモンチーなど後発のミュージシャンからもカバーされる名曲として、今も歌い継がれているのです。
(こじへい)